養育費の未払いは強制執行で回収!新制度による手続き方法とは

養育費が未払いとなった場合、これまでは強制執行をしても相手の財産を差し押さえできないケースが多くありました。令和2年4月に民事執行法が改正され、養育費の強制執行がしやすくなります。この記事では、新制度の内容や養育費の強制執行の必要書類、手続き方法を解説しています。

この記事の監修者
谷川 昌平
東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

養育費を滞納された人は強制執行で回収を!


この記事をご覧のあなたは、「養育費滞納」に関する悩みを持っておられるかもしれません。


養育費は主に別居状態にある夫婦のどちらかが子供を養うために請求されるものですが、現代ではこの養育費を「滞納」する、という問題が多く発生しています。


本来は支払うことが義務であるにも関わらず、養育費を支払わない相手から強制執行によって強制的に支払わせることができないだろうかと考える方もいるのではないでしょうか。


そこで今回は、以下の疑問を解決していきます。

  • 法改正で養育費が請求しやすくなるって本当?
  • 強制執行の手順とは?
  • 強制執行のデメリットとは?
  • 養育費+αで請求できるお金とは?

この記事をご覧いただければ、養育費を強制執行で回収できるだけでなく、養育費滞納問題において「泣き寝入り」する必要が無くなります。


ぜひ最後までご覧ください。

養育費の強制執行の手続きや申請方法を紹介

養育費の未払いはすでに社会問題となっており、多くの方が悩んでいる問題でもあります。


あまり知られていませんが、養育費を滞納している債務者に対して、養育費を払わせる一番有効な手段は「強制執行」です。


まず、強制執行手続きには以下のような手順があります。

  1. 相手の所在地における管轄裁判所への民事執行手続き
  2. 書類の審査後に債務者への差し押さえ命令
  3. 養育費の取り立て
  4. 債務者からの支払い
強制執行は個人で申請することもできますが、弁護士に依頼することも可能です。

これらの手順に関してはのちほど詳しく取り上げますが、2020年4月から法改正されることにより、債権者が養育費の回収を行いやすくなりました。

では、法改正によってどのようなメリットが生まれたのでしょうか。

養育費から逃げることは実質不可能に?法改正の内容とは

2020年4月から、今までの法律における問題が改善されます。


それが「民事執行法の改正」です。これは全く新しい法律ではなく、大幅に改正された法律となります。


では、具体的に今までの「民事執行法」とどう異なるのでしょうか。ここでは法改正の具体例を見ていきましょう。

職場不明・勤務先がわからない場合・転職した場合

今までの法律においても、養育費を支払わない相手に対して民事裁判を起こすことはもちろん可能でした。 


しかし、養育費の支払いを怠っている相手に対して強硬手段を取りにくかったのには理由があります。


それは、裁判を起こすには相手の居場所や勤務先、銀行口座などの必要な情報を自分で調べる必要があり、それらを入手できない人にとってはあまり現実的な手段でなかったのです。


だからこそ、養育費未払いによる「泣き寝入り」も少なくありませんでした。そこで、民事執行法が改正されて「第三者からの情報取得手続」が行えるようになりました。


これにより、市町村または年金事務所等への開示請求が簡単にできるようになったのです。


不払い状態で逃げている相手を把握し辛かったはずの個人でも、養育費を支払わせるための裁判が起こしやすくなったのです。

銀行口座が不明の場合

民事執行法の改正による仕組みの変更には、勤務先だけでなく「銀行口座」も含まれています。


本来であれば口座を変えられると情報を取得し辛いはずの相手の銀行口座情報が、なぜ簡単に分かるようになるのでしょうか。


その理由は、勤務先の場合と同様に、法改正によって裁判所が銀行に対して「どの支店に◯◯がどのような口座を持っているかどうか」の開示請求を行えるようになったからです。


