限度額適用認定証は出産前に申請すべき! 間に合わない場合は?

出産の際には保険適応外の「正常分娩」のほかに「異常分娩」にあたる吸引分娩や帝王切開等を行う可能性も十分にあります。その場合、医療費の負担がありこれらの費用は高額療養費制度の対象です。そういったケースに備え、「限度額適応認定書」はどのタイミングで申請すべきなのでしょうか?今回は、認定証のベストな提出のタイミングやその理由。また、その申請期間や申請の手順について解説します。

限度額適用認定証は出産前に申請するべき!その理由とは?

妊娠がわかり出産にむけて準備をすすめる中、限度額適用認定証という言葉をはじめて耳にし、戸惑っている方は多いと思います。


限度額適応認定証とは、出産時の対象となる医療費について窓口での支払い負担が軽減できる証明書のことです。
申請が遅くなると一旦は自己負担となりますので注意が必要です。


限度額適用認定証は出産前に事前に申請しておいたほうがいいと言われたが、どんなメリットがあるのか、いつまでにどんな手続きをしておくべきなのか等がわからず不安に感じていらっしゃるのではないでしょうか。


この記事では、 

  • 限度額適用認定証についての説明
  • 限度額適用認定証を出産前に申請する理由
  • 出産時に限度額適用認定証を利用する際の注意点
  • 限度額適用認定証の有無による負担額の違い
  • 限度額適用認定証の申請書の書き方と申請方法
について、詳しく紹介していきます。


この記事を読んでいただけたら、なぜ限度額適用認定証を出産前に申請するべきなのかがわかり、実際に申請する際の手順もわかるので参考になると思います。ぜひ最後までご覧ください。 


限度額適用認定証とは?金額の計算方法を解説

病気や怪我でかかった医療費が高額だった場合、社会保険や国民健康保険に加入をしている人を対象に、高額療養費制度が設けられています。


高額療養費制度は、自分が同一月(1日~月末までの1か月間)に支払うべき自己負担額を超えた金額を、後日申請をして払い戻しができる制度です。


しかし、一時的とはいえ高い医療費を病院の窓口で支払うのは大きな負担です。

そこで役立つのが限度額適用認定証です。


事前に申請すれば、医療費が高額になった場合でも病院の窓口で支払う金額を自己負担限度額内におさめられます。


自己負担限度額は、もらっている所得区分によって計算方法が異なります。


医療費の自己負担限度額(1か月あたり)※70歳未満の場合

所得区分 自己負担限度額
①区分ア(標準報酬月額83万円以上の方)252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
②区分イ (標準報酬月額53万~79万円の方) 167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
③区分ウ (標準報酬月額28万~50万円の方)80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
④区分エ (標準報酬月額26万円以下の方)57,600円
⑤区分オ(低所得者)35,400円
所得区分とは、 例えば会社勤務の方であれば、収入金額から給与所得控除額を差し引いた給与所得のことをさします。

所得区分「ウ」に該当し、保険料の自己負担が3割の人の計算方法:
総医療費が50万円かかり、窓口で支払った額が15万円だった場合、以下のような計算方法で自己負担限度額を算出できます。

80,100円+(総医療費500,000円-267,000)×1%=82,430円 

つまり、高額療養費として支給できるのは、

150,000円(窓口で支払った額)-82,430円(自己負担限度額)=67,570円

となります。
所得が少ないほど、医療費の自己負担額は少なくなります。

出産前に限度額適用認定証を事前申請するべき2つの理由

出産が自然分娩だった場合、病気には該当しないので健康保険が適用されません。

そのため高額療養費にはあてはまらず、限度額適用認定証の対象外となります。


しかし、妊娠・出産は少なからずリスクが伴うものです。

自然分娩のつもりでいても、緊急帝王切開など不測の事態に陥ってしまう可能性もあります。

また、35歳以上の高齢出産の場合は、妊娠・出産時のリスクがよりいっそう高まるというデータもあります。


そんなときは限度額適用認定証を事前に申請しておけば、高額な医療費がかかったとしても、病院窓口での支払いは一定の自己負担額におさえることができます。


それでは、出産前に限度額適用認定証を申請しておくことで、具体的にどんなメリットがあるのか解説していきます。

帝王切開など不測の事態に備えられる

自己負担限度額を超えた医療費は高額療養費に該当し、限度額適用認定証の対象となります。


限度額適用認定証の対象となる出産には以下のようなものがあります。


  • 帝王切開
  • 緊急帝王切開
  • 妊婦高血圧症候群
  • 誘発剤・陣痛促進剤を用いた出産
  • つわり(重症妊娠悪阻)
  • 流産・早産
  • 吸引分娩
  • 骨盤位分娩
  • 鉗子分娩 など

