更新日:2019/01/15
介護保険が理由で世帯分離をする家庭が増えている理由と、その方法
「世帯」とは、原則として住所と生計が同じ場合に適用されます。しかし最近、介護保険の制度を理由に同じ住所で暮らしていても世帯を分離する家庭が増えています。この記事では、介護保険が理由で世帯分離をする真相と、世帯分離の方法、またデメリットについて考えます。
目次を使って気になるところから読みましょう!
- 介護費用が安くなる介護保険の世帯分離について解説
- 介護保険の世帯分離とは
- 世帯分離の5つのメリット
- メリット1:介護サービスの自己負担額を減らすことができる
- メリット2:国民健康保険料の負担額が減ることがある
- メリット3:後期高齢者医療保険料が下がる
- メリット4:介護保険料の自己負担額が減る
- メリット5:入院・入所の食費居住費が下がる
- 世帯分離の5つのデメリット
- デメリット1:国民健康保険料の負担額が増えることがある
- デメリット2:会社の健康保険組合を利用したほうがよい場合がある
- デメリット3:扶養から外れる
- デメリット4:委任状が必要になる
- デメリット5:職場によっては家族手当がもらえなくなる
- 介護保険の世帯分離の手続き方法と手続きに必要なもの
- 世帯分離を行う上での注意点
- 役所で「負担額を減らしたいから」という理由だと、世帯分離を断られることがある
- 夫婦の世帯分離は手続きが大変
- 生活保護のための同居家族の世帯分離は許可されないこともある
- まとめ
目次
介護費用が安くなる介護保険の世帯分離について解説
そして介護保険料を支払っていれば、一定の条件を満たした場合に誰もが介護保険サービスを受けることができます。
介護保険サービスは、平成26年度までは1割の負担で利用することができましたが、平成27年度からは「一定の所得」がある人は2割負担しなければならなくなりました。
では「一定の所得」の基準はどうなっているのでしょうか。
65歳以上の方の場合、原則として個人の年収が160万円を超える場合に適用されますが、280万円未満だったら免除されることになっています。
ただし!これは個人の話なので、一人の年収が160万円以上280万円未満だったとしても、夫婦も合わせた世帯の年収が346万円を超えてしまう場合には、2割負担となってしまうのです。
しかも介護保険の場合、3年と5年ごとに費用負担が変わる制度改正があります。
現役世代が病院受診する際に3割負担しているように、今後、収入が多い世帯は3割負担となることも政府は検討しているのです。
つまり、世帯の収入が別々になっていれば費用負担が増えない方もいる、ということになります。
これが、介護保険における世帯分離の家庭が増えていることの理由なのです。
介護保険の世帯分離とは
日本国民は、誰もが何かしらの「世帯」に関係しています。単身で住所登録している場合には、その人が「世帯主」になりますし、夫婦の場合には夫が世帯主であり、配偶者である妻はその世帯に属しているという考え方になります。
もちろん、子どもたちと同居している場合にも同様です。長男家族と同居している場合で長男が世帯主であれば、父母はその世帯に属しているということになりますし、父が世帯主であれば長男家族がその世帯に属している、となります。
介護保険でいう「世帯分離」とは、この「世帯」を「分離」させる、つまり別々にするという考え方になります。
夫婦であれば夫と妻が別々の世帯として登録する、子どもたちと同じ世帯であったなら、親と子どもたちを別々の世帯として届け出る、ということです。
世帯分離の5つのメリット
メリット1:介護サービスの自己負担額を減らすことができる
自己負担額については、介護保険制度改正の中でまだまだ変更があるといわれている分野なので、低負担で利用できることは大きなメリットといえます。
メリット2:国民健康保険料の負担額が減ることがある
ただ健康保険に加入するには、労働時間や労働日数、労働する契約機関などの条件をクリアする必要があります。
この条件がクリアされない場合には「国民健康保険」に加入しなければならないこととされています。「国民皆保険」をうたっている日本ならではの、ありがたい社会保障制度です。
社会保障制度を利用するためには保険料を支払う必要がありますが、国民健康保険料の場合にも「国民健康保険料」を支払う必要があります。
