被保険者じゃないけど介護保険が使える、みなし2号ってどんな人?

正解を言ってしまえば、みなし2号とは「介護保険制度上で、サービスを受けられる40~65歳の生活保護受給者」のこと。介護保険の被保険者ではないのに、なぜ利用できるのでしょうか。ともすれば制度の狭間にこぼれ落ちかねない「みなし2号」の秘密に迫ります。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

介護保険のみなし2号に関する情報まとめ

介護保険制度上で、介護保険と同等のサービスを受ける40~65歳の生活保護受給者を、

みなし2号と呼びます。  


「みなし」と「2号」。 


この二つの言葉には大きな意味が含まれています。 


今回は、このみなし2号の制度上の立ち位置や、サービス利用上の注意点について解説していきたいと思います。

介護保険のみなし2号とは

みなし2号の解説の前に、まずは介護保険の利用条件についてご説明します。  

介護保険サービスを利用するには、 


  1. 介護保険の被保険者であること
  2. 介護保険の申請を行い、要支援1以上の認定を受けること


この二つが必須の条件となります。  



1.介護保険の被保険者であること


介護保険の被保険者には2種類の方がいます。 


65歳以上の第1号被保険者と、40~64歳の第2号被保険者です。 


一部の適用除外者を除き、全ての国民は65歳になると被保険者番号が記入された「介護保険被保険者証」(以下介護保険証)が送られてきます。 


生活保護を受けている65歳になった方も、もちろん例外ではありません。 


その場合、被保険者が払う介護保険料は保護費の「生活扶助」よりまかなわれます。 

 

一方で40~64歳である第2号被保険者も、もちろん介護保険料を払っています。 


ただし40~64歳の生活保護受給者で公的医療保険に加入していない方は、介護保険の被保険者ではありません。  


第2号被保険者の介護保険料は医療保険料と一緒に徴収されるため、この方たちは介護保険料を払うことができないのです。 

 


2.介護保険の申請を行い、要支援1以上の認定を受けること


第1号被保険者は、いつでも条件なしで介護保険の認定申請を行うことができます。 


その結果、要支援・要介護と認定されれば介護保険サービスを受けることができます。 


一方で第2号被保険者は、申請に条件があります。 


介護保険で定められた「特定16疾病」に該当した第2号被保険者に限り、申請をすることができます。 


そしてやはり要支援・要介護が出れば、サービスを使うことができます。 



さて、介護保険被保険者ではない「40~64歳の生活保護受給者」が特定16疾病にかかって介護が必要になったとき、介護保険サービスを使うことを諦めるしかないのでしょうか? 


正解は否です。 


これらの方々を「介護保険の第2号被保険者」とみなして、サービスを使えるシステムがちゃんとあるのです。 


2号じゃないけど2号とみなす。


そう、これがみなし2号です。

40歳以上65歳未満の特定疾病罹患者で生活保護受給者はみなし2号となる

第2号被保険者の申請条件は、以下の特定16疾病に該当することです。  


  1. がん末期
  2. 関節リウマチ
  3. 筋萎縮性側索硬化症
  4. 後縦靱帯骨化症
  5. 骨折を伴う骨粗鬆症
  6. 初老期における認知症
  7. 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
  8. 脊髄小脳変性症
  9. 脊柱管狭窄症
  10. 早老症
  11. 多系統萎縮症
  12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  13. 脳血管疾患
  14. 閉塞性動脈硬化症
  15. 慢性閉塞性肺疾患
  16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症  


第2号被保険者と同じく、これらの疾病に該当するみなし2号の方は介護保険サービスの利用申請をすることができます。 


いや、厳密に言えば「介護保険」サービスではなく「介護扶助」サービスですね。 


財布の出所が違うというだけなのですが。 


通常は介護保険の支給8~9割+自己負担1~2割で受けるのと同じ事業所の同じサービスを「生活保護費の介護扶助」の支給10割で受けられるのです。


介護保険のみなし2号には介護保険証は原則発行されない

みなし2号の方は介護保険被保険者ではないため、原則として介護保険証は交付されません。 


しかし手続きの便宜上、「H」や「9」から始まる特別な被保険者番号が決定します

介護保険住所地特例とは

介護保険では、 原則として住所地の市区町村が保険者となります。  


しかし、違う市区町村の介護施設(特別養護老人ホーム・養護老人ホーム・特定施設など)入所のために住所地を移した場合には、今まで住んでいた市区町村が保険者を継続するという特例措置があります。 


