税制上の扶養とは別物!社会保険の扶養についてわかりやすく解説

社会保険や税金などで、扶養についての手続きがあります。どちらも負担を減らす上で重要な手続きですが、扶養についての考え方は、税制上と社会保険上とで別物であることをご存知でしょうか?この記事では、特に社会保険上の扶養について、扶養条件などをわかりやすく解説します。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

社会保険の扶養について解説

働き方や家庭のお金のことを考える時、切っても切れない関係にあるのが税金や保険です。


中でも社会保険は、企業などに勤めている人であれば身近なものであり、またその人の親族は条件によって「扶養」に入れることができます。


しかし、その中身について実はよく知らない…という方も多いのではないでしょうか。


この記事では

  • 社会保険の「扶養」とは何か
  • 親族が扶養に入ることでどのようなメリットがあるのか
  • 被扶養者となるための要件とは
  • 社会保険の扶養に関する注意点

などについて詳しく解説します。


この記事を読めば社会保険の扶養についてよく理解することができます。ぜひ最後までお読みください。

社会保険の扶養とは

そもそも社会保険とはどのような制度でしょうか。


日頃当たり前に働いて生活をしている人が、ある日突然失業したり、ケガや病気で働けなくなったらどうなるでしょうか。


社会保険は、このような不測の事態の際に、国がその生活を保障する制度で、すべての国民に加入が義務付けられています。


ただしすべての国民といっても、子供や高齢者など、経済的に自立していない人は、保険料を支払うことは難しいですよね。


この場合に、社会保険加入者の「扶養」に入れることで、本人が保険料を納めなくても社会保険の適用を受けることができます。

健康保険や公的年金などの社会保険制度に関する扶養

社会保険の扶養には、子供や高齢者のほか、収入のある配偶者なども要件を満たせば入ることができます。


例えば夫が会社員で妻がパート勤めという共働き世帯の場合、妻の収入によっては扶養に入れます。

それによって妻(被扶養者)は自身で社会保険料を払う必要がなく、その上で、例えば病気で入院した時には、健康保険の適用を受けられることになります。

扶養控除などの税金の扶養とは別物

ここで、社会保険上の扶養と混同されがちな、税制上の扶養についてご説明しておきます。


社会保険上の扶養は、被扶養者が社会保険料を払わなくて済む制度ですが、税制上の扶養とは、扶養している人(納税者)の所得税・住民税が軽減されるという制度で、まったくの別物です。


103万円の壁」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。


これは「税制上の」扶養家族が年間合計所得103万円を超えると扶養枠を外れ、納税者が所得控除を受けられなくなることを意味します。


大学生のアルバイトなどでも、年間収入がこの103万円を超えると、親(納税者)の税金が一気に上がってしまうことがあります。


どちらも同じ「扶養」という言葉でくくられ、また被扶養者の基準となる所得額も近いのでややこしいでのすが、関連性はありませんので、間違えないように注意してください。


なお、税制上の扶養は対象年齢が16歳以上(16歳未満は児童手当が適用されるため)となりますが、社会保険上の扶養に年齢制限はなく、0歳から対象になります。

社会保険を構成する5種類の保険

社会保険には次の5つの種類があります。


公的医療保険

主に会社員が加入する「健康保険」、個人事業主や専業主婦などが加入する「国民健康保険」などがあります。 医療機関を受診した際に、負担を軽くするための保険です。


公的年金

すべての国民に加入が義務付けられる「国民年金」と、それに上乗せする形で会社員などが加入する「厚生年金」の2段階制度です。公的年金は、老後、収入がなくなった際の生活を支えるための制度です。