この保険料は、世帯の中で加入している家族の分をまとめて納めることになっているため「世帯主宛て」に請求がきます。ですから保険料額を決定する素因の1つが、世帯全員の年収です。
言い換えれば、世帯分離を行えば世帯の年収が下がりますので、国民健康保険料の負担額も下がる可能性がある、ということなのです。
メリット3:後期高齢者医療保険料が下がる
つまり、世帯分離を行えば後期高齢者医療保険料の負担額も下げることが出来るのです。
メリット4:介護保険料の自己負担額が減る
介護保険制度は40歳以上が加入するもので、65歳以上を第1号被保険者、40歳~64歳までを第2号被保険者と区別しています。
第2号被保険者で健康保険に加入している場合、給与から健康保険料を天引きして事業所ごとまとめて支払うことになっています。
健康保険の場合には「全国健康保険協会」が保険料を決定しており、介護保険料も同様です。しかも介護保険料は毎年見直されることになっています。
健康保険料の負担額は年収ではなく、毎月の収入がどのぐらいかによって納める保険料の等級で決まっています。
保険料率は同じですが、当然ながら月収が多いということは等級も上がりますから、納める額も増えるのです。
つまり健康保険の場合には世帯の年収は関係ないということになります。
これに比べ、国民健康保険の場合には介護保険料に相当するものは「介護納付金」と呼ばれ、国民健康保険料と同時に納めていくものですから、世帯の年収に左右されます。
つまり、国民健康保険に加入している方の介護保険料の負担額は、世帯を分離させることで減ることがあるのです。
メリット5:入院・入所の食費居住費が下がる
介護保険サービスの利用は契約行為のため、食費も居住費も施設ごとに料金設定しても良いことになっています。
つまり、近隣施設より高い料金設定をしたとしても、利用する側が納得して契約締結を行えば、非難されることはありません。
ただあまりに自由だと様々な弊害が起こることから、国としても、料金設定をする際にどんな基準で計算すれば良いのかを提示しています。
さらに、それに基づいた「基準額」も決まっています。
そして、食費や居住費の支払いが必要な介護保険サービスを利用する場合、どのぐらいの自己負担をするのかは、世帯の年収を主に定められているのです。
しかし利用する人の中には、基準額すら支払うことの出来ない場合も少なくありません。
例えば、ユニット型個室と呼ばれる最新設備の介護老人福祉施設(特別用語老人ホーム)の居住費は、1日1970円となっています。
普段は在宅で生活している人が、ショートステイで1週間(6泊7日)滞在する場合、居住費だけで11820円もかかってしまうのです。
これでは、収入が少ない人にとって利用できる施設があらかじめ限られていることになり、公平性を著しく欠くことになります。
ですから年収が一定の基準未満で、預貯金の額などいくつかの条件を満たした方は、1日1970円かかるところ820円で利用できる様な「負担限度額認定制度」があるのです。
つまり、世帯分離を行って世帯年収を下げることでこの制度を利用することができるため、食費や居住費の負担を下げることが出来るのです。
世帯分離の5つのデメリット
せめてこれから挙げるデメリットをよく考慮して、世帯分離をするかどうかを判断することが賢明です。
デメリット1:国民健康保険料の負担額が増えることがある
しかし年収だけではありません。世帯の中で国民健康保険に加入している者の人数によって計算される「均等割」や、世帯ごとに加算される「平等割」もプラスされるのです。
つまり世帯分離を行えば世帯の数が増えますから、「平等割」は増えます。
また世帯の中に、75歳になったために国民健康保険から後期高齢者医療保険へ移行した者が1人いれば「特定世帯」と呼ばれます。
特定世帯は、平等割が5年の間は半額に減額される、という特例措置がありますが、世帯分離を行うことによってこの措置を受けることが出来なくなる場合があるのです。
このような事から、国民健康保険料の負担額が増えることがあります。
デメリット2:会社の健康保険組合を利用したほうがよい場合がある
この場合、夫が加入する健康保険組合に加入することが出来ます。
しかし世帯分離を行うとそれが出来ないため、働く時間が少ないなど健康保険が適用されない場合には、国民健康保険に加入しなければならなくなります。
夫の扶養で加入していた健康保険は、夫が給与から天引きされている健康保険料の範囲内で加入出来ていたため、妻の保険料負担はありませんでした。
