企業年金に入れない役員のための個人型確定拠出年金(iDeCo)活用術

会社により、役員に就任すると企業年金に加入できなくなるケースがあります。そんなときに注目したいのが個人型確定拠出年金(iDeCo)。2017年の法改正により企業年金がある会社の役員でも加入可能になった、個人型確定拠出年金(iDeCo)の活用術をご紹介します。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

役員の為の個人型確定拠出年金(iDeCo)のすすめ

会社の役員に就任している人は加入者から除く、と定めている企業型確定拠出年金は珍しくないようです。

そのような場合でも、個人型確定拠出年金(iDeCo)の利用可能者が拡大したことにより、役員だから老後の資産を用意する手段は限られる、とあきらめる必要はなくなりました。

役員にとっての個人型確定拠出年金(iDeCo)加入のメリットや、新たに役員に就任して企業型から個人型へ移管する場合の主な手続き方法についてご紹介します。

企業年金に加入している役員はこれまで企業型確定拠出年金にしか加入できなかった

以前は個人型確定拠出年金(iDeCo)は、企業年金がない会社に勤めるサラリーマン等や自営業者のための制度でした。

そのため企業年金がある会社の、役員を含むサラリーマンは、企業型確定拠出年金や確定給付企業年金・厚生年金基金などにしか加入できませんでした。

法改正で企業年金に加入している役員も個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入できるようになった

2017年1月1日施行の法改正により、勤務先に企業型年金があるサラリーマン等も個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入できることになりました。

個人型確定拠出年金(iDeCo)は60歳未満で公的年金に加入していれば、基本的に誰でも加入できます。パート社員や役員などの職種によって加入できないということはありません。

ただし企業型確定拠出年金に加入している場合は、規約で個人型との同時加入が認められていることが加入の条件となります。

中小企業の経営者や役員の場合、企業は給与や福利厚生、最後の退職金まで面倒を見てくれない

中小企業の場合、法定福利(健康保険や厚生年金など)以外の福利厚生を手厚くするのが難しいことも少なくありません。また大手企業や中小企業に関わらず退職金制度がない会社も数多く存在します。


退職金等がないことを一概にデメリットとは言えませんが、「あった方が安心」という人は多いのではないでしょうか。ここでは退職金や企業年金がない中小企業の、経営者や役員が個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入することについて考えていきます。

中小企業の経営者や役員が確定拠出年金の加入するメリット

福利厚生や企業年金・退職金制度の充実が難しい中小企業の経営者や役員にとって、個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入することのメリットをみてみましょう。


個人型確定拠出年金(iDeCo)は税制上のメリットが受けられることが大きな魅力です。具体的には次のような3段階の税制優遇が受けられます。

  1. 掛金が全額所得控除され、所得税や住民税が軽減される
  2. 運用益は全額非課税なので再投資効果が大きい
  3. 給付金は一時金や年金として受け取れ、受取時にも控除が適用される

給付金は原則として60歳から(加入等期間により繰り下げあり)70歳になるまでの間に受け取ることができます。このとき一時金での受取を選択すれば、自分の退職金として準備をすることができます。

また年金として受け取れば、公的年金にプラスして受給する年金が増えることになります(運営管理機関によっては2つの方法を併用可能)。


一時金で受け取る場合は「退職所得控除」の対象、年金として受け取る場合は「公的年金等控除」の対象となります。

役員に就任の際の個人型確定拠出年金(iDeCo)の手続き

企業型確定拠出年金の規約(労使の合意で決められます)で、役員等一部の職種を加入者から除くことが定められていることがあります。この場合、企業型確定拠出年金に加入していた従業員が役員に就任したときには、企業型確定拠出年金の資産を個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移換する手続きを行うことになります。


役員就任後どのタイミングで、どのような手続きを行い、拠出や運用に関してはどうなるのかを確認していきましょう。


いつどんな手続きが必要なのか

役員就任により企業型確定拠出年金の加入対象者でなくなった場合、企業型確定拠出年金の加入者資格喪失と資産を個人型確定拠出年金(iDeCo)に移管する手続きが必用となります。

これらの手続きは、企業型確定拠出年金の加入者資格喪失後6ヶ月以内に行うこととなっています。


いくらまで掛金を拠出できるか

国民年金保険第2号被保険者として、個人型確定拠出年金(iDeCo)で掛金の拠出を続ける場合、拠出限度額は次のようになります。


  • 厚生年金基金や確定給付企業年金に加入している場合  月額1万2千円
  • 厚生年金基金や確定給付企業年金に加入していない場合  月額2万3千円

ただし、2018年1月からは上記の拠出限度額が「月額」から「年額」に変更になります。

したがって、

  • 厚生年金基金等に加入している場合  1万2千円×12ヶ月=14万4千円
  • 厚生年金基金等に加入していない場合  2万3千円×12ヶ月=27万6千円  

これが1年の間に拠出できる限度額になります。

どのような手続きをするのか

個人型確定拠出年金(iDeCo)を取り扱っている金融機関(運営管理機関といいます)で手続きを行います。

自分で決めた運営管理機関に、個人型確定拠出年金(iDeCo)への加入申込書や、企業型確定拠出年金の個人別資産を移管するための書類を提出する必要があります。

加入者として掛金の拠出を続けるのか、運用のみを行う運用指図者になるのかによって、必要な書類や手続きの流れが異なるので移管先の運営管理機関によく確認しましょう。

6ヶ月以内に手続きする必要がある

個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換手続きを6ヶ月以内に行わなかった場合、個人資産は自動的に現金化されて国民年金基金連合会へ移管されます(これを「自動移換」といいます)。

自動移換後も個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換手続きはできますが、自動移換されている間は次のようなデメリットがあるので注意が必用です。


  • 自動移換中は資産の運用ができない
  • 各種手数料がかかる ※1
  • 自動移換中の期間は加入者等期間に含まれないため、その分給付金の受給可能年齢が繰り下がる場合がある ※2

※1 自動移換されるときの手数料、自動移換中の管理手数料(毎月)、個人型確定拠出年金(iDeCo)に再移換するときの手数料が特定運営管理機関、または国民年金基金連合会との両方にかかります。


※2 企業型および個人型の確定拠出年金の、加入者または運用指図者だった期間が通算10年未満の場合、受給可能年齢は段階的に61歳から65歳まで繰り下げられます。

まとめ

先ほど、企業型確定拠出年金の規約で役員が加入対象者から除外されることがあると述べました。これは原則として、役員が加入対象者となる従業員と給与体系が異なることや、同等の代替給付がされていることなど、合理的な理由がある場合に限ると決められています。


そういった代替給付等を貯蓄や民間の個人年金保険、株式などによる運用で老後の資産を準備していた役員の人が多いかと思われます。

個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入が可能になったことで、税制上のメリットが大きい選択肢が新たに加わりました。さらに受け取り方を退職金と年金で選べるのも便利な点となります。


老後資産の自己準備が必要となりつつある現在、個人型確定拠出年金(iDeCo)の制度改正などに敏感であることは、より豊かな老後のためにも大切なことと言えるでしょう。



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