傷病手当金の受給は転職活動・就職活動に不利?傷病手当金の計算方法も解説

傷病手当金を申請中や受給中は、転職活動や就職活動に不利な影響を与えるのか、デメリットはあるのか気になりますよね。今回、傷病手当金の受給中に転職活動するデメリットはあるのか、転職後1年未満でも傷病手当金を受給できるのか、傷病手当金の金額や手続き方法も解説します。

転職活動・就職活動において傷病手当金の受給は不利?


傷病手当金を申請中または受給中であっても転職することは可能です。


しかし、就職活動や転職活動において、傷病手当金を申請中であることやその受給事実が不利に働くのではないかと、心配な方もたくさんいらっしゃると思います。 


各々の状況や会社にもよって異なるので一概には言えませんが、受給が有利に働くことは稀なケースになります。


この記事では主に、

  • 傷病手当金受給中の転職活動のデメリット
  • 休業の事実が転職先に知られてしまうケース
  • 転職後の傷病保険の受給条件

についてご紹介いたします。


現在傷病手当を申請または受給しており転職を考えている方、転職後にうつ病などを再発症してしまった方や、転職後すぐに退職してしまった方にとって参考となる情報をご紹介しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。

傷病手当金受給中に転職・就職活動をするデメリット

傷病手当受給中の転職活動のデメリットの1つに、病気や怪我の療養で勤務が難しい場合など、万全ではない状態で転職活動をしなければならないことが挙げられます。

転職活動は体力勝負の面もありますので、満足のいく転職ができない可能性があるためです。

その他に、傷病手当金の受給や休職の事実が志望する会社がバレてしまった場合、選考に不利に働くのか、そもそも会社にバレることになるのかも含めて、以下のトピックスで確認していきましょう。

傷病手当金を受給中の転職活動は、選考や内定に不利?

傷病手当金の受給が選考や内定に不利にはたらくか否かは、主に休業の理由に拠ります。

休業の理由別に選考や内定への影響の有無を以下の表で確認してみましょう。

休業の理由別選考・内定への悪影響(ご参考)
休業理由選考・内定への悪影響
精神的な疾患(うつ病等)あり
病気
 (完治が難しい、再発可能性高い)
あり
外傷
ほぼなし
風邪

 (インフルエンザ等)
なし

インフルエンザや風邪など完治が容易で再発性がない一般的な休業事由については、選考等への悪影響はありません。

骨折などの完治が可能な外傷である場合も、一般的にあまり不利にはたらきません。ただし、うつ病など、精神的な病気などで休業している場合は不利にはたらく可能性が高いです。 

ただし、転職活動において傷病手当を受給している旨を自ら申告する義務はありません。
不利に働く場合は自ら伝える必要はありませんが、面接などで質問があった場合は事実を話さなければ、虚偽申告にあたり内定取り消しになる可能性もありますので、注意が必要です。

前職で休職中であったことがばれる?

自ら申告していない場合でも前職の休職がバレる可能性はあるのでしょうか? 

休職が転職先に知られてしまう可能性があるルートについてご紹介します。

前職で休職があったことが知られる4つのルート
  1. 離職票・源泉徴収票
  2. 住民税
  3. 健康保険
  4. 同業者や関係者からの伝達
1つ目の離職票、源泉徴収票については、長期の休職で収入が少ない場合に担当者が休職を疑う可能性があります。

2つ目の住民税について、一般的には住民税は給与から天引きされ、課税額は前年の所得によって決まります。前年に長期間休職し、納税額が不自然に少ない場合、転職先から休職を疑われる可能性があります。

3つ目の健康保険について、健康保険から支払われる傷病手当は、同一傷病での支給期間が、最初の支給日から暦上で1年6ヶ月以内と決まっています。よって、病気が転職後に再発した等で傷病手当金の再受給申請をする場合は、手続きの担当者から受給資格の確認が行われることがあります。

4つ目はいわゆる口コミです。同業界に転職する場合などは気を付けましょう。

参考:失業保険のほうが金額が多い?計算方法を解説

失業保険と傷病手当金はよく比較をされますが、これらは同時に受給することはできません。 

「失業」とは、「労働の意思及び能力があるにもかかわらず、職業に就けない状態」のことなので、病気やケガで働くことができない状態は、「労働の能力」があることにはならないためです。

一方で、傷病手当金と失業保険のどちらか1つを受給するとなった場合、どちらがお得なのでしょうか。

これは一概にはいえず、受給者の年齢や収入などの諸条件によって異なります。それぞれの受給額の計算式を比較してみましょう。

傷病手当金の計算式

支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3

が1日あたりの支給額です。休業前の約66%の額が支給されるということです。

失業保険の計算式

離職日の直前の6ヶ月に毎月決まって支払われた賃金の合計÷180×1/2〜4/5

が1日あたりの支給額です。失業前の約50%から80%の額を支給されるということです。

失業保険については以下のハローワークのリンクもご参考ください。


参考:ハローワークインターネットサービス

転職後の傷病手当金受給条件をケース別に解説

ここでは転職後に傷病手当金を再受給する際の条件をご紹介していきます。

特に多くの方が懸念される、「転職してすぐに傷病が再発した場合」や「退職後の継続給付」についても詳しくご説明します。

その他にも想定される様々なケースをごとにご紹介いたしますので、ぜひご確認ください。

転職後すぐに退職した場合

傷病手当の継続給付条件は、
  • 「退職日まで継続して1年以上健康保険の被保険者期間があり(任意継続被保険者を除く)、退職時に傷病手当金を受けていた受けられる状態であったこと」
となります。

