
更新日:2020/07/27
役員賠償責任保険とは?特徴やメリットと保険料の税務上の扱いを解説
最近、役員への賠償請求などがよくニュースなどで話題になり、役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するべきか迷っている法人の方もいるかと思います。今回は、役員賠償責任保険について補償内容やメリット・デメリット、また保険料の税務上の扱いについても解説しています。
目次を使って気になるところから読みましょう!
役員賠償責任保険(D&O保険)とは?
前提:役員に課せられる責任や義務は大きい
法人の役員が損害賠償訴訟を起こされてしまうのは、役員に課せられた責任や義務に違反したからです。
法人の役員に課せられている義務や責任は会社法に定められており、「会社に対する責任」と「第三者に対する責任」の2つがあります。
「会社に対する責任」は以下の通りです。
- 利益相反取引回避義務:取締役が自己または第三者のために株式会社と取引するなど利益相反取引をする場合、その後遅滞なく取締役会に報告しなければならない。
- 競業避止義務:取締役が会社と同じ種類の営業を行う場合は事前に取締役会の承認を得なければならない。
- 善管注意義務:取締役は会社に対して善良な管理者としての注意を持って職務を行わなければならない。
- 忠実義務:取締役は法令および定款ならびに株主総会の決議を遵守し、株式会社のためにその職務を行わなければならない。
- 監視・監督義務:取締役は、代表取締役やその他業務を執行する取締役の行為を監視しなければならない。
「第三者に対する責任」は以下の通りです。
- 一般の不法行為責任:故意または過失により他人の権利を侵害したものはその損害を賠償しなければならない。
- 会社法上の損害賠償責任:役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
以上により、役員は第三者からも損害賠償責任を問われる可能性があることがわかります。
そのため、法人が役員賠償責任保険に加入しておくことで、第三者から訴訟を起こされた時のリスクに備えることができるのです。
中小企業でも訴訟のリスクが高い
中小企業のうち、親族で会社を経営している親族企業では、自身の会社が保有している株に対する取り扱いの規定などをきちんと決めていない場合が大企業と比べて多いようです。
また親族企業の場合、身内だからと会社内での規定に関してもふんわりとしか定められていないため、万が一親族間で大きないざこざが起きてしまった際に、他人が役員である場合よりもすぐに訴訟を起こすケースへと繋がりかねないのです。
親族企業以外の中小企業でも、このように社内の規定がきちんと作られていない会社の場合、第三者から損害賠償責任などの訴訟を起こされるリスクが高くなります。
こういったトラブルに備えて、会社役員は役員賠償責任保険(D&O保険)に加入する人が多いのです。
役員賠償責任保険(D&O保険)の補償内容は?
役員賠償責任保険で第三者から訴訟を起こされた時のリスクに備えることができると確認しました。
役員賠償責任保険では、役員が訴訟を起こされた時に以下のような補償を行ってくれます。
- 法律上の損害賠償金
- 争訟費用
- 特約で補償される保険金
ここからは、役員賠償責任保険のこれらの補償内容について解説していきます。
補償①:法律上の損害賠償金
もし役員が損害賠償訴訟を起こされて敗訴してしまったら、損害賠償金を支払わなければなりません。
しかし、損害賠償金は高額になってしまうことが多く、役員個人が支払うのは負担が大きすぎてしまいます。
そんな時に役員賠償責任保険に加入していれば、役員が訴訟で敗訴した時の損害賠償金を補償してくれます。
また、役員賠償責任保険では損害賠償金だけでなく、和解や調停、示談によって生じた示談金や和解金なども補償してくれます。
これにより、あえて負担の大きな裁判をしなくても、和解や調停、示談によって穏当に解決する選択肢を取ることができるのです。
補償②:争訟費用
役員賠償責任保険では、訴訟に発展した時にかかってしまう争訟費用も補償してくれます。
争訟費用とは、裁判をするのにかかった費用のことで、弁護士への報酬や裁判所に支払う印紙代など様々な費用を含みます。
しかし、裁判をするためにかかった費用であれば、どのようなものでも補償されるわけではありません。
例えば、裁判所に提出する書類を作成するために従業員が行なった残業代などは争訟費用には含まれないので注意してください。
補償③:特約で補償される保険金
役員賠償責任保険は、これまで解説した損害賠償金や争訟費用以外にも、特約を付けることで補償対象を広げることができます。
役員賠償責任保険の特約には、例えば以下のようなものがあります。
