年金受給資格期間が25年から10年に短縮された点には落とし穴がある?

個人年金の受給資格要件が25年以上から10年以上に引き下げられました。年金をもらうことができない予定であった方々の多くが年金を受給できるようになりました。今回は制度の改正から、資格要件が10年に引き下げられたことによるメリット、デメリットを含めて解説します。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

受給資格期間が10年に短縮されても素直に喜べない理由とは?

2017年8月、公的年金の受給資格期間が25年から10年に短縮されました。


今までは累計、25年間年金の払い込みがないともらうことができなかった年金ですが、これからは10年の払い込みがあれば年金をもらうことができます。


一見、すごいメリットばかりの制度改正だと受け取ることができますよね。


ですが、実は、落とし穴も存在するのです!


この記事では、個人年金の受給資格が10年以上に短縮について

  • 受給資格が25年から10年に改正された
  • 受給資格改正によるメリット、デメリット
  • 遺族年金はどうなるのか
  • 10年では足りない場合の対処法

以上のことを中心に解説していきます。


この記事を読んでいただければ、年金の受給資格を確認したい方にとって、参考になるかと思います。


ぜひ最後までご覧ください。

平成29年9月26日から年金の受給資格期間が25年から10年と改正された

平成29年9月26日に、平成29年9月分から年金の払い込み期間が25年以上ない場合でも、10年以上の払い込みがあれば年金がもらえるようになるということが閣議で決定されました。


平成29年8月1日より適用しており、平成30年9月分から年金が発生します。

この、年金の受給資格期間の短縮を10年にするというものは、平成24年8月に成立した年金機能強化法ですでに決まっていたことです。


年金機能強化法とは、人口減少が進んでも年金の仕組みが機能するようにできた法律です。


財源は消費税でした。消費税率を上げて年金の財源にして、年金の仕組みを維持しようとしたものです。


もともとは、平成27年10月に消費税率を10%までアップすることを条件に、年金受給資格を10年以上に短縮されることになっていました。


しかし、消費税アップが平成29年4月に延期され、さらに平成31年10月に再々延期されたことから、年金機能強化法も延期されるかと考えられていましたが、延期されなかったのです。 

受給資格期間には免除や猶予期間、カラ期間なども含まれる

免除期間や猶予期間、カラ期間とは何でしょうか。


国民年金は収めなければいけない国民の義務ですが、失業して所得が少ないないなど、払えない場合があります。


そうした場合は、国民年金の納付を免除または猶予してもらえる場合があります。


また、学生などは、学生納付特例があり、卒業するまでは国民年金の納付を猶予してもらうことができます。


これが猶予の主な事例です。


次にカラ期間についてです。


年金は昭和61年4月1日以降に20歳だった人たちは国民年金に強制加入になりました。


つまり、昭和61年3月以前は、国民年金に加入しなくてもいい人がいたのです。


また、厚生年金や共済組合に加入している人たちの配偶者には扶養の方もいるので、こういう方は国民年金に加入しなくてもよかったのです。


こういった人たちが国民年金に強制加入になっても、25年の受給資格要件に足りなくて、年金をもらえない場合が出てくるので、国民年金に加入していなかった期間も25年に加えようというのがカラ期間です。


この期間はあくまで受給資格要件の期間に加えるということであって、実際に保険料を納付しているわけではないので、返金額には反映しないということからカラ期間と呼ばれています。 

厚生年金も10年に短縮された

厚生年金も国民年金と同様に受給資格要件が25年から10年に短縮されました。

10年以上の加入期間があれば60歳以上が対象の老齢基礎年金の支給対象となることができます。 

年金の受給資格期間が10年に改正されたことのメリット・デメリット

年金の受給資格期間が短縮されたことで得をする方は、加入期間が25年に足りなかった方です。


このまま行くと年金を受給することができないため、年金はあきらめていた方も多いのではないでしょうか。


たとえ金額は微々たるものでも、もらえないのともらえるのでは大きな違いがあります。


デメリットは、国民の負担が増えたことです。


どうしても財源には限りがあります。年金の対象者を増やすためには財源が足りません。


財源は私たち国民が捻出する必要があります。


その対象となったのが消費税でした。 

年金を受給できる対象者が増えた

平成19年には無年金者が118万人いると推定されていました。


このうち、65歳以上は42万人にものぼるとされていました。


この42万人のうち、受給資格要件が10年以上になることで、約17万人の方が年金をもらえるようになると試算されています。

118万人という数字は60歳未満の人の数字も含んだ数字ですが、この人たちは、70歳まで年金保険料を納めたとしても、25年の年金受給資格に満たない人たちの数です。


このうち、年金受給資格を10年以上に縮めることで、年金が受け取れるようになる人は64万人と推計されています。


新たに64万人に年金を支給しなければいけないため、必要な予算は650億円との試算が出ています。 

その分、消費税の税率がアップする形となっている

この650億円の予算はどこから捻出されるのでしょうか。


それが、消費税です。


消費税と10%に引き上げることで、650億円を確保しようという狙いでした。

しかし、消費税の増税は平成31年10月まで行われません。


通常であれば同時並行か、消費税をアップした後で年金の受給資格要件を引き下げるのが通常の流れだと思いますが、これに関しては年金の方が先に施行されてしまいましたので、財源の確保が懸念されています。 

遺族年金や障害年金は変わらず25年支払う必要がある

遺族年金の受給資格要件は変わらず、25年のままです。


25年以上の資格要件を満たした被保険者が死亡した場合に、遺族は遺族年金を受け取ることができるようになります。


遺族構成年金の受給要件は、厚生年金の被保険者(主に会社員)老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上の者1級、2級の生涯厚生(共済)年金を受けられるものとなっています。 

年金の支給額の計算式は変わらない!10年の場合、満額はいくらか?

