イギリスの年金制度の仕組みや特徴とは?国民年金だけ?受給額はいくら?

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TheBasicStatePensionと呼ばれる年金制度を持つイギリス。厚生年金がないという特徴があります。今回はイギリスの年金制度の仕組みや、今後の課題を日本の制度と比較します。年金受給者間で貧困の格差や少子高齢化で2016年に年金制度が改定されています。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

イギリスの年金制度について仕組みや特徴を解説


海外の在留邦人の数は130万人以上にもなり、現在ではイギリスでも多くの日本人が生活しています。

海外で生活して現地の社会保険制度に加入する人も多くいて、その中でも在住期間中だけでなく帰国後の老後の生活にまで関わってくるのが年金制度です。

会社員や公務員、自営業などの形で現地で働いたり、国際結婚をしてイギリスで生活した経験がある人にとって、イギリスの年金制度への理解は欠かせません。

そこでこの記事では「イギリスの年金制度」について
  • 2016年を境に変わった新旧両制度の仕組み
  • イギリスの年金制度の課題と制度改正の背景
  • イギリスの年金の受給条件や受給額
以上のことを中心に解説します。

日本と比較すると様々な点で異なるイギリスの年金制度を理解すれば、日本の年金を考える上でも役立つ多くの気付きを得られます。是非最後までご覧下さい。

イギリスの1階建ての年金制度の仕組みと特徴とは?

2016年から新しい年金制度がスタートしたイギリス。年金制度の大改革が行われて受給できる年金の種類など仕組みが大きく変わりました。

そこで以下では新旧両制度の違いにも触れながら、イギリスの年金制度について詳しく解説していきます。

日本との違いを意識しながら読み進めれば日本の年金制度について考え直す機会としても役立つので、日英両方の年金制度への理解を深めていきましょう。

2016年度からスタートした新しい年金制度の仕組み

従来の2階建ての制度から1階建ての新制度に変わったのは2016年です。男性は1951年4月6日、女性は1953年4月6日以降生まれの方が新制度の対象となります。


加入対象

16歳以上で年金制度に加入しますが、加入対象は一定以上の所得がある被用者と自営業者のみとなっています。収入のない主婦や無職の人は対象外です。


一定の条件を満たすと任意加入できるので自ら年金保険料を納付することは可能ですが、日本のような全国民が強制加入の国民皆年金制度ではありません。 


受給資格

老齢年金を受給するには最低10年の加入期間が必要で、加入期間が35年間あると満額を受給できます。


国によっては日本の年金制度の加入期間と通算できますがイギリスの場合は通算できません。あくまでイギリスの年金制度のみで加入期間が10年以上必要です。


ただし10年未満でも任意加入制度を活用して受給条件を満たすことができます。一定の条件を満たす場合は帰国後でも外国人は任意加入でき、加入期間を10年にすれば受給が可能です。


保険料負担と年金受給額

被用者の保険料を企業と労働者で負担する仕組みは日本と同じです。ただし年金保険料だけが独立して徴収される訳ではなく、老齢・障害・死亡・出産・失業・労災を扱う国民保険の保険料として徴収されます。


負担割合は企業13.8%、労働者12.0%(2018年4月時点)ですが、自営業者の場合は保険料は原則定額で全額自己負担です。


そして年金の満額支給額は週当たり168.60ポンドとなっています。加入期間が35年未満の場合には期間の長さに応じて減額され、受給する場合には4週ごと又は13週ごとの振込を選択します。


なお旧制度の配偶者年金遺族年金は廃止されました。2016年4月以降に年金支給開始年齢に達する人は新制度の対象なので、これらの年金は支給されません。


以上がイギリスの年金制度の仕組みとなりますが、日本と大きく違う点があることにお気付きでしょうか?


それは年金額が被用者でも自営業者でも定額で設定される一方、保険料は自営業者と被用者で計算式が異なり、被用者は報酬比例になっている点です。


会社員などは収入が多くて保険料負担が増えても将来の年金受給額が増えることはなく、高所得者から低所得者への「所得の再分配機能」を担う制度として年金制度が位置付けられていることが分かります。


老後への備えを行うために年金保険料を各自で積み立てるという意識が強い日本とは根本的に考え方や年金制度の位置付けが違っていて、年金制度1つを取っても国による違いが反映されていると言えるでしょう。


年金の受給資格についてはこちらで詳しく解説していますので、ぜひ読んでみてください。

2016年度より前の年金制度の仕組みと新制度との違い

男性では1951年4月6日よりも前、女性では1953年4月6日よりも前に生まれた方は旧制度の対象です。以下では主に新制度と異なる点を中心に解説していきます。


保険料負担と年金給付

1階建ての新制度とは違って旧制度は基礎年金付加年金からなる2階建て構造でした。基礎年金部分からは定額の年金が支給されますが、付加年金は加入者の所得に応じて年金額が変動します。


満額の支給額は週当たり129.20ポンドで、加入期間が短いと減額される点は新制度と同じです。


新制度では廃止された配偶者年金遺族年金があり、新制度と比較すると給付の種類や年金額の計算方法が複雑になっていました。


受給資格

最低加入期間や満額受給に必要な期間は生年月日によって異なり、例えば男性では1945年4月6日以降1951年4月5日以前生まれの方は最低でも1年以上の加入期間が必要で、満額受給には30年の期間が必要です。


2016年4月以前に受給開始年齢に到達して旧制度の対象になる場合には生年月日によって受給条件が異なります。英国歳入関税庁に確認するようにして下さい。

イギリスの年金制度の課題や問題点は?

