養育費の不払いや滞納による差し押さえとは?法改正を徹底解説

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養育費がきちんと支払われている母子家庭は2割程度とのデータがあります。日本の制度では養育費を不払いにできる抜け道がありました。しかし、2020年4月より養育費の不払いや滞納を防ぐために法律が改正されます。この法律でどのように変わるのか解説しています。

養育費の不払いによる差し押さえとは?

夫婦生活を終了することを決めたとき、お子さんを育てていくための養育費を相手からきちんと受け取ることができるのかどうか気になるところです。養育費は7~8割が不払いになるというデータもあり、不安に思われていることでしょう。 


実は、2020年4月の法改正により、養育費の不払いや滞納の対策となる差し押さえをすることができる可能性があります。


この記事では

  • 養育費支払の実態について
  • 養育費不払いを取り締まる法律について
  • 未払いの養育費を取り返す方法
  • 養育費の不払いや滞留を防ぐために出来ること

について解説します。


この記事を読んでいただければ、養育費の不払いについて実態や関連法案、対策について理解できます。離婚後の養育費不払いを心配している方、これから離婚を検討している方には、ピッタリの内容ですので、ぜひ最後までチェックしてみてください。

2020年4月、これまでの養育費の踏み倒し方は通用しなくなる

養育費不払い問題の解決策として、債務者の財産開示手続を拡充・強化するための法律改正が2019年5月10日に成立し、翌2020年4月から施行されます。


改正のポイントは、

  1. 公正証書などの債権名義があれば誰でも強制執行の申立てが可能
  2. 債務者の不出頭などに対する罰則を強化
  3. 債務者以外の第三者からの情報取得手続を新設

です。(参考:法務省 民事執行法の改正について


これにより、財産差し押さえの強制執行がしやすくなり、今までの養育費の踏み倒し方法は通用しなくなるといわれています。次項以降でより詳細に解説しますので、ぜひ最後までチェックしてみてください。

母子家庭への養育費の未払い割合は7割以上

離婚後母子家庭となった場合、養育費がきちんと継続して支払われている家庭は平成28年の調査結果では23.4%です。

養育費の受給状況平成28年平成23年
現在も養育費を受けている24.3%19.7%
養育費を受けたことがある15.5%15.8%
養育費を受けたことがない56.0%60.7%
不詳4.2%3.8%

平成23年の調査時点で19.7%なので、徐々に改善しつつあるとはいえ、母子家庭の4分の3は不払いの状況ですまた、半数以上が養育費を一度も受け取っていないと回答していることもあり、十分に養育費が受給できるのは僅かといえるでしょう。

(参考:厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要


さらに、少し前の調査になりますが、平成23年に行われた養育費相談支援センターの調査結果によると、3年以内に養育費が不払いとなる割合は66.7%です。最初は支払があっても次第に養育費を支払わなくなるケースが多いようです。

(参考:養育費相談支援センター 養育費確保の推進に関する制度的諸問題

養育費が不払いされる理由とは?面会交流がないから?

養育費が不払いにされる理由は、

  1. 相手が失業した、貯金がない
  2. 相手が再婚してしまったため
  3. 養育費の金額に対して不満がある
  4. 養育費は親の義務と考えていない、支払意欲がない

などがあげられます。特に、養育費の支払意思がないというのは良くあるケースで、離婚相手自身の子どもに対する意識が低く、養育費の支払いが滞る原因になるようです。


厚生労働省が平成28年に行った調査結果によると、離婚後に相手と子どもの面会交流を行っていると回答していたのは29.8%で、面会交流が途絶えると、自分の子どもへの愛着が薄れ、養育費不払いに繋がります

養育費不払いを取り締まる法律の罰則強化でどうなる?


養育費不払いの問題について解説しました。次項以降では、2020年4月から始まる改正民事執行法について、

  • 法改正の内容
  • 不払いになった場合の罰則はどのようなものなのか

を詳しく解説します。養育費不払い問題の対策として「画期的」といわれる法改正なので、養育費不払いに悩んでいる方は、ぜひ最後までチェックしてみてください。

養育費の強制執行で相手の財産の差し押さえがしやすくなる

養育費不払いは、相手と直接会話できればスムーズに解決します。しかし、離婚後に相手と会いたくなかったり、連絡を取りたくても電話番号や住所不明で音信不通となることも多いようです。


