医療保険の訪問看護とは?介護保険を使う場合となにが違うの?

公的医療保険による訪問看護は、介護保険による訪問看護の例外的な位置づけで、主に重症な方が受けられます。サービス内容は、健康状態の観察から、日常生活の手助け、終末期のケアまで多岐に及びます。医療保険による支給限度額はない代わりに、利用回数制限などがあります。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

医療保険の訪問看護について解説します

家族の身体が思わしくなく、入院をされることがあると思います。


しかし、今のご時世では病院にいつまでも入院できるとは限りません。


また本人が自宅へ帰ることを希望されるかもしれませんよね。


でもそんな時、医療保険を使って訪問看護を受けられるケースがあることをご存知でしょうか。


訪問と言えば介護保険をイメージされるかもしれません。


ところが、医学的な必要性があれば医療保険でも訪問看護を受けられるのです。


そこでこの記事では「医療保険での訪問看護」について


  • 医療保険の訪問看護で受けられるサービスについて
  • 医療保険の訪問看護を受けられる対象者について
  • 医療保険の訪問看護の料金や利用可能回数について
  • 医療保険の訪問看護を受けるための手続きや2時間ルールについて

以上のことを中心に解説していきます。

この記事を読んでいただければ、医療保険の訪問看護について十分な知識を得ることができると思います。

是非最後までご覧ください。




医療保険の訪問看護とは?

訪問看護では医療保険で行うものと介護保険で行うものがあります。

利用される方の状態に応じてどちらの保険で訪問看護を行うかが決まります。


決定までの基準として以下のようなものがあります。

  1. 介護保険が使用できる年齢かどうか
  2. 介護保険が使用できる病気かどうか
  3. 医療保険が必要な病気かどうか

このように同じ訪問看護でも利用者の状態によって適用される保険が変わっていくのです。

この記事では介護保険の話もふまえながら医療保険の訪問看護について解説します。

専門スタッフによる在宅医療行為が受けられる

次の3つの概念は介護保険で言われるものです。


しかし訪問看護の立ち位置を理解するうえで重要なものだと言えます。


  • 居宅サービス
  • 支援サービス
  • 施設サービス

居宅サービス、施設サービスとはその名の通り、サービスの行われる場所による分類です。


訪問看護は、居宅サービスに該当します。


※支援サービスとはケアマネジャーや保健師などがケアプラン(居宅サービス計画)を立てて、利用者に適したサービスを受けられるように支援するもののことです。


そのうえで、訪問看護の定義を見てみましょう。

一般社団法人全国訪問看護事業協会によれば、

「訪問看護ステーションから、病気や障害を持った人が住み慣れた地域やご家庭で、その人らしく療養生活を送れるように、看護師等が生活の場へ訪問し、看護ケアを提供し、自立への援助を
促し、療養生活を支援するサービス」

とされています。

定義にあるように、訪問看護では看護師等の専門家による医療サービスを受けることができます。


以下、具体的なサービス内容を順番に見ていきます。




医療保険の訪問看護のサービス内容

医療保険の訪問介護では通院や入院が困難な患者のために、在宅でも同等の医療が提供できるように以下のようなサービスがあります。


  • 健康状態の観察
  • 療養生活の手助け
  • 病気の治療のための看護
  • 認知症や精神疾患の看護
  • がん末期の方のための看護
  • 在宅のリハビリテーション
  • 家族や介護する側の人への支援

この章では、これらのサービスについて解説していきます。

健康状態の観察

以下で説明する訪問看護のサービスは主治医の指示のもと行われます。


健康状態の観察は、看護の基本として日々行われます。


療養生活を送っていると、自分の健康状態に対する不安は募るものです。


訪問看護では、一人一人の自覚している症状、自覚していない症状含め観察し、今後のサービス向上に活かします。


具体的には、以下のような項目をチェックします。


  • 血圧は正常か
  • 体温は大丈夫か
  • 呼吸はちょうどよいか
  • 脈拍は正常か
  • 受け答えは適切か

その他気になる点があれば、それも聴取・観察し主治医や他の関連スタッフに報告します。


そして今後のサービスに活かしていくのです。


療養生活の手助け

どのように療養生活を送ればよいか、というのも利用者にとって知りたい情報です。


訪問看護の際に、一通りの状況を把握した後は、食事・運動・休養などへの助言を行います。

また、適切な環境で療養を行えているかについても確認と助言を行います。


例えば、以下のようなものです。


  • 居室やベッド周りなどに危険なものはないか
  • 転倒や転落のおそれはないか
  • 室内に十分な量の光が入っているか
  • 適切な換気ができる状況か
  • 空調設備など、利用者を取り巻くインフラの安全確認


