更新日:2022/10/31
確定拠出年金(ideco/企業型DC)で厚生年金が減る?「選択」制度とは?
掛金を非課税で運用できる確定拠出年金(iDeCo/企業型DC)で厚生年金が減ってしまう例とは。メリットとデメリットをわかりやすく紹介するほか、会社が選択性企業型DCを導入したらどうすればいいのか、場合別に3パターンを紹介。
目次を使って気になるところから読みましょう!
- iDeCoには厚生年金が減るデメリットはある?
- 確定拠出年金(ideco/企業型DC)とは?企業DCでは厚生年金が減る!
- ①iDeCo|個人型確定拠出年金
- ②企業型DC|企業型確定拠出年金
- 企業型DCで厚生年金が減る理由
- 選択性のメリット:負担軽減
- 選択性のデメリット:厚生年金の額が減る
- 確定拠出年金の「選択」制度で厚生年金はどのくらい減る?
- 選択性のメリットをシミュレーション
- 選択性のデメリットをシミュレーション
- 会社が選択性企業型DCを導入したらどうする?厚生年金が減るのは嫌?
- ①ライフプランに基づいて企業型DCに加入する
- ②給与として受け取って自由に使えるお金を増やす
- ③企業型DCは使わず自主的にidecoを活用する
- 【参考】 iDeCoの改正ポイント
- まとめ|確定拠出年金(ideco/企業型DC)で厚生年金が減る?
目次
iDeCoには厚生年金が減るデメリットはある?
確定拠出年金を利用すると、厚生年金が減ると言われています。
ただし、先に結論から述べると、確定拠出年金すべてで厚生年金が減るわけではありません。
例えば、「イデコ」と呼ばれる個人型拠出年金(iDeCo)では厚生年金が減るというようなデメリットはありません。
その理由は、個人型拠出年金(iDeCo)は給与天引き型ではないため、収入の額が変化せず年金額には影響しないためです。
一方、「確定拠出年金でも企業型DC/選択制」では、会社が給料の一部を使い、掛金を出すため、等級が変わり、厚生年金額や育児休業給付金にまで影響があります。
そのため「個人型拠出年金(iDeCo)」とは違い、企業が決定する「確定拠出年金(iDeCo/選択制)」は要注意です。
- 個人型拠出年金(iDeCo)では厚生年金額は減らない
- 企業が掛金を出す「確定拠出年金(iDeCo/選択制)」では厚生年金額が減るかもしれない
ややこしいかもしれませんが、「個人型拠出年金(iDeCo)」と「企業型DC/選択制の確定拠出年金」の違いを理解しておきましょう。
確定拠出年金(ideco/企業型DC)とは?企業DCでは厚生年金が減る!
問題なのは、「確定拠出年金(iDeCo/企業型DC)」で厚生年金が減ることです。
確定拠出年金とは、個人や企業が自主的に積立をする制度です。
いわゆる「私的年金」のことで、非課税で税制優遇を受けつつ老後資金作りができる制度になります。
確定拠出年金にも種類があり、それが「個人がお金を出すか」、「企業がお金を出すか」で違います。
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)……個人がお金を出す
- 企業型確定拠出年金……企業がお金を出す
個人型確定拠出年金(iDeCo)では、本人口座から振替することになります。
一方、企業型確定拠出年金の場合は、運営主体は企業型確定拠出年金規約の承認を受けた「企業」で、会社から掛け金を納付するため、企業型確定拠出年金では厚生年金が減るという違いがあります。
①iDeCo|個人型確定拠出年金
私的年金で、個人がお金を出すものを「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と言います。
加入は任意で、自分で申込、掛金は自分で拠出します。そして自分で株式や投資信託など運用方法を選びます。掛金、運用益の合計額を給付額にして受け取れ、私的年金として人気です。
このiDeCo、掛金や運用益、給付を受け取る時に非課税で利用できる税制上の優遇措置があります。
特徴は……
- 加入は任意
- 自分自身で申込をして自分で運用する
- 非課税で利用でき税制優遇措置を受けられる
- 60歳になるまで、原則、資産を引き出すことはできない
- 20歳以上65歳未満のすべての人が加入できる
iDeCoを利用することで、国が運営する年金制度(国民年金と厚生年金)以外の私的年金形成ができ、自分自身で老後の資産形成ができます。
②企業型DC|企業型確定拠出年金
確定拠出年金には「企業型DC」もあります。確定拠出年金「企業型DC」は、個人ではなく、企業が掛金を拠出してくれ、従業員が運用する制度です。
特徴は……
- 企業が掛金を拠出してくれる
- 中には自分が掛金を上乗せできる「マッチング拠出」も
- 非課税で利用でき税制優遇措置を受けられる
- 60歳になるまで、原則、資産を引き出すことはできない
- 厚生年金などが減るデメリットがある
この企業型DCには、従業員が自動的に加入する場合と、企業型DCに加入するかどうか選択できる場合や自分が掛金を上乗せする「マッチング拠出」もあります。
そして、この「企業型DC」といわれる企業型確定拠出年金に加入することにより、額面の給料が減ったという扱いになり、厚生年金額も減ってしまうのです。