イギリスの年金制度は制度改正前後で仕組み自体が大きく変わったことが理解できたと思います。


しかしそもそも制度の大改正が行われた背景にはイギリスの年金制度が抱える課題や問題点が存在します。


イギリスでは既に多くの年金制度改革が行われていますが、一体どのような課題があってどう対処しようとした結果として今の制度に至ったのでしょうか?


この点を学ぶことは年金制度改革が議論されている日本にとっても非常に参考になるので、以下ではイギリスの抱える課題や問題点について解説していきます。

イギリスの年金制度の大改正が行われた背景

イギリスでは以前から年金制度の分かりにくさ将来もらえる年金額の格差が問題視されていました。


複雑な年金制度

まず旧制度では2階建ての仕組みになっていて将来いくらもらえるのか計算方法が分かりにくく、老後の生活設計を立てにくいことが課題でした。


将来いくら年金が支給されるのか分からなければ年金以外でどれ程の自助努力・貯蓄が平均して必要なのかも分からず、老後への備えをすることができません。


さらに配偶者年金や遺族年金など本人が保険料を負担していない場合でも給付を受けられる場合があり、これも将来の年金額の予想をしづらくしていました。


そこで国民に分かり易い制度にして老後の生活設計を立てやすくする目的で制度の改革が行われたのです。


年金受給額の格差問題

旧制度では将来の年金額が報酬に比例して決まる付加年金があり、年金の支給額に格差が生じていることも問題でした。


自営業者と企業に勤める被用者の間で格差が生じるとともに、一般的には女性のほうが賃金が低いために男女間格差も生まれていました。 


そこで新制度では報酬比例部分を無くして1階建ての年金制度に変更し、年金支給額を定額にして格差が生じない制度設計に変更されたのです。


そしてイギリスの年金制度改革が行われた上記の理由は、日本の年金制度を考える上でも大いに参考にすべき視点でもあります。


例えば日本では国民年金や厚生年金、確定拠出型年金など様々な年金制度がありますが、多くの制度があり過ぎて年金のことが理解できず、老後への備えを正しく出来ていない人がいることは間違いありません。


「多くの年金制度=多様な選択肢」と捉えることもできますが、年金制度への理解を広めるにはイギリスのようにシンプルな制度設計を考える視点も有益です。


また上記で述べた問題点以外にもイギリスが抱える課題は多数あり、例えば高齢化の進行に伴う年金財政の持続可能性の問題が挙げられます。


現在は年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられており、年金財政の健全性が危ぶまれている点は高齢者割合が上昇している日本とも似ている点です。


今後日本で受給開始年齢の引き上げが実施されるかは分かりませんが、高齢者割合が高まる中で受給開始年齢の引き上げを行っている国は多く、年金財政が厳しいのは多くの国で共通していることが分かります。

イギリスの年金を受け取る方の受給条件、受給額は?

会社員や公務員、自営業等の形で現地で働いたり、国際結婚をして主婦としてイギリスで生活したことがある人にとっては、イギリスの年金の受給条件平均していくら貰えるのか等気になることは多いはずです。


イギリスの年金制度では最低10年の加入期間が必要で、現地赴任期間が短い等の理由で10年未満の場合でも日本の年金制度の加入期間との通算はできません。


また2016年度以降は配偶者年金は廃止されています。国際結婚をして主婦としてイギリスで生活する場合には強制加入の対象にはならず、従来の配偶者年金が支給される訳でもないので注意が必要です。


そして年金額は週当たり168.60ポンドですが、海外の年金を受け取る際には送金手数料が掛かるなど実際の手取り額はこれより少なくなります。


なお国によっては外国人が自国と出身国の両方の年金を受け取ると減額規定を適用する国がありますが、イギリスの場合にはそのような心配はありません。


イギリスの年金を受給する際の手続きは日本年金機構ではできないので、英国歳入関税庁に直接確認する必要があります。


またイギリスの年金制度ではおよそ2年に1度の生存証明が行われています。生存証明とは本人および家族の状況について申告するもので、英国年金受給者の生存を確認するためのものです。年金を継続受給するためには必要な手続きなので必ず手続きを行いましょう。

まとめ:イギリスの年金制度の仕組みと特徴

イギリスの年金制度の仕組みと特徴について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。


今回のこの記事のポイントは

  • 年金制度が改正されて自営業者も被用者も同じ制度に加入する1階建て年金制度に移行した
  • 複雑で分かりにくい制度を改めて年金受給格差を解消することが制度改革の背景にあった
  • 日英の年金加入期間の通算はできず、受給するには10年のイギリス年金制度への加入が必要
  • イギリスの年金受給手続きをする場合は日本年金機構ではなく英国歳入関税庁で行う

でした。


国際化が進んだ現在では会社員や公務員、自営業など様々な形で諸外国で生活する人が増えています。


イギリスの年金制度に加入する人も多く、老後の生活設計を考える上で日本の年金制度だけでなくイギリスの年金制度についても理解しておくことが大切です。


そしてイギリスの場合には直近に制度の大改正が行われたこともあり、新旧両制度の違いや制度改正の背景も理解しておかなければいけません。


制度改正の流れの中で今後も更に仕組みが変わる可能性があり、イギリスの社会保障政策の動向に注目して常に最新の情報を確認するように心掛けて下さい。


そうすることで日本・イギリス両国の年金制度に関する正しい知識が身に付き、老後の生活に向けて確実に準備を進めることができるでしょう。

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