今まで25年必要だった年金受給資格要件ですが、それが10年になって、どれくらいの年金がもらえることになるのでしょうか。

25年以上の期間がある人は65歳から老齢基礎年金がもらえます。


20歳から60歳まで40年間きちんと国民年金保険料を完璧に納付したとしましょう。


この方は、国民年金から老齢基礎年金が年780,100円支給されます。


月額に換算すると65,008円です。


これが国民年金のいわゆる満額です。


では、10年間納めた人はいくらになるのでしょうか。計算式はこうです。


780,100円(満額)÷480ヶ月=1625.20(一月あたりの金額)×300ヶ月=487,562円(年額)です。


月額に換算すると40,630円になります。 

10年では足りない場合はどうしたら良い?

10年に短縮されてもそれでも受給資格が足りない場合は、免除、猶予期間分の年金保険料を追納する方法があります。


老齢基礎年金は、年金額を計算するときに、保険料の免除や猶予を受けた期間がある場合は、保険料を全額納付した場合と比べて年金額が低額となります。


後から追納をする手続きを踏むことにより、老齢基礎年金の受給額を増やすことができます。


また、追納を行うことで、社会保険料を控除することができ、所得税や住民税が軽減されます。 

免除・猶予期間分の金額を追納する

免除と猶予にはいくつかの種類があります。

免除は、全額免除・4分の3免除・半額免除・4分の1免除の4つに分類されます。


免除される割合は、本人や世帯主、配偶者の前年度所得により変わります。


免除になると保険料を収める必要はなくなりますが、その分年金の受給額は減ります。


免除で払えなかった分の年金保険料は後で「追納」することができます。


猶予の場合は、免除と違ってあくまでも保険料の支払いを先延ばしにしているだけです。


猶予期間が終わったらその猶予期間分の保険料を収める必要があります。


猶予期間分の保険料を支払わなかった場合には、その猶予期間の保険料の分は全く支払われていないことになるので、受け取れる年金額が大きく減額となる恐れがあります。 


免除や猶予期間分の保険料を支払うことで、年金の受給資格要件を満たすことができます。


もし、免除や猶予期間がある場合は、追納できる期間に制限があるので一度調べておいたほうがよいでしょう。

平成30年9月30日までに未納分の金額を後納する

国民年金の保険料は毎月納めるのが基本ですが、納め忘れがあった場合、2年前まで遡って国民年金保険料を納めることができます。

それ以前にも収めていない保険料がある場合は「後納制度」を利用することができます。

10年の後納制度は平成27年9月30日で終了しました。


現在は、5年前まで遡って保険料を追納できる『5年の後納制度』を利用することができます。


もし、受給資格が足りない場合は、こういった制度を利用することで受給資格要件を満たすことができます。

厚生年金に65歳まで任意加入する

厚生年金は70歳まで加入することができます。これはしっかり厚生年金法で決まっていることです。

ただし、これには条件があります。


企業などで働いている限り、70歳に達するまでは厚生年金の加入が必要ということです。


つまり、退職をして企業などで働くのを辞めた時が厚生年金の加入資格を喪失するということになります。

厚生年金は個人の意志で、「保険料を払いたくないからやめる!」というものではありません。


企業で働いている限りは厚生年金に加入できますので、受給資格要件が足りない人は、資格要件を満たせる可能性があります。

65歳ではなく繰り下げ受給する

年金は、65歳になる前に受給を申請することができます。

これを『繰り上げ支給』といいます。


60歳~64歳までが申請可能です。


ただし、繰り下げ支給を行うと、本来もらえるはずの年金は減額されます。


早くあげるから、総額は減るよというのが繰り下げ支給なのです。


この減額は65歳までではありません。減額された年金は一生涯続くことになりますので注意が必要です。

また、65歳になったときに本来もらえるはずの年金の申請をせずに、66歳以降に年金を申請することもできます。


これを『繰り下げ支給』といいます。


この繰り下げ支給は、申請を行った翌月から年金を受給することができます。


そして、年金は65歳からの計算になりますので、本来もらえる月額予定金額からは増額された年金が支払われることになります。

iDeCoや個人年金保険などを利用する

最近はiDeCoなどの個人型年金に加入する人が増えています。

iDeCoは、毎月決まった額を貯蓄し、それを定期預金や投資などで運用していき、個人年金保険は保険会社に運用してもらう形です。


老後の生活資金の確保のためのものなので、貯蓄したものは60歳にならないと引き出すことができません。


60歳になったら、一括でもらうか分割で継続的にもらうかを選択することができます。

まとめ

いかがでしたでしょうか? 


個人年金の受給資格要件が10年に短縮されたことについて解説してきました。


今回の記事のポイントは


  • 個人型年金の受給資格要件が10年に短縮された改正内容
  • 個人型年金の受給資格要件が10年に短縮されたことによるメリットデメリット
  • 受給資格要件が足りない場合の対処法

です。


ご自身はきちんと受給資格要件を満たしているかご確認ください。


そして、将来どれくらいの年金がもらえるのかを試算しておくとよいでしょう。


試算結果から、その他にどれくらい貯蓄しなければいけないのかがおのずとわかるはずです。


ほけんROOMでは、他にも読んでおきたい保険に関する記事が多数掲載されていますので、ぜひご覧ください。

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