現行法律下では、差し押さえの強制執行するにあたり、

  • 相手の勤務先
  • 給与・預貯金口座のある金融機関・支店名・口座番号

を正しく特定する必要がありますが、連絡が取れない状態ではこれらの情報が集められず、養育費不払いに打つ手がないのが実態です。


この社会問題に対向するために改正された改正民事執行法では、養育費の取り決めを記載した公証文書があれば、債務者の情報開示が可能となります。


また、銀行や市町村・日本年金機構・共済組合などに対して情報提供を求める手続きが新設されており、より強力に養育費回収の手続きができるようになります。

懲役刑や罰金の刑事罰が適用!前科がつくようになる

現行の民事執行法では、債務者である離婚相手が情報開示を拒否したり、虚偽申告をした場合の罰則として、30万円以下の過料が課せられます。ただし、過料は行政罰であって犯罪となる刑事罰ではなく、前科にはなりません。


これに対して2020年4月に施行される民事執行法改正法では制裁が強化され、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑罰となります。懲役の場合は刑務所へ行くことになりますし、罰金の場合は検察庁や金融機関への支払い、もしくは労働場留置での作業が必要です。


懲役の場合も、罰金刑の場合も前科扱いとなりますので、安易な養育費不払いに対しては大きな抑止力となるでしょう。

未払いの養育費を請求する方法とは

2020年4月の法改正により、従来行われてきた踏み倒し方が通用しなくなりますが、養育費滞納が発生した場合、どのような手続きをとればいいのでしょうか。


次項以降で、

  • 請求方法
  • 請求時の注意点

について、具体的に解説します。


未払いにならないように予防策をとっておくのが一番ですが、万が一のために手順や注意ポイントを理解しておきましょう。

養育費を請求できる期間はいつまで?

養育費の未払い分を請求するのに期限はあるのでしょうか。養育費の取り決めをしているかどうか、どうやって取り決めをしたのかによって、養育費の請求期間(時効)が決められています。

  1. 取り決めをしていなかった場合
  2. 夫婦間で取り決めをしていた場合
  3. 家庭裁判所の調停や審判で養育費の取り決めをした場合
の3パターンで、それぞれ解説します。


まずは、取り決めをしていなかった場合は、いつでも請求することが可能です。一般的には請求時以降の養育費を請求できるとされていますが、過去分に遡って請求できるかどうかは個々のケースで判断となります。


次に、離婚時に離婚協議書などで夫婦間で具体的な取り決めをしていた場合、民法では定期給付債権と扱われるため時効期間は5年間です。(民法169条)最後に、家庭裁判所の調停や審判などで、養育費の支払いを決定した場合は、時効期間は10年となります。(民法174条の2)


なお、養育費の支払いは5年もしくは10年で請求権が消滅するわけではなく、支払者が時効制度を利用(援用)することで初めて適用されます。つまり、支払者が時効制度を知らない(援用しない)限りは、請求することは可能です。

離婚協議書(協議離婚)がある場合は内容証明で催促

離婚をする際に離婚協議書を作成し、養育費支払についての取り決めをしている場合、法的には養育費支払義務が発生します。未払いが発生する時は、まず相手に対して口頭や電話・メール等で、しっかりと養育費の請求をすることが大切です。


ただし、離婚している相手と、直接やり取りするのは極力控えたいと感じる方もいらっしゃるでしょう。その場合は、内容証明郵便で督促をするのが有効です。


内容証明郵便とは、いつ・どんな内容を誰から誰に宛てて送付されたのかを郵便局が証明する制度で、主に請求書や督促状の送付に利用されています。支払いを促すことに効果的といわれているので、養育費の未払い分の請求する場合は、内容証明郵便の利用を検討するのが良いでしょう。

公正証書、調停証書(離婚調停)がある場合は家庭裁判所へ

養育費支払について公正証書・調停証書を作成している場合は、裁判をすることなく、相手の財産の強制差し押さえ(強制執行)をすることが可能です。


ただし強制執行できるといっても、いきなり強硬手段を行うのは相手に対して相当なダメージを与えますし、手続きも個人で簡単にできるほど単純ではありません。まずは、履行勧告や履行命令といった手続きをすることをおすすめします。


履行勧告や履行命令とは、家庭裁判所から支払者に対して養育費支払をうな促す手続きです。それぞれ履行勧告は養育費支払を催促するもので、履行命令は支払命令を行い、履行命令に従わない場合は過料が発生します。


履行勧告や履行命令でも、裁判所からの連絡があったということで、支払者に対しての督促効果は十分で、以降の支払いがスムーズに行われるのは多くみられるようです。公定証書や離婚調停時の調停証書がある場合は、家庭裁判所へ相談してみるのが良いでしょう。

差し押さえ(強制執行)にかかる弁護士費用の金額は?