- 損害賠償がなされる前(苦情などが入った場合)の弁護士への相談費用
- 法人から損害賠償請求があった場合の費用
役員賠償責任保険(D&O保険)加入のメリット・デメリット
役員賠償責任保険(D&O保険)に法人が加入することで、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
役員賠償責任保険のメリットは以下の3つです。
- 勝訴・敗訴にかかわらず争訟費用の支払いを受けることができる。
- 役員個人の財産を守ることができる。
- 補償開始の10年前まで対象になる。
役員賠償責任保険のデメリットは、補償を受けられない場合が多くあることです。
ここからは、役員賠償責任保険に法人が加入することのメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。
役員賠償責任保険(D&O保険)のメリット
役員賠償責任保険(D&O保険)に法人が加入することで、以下のようなメリットがあります。
- 勝訴・敗訴にかかわらず争訟費用の支払いを受けることができる。
- 役員個人の財産を守ることができる。
- 補償開始の10年前まで対象になる。
役員賠償責任保険では、法人の役員が損害賠償訴訟を起こされた場合に保険金が支払われますが、敗訴したときに限りません。
勝訴した場合でも争訟費用がかかってしまうため、勝訴した場合の争訟費用も補償を受けることができるのです。
また、法人の役員が訴訟を起こされた時は、基本的には役員が賠償金を負担することになりますが、高額すぎて支払えないことがあります。
役員賠償責任保険なら、法人の役員が負担しなければならない賠償金を補償してくれるため、役員個人の財産を守ることができるのです。
そして役員賠償責任保険の大きなメリットが、補償開始の10年前まで遡って補償を受けられるということです。
法人の役員は、役員在任中の行為によって損害が発生した場合、損害の発生してから10年間は相手から損害賠償を求められてしまう可能性があります。
役員賠償責任保険は、補償開始の10年前にまで遡って発生した損害も対象となるので、もし10年近く経って訴訟を起こされた場合も安心です。
役員賠償責任保険(D&O保険)のデメリット
役員賠償責任保険(D&O保険)に法人が加入することのデメリットは、補償を受けられない場合が多くあることです。
補償を受けられない場合として、以下のような例が挙げられます。
- 損害賠償請求がなされるおそれのある状況を、保険期間の開始日において、取締役が知っていた場合
- 初年度契約の開始日以前に行われた行為に起因する一連の損害賠償請求
- 取締役に報酬または賞与が違法に支払われたこと
- 取締役の犯罪行為または法令違反を認識しながら行った行為
- 取締役が私的な利益または便宜の供与を違法に得たこと
- 環境汚染・原子力危険に関連する損害賠償請求
- 身体の障害、財物の損壊または人格権侵害に対する損害賠償請求
役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料と補償額
ここまで、会社役員になった際に会社や第三者とのトラブルに備えて加入することができる役員賠償責任保険(D&O保険)についてメリットやデメリットを解説してきました。
万が一トラブルが起きてしまった際に、実際にどのくらいの金額をカバーすることができるのか、また、役員個人のための保険なので、保険料は個人で負担しなければいけないのか気になりますよね。
ここからは、役員賠償責任保険に加入する前に知っておくべき以下の2点について解説をしていきます。
- 保険で補償される金額の目安
- 保険料の負担はどうする?
保険で補償される金額の目安
役員等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合は、法律により以下の損害賠償責任額まで役員賠償責任保険(D&O保険)でカバーできることになっています。
例えば、三井住友海上の会社役員賠償責任保険(D&O保険)では以下の項目について補償が付きます。
内容 | |
---|---|
損害賠償金 (判決において支払いを命じられた損害賠償金、 和解金等) | 法律上の損害賠償責任に基づく賠償金 |
争訟費用 (弁護士に支払う着手金や報酬金等) | 被保険者に対する損害賠償請求に関する争訟 (訴訟、調停、和解または仲裁等) によって生じた費用 |
【保険で補償される金額の目安】
最低責任限度額 | |
---|---|
代表取締役又は代表執行役 | 年間報酬の6倍 |
その他の社内取締役・執行役 | 年間報酬の4倍 |
社外取締役・会計参与・監査役又は会計監査人 | 年間報酬の2倍 |
保険料の負担はどうする?