この場合、相手の銀行口座にある資産額も判明しますので、それを基に預金口座の差し押さえ等も可能になります。


さらにこの口座情報の開示においては、所定の「財産開示のための手続き」を行わなくても請求することが可能となっています。

自分でできる強制執行の流れ、手順を解説

養育費を支払ってもらえない側はいわゆる「債権者」です。


ですから「債権者」は「債務者」に対して強制的に債務を支払わせるための裁判を行うことができます。それがいわゆる「強制執行」と呼ばれる仕組みなのです。


では、具体的にどのようにしてその手続を行うことができるのでしょうか。


ここでは、その手順を一つずつ確認していきましょう。

手順①:離婚調停時の調停証書や公正証書で差し押さえの権利を確認

養育費に関する強制執行を行うためには、そもそも「強制執行が可能となる権利」が必要となります。


そして、その権利を証明する書類が強制執行においては必須です。


その書類とは、

  • 養育費支払いに関する合意書(執行文付き)
  • 家庭裁判所が発行する調停調書
これらの公正証書です。

この書類は、公的に債権者側が債務者側に対して差し押さえを行うことができる権利を証明できるものです。

注意点としては、書類だけでなく書類の発行元から「執行文」を付与してもらう必要があります。

手順②:強制執行申立書の作成などの必要書類をそろえる

次は、実際に強制執行の手続きをするための書類を準備します。


養育費の請求を行う際に必要となる書類は、

  • 債権差押命令申立書
  • 請求債権目録
  • 差押債権目録
これらの書類です。

債権差押命令申立書」はまさに強制執行手続きを申し込むための書類ですが、請求する養育費がすでに「確定している」ものか、そうでないかによって書類が異なります。

請求債権目録」では実際に請求する養育費の内容について記載し、「差押債権目録」では給料や銀行口座など、実際に差し押さえるものについて記載します。

また、これらの書類は裁判所のサイトから入手することが可能となっており、記載例や記入例を参考にして書くのがおすすめです。

手順③:裁判所へ「民事執行手続き」の申し立て

必要な書類を用意したら、次は裁判所へ「民事執行手続き」を行います。


この申立は地方裁判所に対して行いますが、どの裁判所でも良いわけではなく、基本的に相手の所在地(または勤務地)を管轄している裁判所へ手続きを行う必要があります。


今までの現行法では勤務先や銀行口座を自力で調査してから、手続きを行う必要がありました。


しかし、法改正によって相手の所在が把握しやすくなるため、民事執行手続きも容易になると言えるでしょう。

手順④:差し押さえ命令、取り立ての開始

「民事執行手続き」の後は、実際に強制執行によって、資産の差し押さえと取り立てが行われます。


差し押さえられる資産は、

  • 給料(手取り)の2分の1までの金額
  • 銀行口座の差し押さえ(制限なし)
  • 将来分の養育費

主にこの3種類です。


給料の差し押さえに関しては、通常は債務者の生活が保障されなければならないため4分の1が限度となっていますが、養育費に関しては手取り額の2分の1まで差し押さえが可能となっています。


取り立ては給料が支払われている会社に対して行われ、内容証明の送付後、特定の口座への振り込みが行われます。


銀行口座に関しても同様ですが、銀行口座は差し押さえ金額の制限がないため、もし銀行口座に債権額が支払えるだけの残高がある場合、相当の預金が凍結され、その全額を差し押さえることになります。

会社拒否された場合は取立訴訟へ

給料の取り立てを行う際に、給料を支払っている会社側が支払いを拒否することがあります。


この場合は、「取立訴訟」によって裁判を行う必要があります。


正確には、会社側にその旨が知らされてから1週間の経過後に「取立訴訟」の権利が発生し、債権の支払いを求めるための裁判を債務者に対して行います。


この段階になると、知識がないと個人の力のみで民事裁判を行うことがかなり難しくなります。ですから、少なくとも取立訴訟は弁護士に依頼する方が良いでしょう。

強制執行の停止・異議申し立てをされたら?