よって、以下の条件を満たせば退職後であっても傷病手当金の受給が可能です。
  1. 退職時に傷病手当金を受けていたor受けられる状態(※)であった
  2. 前職の退職と次の就職の間に1日も空白がない
  3. 前職と通算して1年以上健康保険の被保険者期間がある
※傷病手当金を受けられる状態については、以下のURLをご参考ください。
参考:全国健康保険協会 健康保険ガイド

退職資格喪失後の継続給付とは?

ここでは、退職資格喪失後の継続給付について詳しく確認していきましょう。

概要からご説明すると、退職すると傷病保険の前提である雇用関係が解消されるので、 原則的には傷病手当金の受給資格を失うこととなります。

これが「退職資格喪失」です。 

ただし上のトピックスでご紹介したように、例外として、退職資格喪失後でも一定の条件を満たせば、傷病給付金の継続給付を受けることができます。 

これが、退職資格喪失後の継続給付です。 

その条件は既述の通り以下の3つとなります。 

  1. 退職時に傷病手当金を受けていたor受けられる状態であった
  2. 前職の退職と次の就職の間に1日も空白がない 
  3. 前職と通算して1年以上健康保険の被保険者期間がある 

 注意点として、 
  • いったん仕事に就くことができる状態になった場合
  • 失業保険の申請をした場合
については、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません。 

また、
  • 退職日に出勤した場合
にも、資格喪失後の継続給付は受けることができません。

これは、退職日に傷病手当金を受けられる状態という条件に当てはまらないためです。
退職の挨拶等で会社に行こうと考えていた方は注意しましょう。

転職してすぐにうつ病を再発した場合

転職後すぐにうつ病が再発し、再度休職する場合も傷病手当金をもらうことができます

ただ、既述した通り、転職活動の際に傷病手当金を受けていることを伝えていない場合、再度休職する際に、前職での休職が発覚する可能性があります。

また、支給開始日についても注意が必要です。

初めてうつ病で傷病手当の支給を受けた日(支給開始日)から1年6ヶ月の間に、再発に際して傷病手当の再支給をうけることが条件となります。

注意点は、この1年6ヶ月という期間は実際に支給を受けた日数ではなく、暦の上での日数であるという点です。

また、同一傷病なら、転職などにより加入している健康保険組合が変わっても通算されます。
すなわち、
  • 「支給期間の上限である1年6ヶ月は、保険者が変わっても同じ病気であれば合算して数えられる」
ということです。

転職後数年経過後のうつ病を再発した場合

次に、転職してから数年が経過した後にうつ病を再発した場合を確認しましょう。

この場合問題となるのは、傷病手当の受給期間です。上のトピックスで確認したように、傷病手当の条件は
同一の病気や怪我に対して支給される期間は最大1年6ヶ月と規定されています。
すなわち、1年6ヶ月以上については、手当の対象外になるということです。

今回再発したうつ病が前回と同じ病気とみなされるか否かですが、再発という表現が用いられている場合は、前回と同じ病気の扱いなので支給は難しいでしょう。

この辺りは医者や申請先の判断になります。

被保険者期間が1年未満の場合

最後に、被保険者期間が1年未満の場合は、以下の1.もしくは2.のいずれか少ない方の金額で計算します。
  1. 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額 
  2. 協会けんぽの場合は28万円(当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額)
2.の数字は健康保険組合により大きく異なってきますので、ご自分が入っている健康保険組合または会社に確認してください。

例として以下のケースを確認してみましょう。

  • 入社して半年のAさんが病気で入院し、傷病手当金を申請。協会けんぽの被保険者。
  • Aさんの標準報酬月額/40万円

支給開始日以前の期間が「半年」と1年に満たないため、40万円と28万円を比べて少ない方、つまり28万円をもとに1日あたりの支給額を計算する。 

このように転職をして1年未満の方は、計算に注意が必要です。

転職して1年未満の場合、傷病手当金は受給できる?