介護保険

65歳以上の人、もしくは40~64歳で特定の疾病により要介護認定を受けた人がサービスを受けられる保険です。40歳になった月から加入義務が発生します。


労災保険

労働者が、業務中や通勤途中の災害によりケガなどをした場合、被災した労働者もしくは遺族に保険金が給付されます。


雇用保険

労働者が失業した際に支給される「失業保険」、育児や介護による休職の際に支給される「雇用継続給付」などがあります。

注意:国民健康保険や国民年金には扶養という概念がない

同じ公的医療保険であっても「健康保険」では家族を扶養に入れることができますが、「国民健康保険」にはそもそも扶養という概念がありません。


これは国民年金でも同じです。


したがって国民健康保険では、世帯の中で加入人数に比例して保険料が上がる仕組みになっています。


ここで考えなくてはならないのが、会社員が退職した場合です。健康保険で家族を扶養に入れていた人が国民健康保険に切り替えることで、一気に保険料が高くなってしまう可能性が考えられます。


このような時、健康保険の任意継続という方法があります。


健康保険の任意継続とは、会社勤めをしていた人が退職した時、希望により最大2年間は健康保険に加入し続けることができるという制度です。


会社員時代と比べ保険料は高めになりますが、家族構成に照らし合わせるとプラスになるケースも多いと思われますので、検討してみてください。

社会保険の扶養条件(被扶養者の要件)を紹介

親族を扶養に入れるには、下記3つの要件をすべて満たしている必要があります。

  1. 被扶養者の対象となる範囲の親族であること(同居が必要な場合と不要な場合がある)
  2. 年間の収入が130万円未満であること
  3. 本人が社会保険に加入していないこと
それでは1つずつ見ていきましょう。

被保険者と同居している必要がある親族

社会保険上の扶養の対象になるのは「配偶者および3親等以内の親族」です。


このうち扶養の要件として同居の必要がある親族は、配偶者・子供・兄弟姉妹・直系尊属(両親、祖父母など)以外の「3親等以内の親族」と「内縁関係の配偶者の父母および子供」となります。


社会保険の特徴として、内縁関係の配偶者も扶養の範囲に認められることが挙げられます。(税制上の扶養範囲には、内縁者は含まれません)

被保険者と同居していなくても良い親族

一方で「配偶者(内縁含む)」「子供」「兄弟姉妹」「直系尊属」については、必ずしも同居している必要はありません。

ただし同居の場合と別居の場合で、収入の要件に違いがあります。
  • 同居:親族の年収が、被保険者の年収の2分の1未満
  • 別居:親族の年収が、被保険者からの仕送り額より少ない
なお、どの親族であっても対象になるのは75歳以下の場合です。

75歳以上の人は後期高齢者医療制度の被保険者となるため、被扶養者の枠からは外れることになるのです。

年収が130万円未満

親族の年間年収は、130万円未満であることが条件です。(60歳以上または障害者の場合は180万円未満)


その上で「主として被保険者の収入によって生計を維持されている」必要があります。


被保険者の収入で生計が維持されているかどうかは、先に説明した同居・別居の場合の収入要件で判断されますが、同居している場合にはこれを満たさなくても、総合的な判断で扶養が認められるケースもあります。

社会保険の加入条件を満たしていない

親族自身が社会保険の加入条件に当てはまっている場合は、本人の加入が必須となりますので扶養に入ることはできません。


社会保険の加入条件は

  1. 1週間の労働時間が20時間以上
  2. 1ヶ月の賃金が8万8千円(年間106万円)以上
  3. 1年以上の雇用が見込まれている
  4. 学生ではない
  5. 勤務先の従業員数が501名以上
となり、これらを満たしていればパートやアルバイトであっても社会保険の対象となります。

もっとも、扶養から外れ本人が社会保険に加入する場合、扶養控除が受けられなくなるというデメリットが注目されがちですが、メリットもあります。

例えば妻が夫の扶養を外れ社会保険に加入した場合
  • 将来的に受け取る年金額が増える(扶養家族であれば第3号被保険者として国民年金のみの加入ですが、社会保険に加入すれば2号被保険者となり厚生年金も受け取れることになります)
  • 年収の「壁(上限)」を意識せずに働くことができる
  • 健康保険に入ることになるため「出産手当」「傷病手当」なども受け取ることができる