これが介護保険の「住所地特例制度」です。  


介護施設が多い自治体に負担が集中するのを避けるために作られた制度です。 

みなし2号と住所地特例との関係

X市在住のみなし2号であるAさん(63歳)が、特別養護老人ホーム入所のため住所をY市に変更しまたとします。 

この場合、保護費(介護扶助)はどちらの市が負担するのでしょう。 


実は生活保護制度にも、


被保護者が救護施設などに入所することで居住地を変更した場合は、変更前の自治体が保護費を負担する」 


という決まりがあるのです。 


つまり、X市が継続して保護費(介護扶助)を支給することになります。 


生活保護制度にも住所地特例があるのですね。 


ただしAさんは介護保険被保険者ではないので、もちろん介護保険の住所地特例とは関係がないということになります。 

みなし2号と住所地特例の制度の狭間に要注意

関係がないはずの、 みなし2号と介護保険住所地特例。 


しかしそこには、制度の狭間ともいえる大きな落とし穴があるのです。


介護保険のみなし2号の利用者が65歳を迎えた場合

みなし2号であるAさんがその施設で65歳を迎えたときにはどうなるのでしょう。 

生活保護費の支給に続き、介護保険でも住所地特例が適用になってX市が保険者となるのか? 


それとも今住んでいるY市が保険者となるのか?

介護保険被保険者証が交付され1号になる

正解はY市です。  

65歳になれば、原則すべての人が介護保険第1号被保険者となります。 


生活保護需給者であるか否かは関係ありません。 


認定申請をしたことがない第2号被保険者には、まだ被保険者番号がありません。 


65歳になって初めて被保険者番号が与えられ、介護保険証が発行されます。 


つまり65歳になった時点で住所がある市区町村が、自動的に保険者となるのです。 



さて、Aさんはもちろん今までにY市で介護保険申請を行ったことがありません。 


さらにAさんの保護費を扱う保護課は、他市であるX市です。 


同じ市内のことなら生活保護から介護保険への切り替えもスムーズでしょう。 


しかし、もしY市での介護保険申請を忘れていたなら… 


最悪の場合Aさんが65歳になってから1ヶ月ほど後に、居住する施設にY市の介護保険証が届きます。 


…認定区分が空欄の介護保険証が。 


つまり、そのときAさんは認定区分がない(非該当)。 


介護扶助サービスも、介護保険サービスも、使う資格がないのです。


当然といえば当然です。 


Y市の介護保険担当は、今までにまったくAさんを把握する機会がないのですから。 


65歳になった後に利用した介護保険サービスは、全額自己負担となります。 


これは大変なことになります。 


誰が払うんだ?とX市とY市で揉めることは必至でしょう。 


誕生日前に介護保険証が届けば、気づいてすぐ申請できるんですけどね。 


1ヶ月ほど後に送付する市区町村も少なくないのです。 



ちなみにみなし2号→第1号被保険者への切り替えも、保険者が変わったときの切り替えも、一般的に認定期間内であればそれまでの認定区分を持ち越すことができます。 


だからAさんは申請さえしておけば、書類上の手続きだけで済んだのです。

まとめ

「Aさんの事例は特殊だから、私には関係ないな」  

今回のお話を、そうとらえる方も多いかもしれません。 


しかし同じような事態に、誰しもがおちいる可能性はあるのです。

 

介護保険制度・医療保険制度・生活保護制度・障害者制度など、困っている方への公的支援制度は多くあります。 


一見どれも似ているようですが、それぞれに法的根拠が異なるまったくの別物です。 


生活保護制度に限らず、これら制度間での移行や併用はよくあることです。 


お互いの理解不足からトラブルが発生することも珍しくはありません。


まずは、制度それぞれの基本的な根拠を知リましょう。 


日常の利用上で目にするルールについて、「そういうもの」と丸覚えするのではなく「なぜそうなったのか」という視点を持ち、根底にある理由を考察してみましょう。 


ルールの根拠を知ることで、制度とうまく付き合えるようになります。


制度とうまく付き合うことで、無駄なトラブルを事前に防ぐことができますよ。

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