開始18年。今までの介護保険制度改正の歴史とそのポイントについて

2000年から介護保険がスタートし、間もなく18年となります。複数回の制度改正を経て、介護保険は当初とは全く違うものに姿を変えました。いったい今後はどうなってゆくのでしょうか。制度改正の経緯とそれぞれの重要ポイントについて、未来への展望も含めて解説します。

介護保険法の制度改正のポイントを解説

2000年(平成12年)に見切り発車で始まった介護保険制度。

サービス提供事業者のみならず、国や自治体までも模索しながら今日まで進んできました。 


未熟な制度であったわけですから、途中で改正が必要になることは必然でした。 

しかしスタートから18年経った現在、数回の制度改正を経て

介護保険はもはや根底から様変わりしています。

果たしてどのような経緯と歴史があって、現在の姿になっているのでしょうか。


各制度改正の、特に重要なポイントを解説していきます。

介護保険制度改正の経緯と歴史

「突然サービスの料金が上がった」

「ケアマネジャーに、今後は特養の申し込みはできないと言われた」


利用者側からすれば、大きな影響が出て初めて制度改正を知ることも多いでしょう。

しかし改正の経緯と歴史を知ることで、定期的にある改正に備えることもできるのです。

これまでの介護保険の改正内容

介護保険の改正は、例えば消費税の増税のように徐々に、徐々に行われています。

利用者側からすればその時は大した変化ではなくても、

長い目で見ればとんでもなく変わってしまっていることが往々にしてあるのです。


つまり、この次はどのような改正になるのか?

