更新日:2024/08/07
借上社宅で課税されないために知るべきこととは
この記事では、借上社宅制度を利用するときに課税されないためのポイントについてご説明します。借上社宅制度は、福利厚生の費用として計上できますが、入居者から一定額以上の家賃を回収しなければ、給与として課税されます。制度の特徴をしっかり抑えて税金対策をしましょう。
内容をまとめると
- 借上社宅制度を利用する際は、国税庁の法令に基づいて入居者から一定額以上の家賃を回収する必要がある
- 住宅手当は、給料扱いになるため、課税対象となり、会社、従業員ともに社会保険料が上乗せされる
- 借上社宅制度は福利厚生費の費用として計上できる
- 自社で社宅を保有するにはそれなりの費用がかかるため、コストを抑えたい場合は借上社宅がおすすめ
目次を使って気になるところから読みましょう!
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借上社宅とは?
借上社宅とは、会社が大家から賃貸物件を借り、従業員に貸している社宅です。
そのため、大家や不動産会社に対しての賃貸契約や家賃の支払いは、会社が行います。
借上社宅の特徴は以下の通りです。
- 住宅手当よりも支払う税金を抑えられる
- 物件の管理をするために必要な費用や手間を抑えられる
- 国税庁の法令に基づいて、入居者から一定額以上の家賃を回収する必要がある
住宅手当とは、持ち家ローンの一部や賃貸契約の家賃など、従業員が負担している費用を会社が補助する手当です。
特徴は
- 従業員の給与として扱われ、課税対象となるため、会社・従業員ともに社会保険料の負担が大きくなる
- 大家や不動産会社への賃貸契約や家賃の支払いは従業員が行う
- 従業員の人数や支給金額によっては負担が大きくなる
となります。
住居手当は大家や不動産とのやりとりが従業員となるため、会社は業務の手間が減ります。しかしコストを抑えたい場合は、税金の負担額が少ない借上社宅制度がおすすめです。
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借上社宅のメリット
借上社宅制度があれば、従業員は自分で物件を探す必要がなく、個人で契約するよりも安く賃貸物件を借りることができます。
採用活動をする際は、転勤が多い職種を募集する必要があったり、求職者が遠方から通う必要があったりしても、大きなアピールポイントになります。
また、費用面でもメリットが多く、自社で社宅を所有するよりも管理費、維持費などにコストがかかりません。
借上社宅制度を導入すれば、会社にとっても従業員にとっても大きなメリットを享受できるでしょう。
法人側の3つのメリット
法人側のメリットは以下の通りです。
- 福利厚生の一つとして会社の評価が上がる
- 社会保険料がかからない
- 住居費を損金として算入できる(税効果あり)
以下で詳しく説明します。
【福利厚生の一つとして会社の評価が上がる】
借り上げ社宅制度は、会社が任意に行う法定外の福利厚生となります。
しかし、住宅関連の福利厚生に力を注いでいる会社は多いです。
一般社団法人 日本経済団体連合会による「2019 年度福利厚生費調査」によると
2019年度に会社が負担した法定外福利厚生費の項目は
1位 住宅関連
2位 ライフサポート(給食、保険、育児など)
3位 医療・健康
(※従業員1人1ヵ月当たり、全産業平均)
となっています。
参考: 一般社団法人 日本経済団体連合会「2019年度福利厚生費調査結果の概要」
他の福利厚生よりも住宅関連の需要が高いことが分かります。ニーズが高い住宅関連の一つである借上社宅制度を導入することで、福利厚生の一つとして会社の評価は上がるでしょう。
【社会保険料がかからない】
借上社宅制度では、会社が決めた額の家賃を入居者の給与から天引きするのが一般的です。
そのため、給与の見た目が減ることで、従業員、会社ともに社会保険料の支払いを抑えられます。
給与として扱われる住居手当とは違い、課税対象にならないので、給与が上がるたびに余計な社会保険料がかかることはありません。
【住居費を損金として算入できる(税効果あり)】
賃貸料は、会社が大家に支払っている家賃の半分以上を従業員から回収していれば、給与として課税されず、会社が負担する差額を福利厚生費の費用として計上可能です。
そのため、損金として認められ、課税対象になりません。
損金とは、会社から外に出ていくもので、原価・費用・損失の額のことを指します。この中の「費用」とは、会社の事業活動を行う上で使われた費用のことを言います。
従業員の3つのメリット
借上社宅を利用する従業員のメリットは以下の通りです。
- 好きな家を選べる
- 所得税・社会保険料がかからない
- 連帯保証人がいらない
好きな家を選べる
会社によって異なりますが、家賃の上限額や住む地域など、一定の条件の範囲内であれば、好きな家を選ぶことができます。
借上社宅を希望している求職者は、面接時に会社が定めている条件をしっかり確認しておくと良いでしょう。
社有社宅には他の従業員も住んでいるので、人によっては「仕事とプラーベートをうまく分けられない」というストレスが生じますが、その心配もありません。
所得税・社会保険料がかからない
借上社宅は、会社が定めた額の家賃を入居者の給与から天引きする形が一般的です。
天引きされた分、見た目の給与が減ることで所得額も減り、従業員はそれに伴う余計な所得税や社会保険料を負担する必要がなくなります。
いっぽうで、住宅手当は給与の一部として見なされるため、給与にプラスして給付され、所得税や社会保険料の課税対象となります。
連帯保証人がいらない
借上社宅は、大家や不動産会社から会社が賃貸物件を借りるため、法人契約となります。
そのため、基本的に連帯保証人は、会社の代表取締役です。 連帯保証人は賃貸契約書などの書類に署名や捺印をする必要があります。
従業員は親族に連帯保証人になってもらうように依頼しなくて済むので、こういった手間を省くことができるのです。
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【重要】社宅利用料の最低限の金額
借上社宅制度を利用している会社は、以下の2つの方法どちらかで家賃の回収額を決め、一定額以上の家賃を回収しなければ、給与として課税されます。