いずれも予定外の事態がおきたときに行われる可能性がある、出産時の医療行為です。

特に日本の一般病院における帝王切開の実施割合は、厚生労働省2017年(平成29年)のデータによると25%を超え、その割合は高齢出産が増えていることもあり、年々増加しています。 

予定帝王切開はもちろんですが、自然分娩の途中で急遽緊急帝王切開に切り替えることも少なくありません。

つまり帝王切開だけでも4人に一人が高額療養費の対象者となっていることを考えると、出産を予定しているのであれば、緊急時に備えて事前に限度額適用認定証の申請はしておいたほうが安心です。


ちなみに、痛みをやわらげる無痛分娩を計画している場合も、自然分娩と同じく保険診療扱い適用外となりますが、やはり緊急時に備えておくほうが賢明です。

出産後、なにかと忙しくなる前に手続きを済ませられる

もしも限度額適用認定証を事前申請しなかった場合、病院の窓口で支払った自己負担限度額を超えた医療費について、後日自分で申請手続きをおこなう必要があります。


しかし、不測の事態はなにも出産時のことのみを指すのではなく、出産に至るまでの過程でも十分起こり得ます。 


また、出産時の異常分娩による申請であったとしても出産直後ははなかなか外出ができず、時間ができたとしてもやるべきことはほかにたくさんあるものです。

産後のタスクを増やすよりは、産前に余裕をもって手続きを行ったほうが良いでしょう。


限度額適用認定証の申請はいつでもできるので、時間に余裕のある出産前に申請をおこなっておけば、万が一予定していた医療費を超える請求があったとしても、病院の窓口で保険証と一緒に限度額適用認定証を提出をするだけです。


出産後忙しくなる前に、限度額適用認定証の申請は出産前に行っておきましょう。

出産時の限度額適用認定証に関する注意点

限度額適用認定証は、申請のタイミングや入院期間によっては、給付に至るまで時間を要する可能性があります。

例えば、入院期間が月をまたぐと、医療費の総額に対して一括で限度額適用認定証を適用することができず、同じ月内で治療を完結した人よりも高い医療費を負担することになります。

そして、申請が遅れると支払いのタイミングまでに「限度額適用認定証」の発行が間に合わず、請求された医療費の自己負担分は一旦は全額窓口で支払う必要があります。

早めの手続きによる「限度額適用認定証」とともに出産一時金の制度と併用することで、病院窓口での支払い負担を最低限まで軽減することが可能です。

限度額適用認定証の利用にあたっての注意点もしっかりとおさえて、万全の準備をしておきましょう。

限度額適用認定証と出産一時金と併用できるか

結論から申し上げますと、出産一時金(出産育児一時金)と限度額適用認定証は併用が可能です。


出産にかかった費用負担の軽減を目的として支払われるのが、出産一時金です。


出産一時金は、健康保険に加入している、または配偶者の健康保険の被扶養者である人、そして妊娠22週(85日)以降に出産をした人に対し、子供一人につき42万円が支給されます。


出産一時金には、直接支払制度と受取代理制度があります。

直接支払制度受取代理制度
申請者医療機関が申請自分で申請
申請方法病院から提示される書類にサイン→病院窓口に提出加入している健康保険から申請書を取り寄せ→必要事項を記入して健康保険へ提出
受け取り方法健康保険の保険者が、利用した医療機関へ直接支払い医療機関が代わりに受け取り
出産費用総額が42万円未満だった場合
差額分は自分で請求
差額分は指定した口座に自動振込
注意点
利用できるのは出産予定日までの2か月間以内


どちらの制度を利用するかは利用者本人が決められますが、医療機関が直接支払制度を利用できる所であれば、申請時の手間の少ない直接支払制度がおすすめです。 


出産一時金の手続きも、時間に余裕のある出産前に済ませておくことができるので、医療機関に確認しましょう。 


帝王切開など保険が適用される医療費については限度額適用認定証を、社会保険が適用とならない自然分娩の費用は出産一時金を使って併用すれば、病院窓口での負担が減り、高額なお金を用意する必要がなくなります。

