定年退職でも失業保険はもらえる?定年退職後の失業保険について解説

職を失った人が利用する失業保険ですが、実は定年退職後でも、条件さえ満たせば失業保険がもらえることをご存じでしょうか?この記事では、そんな60歳以上での定年退職後にもらえる失業保険について詳しく解説すると共に、高齢者が利用可能な関連する制度についても紹介します。

定年退職でも条件さえ満たしていれば失業保険がもらえる

皆さんは失業保険について詳しくご存じでしょうか。


失業保険とは、失業した後再就職の間支給される手当の事です。一般的に60歳未満の方が受けるイメージが強いと思いますが、実は定年退職した後も条件を満たしていれば失業保険をもらうことが出来るのです。


しかし、定年退職後でも失業保険をもらえると知っていても、受給にはどのような条件があるのかは、あまり分からないという人も多いのではないでしょうか。


そこでこの記事では「定年退職でも条件さえ満たしていれば失業保険がもらえる」について


  • 定年退職でも失業保険がもらえる4つの条件
  • 定年退職による失業保険の給付期間や金額
  • 失業保険の代わりに高年齢求職者給付金がもらえる条件


以上のことを中心に解説していきます。



この記事を読んでいただければ、定年退職後の失業保険について知るのに役立つかと思いますので、是非最後までご覧ください。

定年退職でも失業保険がもらえる4つの条件


雇用保険制度に加入することにより、定年退職でも失業保険を受給することが可能です。


失業保険をもらうためには以下の4つの条件を満たしている必要があります。


  1. 定年退職前の2年間に12か月以上雇用保険に加入していること
  2. 働く意思があり積極的に就職しようとしていること
  3. いつでも就職できる状態であること
  4. 失業状態であること

気が付かれた方もいらっしゃると思いますが、一般的な失業保険を受給するための条件と同じ条件となっています。

つまり、離職の理由は定年退職であっても、上記の4つの条件を満たしていることで失業保険を受給することが可能なのです。

条件①:定年退職前の2年間に12か月以上雇用保険に加入していた

失業保険には「自己都合退職」「特定理由退職」の2種類が存在します。定年退職による離職の場合は会社都合ではありますが特定理由退職とはならないのです。


失業保険をもらうためには、雇用保険に加入している必要があります。定年退職の場合は「定年退職前の2年間に12か月以上雇用保険に加入している」必要がありますので、注意しましょう。


また、特定理由離職については「離職日以前の1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上ある」というように条件が多少緩くなっていますが、定年退職は特定理由離職には該当しないので注意しなければなりません。

条件②:働く意思があり積極的に就職しようとしている

失業保険は「働きたいのに職を失った」失業者保護のための保険なので、原則働く意思が無ければ受給することはできません。


定年退職をしたけれども、会社に再雇用制度が無く就職が上手くいかなかった場合などが、失業保険の受給資格に該当します。


積極的に就職しようとしている証明としては、ハローワークで就職先を探すことや、採用面接を受けるなどが必要です。


毎月ハローワークで求職活動の状況報告をあげることで失業認定となり、失業保険を受給することができます。

条件③:いつでも就職できる状態である

条件2と同じように、働く意思がある必要があります。つまり、職さえ見つかればいつでも就職が出来る状態である必要があります。


例えば


  • 現在妊娠中である
  • 出産したばかりで育児をする必要がある
  • けがや病気によりすぐ就職できない
  • 学業や家事に専念したい
  • そもそも就職するつもりがない

このような方々は雇用保険の受給対象になりませんので注意が必要です。

条件④:失業状態である

失業保険を受給するには、当たり前のことですが失業状態である必要があります。


例えば、「自営業として開業しているけれど、全く売上が立っていない」場合は失業として認定を受けることはできません。自営業も行っておらず、会社員でもない場合が失業状態となります。