① 住居を借りている社員から1ヶ月あたり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」と呼ぶ)の50%以上を使用料として回収する
例えば、家賃が6万円なら3万円が会社負担、残りの3万円が社員負担とすれば、給与として課税されません。
ただし、住居を借りている従業員が辞めてしまうと、会社が負担していた敷金や礼金、手続き費用といった、既に支払っている費用の負担が残ってしまうリスクがあります。
② 国税庁の法令に基づいた計算式で回収額を計算して回収する
計算方法は条件によって異なるため、入居者が役員の場合と従業員の場合に分けてご説明します。
①役員の場合
入居者が役員の場合、家賃の回収額は前述した通り、賃貸料相当額の50%以上を使用料として回収するか、以下の国税庁の法令に基づいた計算式で回収額を計算する方法があります。
小規模住宅と一般住宅で賃貸料相当額の計算方法が異なります。
【役員に貸与する社宅が小規模な住宅である場合】
次の(1)から(3)までの合計額が賃貸料相当額になります。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル)
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
【役員に貸与する社宅が一般住宅の場合】
(1) 自社所有の社宅の場合、次のイとロの合計額の12分の1が賃貸料相当額になります。
イ (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%
ただし、法定耐用年数が30年を超える建物の場合には12%ではなく、10%を乗じます。
ロ (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
(2) 他から借り受けた住宅等を貸与する場合
会社が家主に支払う家賃の50%の金額と、上記(1)で算出した賃貸料相当額とのいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。
②従業員の場合
従業員も同様です。
住居を借りている従業員から1ヶ月あたり賃貸料相当額の50%以上を使用料として回収するか、以下の国税庁の法令に基づいた計算式で回収額を計算する方法があります。
賃貸料相当額の計算方法は以下の通りです。
賃貸料相当額とは、次の(1)~(3)の合計額をいいます。
(1) (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
(2) 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル)
(3) (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
ちなみに
- 従業員や役員に無料で貸す場合は、この賃貸料相当額が給与として課税される
- 従業員や役員から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合は、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が、給与として課税される
となります。
【補足】「固定資産税の課税標準額」のデータを得るのが困難
固定資産税課税標準額とは、固定資産税を課税する対象となる金額です。
固定資産税課税標準額を調べて家賃の回収額を計算すると、社員の負担額が10〜20%程度で済む可能性があります。ただし、この計算をするためのデータ集めや手間がかかり、「家賃の半額を本人負担にする」と規定している会社が多いようです。
建物の場合、固定資産税評価額と課税標準額は通常一致します。(※固定資産税評価額とは、固定資産税の税額を計算する際に基準となる評価額のことです。)
そのため、大家から毎年送られてくる固定資産税の課税明細書を確認して教えてもらう方法があります。
課税明細書を失くしてしまうと、所有者本人が管轄する市役所に行って、固定資産税評価証明書を手に入れる必要があります。
電話で確認が取れないので、手間も時間もかかることが分かります。
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借上社宅と自社所有はどちらの方が良いの?
自社所有とは、会社が自社で賃貸物件を所有し、社員に貸している社宅のことを言います。
借上社宅と自社所有はそれぞれメリット、デメリットがあります。
【コストについて】
自社所有:自社で社宅を建てるため、建物や土地を所有していない場合は、これらの購入費や建設費がかかる。それに伴って毎年、固定資産税がかかります。
こういった初期経費の他に、建物を維持するための管理費、修繕費も必要になります。
借上社宅:家主と賃貸契約を結ぶため、自社所有にあるような費用はかかりません。そのため自社所有と比べると初期費用は安く抑えられることが分かります。
【支払う税金について】
自社所有:社宅手当は給料扱いになるため、会社、従業員ともに社会保険料も上乗せされます。
借上社宅:社宅手当は福利厚生扱いになるため、経費として計上でき、会社、従業員ともに社会保険料の負担はありません。
【賃貸契約について】
自社所有:会社が家主となるため、敷金・礼金などの契約手続きはシンプルです。 自社が所有している物件のため、会社は賃料を払う必要がありません。
借上社宅:家主から賃貸物件を借りているため、賃料が発生します。物件1件ごとに初期費用、敷金・礼金といった契約手続きが必要になるのです。
大家の都合で賃料や管理費が増加するなど、想定外のコストがかかる可能性があります。
【退去、途中解約に関わる違約金について】
自社所有:会社が家主となるため、違約金の発生はありません。
借上社宅:退職者が出れば急遽、退去することになり、違約金が発生する場合があります。
違約金が高額な場合、すでに退去しているのに家賃を払い続けなければならない場合もあるため、短期解約に対する心理的な不安がつきまといます。
以上のことから、それぞれ項目によってメリット、デメリットがあることが分かります。
ただし、自社で社宅を保有するにはそれなりの費用がかかるため、コストを抑えたい場合は借上社宅がおすすめです。
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