などといったメリットが考えられます。

注意:年収の計算方法について

被扶養者の条件として「年収130万円未満であること」がありますが、ここで用いられるのは過去の収入額ではなく、被扶養者として認定された日以降の年間見込み額を指します。


そしてこの場合の「収入」は、次のすべてを足し上げた額となります。

  • 給与収入(通勤手当含む)
  • 年金収入
  • 雇用保険・労災保険・健康保険の給付金
  • 事業所得・不動産所得
なお、自身が社会保険に加入している場合、この収入を元に保険料が決定されます。

そのうち「健康保険料」「厚生年金保険料」「介護保険料」の計算には「標準報酬月額」が用いられ、標準報酬月額は細かく等級が分かれています。(参考:平成31年4月分(5月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表|協会けんぽ

注意:年金や失業保険なども収入に含まれる

上記で説明した通り、社会保険における収入には、給与収入以外のものも含まれます。


中でも失業保険(雇用保険に含まれる)や、傷病手当金などの保険給付金は、税制上は非課税ですが社会保険上は収入とみなされるので注意が必要です。

注意:社会保険の扶養手続きは速やかに

これまで解説してきた被扶養者の条件を満たした場合、扶養に入れることができますが、自動的に適用されるわけではなく申請手続きが必要です。


手続きは、被保険者が勤め先に「被扶養者(異動)届」を提出し、事業主がこれを日本年金機構に届出を行うという流れになります。


その際に添付する必要書類は、まず続柄の確認のため

  • 被保険者の戸籍謄(抄)本(被保険者と被扶養者の続柄が分かるもの)
  • 被保険者の住民票(被保険者が世帯主で、被扶養者と同一世帯の場合)

そして収入要件の確認のため、以下のうち当てはまるもの(ただし、所得税法の規定による控除対象配偶者または扶養親族となっている場合は、事業主の証明があれば添付書類はありません)

  • 退職にともなう場合:退職証明書または雇用保険被保険者離職票の写し
  • 失業保険給付中、または給付終了にともなう場合:雇用保険受給資格者証の写し
  • 年金受給中の場合:年金額改定通知書などの写し
  • 不動産収入などがある場合:確定申告書の写し

この他、別居している場合は仕送り額が確認できる書類(預金通帳の写しなど)、内縁関係であればその両人の戸籍謄(抄)本などが必要になります。


この際、提出するタイミングは「扶養の事実が発生してから5日以内」と定められ、60日以上訴求する場合には別途書類が必要になるなど、手続きが煩雑化します。


5日以内というのはタイトなスケジュールですが、大切な手続きですので速やかに行いましょう。

社会保険の扶養についてのまとめ

社会保険の扶養について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。


今回の記事のポイントは、

  • 社会保険は、病気や災害など、万が一の際に国が国民の生活を保障する制度
  • 社会保険被保険者の親族は、収入額や血縁関係など、一定の条件を満たしていれば「被扶養者」として認められる
  • 社会保険の扶養は税制上の扶養と混同されがちだが、まったく別物なので注意が必要(扶養枠を外れないための収入限度額を表す「103万円の壁」は税制上のふように関する概念)
  • 扶養に関する手続きは、事態発生から5日以内に必要書類を添え、勤め先を通して「被扶養者(異動)届」を提出する
でした。

本人が社会保険に加入することで、将来の年金受給額が増えるなどのメリットもありますが、扶養に入った場合は自分で保険料を払うことなく社会保険の恩恵を受けられます。

どちらが良いと一概には言えませんが、扶養の範囲で働いていた人が年収130万円をこえることで、手取り額が下がってしまう場合があることはしっかりと覚えておきたいところです。

特に女性は、結婚や妊娠・出産を機に働き方を見直すこともあるでしょう。その際には家族とよく話し合い、家庭にとって総合的にプラスとなるよう、賢い働き方を選択できると良いですね。


保険ROOMでは、他にも読んでおきたい保険に関する記事が多数掲載されていますので、ぜひご覧ください。

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