なお、失業後、配偶者の扶養に入った場合などは、仕事をしていなくても失業保険の受給対象にならないことが多いので気を付ける必要があります。これは、失業保険が扶養から外れる年間130万円以上の支給がされる可能性が高いためです。


失業保険の日額が3,611円以下の場合であれば、年間130万円以下に収まりますので扶養に入りながら失業保険を受け取ることが可能です。

参考:特定受給資格者とは

特定受給資格者とは「会社都合で退職をした人」の事を指しています。会社都合による退職とは「倒産」等もしくは「解雇」等によるものです。詳しく紹介します。


【倒産等により離職した者】

  • 企業が倒産し離職を強いられた者
  • 事業所の廃止に伴い離職を強いられた者
  • 事業所の移転により通勤が困難となり離職を強いられた者 など

【解雇等により離職した者】
  • 解雇により離職した者
  • 労働契約を逸脱した労働条件が課せられ離職した者
  • 賃金の額の3分の1を超える額が支払い期日までに支払われず離職した者
  • 賃金が、労働者に支払われていた賃金に比べ85%未満に低下し離職した者
  • 健康を阻害する程の長時間労働を課せられ離職した者
  • 事業主が法令に違反し、不利益な取り扱いを受けたたため離職した者
  • 事業者が業種転換等をし、労働者の職業生活継続のために必要な配慮を怠ったことにより離職した者
  • 期間の定めがある労働契約の更新により3年以上引き続き雇用されるに至った場合において、契約の更新がなされず離職した者
  • 期間の定めがある労働契約の締結に際し、労働契約が更新されると明示された場合に更新がなされず離職した者
  • 上司や同僚から著しい嫌がらせやハラスメントを受けて離職した者
  • 事業主から、直接もしくは間接的に退職するよう勧奨をうけ、離職した者
  • 事業所において、使用者に帰すべき原因において休業が3ヵ月以上となり、離職した者
  • 事業所の業務が法令に違反したために離職した者

注意:再雇用制度と離職理由について

会社に再雇用制度がある場合は、失業保険の取扱いが変わる可能性がありますので注意が必要です


まず、再雇用制度があるにも関わらず、自分の意思で再雇用制度を利用しないで退職した場合は、「自己都合」退職になります。つまり「定年退職前の2年間に12か月以上雇用保険に加入している」必要があります。


再雇用制度があり、自身も制度の利用により再雇用を望んでいたにも関わらず雇用継続されなかった場合には会社都合と認められる場合があります。会社都合と認められた場合は特定理由退職となりますので、この場合は「離職日から数えて前1年間に、被保険者であった期間が合計で6ヶ月以上ある」と条件が緩和されることになります。

注意:自己都合退職の場合には3ヶ月の給付制限がある

自己都合退職を行った場合は「3ヵ月の給付制限」が設けられます。


失業保険そのものにも7日間の待機期間がありますが、自己都合退職の場合は失業保険の受給までに3ヵ月と7日間待機する必要になります。


なお、自己都合退職であった場合でも、特別に3ヵ月の給付制限が付かない場合があります。代表例を載せておきますので参考にしてみて下さい。


  • 親の死亡などにより家庭環境が急変した場合
  • 30日以上の長期間に渡り、家族の介護や看護が必要になった場合
  • 事業所移転や、結婚などに伴い、通勤が往復4時間以上になり通勤自体厳しくなった場合
  • 医師の判断により、退職を勧められた場合 など

定年退職による失業保険の給付期間や金額は?

定年退職による失業保険の給付期間は被保険者期間ごとに違いがあります。


また給付の金額も賃金日額に応じて変化していくなど計算するのがちょっと大変ですが、きちんと把握しておくことで定年退職後の不安が少なくなります。


定年退職後に受給を考えているのであれば、一度目を通してどの程度もらえるか計算してみてはいかがでしょうか。

失業保険はいつからもらえる?

