更新日:2020/03/08
兄弟姉妹を受取人とする場合の、生命保険金の課税対象や注意点を解説
生涯独身率も離婚率も上昇を続ける昨今、生命保険の受取人を兄弟に指定している方もいらっしゃることと思います。ここでは、兄弟の生命保険の受取人になった場合の分配の義務の有無と、受け取りにかかる税金の種類と、相続税の場合の計算例について見てみましょう。
目次を使って気になるところから読みましょう!
生命保険の受取人が兄弟姉妹になっている場合
二親等以内
未婚もしくは途中で独身に戻ってそのまま過ごされる方も増えてきた昨今、保険金の受取人に兄弟姉妹を指定したり、逆に指名されていたりということもあるでしょう。
死亡保険金の場合には、兄弟の生活を支えるためだったり、自分亡きあとの後始末を託すためだったりと、理由も保険金額もさまざまあることと思います。
そこで、この記事では「兄弟の死亡保険金を受け取った場合」について
- 受取人が兄弟姉妹になっているとき、被保険者によって変わるパターン別の税金の種類
- 受取人が兄弟姉妹になってる場合の税金にかかる税金の計算例
- 他の兄弟姉妹への分配義務の有無
以上のことを中心に解説していきます。
受取人が兄弟になっている場合にかかる税金
相続税になる場合
(契約者:自分 被保険者:自分 受取人:兄弟姉妹)
契約者に子どもや親がいて、兄弟が法定相続人から外れている場合にも、遺贈とみなされ相続税の課税対象となります。
ただし、この場合は法定相続人ではないので、死亡保険金の非課税枠の対象とはなりません。
ちなみに兄弟姉妹が法定相続人になる場合というのは
- 亡くなった本人が独身で、両親がすでに死亡している
- 亡くなった本人に配偶者はいるが子どもや孫がなく、両親もすでに死亡している
配偶者は常に相続人であり、ほかの相続人の優先順位は子(すでに亡くなっている場合は孫)、両親(すでに亡くなっている場合は祖父母)の順で、その次に兄弟姉妹がきます。
贈与税になる場合
(契約者:自分 被保険者:自分以外の誰か 受取人:自分の兄弟姉妹)
また満期保険金の受け取りでは、被保険者が誰であったとしても、保険料を支払う契約者が兄弟を受取人に指定していた場合に、贈与税の課税対象となります。
所得税になる場合
所得税になるパターンが一般的には最も課税金額が少なくなる可能性が高いので、できれば契約者=受取人であることが望ましいです。
生命保険の相続受取人が兄弟姉妹になってる場合の例
三人の両親はすでに他界しており、A介さんは独身で妻も子どももいません。
つまり、法定相続人はB介さんと末妹のC奈さんの二人です。
- 長兄のA介さんは、自分自身を被保険者として死亡保険金額6,000万円の生命保険を契約していました。
- 受取人に指定されていたのは、次兄のB斗さんだけです。
この場合は、受取人に指定されていたB斗さんだけが、契約どおり死亡保険金6,000万円の全額を受け取ります。
生命保険の死亡保険金は民法上は相続ではなく、保険契約に基づいて受取人が取得する固有財産とされています。
そのため相続財産には含まれまず、受取人に指定されていたB斗さんだけが保険金を受け取ることができます。
さて、民法上は相続財産ではないという死亡保険金ですが、取得した以上はなんらかの税金の課税対象になりそうですよね。
相続財産ではないというなら、いったい何税の対象となるのでしょうか。
この場合税金は払わないといけないのか
民法上は固有財産でも、税法上は相続財産となるからです。
保険金を受け取る権利が死亡を原因として発生するため、相続財産とみなして相続税の課税対象としているのです。
そのため受取人が法定相続人であれば、非課税分や基礎控除があり、課税対象額が軽減されます。
たとえば、A介さんの財産をこの死亡保険6,000万円のみとすると、
まず生命保険の非課税枠が500万円×法定相続人2人なので、1,000万円です。
このため保険金6,000万円から非課税分1,000万円を引くと、課税分は5,000万円となります。
次に遺産にかかる基礎控除が、3,000万円+600万円×法定相続人2人なので、4,200万円です。
先ほどの課税分5,000万円から基礎控除4,200万円を差し引くと、残りは800万円となります。
この800万円が、相続税の課税対象となります。
これを仮に法定相続人の法定相続分で分配すると、400万円×2人分となります。
それぞれに税率(この場合は1,000万円以下なので10%)をかけると、40万円×2人分となり、全体で80万円です。
これを改めて実際の相続割合で分配し直すと、B斗さんがひとりで受け取るので、80万円の税額となります。
さらにB斗さんは故人の弟で、一親等の血族以外となるので税額が20%加算されます。
よって、B斗さんが支払う相続税は96万円となります。
ちなみに、保険金が非課税分と基礎控除を合わせた額に満たない場合は、相続税は課税されません。
(この場合は5,200万円以下の保険金なら非課税となります)
さらに、基礎控除の額は平成27年から
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)に変わっていますのでご注意を!