また、具体的なお手伝いを行うこともあります。


例えば、以下のようなものです。


  • 食事を一人で取ることが困難な人のお手伝い
  • 洗面・洗顔のお手伝い
  • 口内の清潔維持
  • シャワーや入浴の介助
  • 身だしなみのチェックや髭剃り・着替えなどのお手伝い
  • トイレ・おむつ替えのお手伝い
  • 体の向きを変えるお手伝い
  • 車いすからベッド、ベッドから車いすへの乗り移りのお手伝い

病気の治療のための看護

医療保険による訪問看護を受けられる人は難病・重病を抱えています。


したがって看護師は主治医の指導のもと、次のような看護を行います。


  • お薬の服薬方法の指導、服薬確認 
  • 血糖測定
  • 浣腸
  • 摘便
  • たんの吸引(口鼻腔、気管切開)
  • 薬剤やスチームの吸入
  • ガーゼ交換
  • カテーテル管理
  • 床ずれ処置(体圧分散・除圧・減圧、皮膚面の保湿・清潔ケアなど) 
  • 人工肛門
  • パウチ交換
  • 経管栄養(胃ろう・経鼻)
  • 腸ろう、腎ろう、膀胱ろう管理 
  • 気管カニューレ管理 
  • 永久気管孔管理
  • 導尿
  • 人工呼吸器管理
  • 点滴
  • IVH管理(中心静脈栄養)
  • 注射(静脈、筋肉、皮下)
  • 在宅酸素療法
  • 採血

このように病院で行われる医療サービスを在宅で看護師が行います。

認知症や精神疾患の看護

朝ごはんを食べたはずなのに「ご飯はまだか」などと繰り返すのは、認知症の典型的な症状です。


また、不眠やうつ病をはじめとした精神疾患を抱えている利用者もいます。


このような場合にも、認知症や精神疾患の症状を緩和するための看護を行います。


例えば声かけ(意欲喚起)や会話、脳に刺激を与える行為(テレビや読書など)のお手伝いをします。


また、これらの病気の方の生活習慣の管理や助言なども行うことがあります。


精神疾患の方であれば社会復帰に向けた支援もすることがあります。


がん末期などの方の看護

がんが重度に進行し末期の状態になると、身の回りの世話ができなくなることがあります。


そのような方にも、自宅へ訪問し看護を行います。

鎮痛剤の投与やマッサージなどによる痛みの緩和や、精神的なケアを行います。


疼痛緩和の薬剤を使用する場合は薬剤師が訪問して管理を行います。


また病院と連携して24時間管理体制を整えている訪問看護ステーションもあります。


場合によっては在宅にて最期のお看取りも行います。

在宅のリハビリテーション

一般的なリハビリテーションは入院もしくは通院して行うものです。

しかし通院困難な状態の場合、理学療法士や作業療法士などが訪問してリハビリテーションを行うことがあります。

リハビリテーションでは、万全な体調管理と周りの支えが極めて重要です。


リハビリテーション方法の説明、指示等を通じて、寝たきり状態を予防します。


具体的には筋力などの機能低下を防ぐ訓練、自宅内での動作訓練、介護機器のアドバイスを行います。


家族など介護する側の人への支援

「家族が要介護状態になってしまった」

「いろいろ試しているが、なかなかうまくいかずに困惑している」

など、家族や介護する側にかかる負担へのケアは重要です。

訪問看護では利用者本人だけではなく、家族など介護する側の人に対してもケアが行われます。


今後の方針や具体的な看護・介護の知識や技術を分かりやすく説明し、また精神的なケアも行います。


特に家族が認知症になってしまった場合、正しい接し方ができずお互いストレスになってしまっていることが少なくありません。


専門的なアドバイスと精神的なケアを通じて、家族が良好な関係を維持できるように支援します。




医療保険の訪問看護の対象者は?