ということは、その根本にある動機を知ることで予測ができます。

介護保険制度改正の経緯と歴史

介護保険は、その制度維持を最大目標のひとつとしています。

そのためにはやはり一にも二にも経費の削減と費用の徴収が必要なのです。

改正の歴史をひもとくと、その大半がそれらを動機としていることが分かります。


制度改正を経るごとに利用者への経済的な締め付けが強くなっている、

そう感じている方も多いのではないでしょうか。 

2011(平成23)年度の介護保険法の改正内容

今までの介護保険制度改正の中で特に注目したいのは、

2011(平成23)年度の制度改正。

利用者側にとっては2005年・2014年ほどのインパクトはないのですが、

「地域包括ケアシステム」

という現在の介護保険サービスの礎となる概念が登場します(後述)。

これまでの介護保険法制度改正

2005年・2018年・2011年・2014年・2017年と、

介護保険制度改正は行われています(それぞれ施行は翌年度)。


特に注目したい改正内容について、時系列に沿って見ていきましょう。

2005(平成17)年度の介護保険法の改正内容

初めての制度改正です。

介護保険はもともと、施行から5年後をめどに必要な見直しを行うことが決まっていました。

このときの改正は、 

「制度の持続可能性の確保」

「明るく活力のある超高齢社会の構築」

「社会保障の総合化」 

が基本的視点となっています。


特に注目したい実際の変更点は

  • 予防重視型システムへの転換
  • 施設給付の見直し

この2つです。

まずは、予防重視型システムへの転換。


この時まで、認定区分は

要支援

要介護1

要介護2

要介護3

要介護4

要介護5

の6段階でした。


しかし2005年の改正で、

「要支援」は「要支援1」に

「要介護1」は「要支援2」と「要介護1」に分けられ、

合計7段階となったのです。


そして要介護者への給付「介護給付」に対し、

要支援者への給付を「予防給付」とします。


要支援者のケアマネジメントは、新たに創設した

地域包括支援センター」が行うこととなります。

また、要介護・要支援状態となる恐れがある方を対象に市区町村が

「地域支援事業」を実施するようになりました。 


そして、施設給付の見直し。


なんと、このときまで介護保険施設の食費・居住費は保険給付の対象だったのです。

まだ多床室がメインだったこともあり、

特別養護老人ホームは本当に格安で暮らすことができるありがたい施設でした。


しかし「居宅の利用者と比べてあまりにも不公平」との声が大きく、

この改正を機に食費・居住費は給付対象外(全額自己負担)となりました。


これらの費用には収入により負担限度額が設けられたものの、

やはりご家族にとってはかなりの負担増でした。

当時私は特養に勤めていたのですが、ご家族から

「これじゃ、何のために特養に入れたのか分からない!」

 と詰め寄られたのを覚えています。


また2005年の制度改正は、他に

  • 地域密着型サービスの創設
  • 介護サービス情報の公表
  • 負担能力を細かく反映した第1号被保険者の保険料の設定

なども行われています。


また、「痴呆」という用語を「認知症」へ変更しました。

今ではすっかり定着していますね。 

2011(平成23)年度の介護保険法の改正内容

次の大きな制度改正は2011年。

この改正の主な目的は、

高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう

医療・介護・予防・住まい・生活支援を提供すること。

いわゆる「地域包括ケアシステム」の実現です。


この「地域包括ケアシステム」、介護保険を語る上では欠かせない用語です。

定義は以下のようになります。


「生活上の安全・安心・健康を確保するため、

 医療・介護・予防・福祉サービスなどの生活支援サービスが

 日常生活圏内で適切に提供できるような地域体制のこと。 

 この地域包括ケアが網羅する区域は、おおむね30分以内に駆けつけられる圏内。

 具体的には中学校の校区程度の広さを基本とする。」


つまり、

「その人が住んでる地域に医療や福祉の機能をたくさん蓄えて、

 基本的には地元で高齢者の面倒を見てね

ということなんですね。


さて、この地域包括ケアシステムを目玉とした2011年制度改正のポイントは

次の6つの柱で構成されています。


  • 医療と介護の連携の強化等
  • 介護人材の確保とサービスの質の向上
  • 高齢者の住まいの整備等
  • 認知症対策の推進
  • 保険者による主体的な取組の推進
  • 保険料の上昇の緩和


この中でもとりわけ注目したいのが、医療と介護の連携の強化。 

その取り組みのひとつとして、 

複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)の創設があります。


これは、 

・施設への「通い」(デイサービス)

・短期間の「宿泊」

・自宅への「訪問介護」

・看護師などによる「訪問看護」

を組み合わせることで、地域に密着した家庭的な環境の中で

介護と看護の一体的なサービスを受けることができるシステムです。

料金は1ヶ月の定額制になっています。


医療サービス・介護サービスを同じ事業者が提供することで、

より柔軟に利用者のニーズに対応することができます。

事業者にとっても、臨機応変な職員配置が可能になるとともに

その人に対するケア全体をバランス良く構築しやすくなるというメリットがあります。


もうひとつ、 介護人材の確保とサービスの質の向上にも着目してみましょう。


まず、介護サービス事業所において事業所指定の欠格要件と取消要件に

労働基準法等違反者が追加されました。当たり前のことですね。


当時は「介護」といえばブラック企業の代名詞であり、サービス残業も当然でした。

ほとんど休みが取れず、過労でうつを発症する職員が大勢いたのです。

もちろん退職者は続出、現場スタッフの育成もままなりません。

これは「介護資格者の介護職離れ」をくい止めるための施策といえるでしょう。


また、介護福祉士や一定の教育を受けた介護職員による「痰の吸引」を可能としました。


本来痰の吸引は医師・看護師などの医療職にのみ許されたもの。

しかし、例えば特別養護老人ホームは、夜間は基本的に介護職しかいません。

夜勤中、痰がガラガラして苦しむ利用者さんを放っておくわけにはいかず

当時介護職であった私も見よう見まねで痰の吸引を行っていました。

禁止されていることは重々承知していましたが、やらざるを得なかったのです。


多くの施設でのこのような状況を受け、

「どうせ介護職が痰の吸引をやらなければならないなら、管理して適切に実施させよう」

という意図からの見直しとなりました。

介護保険制度改正の経緯と歴史

介護保険制度改正の歴史は

・施設から在宅へ

・国から自治体へ 

と、より国の負担を軽減する方向へ進んでいきます。


そんな流れの中、2014年(平成26年)の改正は行われました。

このときの主なテーマは以下の5つです。


  • 予防給付(介護予防訪問介護・介護予防通所介護)を総合事業に移行
  • 予防給付を地域支援事業に移行
  • 特別養護老人ホームは、在宅生活が困難な中重度の要介護者を対象とする
  • 一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引き上げ
  • 低所得の施設利用者の食費・居住費の軽減措置条件に資産などを追加