傷病手当金の受給金額の日額は、 

(支給開始日以前の継続した12カ月間の標準報酬月額の平均金額)÷30日×2/3  

で求められます。 


この計算式からして、支給開始日までの期間が1年(12ヶ月)に満たない場合には、受給金額はどうなるのでしょうか。 


この場合でも、傷病手当金を受給することは可能です。
 


ただ、上の「被保険者期間が1年未満の場合」でもご説明したように、受給金額は、以下のどちらか少ない方の金額になるので注意してください。 

  • 支給開始日の属する月以前の継続した各月標準報酬月額の平均金額 
  • 協会けんぽの場合は28万円

ただし、転職する前にも協会けんぽに加入しており、退職から転職までの期間が1ヶ月以内の場合は、転職前後の標準報酬月額の平均額を計算することになります。
 


また、もし病気の状態がおもわしくなく再度退職を考えている場合でも、1年以上在職してから退職した場合は、続けて疾病手当金を受給することが可能です。
 


ただしその場合、退職時に傷病手当金を受けている、または受けられる状態であることが条件となります。

傷病手当金の申請方法、支給期間などをおさらい

傷病手当金とは、健康保険に加入している方が、業務以外での病気やケガにより仕事をすることができず収入を得られない場合に、金銭的にその生活を補助することを目的とした制度です。 


この傷病手当金を受けるにはいくつかの条件があります。 


どんな条件があるか、申請方法、支給される期間など、以下で詳しくご説明していきます。


傷病手当金が支給される条件とは?有給は含む?

早速、傷病手当金が支給される条件について見ていきましょう。 

  • 業務外での病気やケガであること 

業務上での病気やケガの場合は、労災保険の対象となります。  

また、健康保険によるものだけでなく、自費の場合も傷病手当金の対象となります。  

  • 仕事をすることができない状態であること 

業務以外での病気やケガが原因で、働くことができない状態でなければなりません。

働くことができない状態の明確な基準はないのですが、医師の診断書などをもとに、本人の業務内容に照らし合わせて判断されることが一般的のようです。 

  • 連続して3日以上仕事を休み、4日以上仕事を休んでいること 

連続して休んでいなければいけない3日間のことを「待機」といい、土日や祝日、有給も含まれます。

この待機の3日間を経て、合計4日以上休んでいる必要があるということなのですが、例えば、連続して3日間休み、その後1日出勤したが、また翌日から休んだ場合も、3日間連続して休み合計4日以上休んでいるので給付の対象になります。

  • 給与の支払いがないこと 

仕事を休んでいる間に、給与の支払いがないことが条件です。 

従って、有給を使って休んだ場合は傷病手当金の支給の対象にはなりません。

(上で述べた、待機の期間は有給を使って休んだ場合は、待機としてカウントされます。)

 

以上の4つの条件を全て満たしていなければ、傷病手当金を受け取ることはできません。


特に勘違いしがちなのは、待機の期間以外で、有給を使って仕事を休んだりすることもあるかもしれませんが、有給で休んだ分は傷病手当金は給付されませんので注意が必要です。

傷病手当金の支給期間は?

給付される期間は、最長1年6ヶ月です。 


上の条件のところで述べたように、3日間連続して仕事を休み、仕事を休んだ4日目以降からが給付の対象となるので、仕事を休んだ4日目から1年6ヶ月の間、傷病手当金が給付されることになります。
 


ただし、この間に一度仕事に復帰してその後同じ病気で休むことになった場合には、復帰した期間も1年6ヶ月に含まれます。 同じ病気が原因で休んでいなければならないので、注意してください。
 


また、病気が長期化して1年6ヶ月以上仕事を休む状態になった場合でも、1年6ヶ月以上は傷病手当金を受け取ることはできません。
 


そもそも1年6ヶ月の長い間仕事を休むような病気になること自体避けたいものですが、病気が長期化した場合や、いったん復職したにもかかわらず、また同じ病気で休まなければならない状態になった場合なども、1年6ヶ月以上は傷病手当金を受け取ることはできませんので、注意が必要です。

傷病手当金の申請手続き

申請方法は、ご自身の加入している保険組合に連絡し申請書を取り寄せます。 


この申請書にはご自身が記入する書類の「被保険者記入用」、会社が記入する書類の「事業主記入用 」、医師が記入する書類の「療養担当者記入用」がありますので、それぞれ記入して保険組合に提出します。 


その後、保険組合にて審査が行われ審査に通れば、金額や振込み予定日などの記載された支給決定通知書が送られてきます。 後日、指定口座に入金が行われます。 


また、傷病手当金の申請は基本的に事後申請となります。 


そのため、長期での療養となる場合もまとめて申請するのではなく、1ヶ月ごとに申請する方がよいでしょう。まとめて申請する場合どうしても申請するのが遅くなってしまうため、入金されるのもそれだけ遅くなってしまうからです。

まとめ:傷病手当金受給中の転職

いかがでしたでしょうか。

傷病手当金受給中の就職、転職活動についてご紹介いたしました。


今回の記事のポイントは以下のつです。

  • 傷病手当の受給が就職や転職で有利に働くことはまれである
  • 休職した理由により企業の受け止め方も異なる
  • 休職や傷病手当受給について自ら企業に申告する義務はない
  • 無申告であっても企業に休業がばれる可能性はある
  • 疾病が転職後に再発した場合でも条件によっては傷病手当金の受給が可能

この記事では、現在傷病手当を申請または受給しており転職を考えている方、転職後にうつ病などを再発症してしまった方や、転職後すぐに退職してしまった方々や労務管理や健康保険に携わる方々にとっても、ご参考になる情報ですので是非繰り返してご覧ください。

ランキング