役員賠償責任保険(D&O保険)の保険料について法律上、取締役会議などで一定の手続きを行った場合は保険料の全額を会社が負担しても良いとされています。
会社が負担した保険料に関しては、会社の損金として計上することができ、法人税を抑えることができるのです。
しかし、中には株主代表訴訟担保特約部分など保険料を役員が個人で負担しなければいけない場合もあります。
保険料を役員が個人で負担しなければいけない場合の負担方法を例としていくつか挙げてみます。
- 保険料を役員の人数で割り、全員が均等になるように負担する
- 役員報酬に比例した保険料を計算して負担する
- 役員の区分ごとに分担して保険料を負担する
役員賠償責任保険(D&O保険)の適用外となるケースは?
役員に対して何らかの理由で損害賠償責任が発生した場合に、役員賠償責任保険(D&O保険)が適用外となるケースもありますので注意が必要です。
主に以下のような場合には、役員賠償責任保険に加入していても保険金を受け取ることができません。
【役員賠償責任保険(D&O保険)の適用外となるケース】
- 役員が私的な利益または便宜の供与を違法に得た場合
- 役員の犯罪行為(刑を科せられるべき違法な行為で、時効の完成等によって刑を科せられなかった行為を含む。)があった場合
- 法令に違反することを役員が認識しながら(認識していたと判断できる合理的な理由がある場合を含む。)行った場合
- 役員に対して報酬・賞与その他の職務執行の対価が違法に支払われた場合
- 役員が、公表されていない情報を違法に利用して、株式、社債等の売買等を行った場合
- 政治団体、公務員、取引先の会社役員・従業員等に対する違法な利益の供与が行われた場合
参考:役員賠償責任保険(D&O保険)は損金算入が可能!
役員賠償責任保険(D&O保険)に加入して支払う保険料は、全額損金算入することができます。
全額損金算入できることで、益金と相殺することで法人税の課税対象額を減らすことができます。
そのため、役員賠償責任保険は役員の訴訟のリスクに備えるとともに、法人税の課税負担を軽減したい法人におすすめです。
まとめ:法人はリスクを考えて役員賠償責任保険に加入すべき!
役員賠償責任保険について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
今回のこの記事のポイントは
- 役員賠償責任保険(D&O保険)とは法人の役員が損害賠償訴訟を起こされた時に、争訟費用や賠償金などの補償をしてくれる保険
- 役員には、「会社に対する責任」と「第三者に対する責任」の2つがある
- 役員賠償責任保険では、法律上の損害賠償金・ 争訟費用・ 特約で補償される保険金が補償される
- 役員賠償責任保険のメリット・デメリットを事前に確認しておくことが大切
- 一定の手続きを行った場合は保険料の全額を会社が負担することができ、負担した保険料に関しては、会社の損金として計上することができる
- 役員賠償責任保険の適用外となるケースもある
- 保険料は、全額損金算入することができる
でした。
役員は会社の経営をするという重要な役割があるため、保険で役員に対する訴訟リスクに備えることができれば安心できます。
役員賠償責任保険であれば賠償金や争訟費用以外にも様々な特約をつけられるので、どのような費用が想定されるかを考えて最適な保険商品に加入しましょう。
最後までご覧頂きありがとうございました。
ほけんROOMでは、他にも読んでおきたい保険に関する記事が多数掲載されていますので、ぜひご覧ください。

大企業に限らず、中小企業でも役員が行なった不法行為や義務違反によって、役員が損害賠償訴訟を起こされてしまうことがあります。
法人の役員に対する損害賠償訴訟では高額な賠償金を請求されてしまうことが多いので、そういった場合に備えて法人保険に加入しておくことをおすすめします。
役員賠償責任保険(D&O保険)であれば、法人の役員が損害賠償訴訟を起こされた時に、争訟費用や賠償金などの補償をしてくれます。
しかし、役員賠償責任保険には補償を受けられない場合もあるので、あらかじめしっかりと確認しておく必要があります。
そこで、今回は法人が加入する「役員賠償責任保険」について
以上を中心に解説していきます。
この記事を読んでいただければ、役員賠償責任保険に法人が加入するべきなのかどうかについて吟味するのに役立つと思います。
ぜひ、最後までご覧ください。