定年による退職は自己都合退職にはならないため、失業保険の受給に際して自己都合退職に適用される3ヵ月間の給付制限はありません。


7日間の待機期間は必要ですが、失業と認められた日から約1週間位で失業保険が振り込まれます。

支給期間は何日?

定年退職後の失業保険は、勤続年数によって支給される期間が変化します。簡単に表にしてまとめましたので確認してみてください。


【失業保険の給付期間】

被保険者期間特定受給資格者一般の離職者
1年未満 90日
1年以上5年未満150日 90日
5年以上10年未満 180日 90日
10年以上20年未満210日180日
20年以上240日180日


支給額はいくらくらい?

給付の金額は、「給付日数」に「基本手当日額を掛ける」ことにで算出することが可能です。


基本手当日額は、離職の日から遡って6ヵ月分の給与総額を180で割ったものに給付率を掛けることによって計算できます。給付率は50%~80%の中で、賃金日額がいくらかによって変化していきます。賃金日額ごとの基本手当日額計算式は以下を参考にしてみて下さい。


【失業保険の支給額】

賃金日額支給額
2,480円以上、4970円未満賃金日額の80%
4,970円以上、12,210円未満賃金日額の80%-0.3×{(賃金日額-4,970)÷7,240}×賃金日額
12,210円以上、13,500円未満賃金日額の50%
13,500円以上6,750円(上限額)



65歳以上の場合は失業保険の代わりに高年齢求職者給付金がもらえる


高年齢求職者給付金の制度は、65歳で定年退職した後も働き続けたい意思を持っている方は理解しておきたいですよね。


高年齢求職者給付金は簡単にいうと、「65歳を過ぎた被保険者が受給できる失業保険」の事を意味しています。


高年齢求職者給付金の受給は、

  • 65歳以上の雇用保険被保険者である
  • 失業(定年退職の日)の直近1年間に、雇用保険に6ヶ月以上加入している
  • 現在、失業している
  • 働く意思があって、いつでも働くことが可能である
の4つの条件を満たしていなければなりません。

高年齢求職者給付金は年金との併給が可能

65歳未満の被保険者は「一般被保険者」と呼ばれ、一般被保険者の失業保険は「基本手当」と呼ばれます。


しかし、65歳以上になった場合は「高年齢継続被保険者」となり、給付は基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」に変わります。実は「基本手当」は年金との併給が出来ませんが、「高年齢求職者給付金」は一時金のため、年金と併せて受給することが可能となります。


仮に60歳から繰り上げで年金を受給している場合で、失業保険の申請をした場合は年金が止められてしまいますので注意が必要です。

高年齢求職者給付金は全額が一括で支払われる

先ほども説明した通り、高年齢求職者給付金は一時金のため、「全額が一括」で支払われます。


給付額は、被保険者期間の違いによって前後します。


【高年齢求職者給付金の給付額】

雇用保険の被保険者期間支給額
1年未満賃金日額の30日分
1年以上賃金日額の50日分


つまり賃金日額が7,000円の人の場合(その他の条件は考慮しない場合)


〇1年未満:7,000円×30日=210,000円

〇1年以上:7,000円×50日=350,000円


となります。

60歳以上の再就職で給料が下がってしまった場合は高年齢再就職給付金がもらえる

高年齢求職者給付金と間違われやすいものに「高年齢再就職給付金」というものがあります。


これは60歳以上で再就職したものの賃金が下がった場合や、失業保険を受給している間に就職が決まったものの、前の仕事より給料が下がった場合などに受けられる給付の事です。以前の賃金と比較して75%未満になると受給できる可能性があります。


受給には以下の条件を満たしている必要があります。


  • 60歳から65歳の間の一般被保険者であること
  • 60歳に到達するまで、通算で5年以上雇用保険の一般被保険者であったこと
  • 再就職する前に雇用保険の基本手当を受給しており、その受給期間に再就職していること
  • 再就職した日の前日までの基本手当支給残日数が100日以上残っていること
  • 再就職の際に再就職手当を受給していないこと