限度額適用認定証申請が出産前に間に合わない場合、事後申請できるか

限度額適用認定証の事前申請が間に合わなかった場合、かかった医療費のすべてを一旦自分で用意して支払うことになるので注意が必要です。


ただし、後日加入している健康保険組合(国民健康保険、協会けんぽ 共済組合など)に申請することで自己負限度額を超えた費用の払い戻しを受けることができます


高額療養費の払い戻しは、利用した医療機関から受け取った診療報酬明細書(レセプト)の審査を行った後に支払われるので、払い戻しまでは診療月から3か月以上かかります。


高額な費用を長期間負担するのが難しい人や、一時的に立て替えて支払うことが難しい人のために、高額医療費貸付制度があります。


高額医療費貸付制度は、高額療養費が払い戻しされるまでの間、払い戻し予定額の8割~9割にあたる額を無利子で貸付してもらうことができる制度です。


申請を行いたい場合は、自分が加入している保険機関に問い合わせをして申請をします。

入院期間が月またぎの場合や、月末に帝王切開する場合は損になる

入院費は月ごとに計算されるので、自己負担限度額を超えない可能性があるためです。

入院期間が月またぎとなってしまったとき、医療費の自己負担額が大きくなり損をする場合があります。


なぜなら、高額療養費制度が医療費をひと月単位で計算するためです。


たとえばAさんとBさんを例に出して考えます。

  • 入院期間が2週間
  • 医療費総額が50万円
  • 窓口支払い額が3割の15万円で
  • 所得区分が「ウ」

異なるのは入院をした期間が月をまたいでいるか、いないかだけだとします。


Aさん

入院してから退院するまでの入院期間が同じ月内なので、50万円の全額が高額療養費としてまとめて計算されます。

80,100円+(総医療費500,000円-267,000)×1%=82,430円(自己負担額)

150,000円-82,430円=67,570円(高額療養費としてAさんに支給される額)

Bさん

入院月と退院月が月またぎとなり、それぞれ30万円と20万円かかったとします。この場合、高額療養費は合算ではなく月ごとにわけて計算されます。

入院月分:80,100円+(総医療費300,000円-267,000)×1%=80,430円(自己負担額)

90,000円(入院月の窓口支払額)-80,430円=9,570円(高額療養費としてBさんに支給される額)

退院月分:80,100円+(総医療費200,000円-267,000)×1%=79,430円 

退院月は、窓口での自己負担額は3割の6万円で、自己負担限度額を超えていないため払い戻しは無しとなります。


つまり、Aさんには高額療養費として67,570円支給されるのに対し、Bさんに高額療養費として支給されるのは、9,570円のみとなります。


出産は入院日を決めることはできませんが、万一月をまたいでの入院となった場合、負担額が増えることをおぼえておきましょう。

その他の限度額適用認定証の利用注意点

そのほか限度額適用認定証の利用にあたっては、以下のような場合も注意が必要です。

同じ月内に複数の医療機関にかかった場合、それぞれの医療機関で自己負担額が21,000円以上かかったものを個別に算出・合算した結果、自己負担限度額を超えた分だけが高額療養費として支払われます。 

例えば1つの医療機関での医療費が30,000円、もう1つの医療機関での医療費が60,000円かかった場合を想定します。

まず、それぞれの医療費から21,000円を引いた金額が9,000円と39,000円になります。この数字を合算すると48,000円になり、この金額が高額療養費として支払われます。

また、同じ医療機関で治療を受けたとしても、通院と入院は医療費を合算することができません。

複数の医療機関を利用した時と同様に、自己負担額が21,000円以上かかった場合、合算することができます。 

また、 入院中の食事代や差額ベッド代、病院へ行く際の交通費は自家用車での高額療養費の対象外です。

出産時に限度額適用認定証の有無による窓口負担の金額差はいくらか

限度額適用認定証の有無で、病院窓口での支払い額はどの程度変わるのか見てみましょう。


ケース例:共通条件

  • 自然分娩の予定だったが、その後帝王切開に切り替え出産
  • 出産一時金は、直接支払制度を利用
  • 自己負担限度額は所得区分「ウ」、自己負担3割
  • 総医療費は75万円(そのうち帝王切開にかかった費用は30万円で、健康保険適用による自己負担額は3割の9万円)


Aさんのみの追加条件

  • 限度額適用認定証は、事前申請にて取得済み

(1)健康保険適用外の医療費を算出

75万円(総医療費)-30万円(帝王切開費)=45万円


(2)窓口支払い対象となる総医療費を算出

45万円+9万円(帝王切開自己負担額)=54万円


(3)窓口支払い対象となる総医療費から、出産一時期を差し引き

54万円-42万円(出産一時金)=12万円


(4)さらに限度額適用認定証を利用した際の最終窓口支払い金額

80,100円+(300,000-267,000)×1%=80,430円

9万円-8万430円=9,570円


Aさんが最終的に病院の窓口で支払う金額は、9,570円のみとなります。



Bさんのみの追加条件

  • 限度額適用認定証は、取得せず
出産一時金支払いまでの金額は、Aさんの(1)~(3)までと同様。
しかし限度額適用認定証を取得していないため、(4)が該当せず、Bさんが最終的に病院窓口で支払う負担金額は、上記3の12万円となります。