在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える機能に重点化

それまで特別養護老人ホームは要介護1以上の方が入所できました。

しかし特養を

「在宅での生活が困難な中重度の要介護者を支える機能に重点化」させる意から、

その入所対象を「要介護3以上」と引き上げたのです。


すでに入所している要介護1・2の方が退所させられることはなかったようですが、

制度施行直前の「駆け込み区分変更」「駆け込み入所」が多くあったのを覚えています。

低所得者の保険料軽減を拡充

65歳以上の第1号被保険者のうち、低所得である方の介護保険料を軽減しました。

ただし消費税率10%が先送りされたため増収が見込み違いとなり、その対象者は

「年金収入80万円以下」の最も低いグループのみとし、軽減率も圧縮されました。

一定以上の所得のある利用者の自己負担を2割へ引き上げ

原則として、65歳以上の被保険者のうち所得上位20%に相当する基準である 

「合計所得金額160万円以上(単身で年金収入のみの場合280万円以上) 」

の方の介護サービス利用料が、1割負担から2割負担に引き上げられました。


要するに今までの倍になったわけですから、利用者への衝撃は相当なものでした。

やむなくサービス利用を減らした方も大勢いたのです。

低所得の施設利用者の食費・居住費を補填する補足給付の要件に資産などを追加

2005年の改正では、特別養護老人ホームなどの食費や居住費が

介護保険の給付対象から外れました。

その代わり前年度の所得により、それら費用の軽減措置がとられていたのです。

しかしお年寄りというものは、所得は少なくとも資産はある方が多いもの。そこで、 


預貯金等が単身1000 万円以上・夫婦 2000 万円超の場合は対象外 

・世帯分離した場合でも、配偶者が課税されている場合は対象外

・給付額の決定に当たり、非課税年金(遺族年金・障害年金)を収入として勘案


という条件が追加されたのです。 

しかし1000万円程度のなけなしの老後資金で

軽減措置から外された方とそのご家族たちは、納得いかない思いであったようです。


また夫婦の世帯分離という裏技が使えなくなったため、80代90代で離婚する方もいました。 

その他の制度改正事項

肝心の2014年改正ポイントがもう一つ。

予防給付(介護予防訪問介護・介護予防通所介護)の総合事業移行です。


総合事業とは、国ではなく各市区町村が主体となって展開していく介護予防事業。

要支援以下に認定された人を対象として、

「市区町村が中心となり、その地域ならではの介護予防サービスを充実させ、

 地域の中で支え合う体制を作る」ということを目指しています。


今までと変わらず訪問型サービスや通所型サービスを使うことはできますが、

介護事業者だけではなくNPO団体・ボランティア団体・民間企業なども参入します。


「要支援者の介護保険外し」などと揶揄されるため誤解されやすいのですが、

総合事業自体は介護保健制度内のものであるため、

基本的にその財源は介護保険でまかなわれます。


しかし総合事業は、介護給付とは違って市区町村に対する給付上限額が設定されています。

もしオーバーしたら市区町村の持ち出しとなり、そこが頭の痛いところなのです。

ですから自治体によってはケチな総合事業しか展開しないのではないか、 

自治体間にサービスの格差が生まれるのではないか、ということが懸念されています。

介護保険法は今後も改正される

そして現在リアルタイムで迫っている2017年のの制度改正。施行は2018年度からです。

特に利用者に直接影響のある内容としては、

  • サービス利用料3割負担の導入(平成30年8月から)
  • 高額介護サービス費の自己負担上限の引き上げ(平成29年8月から)
  • 福祉用具貸与価格の見直し
  • 新しい介護保険施設である「介護医療院」の創設
  • 介護保険と障害福祉を融合した「共生型サービス」の実施

があります。


特に3割負担となる方は、たった3年で負担額が3倍となったことになります。

要介護5で負担限度額まで利用した方は、自己負担額が3万円代から10万円代に。

もはや血も涙もないと言わざるを得ませんが…


しかし超高齢化社会の到来にともない、介護保険の財源は今以上に国費を圧迫します。

さらなる利用者の負担増は避けられないでしょう。

一方で認定基準とサービス利用については、現在より厳しくなると予想されます。


今までの改正の経緯がそれを物語っています。

まとめ

こうして見ると、開始した当時の介護保険利用者はなんと恵まれていたのかと思います。

しかし超高齢化社会の本番はこれからです。

団塊の世代が全て75歳以上となる「2025年問題」はもうすぐ目の前です。

おそらくその頃には、

「平成時代の介護保険は良かったなあ」と皆が嘆くことになるでしょう。


今後も介護保険制度改正は続きます。

日本人が「もはや自分の老後は自分で守るしかない」という結論に至る日も遠くありません。

来るべき大介護時代に備えて常に制度の基本は把握し、

個々の対策を講じておきたいものです。

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