企業型DCで厚生年金が減る理由
企業型DCで厚生年金が減る理由は、給与の一部を確定拠出年金に回すことで、給与が減ったという扱いになり、厚生年金、健康保険など保険料を決める「標準報酬月額」の等級も下がってしまうからです。
標準報酬月額とは、従業員の月々の給料を1~50の等級(厚生年金は1~32の等級)にして表すもの
選択性のメリット:負担軽減
社会保険料は、一般的に厚生年金保険だと、会社と労働者で折半して負担します。
- 例えば、標準報酬月額20万円の場合……
毎月の厚生年金保険料は20万円×0.183=3万6,600円
会社負担分は3万6,600円÷2=1万8,300円
労働者負担分は3万6,600円÷2=1万8,300円
- 例えば、賞与が40万円の場合……
厚生年金保険料は40万円×0.183=7万3,200円
会社負担分は7万3,200円÷2=3万6,600円
労働者負担分は7万3,200円÷2=3万6,600円になります。
このように厚生年金は会社と労働者で折半するため、企業型DCの「選択制」で額面の給与が少なくなることで、税金や社会保険料の負担が軽くなります。
もちろん企業側だけでなく、労働者側の負担も少なくなるのです。
選択性のデメリット:厚生年金の額が減る
企業型DCの「選択制」では、厚生年金の額が減ってしまう危険性があります。
例えば、病気やケガなどで障害を負った時に支払われる「障害厚生年金」や、国民年金および厚生年金の被保険者や過去に加入していた人が亡くなった時の遺族に支払われる「遺族厚生年金」などの社会保険からの保障が減ってしまうのです。
また、このほかにも減る以下のものの金額が減ることになります。
- 「傷病手当金」……ケガをして仕事をすることができない時に支払われる
- 「出産手当金」……被保険者が出産のため会社を休んだ時に支払われる
- 「失業保険」……仕事を辞めて士業した時に支払われる
- 「育児休業給付金」……被保険者が1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得した際に支払われる
- 「介護休業給付金」……家族の介護のために仕事を休んだ時に支払われる
また、社会保険料が下がることにより、将来的に老齢厚生年金が減ることも考えられます。
確定拠出年金の「選択」制度で厚生年金はどのくらい減る?
- 月収が40万円の人、35歳が厚生年金に25年加入した場合……
従来なら1370万5125円(54万8205円/年)
選択制DCで月3万円の掛金で標準報酬月額38万円(22等級)
厚生年金は1270万2375円(50万8095円/年)
選択制DCで月5万円の掛金で標準報酬月額36万円(21等級)
厚生年金は1203万2625円(48万1305円/年)
つまり、選択制DCの掛金が月3万円だと1年あたり4万円程度、月5万円だと6万7千円程度も厚生年金が減るという結果になりました。
選択性のメリットをシミュレーション
企業型DCの選択制では、所得税・住民税の控除額が増えるため節税に役立ちます。
選択制で月3万円の掛金
25年で306万円、12万2400円/年
選択制で月5万円の掛金
25年で510万円、20万4000円/年
所得税や住民税の控除は「ふるさと納税」でも控除でき、節税のために利用している人が多いです。
このほか、健康保険料の支払い額も減らすことができます。
選択制確定拠出年金に加入していない時と比較して、月3万円の掛金であれば年28万3860円、月5万円の掛金であれば年26万8920円の支払い額が減ると考えられます。
このように、確定拠出年金で「選択制」を選ぶことで、税制控除が受けられ、厚生年金の保険料以外でもメリットを感じることができるのです。
確定拠出年金を利用することは必ずしもデメリットばかりではなく、所得税や住民税として払っていた金額が減ることもあり、企業側だけでなく、給与を受け取る側にもメリットがあります。
選択性のデメリットをシミュレーション
企業型DCの選択制では、デメリットもあります。
大きく変わるのが、老齢厚生年金額。
選択制の確定拠出年金に加入していない場合は、20年で2055万5200円。82万2200円/年。
選択制で月3万円の掛金の場合、20年で1891万円、75万6400円で年金が減ります。
選択制で月5万円の掛金の場合、20年で1767万5000円、70万7000円/年で、月3万円の掛金よりも減ってしまいます。
企業型DCの選択制で非課税で運用ができているメリットがあるものの、老齢厚生年金の額が減ってしまうため、トータルで見ると、企業型DCの選択制が本当にいいのかといぶかしんでしまう人も多いことでしょう。
選択制DCを導入することで、影響がある社会保険給付は多いです。
- (厚生年金保険)老齢齢厚生年金
- (厚生年金保険)障害厚生年金
- (厚生年金保険)遺族厚生年金
- (健康保険)傷病手当金
- (健康保険)出産手当金
- (雇用保険)基本手当・失業給付
- (雇用保険)育児休業給付金
- (雇用保険)介護休業給付金
会社が選択性企業型DCを導入したらどうする?厚生年金が減るのは嫌?