生命保険は受取人固有の財産となる
生命保険の受取人が取得する死亡保険金は、あくまで契約に基づく権利であって、故人の財産ではないからです。
このため、B介さんは生命保険契約のとおり、ひとりで全額を受け取ることができ、妹のC奈さんに分配する義務はありません。
「遺留分は?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
遺留分とは遺言などで、取り分が指示されていなくても最低限受け取れる財産です。
これも上記と同様の理由で、受取人固有の財産として、遺留分の請求対象には含まれません。
そもそも遺留分は兄弟姉妹には認められていません。
けれどもこのケースのように、生命保険以外に故人であるA介さんが遺した財産が全くないのだとしたら、あまりにも不公平ですよね。
B斗さんが6,000万円で、C奈さんが0円では差がありすぎるように思えます。
この場合、C奈さんは諦めるしかないのでしょうか。
相続人の中で明らかに不公平が起こる場合
しかし生命保険が受取人の固有財産で、他の相続人への分配義務がないとはいえ、同じ法定相続人同士なのに兄弟で受け取る額に差がありすぎるのはやはり不公平です。
そのため、極端に相続人の間で不公平がある場合の例外が認められています。
「生命保険金を受け取った相続人と、他の相続人の不公平が著しい場合に限って、さまざまな事情を考慮した上で特別受益として持戻しの対象となる」という最高裁の判例があるのです。
さまざまな事情とは、同居の有無や介護の貢献度などです。
- A介さんとC奈さんは長く同居していて、Cさんが二人分の家事を引き受け、A介さんが寝たきりになってから亡くなるまでの10年間、献身的な介護を続けた
これとは反対に
- A介さんとB斗さんは近くに暮らして両親の介護を協力し合って行い、A介さんの闘病中にはB斗さん夫婦が病院に通うなど献身的に支え続けたが、C奈さんは一度として顔も手もお金も出さなかった
このような家族の事情と、全相続財産に占める生命保険金の割合を鑑みて、保険金を分配されるべき相続財産に含めて再分配するかどうかが決められます。
特別受益の持戻しとは、生前贈与や遺言での指定などで他の相続人との差がある場合に、その贈与や遺贈分を相続財産に含めた上で、分配し直すことです。
このような場合には、弁護士などの専門家に間に入ってもらった方が冷静に話を進められるでしょう。
最高裁の判例があるということは、片方もしくは双方が判決に納得できなくて、何度も裁判をくり返すほど揉めたとも言えるからです。
まとめ:生命保険の受取人を兄弟にしたときの注意点
- 受取人を兄弟にしたとき、被保険者が誰かによって税金の種類が変わる
- 生命保険の死亡保険金は民法上は相続ではなく、保険契約に基づいて受取人が取得する固有財産
- 極端に相続人の間で不公平がある場合、特別受益として持戻しの対象となるという例外が認められいる
今回の例のように「不公平すぎて納得できない!」となった場合には、弁護士などの専門家に相談してみましょう。
自治体で無料法律相談会を主催することもありますから、市役所などに日程を問い合わせてみるのもよいでしょう。
まずは保険金額と、土地家屋や預貯金といったそのほかの相続財産の金額を算出した上で、不公平が著しい場合に相当するか尋ねてみます。
あくまでも、生命保険は受取人の固有財産とするのが原則だからです。
その上で、話し合いに同席してもらったり裁判をしたりなど、お金をかけて主張すべき案件なのか、専門家の意見をよく聞いた上で決めると良いでしょう。