どのような裁判もそうですが、片方の意見が一方的に受理されたり判決に影響を及ぼすことはありません。


ですから相手によっては、養育費に関する強制執行を不服として「異議申し立て」を行うことがあり、その権利が認められています。


この強制執行への異議申し立ては一定の手順が必要ですが、基本的には裁判の担当となっている裁判所へ申し立てが行われます。


強制執行に関して異議申し立てが受理された場合、裁判が続行することになりますが、異議申し立てが行われることにより判決の基準が変わることはありません。


また養育費支払いに関する合意書に執行文がある場合、そもそも異議申し立てによる強制執行の停止は難しくなります。

強制執行する際のデメリット

強制執行は、確かに養育費を回収するためのとても強力な方法です。


法改正により裁判そのものが起こしやすくなることも、債権者にとってはプラスに働くでしょう。


しかし、法的強制力はあっても強制執行は万能ではありません。


では、どのような場合に強制執行ができなくなのでしょうか。

差し押さえができない可能性がある

すでに紹介したように、強制執行手続きをするためには、そもそも「強制執行をするだけの権利」が債権者にあることを証明する必要があります。


そのために、書類として裁判所が発行する「調停調書」が必要なのです。


しかし、もしこれがなければ債権者は「強制執行をするだけの権利」がないことになり、強制執行に伴う差し押さえを行うことができません。


ですから、養育費支払いに関する約束が口約束であったり、約束を書面に残していない要な場合は、そもそも裁判を行うことが不可能です。


そのため、養育費の取り決めに関しては必ず法的拘束力を持たせるための証書が必要なのです。

相手が無職またはお金がとれない場合

給料や口座の差し押さえをする場合、そもそも前提として「差し押さえられるだけのお金がある」ことが前提となります。


では、債務者が無職であったり、資産をほぼ全く保有していないような状態であるならば、どうなるのでしょうか。


まず、銀行口座に関しては、差し押さえを行った給料口座に残高が全く無い場合は、そこから差し押さえを行うことはできません


これは、給料に関しても同様で、0からお金を差し引くことはできません。


ただし、給料や口座が差し押さえできなくても、

  • 動産(家財、現金、高級品、家電製品等)
  • 不動産(土地、自宅等)
  • 自動車
これら、動産および不動産の差し押さえが可能です。

債務者が自動車を保有している場合も、一定の価値があるものとして「自動車執行」によって差し押さえが可能です。

養育費の強制執行に関するQ&A

ここまでは実際の強制執行における必要な手順等について取り上げてきました。


文面だけ見れば手続きはそこまで難しくないように思えるかもしれませんが、実際はすべてを個人の力で行うことは現実的ではありません。


ここでは、養育費の強制執行を行う上で、ハードルとなる点を説明していきます。

弁護士に依頼した場合の弁護士費用はいくら?

養育費の未払いに悩んでいる方は、自分の力でお金を取り戻したい、と思っておられるかもしれません。


しかし、養育費の強制執行をしたい場合は個人で全て行おうとするよりも、弁護士に相談した方が、養育費を回収できる確率が遥かに高くなります。


そこで、最もネックとなるのが弁護士に依頼する費用です。実際にどのくらいの費用がかかるのでしょうか。


養育費未払いに関して弁護士に依頼する場合にかかる費用として、

  • 相談料:1回あたりの相談で発生する費用(~1万円)
  • 着手金:正式に弁護士へ依頼するときに支払う費用
  • 報酬:経済的利益(勝ち取った金額)の何割かを支払う
  • その他雑費:経費として強制執行手続きにおいて実際に発生した費用
主にこれらの費用が発生します。

このうち相談料は法テラス等を利用することによって費用を抑えることができますが、着手金は必ず発生し、場合によっては複数回の支払いが必要となる場合もあります。

また、報酬金は請求しようとしている養育費の金額によって変わります。

相手が住所不明の場合の対応方法は?

現行法においては、調停を行うためには相手の所在や勤務地を債権者自ら突き止める必要があります。


住民票を取得できない場合は、探偵に依頼するなど、さらに費用のかかる方法を取らなければなりません。


しかし、民事執行法の改正によって、市町村または年金事務所に債務者の勤務地に関して開示請求を行うことができるようになるため、以前よりハードルは大幅に下がります。


さらに、銀行口座に関しても銀行に対して開示請求が可能なので、当たりを付けて差し押さえの手続きをするといった必要がなくなり、強制執行の手続きがスムーズできます。

相手が自営業の場合、会社の口座も差し押さえ可能?