訪問看護が必要になって、公的なサービスを利用したいと思った場合には、医療保険か介護保険を利用することになります。

しかし、どちらを利用することができるのかは、次の3つの要素によって決定されます。


  • 介護保険の訪問看護の対象か否か(介護保険優先の原則)
  • 厚生労働大臣の定める疾病に該当するか否か
  • 医師の特別指示が出ているか否か

介護保険の訪問看護の対象者とは

なぜ介護保険が優先されるのかと言うと、介護保険のほうが自己負担割合が小さいからです。


介護保険の自己負担割合は原則1割ですが、医療保険の場合は2~3割負担になる人がいます。


また、介護保険の対象か否かにかかわってくるのは年齢です。


介護保険は年齢によって対象者が変わります。


  • 65歳以上
  • 40歳以上65歳未満
  • 40歳未満


40歳未満は原則医療保険


40歳未満の方は、そもそも介護保険に加入していません。


介護保険は40歳に達した時点で加入義務が発生します。


そのため、医師が訪問看護が必要だと認めれば、医療保険によってサービスが提供されます。


40歳から64歳は病気や状態による


40歳以上65歳未満の方は、介護保険には加入しています。


しかし介護保険の対象となる16特定疾病(末期ガン、脳血管疾患など)の診断がされないと介護保険を適用することはできません。


また、16特定疾患の対象ではあっても、介護保険の要支援・要介護に該当しない場合には、医療保険による訪問看護が行われます。


※医師が訪問看護の必要性を認めていることが前提となります


65歳以上は介護保険優先


そして、65歳以上の方になると、この16特定疾患という限定が無くなります。


介護認定を受け、要支援(全2等級)・要介護(全5等級)に該当していれば、原則として介護保険の対象になります。


介護保険での訪問看護ではケアプランと呼ばれるものの中に組み込まれる形で受けることになります。


しかし医師が医療保険による訪問看護の必要性を認めたうえで、要支援・要介護に該当していない場合に限り、医療保険が適用されます。


厚生労働大臣が定める疾病に該当した場合

介護保険の要支援・要介護の認定を受けていたとしても、次の条件に当てはまる場合は医療保険の訪問看護になります。


それは、厚生労働大臣が定める疾病に該当した場合です。


これは上記の16特定疾患とも異なります。


具体的には末期がんや各種難病、そして人工呼吸器を使用している状態など、極めて重度の状態にある方ということになります。


この場合は先に解説した年齢による条件の違いはありません。


病状の悪化により医師の特別指示が出ている場合

病状の急激な悪化により医師の特別指示(特別訪問看護指示書)が出されている方は、医療保険の訪問看護の対象になります。

一般的には指示が出てから最長14日間、1ヶ月につき1回行うことができます。

さらに、気管を開いている人や床ずれの重度な人であれば1ヶ月に2回行うことができます。

また、栄養状態や排せつ機能などに管理が必要な人も医療保険の訪問看護が利用できる場合があります。



医療保険の訪問看護の料金と利用回数は?

医療保険の場合、利用する人によって負担割合が1割から3割の間で変化します。


【医療保険の訪問看護での負担割合一覧】

後期高齢者(75歳以上)1割
後期高齢者で現役並みの所得
3割
高齢受給者(60歳~74歳)1割
高齢受給者で現役並みの所得3割
6歳~69歳3割
6歳未満2割


まず、1割負担の方というのは、70歳以上の方です。


※ただし、所得の多い人は2~3割負担になります。


2割負担の方というのは、未就学児です。


3割負担の方というのは、3歳以上70歳未満の方及び70歳以上で現役並み所得者の方ということになります。


そして、利用回数についてですが、週に1~3回まで。


4回目以降も可能ですが料金が割高になります。


一回の利用時間数については、30~90分の範囲となります。


また、支給限度額はありません。


支給限度額があり、利用回数に制限のない介護保険とは正反対の制度ということになります。


医療保険の訪問看護の手続きの流れ

訪問看護の手続きの流れは、以下のようになります。

  • 主治医または近辺の訪問看護ステーションに相談する
  • 主治医から「訪問看護指示書」により指示を受ける(1週間ほど)
  • 訪問看護ステーションと契約する

もし、身近に相談できる医師や訪問看護ステーションが無い場合、以下の施設から紹介を受けることができます。

  • 地域包括支援センター
  • 市町村役場(医療・福祉関連の部署)
  • 地域の民生委員
  • 地域の社会福祉協議会

参考:医療保険の訪問看護の2時間ルール

2時間ルールと呼ばれるものがあります。


それは、ある訪問看護と次の訪問看護の間隔は2時間以上でなければならない、というものです。


もしも、2時間以内に複数の訪問看護を実施した場合には、それぞれの所要時間が合算されます。


※20分未満の訪問看護と計画外で緊急に訪問看護を実施した場合は合算しません。


例)30分の訪問看護を実施した後に、1時間半が経過した時点で、新たに60分訪問看護を頼んだ場合、全体で90分の1つの訪問看護を行ったことになります。


これは、医療保険による訪問看護において1回の利用時間に制限が加えられていることと関係しています。




医療保険の訪問看護とは何かのまとめ

医療保険の訪問看護について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

今回この記事のポイントは

  • 医療保険の訪問看護では入院と同じくらいのサービスを受けられること
  • 原則として介護保険が使える人は介護保険で訪問看護を受けること
  • 定められた病気や症状であれば医療保険の訪問看護を受けられること
  • 主治医が必要性を認めれば医療保険の訪問看護を受けられること
  • 医療保険の訪問看護は月に受けられる回数に決まりがあること
  • 医療保険の訪問看護について問い合わせできる施設があること
です。

医療保険の訪問介護は、訪問看護では例外的な位置づけです。


それでも必要になる場合はあり得ると思います。


必要な時が来る前に、この記事で知識を整理していただけることを願っています。


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