なお、高年齢再就職給付金は、賃金の低下分を補うものですので、低下率に応じて支給額が変わってきます。以下の表を参考にしてみて下さい。

【高年齢再就職給付金早見表】

低下率支給率
75%以上支給無し
70%4.67%
65%10.05%
61%以下15%(上限)

低下率は

「低下率」(%)=支給対象月に支払われた賃金額/60歳到達時の賃金月額×100

で算出することが可能です。

実際早見表はもっと細分化されておりますので、こちらは参考程度に考えておくのが良いでしょう。

詳細は厚生労働省のホームページをご覧いただけると良いでしょう。

参考:高年齢雇用継続基本給付金との違い

高年齢雇用継続基本給付金との大きな違いは「失業しているかどうか」です。


高年齢雇用継続基本給は「失業中」の場合で、高年齢再就職給付金は「就職が決まった」場合に受給資格が与えられる失業保険です。


しかし、注意してほしいのが、再雇用先で労働時間が週20時間未満である場合は雇用保険に加入する必要が無いため、高年齢雇用継続基本給付金の受給ができる可能性があります。


また、週20時間以上の仕事に対する就職活動を行っていることも条件となりますが、まだまだ長時間労働が出来るという方は一度ハローワークに相談してみるのが良いでしょう。

しばらく休んでから就職したい場合は受給期間延長を申請

失業手当には、会社を退職した日の翌日から1年間という受給期間が設定されています。失業手当は期間内に受け取らなければ、仮に受給金が残っていたとしてもとしても期間をはみ出した分のお金は受け取ることができません。


失業保険の受給資格には「いつでも働くことができる」ことが必要です。しかし、すぐに働くことができないという方もいるのではないでしょうか。


そのような方でも、きちんと申請をすることで受給期間を延長することが可能です。


受給延長には以下の条件を満たしている必要があります。

  • けがや病気ですぐに働けない
  • 妊娠・出産・育児ですぐに働けない
  • 親族の介護のためすぐに働けない
  • 定年退職後、しばらく休養したい
  • 上記の4点の状態が30日以上続く
また、定年退職の場合は最長で1年間受給が延長が可能で、それ以外の場合は最長3年間まで延長ができます。

参考:自衛官には失業保険がない

自衛官を含む公務員はリストラされる心配がないという位置づけから雇用保険に加入されていません。つまり失業保険をもらうことが出来ないのです。


公務員の中でも自衛官は任期が決まっている職業で、任期を満了すると退官する必要があります。任期制自衛官は最長で7年程度で退官。定年まで自衛官に残りたいと昇格試験を受けたとしても、ほとんどの自衛官が50代前半で定年退職を迎えます。


50代で退職した場合、年金まではまだまだ時間が残っていますし、失業保険もありません。再就職も決まりにくいリスクがあります。そうなれば、退職金で生活を賄っていくしかなくなり、生活に不安が残ります。


もし今自衛官として働いている方は、いつ退職するかを見極めきちんと将来の人生設計を立てておく必要があるでしょう。

定年退職と失業保険についてのまとめ

「定年退職でも条件さえ満たしていれば失業保険がもらえる」について解説しました


今回のポイントは


  • 定年退職後にも4つの条件を満たしていれば失業保険を受給することが出来る
  • 65歳以上の場合は失業保険の代わりに高年齢求職者給付金がもらえる
  • 60歳以上の再就職で給料が下がってしまった場合は高年齢再就職給付金がもらえる


失業保険は、定年退職後でも働きたいと思っている人に対して支給されます。しかし、年金を受け取ると失業保険を受け取れなくなりますので、年金生活にするか就職活動をするかはきちんと考えておく必要があります。


失業保険がどの程度もらえるかというのも事前に計算しておいたり、FPなどに相談して自分のライフプランを立てておくのが良いでしょう。

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