会社が選択制企業型DCを導入したら、どうすればいいのでしょうか。厚生年金が減るのは嫌だと考えていても、会社の方針で選択制企業型DCを導入する場合もあります。
その場合、選択肢はいくつかあります。
選択性企業型DCは「選択制」とあるように、選べます。
- 給与の一部を掛金にして選択制企業型DCに加入する
- 給与のまま受け取って自由に使えるお金にする
- 自分自身でiDeCoに申し込む
①ライフプランに基づいて企業型DCに加入する
会社が選択制企業型DCを導入した場合、そのまま、選択制企業型DCに加入した方がいい人もいます。
大きな出費やライフイベントが発生する可能性が低いのなら、企業型DCに拠出することで、所得税・住民税の控除額が増え、健康保険料の支払い額も減るメリットがあります。
病気をした時の傷病手当金が減額されるなどデメリットはあるものの、ライフプランによっては選択制企業型DCに拠出した方がいい場合もあります。
- 健康に自信のあり「傷病手当金」が不要と感じる人
- 今後、出産の予定がなく「出産手当金」や「育児休業給付金」が不要と感じる人
- 同じ企業で働き続けるため「失業給付」が不要と感じる人
企業型DCでは、会社によっては、投資信託などの運用銘柄の説明をしてくれる場合もあります。投資初心者にもはじめやすいものとなっています。
②給与として受け取って自由に使えるお金を増やす
企業型DCは選択制です。そのため、企業型DCに「加入しない」選択肢もありえます。
従業員本人が拠出するかどうか選択できるため、掛け金を「拠出しない」選択もできるのです。
その場合は、従業員が掛金を自分自身で運用することも方法の1つです。
ただし、従業員が自分自身で運用するのは難しく、投資信託や株では元本保証がないため、元本割れになってしまうこともあります。もちろん、給与として受け取ったお金を運用せずに使ってしまったりする人は言わずもがな。将来の年金のために、上手にお金を運用していく知識がないといけません。
選択制DCは強制ではありません。制度をよく理解して選びましょう。
住宅ローンの繰り上げ返済や奨学金の返済などがある場合、支払いを終えてから企業型DCに加入することもできます。
③企業型DCは使わず自主的にidecoを活用する
企業型DCを利用しない選択肢もあります。自分自身でiDeCoを利用するパターンです。iDeCoで保有する銘柄にこだわりがある場合は、自主的に管理する方法もいいでしょう。
ただし、注意点があります。掛金を毎月積み立てていくiDeCoの手数料は、金融機関によって差があります。
途中で口座を変えることもできますが、手間がかかってしまうため、最初に手数料ができるだけ安い金融機関を選びたいものです。iDeCo口座では、加入時、2,829円がかかり、毎月合計171円がどの金融機関でもかかります。また、別途、口座管理料がかかる金融機関もあります。
ただし、ネット証券では運営管理手数料は0円のところもあるため、上手に利用していくことで自分自身でiDeCo口座を管理していくこともできます。
企業型DCの場合、この管理のための口座管理料がかからないことが多いため、比較をしながらどの方法がいいのかを吟味してみましょう。
【参考】 iDeCoの改正ポイント
2022年5月より、iDeCoについて大きな改正がありました。
それは、2022年5月からは 加入できる期間が「60歳未満」から「65歳未満」へと変わった点です。
これまでiDeCoは、60歳未満の国民年金被保険者が加入対象でしたが、高齢者が増えていることもあり、2022年5月からは国民年金被保険者であれば、60歳以上であっても、65歳未満なら、国民年金の「第2号被保険者(会社員や公務員)」、「国民年金の任意加入被保険者」なら、iDeCoに加入できます。
今後も、制度は都度変わっていくかもしれません。定年の年齢が上がっていく日本、自分自身で私的年金を積み立てしていく時代が到来しているのかもしれませんね。
まとめ|確定拠出年金(ideco/企業型DC)で厚生年金が減る?
確定拠出年金(ideco/企業型DC)で厚生年金が減る例もあります。ただし、デメリットだけではなくメリットもあります。
会社に言われたから、そのまま加入すると将来の年金額が減ってしまうリスクさえあります。そのため、言われたまま加入するのではなくて、自分に有利な選択肢を選び取ることが重要です。
企業型DCに加入するほか、給与として受け取り年金を自分で運用することもできます。最終的には自分自身の判断で確定拠出年金を「選ぶ」ことが大切です。