しかし国民健康保険に加入する場合には、自らが保険料を負担しなければならなくなります。
デメリット3:扶養から外れる
また確定申告や年末調整の際には、家族を扶養していることで所得税の控除を申告することが出来ました。
世帯分離を行うと「扶養から外れた」と判断する行政がありますので、これらの特例が受けられなくなります。
デメリット4:委任状が必要になる
家族であっても別々の世帯となるため、行政へ住民票取得等の手続きを行う際に「委任状」の提出を求められることがあります。
同一世帯であれば不要な手続きのため、手間が増大してしまうのです。
デメリット5:職場によっては家族手当がもらえなくなる
働いていない妻や子どもが対象となることが多いのですが、当然ながら妻と世帯分離をした場合には対象外となってしまうことがあります。
また中には、事業所独自で基準を定め、一定額の年金収入に満たない父母と同居している場合にも、家族手当がもらえる場合もあります。
しかし世帯を分離してしまえば、これも対象外となる可能性があるのです。
介護保険の世帯分離の手続き方法と手続きに必要なもの
ですから、手続きに必要なものは役所によって異なることがありますが、一般的には次のものを持参すれば良いといえます。
- 印鑑
- 手続きする者の身分証明書(免許証など)
- マイナンバーカード或いは通知カード
また、世帯を変更する対象者が国民健康保険などに加入している場合、加入している種類によって次のものを求められることがあります。
- 国民健康保険証
- 後期高齢者医療保険証
- 介護保険証
さらに、行政によっては世帯変更を行う対象者の「委任状」が必要な場合もあります。
詳しくは、届出を行う役所に問い合わせてみることをお勧めします。
世帯分離を行う上での注意点
理由によっては、世帯分離を受け付けてくれない場合もありますので注意が必要です。
役所で「負担額を減らしたいから」という理由だと、世帯分離を断られることがある
保険料の観点からは、誰かの負担額を減らした分、他で補うことが必要になります。そうしないと、行政として住民を守っていけないからです。
介護保険の食費や居住費の観点からは、1日の負担額が減った分、そのままだと介護保険事業所に入ってくるお金まで減ってしまいます。
これでは、事業所が納得する訳がありません。
そのため、減らした分はやはり、市町村行政が補てんしているのです。
つまり、世帯分離をすることで個人的に負担額が減った分、他の税金を用いることになるため、行政の財政を圧迫してしまいかねないのです。
だからこそ「負担額を減らしたい」という理由で世帯分離を行おうとすると、断られる場合があるのです。
というよりも、まず断られると思ってください。
夫婦の世帯分離は手続きが大変
世帯の原則を思い出してください。
「住所」と「生計」を共にすること、つまり夫婦であれば当たり前のことなのです。
もちろん、共働きの場合には世帯を別けても生計が立てられるということもあるでしょう。しかし、住所と生計を別けるのなら、そもそもなぜ、婚姻関係にあるのかという疑問が生じます。
ですから、夫婦の世帯分離は慎重に、且つしかるべき理由を用意して行う必要があります。
生活保護のための同居家族の世帯分離は許可されないこともある
日本の憲法では、全ての国民が平和的で安全な暮らしをおくることが出来ると明文化されており、生活保護もそのための施策の一つです。
ただ生活保護で支給されるお金は、全て税金です。
ですから、生活保護として認定を受けるのには収入、預貯金、活用できる不動産などの資産、家族や親族の収入や資産状況など、たくさんの条件をクリアする必要があります。
そのため、生活保護認定を受けるために同居している家族が世帯を別ける、ということは原則として禁じている行政もあるのです。
生活保護の認定は、住所がある市町村行政ではなくもう一つ上の組織、都道府県の出向機関である地方事務所が管轄していることがほとんどです。
だからこそ条件を細かく調査される、ということも覚えておくと良いです。
まとめ
介護保険で理由で世帯分離をしようとする理由と、その方法について述べてきました。
世帯分離にはメリット・デメリットがあること、手続きは大変ではありませんが、理由によっては、或いは分離する前の世帯状況によっては難しいこと、または断られてしまうことがあります。
これらのポイントをよく押さえて、介護保険における世帯分離をするのか、しないのかを賢明に判断されることをお勧めします。