債務者の銀行口座に関しては開示請求を行ったうえで全額の差し押さえが可能、という点はすでに取り上げたとおりです。


では、相手方が自営業の場合、法人口座も差し押さえることは可能なのでしょうか。この場合、法人口座が個人口座の役割も担っている場合は差し押さえが可能です。


ただし、多くの場合法人口座と個人口座が別れている場合は個人口座の方にしか差し押さえを行うことはできません


個人と法人はあくまで別物として考える必要があります。

海外にいる相手に対して養育費を請求するには?

養育費を滞納している相手は、国内だけでなく海外に居住している場合もあります。


たとえ海外に住んでいたとしても、居住地を突き止めて強制執行を行うことは不可能ではありません。


実際に過去の事例において、離婚に伴う費用を支払わないまま海外に逃亡した債務者に対して裁判を行い、現地での法律で支払い命令が下されたことがあります。


ただし債務者側が居住している国の法律が適用されますので、強制執行と同等の制度がない国に住んでいる債務者に対して強制執行を行うことはできません。


また、弁護士を雇う場合は海外の裁判制度を用いるため、日本の弁護士ではなく海外の弁護士を雇う必要があります。


国内に住んでいる相手に比べて、養育費の請求が難しくなるのは間違いないでしょう。

強制執行で請求できる期間や時効はある?

養育費支払いにも、実は「時効」があります。相手が養育費の支払いに応じない場合でも、支払義務期間は刻一刻と過ぎているのです。


本来であれば、

  • 合意書がある養育費支払い:5年
  • 裁判による養育費支払い:10年
このように時効年数が定められており、この期限を超過してから未払い養育費の請求を法的に行うことはできません。

ただし、特定の行動を取ることによって「時効を中断」させることができます。

「時効の中断」対象となるのは、
  • 債務者に対して養育費の請求や調停を行った
  • 債務者の給料・銀行口座等を差し押さえした
  • 債務者側が養育費の一部を支払ったり、減額や分割支払いの申し立てをした
このような場合です。

養育費が支払われていない状態が続いて、無為に5年、10年が過ぎてしまうことのないように、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

将来分の養育費も回収可能?

差し押さえ対象には、給料や銀行口座の他に「将来分の養育費」も含まれています。


今まで支払いを滞納してきた相手に対して、滞納している分だけではなく今後支払われるべき分も滞納のおそれがあるとして請求することが可能なのです。


ただし将来の養育費に関しては一括請求ができるわけではなく、あくまで月ごとに支払われる給料から差し引かれることになります。


また、過ぎた給料日から養育費を差し引くことはできず、あくまで養育費の支払期限となっている日から後の給料に対して、養育費を取り立てることになります。

違約金や遅延損害金も請求可能?

養育費支払いの滞納に関して請求する際には、支払いが遅れたことへの「遅延損害金」や契約不履行に対する「違約金」も請求したいと考えるかもしれません。


実際はこれらのお金も請求すること自体は可能ですが、「後出し」は不可能であり、あくまで請求が可能なのは事前に決めている分です。


ですから、養育費支払いに関しての合意書をまとめた際に、遅延損害金や違約金に関して取り決めていれば養育費とまとめて請求することは可能です。


しかし、後から「◯日遅れたから1日あたり◯円請求」、「約束を守らなかったから養育費の◯%を請求」というように債権者側が決めて請求することはできません。


遅延損害金や違約金は、養育費支払いの延滞に対する抑止力として働くので、合意段階でまとめておくと良いでしょう。

養育費の強制執行についてまとめ

今回は養育費の滞納、またそれに伴う強制執行について様々な点を取り上げてきましたが、いかがでしたでしょうか。

この記事のポイントは、
  • 法改正によって相手の勤務先や銀行口座を把握し、差し押さえがしやすくなった
  • 強制執行は「申し立て」「差し押さえ」「取り立て」の順番で行われる
  • 相手が養育費を支払うだけの資産を有していない場合は全額回収が難しくなる
  • 養育費支払いに関する合意時に違約金や遅延損害金も決めていれば請求が可能
以上の点です。

養育費は親権者に対して必ず支払われるべきお金であり、法改正によりさらに強制執行によって未払いの養育費を回収しやすくなりましたが、実際のところその手順は知識を持っていない方には複雑です。

もし今あなたが養育費の長期間未払いに関して悩んでいるなら、一人で抱え込まずに、まずは今すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

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