強制執行の手続きは、各種書類を揃えて裁判所に提出すると、裁判所から命令を受けた金融機関や支払者の勤める会社が、財産を差し押さえるという流れです。手続きが煩雑なので、弁護士に手続きを依頼するのが一般的ですが、どのくらいの費用が必要になるのでしょうか。


かかる費用は、以下4つがあげられます。

  1. 相談料
  2. 着手金
  3. 報奨金
  4. 実費
特に弁護士費用としてお金がかかるのは着手金報奨金で、利用する弁護士事務所により料金は異なりますが、請求金額の○○%と規定しているところが多いようです。例えば、着手金5%、報奨金15%で、請求額が100万円の場合は、着手金が5万円、報奨金が15万円となります。

養育費の不払いについて無料相談で対応も可能

弁護士費用が心配でなかなか相談できない方には、

  • 法テラスの無料法律相談・弁護士費用立替制度を利用する
  • 分割払い・後払いが可能な弁護士に依頼する
  • 地方自治体の各種支援窓口で相談する

などで費用負担を軽くすることが可能です。また、相談した結果、強制執行以外の簡易な手続きで未払いが解消することもあります。養育費未払いで悩む場合は、まずは最寄の相談窓口に相談してみるのが良いでしょう。

不払いさせない対策


離婚後一人で子育てをする中で、養育費の不払いに悩んだり、請求するための手続きをするのは想像以上に大変です。そこで、養育費は滞納させず、取り決め通りに支払われるように予防策を取っておくことが大切です


養育費の不払いを防ぐ方法として3つ紹介します。

  1. 離婚時は養育費支払に関する公正証書を作成しておく
  2. 定期的に面会交流を続ける
  3. 養育費の一括支払いを依頼する

まず、公正証書は前述のとおり、万が一将来的に未払いが発生した場合に、家庭裁判所にて履行勧告・命令や財産の差し押さえ(強制執行)が可能です。次に面会交流について、定期的な面会交流が続く場合は養育費が不払いになりにくい傾向があります。


最後に養育費の一括支払いについて、将来的に未払いに関する不安はなくなるでしょう。ただし、離婚時に子どもが小さいほど支払額が高額になり相手から拒否されるケースや、状況変化による養育費の増額などは受付られない可能性もあり、デメリットもあります。

養育費不払いなら名前公表を検討

2019年9月に兵庫県明石市は養育費不払い問題に対して

  • 養育費を市が建て替えて支払
  • 履行命令や反則金の徴収
  • 行政サービスの停止
  • 不払い者氏名公表

の実施を検討することを発表しました。不払い状況に応じて段階的に対策を実行し、最終的には不払い者氏名を公表することを視野に対策案が提示されています。


不払い対策の助け舟として賛成の声が上がる一方で、氏名公表という強硬手段については、

  • 相手が職を失い、養育費の支払いが出来なくなるのでは?
  • 不払い者だけでなく、子どもが誹謗中傷にあうのでは?

など、個人情報保護の観点や子どもへの影響などから反対意見もみられ、現在も慎重な議論が継続しています。

海外の養育費事情は?日本と比較

日本では養育費不払いは、当事者同士の問題として国や地方自治体の支援は少ないのが実態ですが、海外各国では養育費不払いをどう扱っているのでしょうか。


公益社団法人 家庭問題情報センターによると、不払い対策として以下のタイプがあります。

  • 国による養育費立替払い:スウェーデン、ドイツ、フランスなど
  • 国による養育費取立て援助:アメリカ、イギリス、オーストラリア
  • 国による制裁:アメリカ、ドイツなど

各国ともに、積極的にひとり親世帯の支援制度を整備しており、日本よりも養育費支払率は高いのが実態です。(参考:家庭問題情報センター 養育費の履行確保


またこれらの国では、養育費支払の動機付け支援として、親子の面会や交流を支援するため、交流の場を提供したり、資金を援助したりなどのサービスを提供しています。

養育費の不払いについてのまとめ

養育費不払いについて、解説しました。この記事のポイントは、

  • 母子家庭の4分の3は養育費不払い
  • 養育費不払いの原因は、相手の資金や支払意欲不足によるもの
  • 改正民事執行法により、強制執行がしやすくなり、相手への罰則も強化される
  • 養育費支払は5年または10年の時効があることに注意が必要
  • 養育費不払い予防には、公正証書・定期的な面会交流・一括支払いが効果的

でした。


離婚を急ぐあまり、養育費の約束はおざなりになりがちですが、将来的に困るのは子どもです。可愛い我が子を守るためにも養育費の取り決めは双方で合意し、不払いの予防をしておくことが大切です。この記事で紹介した養育費不払いの対策について、ぜひ参考にしてみましょう。


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