上記の通り同じ出産内容でも、限度額適用認定証を取得しているかしていないかで、病院での窓口負担は11万430円もの金額差となります

最終的に負担する金額は同じだとしても、10万円以上のまとまった金額を事前に準備しておかければ、いざ支払う際に困ってしまうことにります。
その負担はさらに大きくなる可能性も十分あり得ます。

これだけ見ても、限度額適用認定証を事前に申請しておいたほうが良いことがわかります。

出産時の限度額適用認定証の申請書の書き方と申請方法

限度額適用認定証は、いつでも申請・取得することができます。


申請方法は加入している健康保険によって異なりますので、ご自身の健康保険証を確認のうえ、お問い合わせください。


申請書は、該当する健康保険のホームページからダウンロードできる場合もあります。


限度額適用認定証の申請書問い合わせ先確認方法

  • 国民健康保険:自分の住所がある市区町村の役所にある国民健康保険窓口へ申請
  • 社会保険:健康保険証に企業あるいは事業単位の健康保険組合名が記載されていたら、その健康保険組合の窓口へ申請
  • 協会けんぽ:健康保険証に「全国健康保険協会」と記載されていたら、その協会の各都道府県支部の窓口へ申請  

申請書を記入する際は、以下のものを準備しておきましょう。
  • 保険証
  • 印鑑
  • マイナンバーカード(保険証の記号・番号がわからない場合)

申請書の記入は、氏名や住所、保険証の記号・番号など、記入欄に従って書き進めるだけで、難しいことはありません。

申請書の中にある項目「療養予定期間(申請期間)」は、病院にかかる療養期間を記入してください。ただし、設定できるのは限度額適用認定証の申請月の1日からとなります。申請月より前の期間にさかのぼって設定することはできないので注意してください。

また、限度額適用認定証は、窓口に申請をしたとしてもその場で即日発行はされません。手元に届くまでに数日かかります。

限度額適用認定証の有効期限は、加入している健康保険によって異なりますが、半年から1年間くらいはそのまま利用できますので、取得する際に確認のうえ、余裕をもって申請しましょう。

限度額適用認定証の申請は代行してもらうこともできる

限度額適用認定証の申請がご自身では難しい場合には代理人による手続きも可能です。


その場合は認定証の申請書に代行者の申請者代行欄を記入し提出します。


しかしなるべく余裕を持って申請はしたいものですよね、そのため早めの準備を心がけましょう。

限度額適用認定証で出産費用は平均いくら戻るかシミュレーション

では実際に限度額認定証で出産費用はいくら戻って来るのでしょうか?


帝王切開で入院した場合の例で解説していきます。


一般的には帝王切開にかかる費用は自然分娩に6〜7万円を足した金額と言われております。入院料と分娩料を合わせて55万円が目安となっており、所得によって戻って来る金額が違います。

所得自己負担額高額療養費制度からの給付額
低所得者35,400円464,600円  
年収370万円以下57,600円  442,400円  
年収370万円〜770万円94,097円405,903円
年収770万円〜1,160万円
178,487円
321,513円
年収1,160万円以上260,847円
239,153円

このように年収によって自己負担額には大きな違いがあります。


年収が高いほど自己負担は大きくなることがわかりますね。


更に注意したいのが入院中の差額ベット代や食費などは対象外となっていますので、自己負担の金額は更に増えるということです。なお分娩ごもオムツ代や新生児管理保育料などにもお金がかかります。


また自然分娩は医療行為ではありませんので全額自己負担となっております。

まとめ:限度額適用認定証は出産前に余裕をもって申請しておこう

限度額適用認定証について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?


この記事のポイントは、

  • 限度額適用認定証は、出産前に申請したほうが窓口での支払い負担が少なく済む
  • 妊娠がわかったら、出産方法に関わらず限度額適用認定証の事前申請を行うこと
  • 出産一時金と限度額適用認定証は併用できる
  • 限度額適用認定証は、申請前までさかのぼっての療養予定期間申請ができないので、妊娠がわかった時点で早めに申請を行うこと
でした。

妊娠・出産は喜びが大きい反面、はじめてのことや、考えなければいけないことが多くなります。特にお金に関する手続きはわかりにくいため、何からどのように手をつければいいのか混乱してしまうこともあるでしょう。

今回ご紹介した限度額適用認定証は、間違いなく出産時に役立つ証明書です。出産前の時間の余裕がある時に手続きをしておくことで、医療費が高額になってもあせらず対応できます。

まずはご自身の保険証をで申請場所を確認し、申請書の手続きからはじめましょう。ご自身で申請を行うことが難しい場合は、ご家族などに代理で申請をしてもらうこともできます。

大事な出産のためにも面倒なことは早めに片づけて、安心して出産にのぞんでください。

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