(公的)介護保険による住宅改修費用とその助成制度について

一定の条件を満たせば、(公的)介護保険加入者は、住宅改修費用の大部分を助成してもらえます。介護保険の定める住宅改修は大きく分けて5つ(6つ)の類型に分かれ、それぞれが各利用者にとって必要であるかが審査されます。審査に通ると、費用が助成されます。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

介護保険によって住宅改修にかかる費用が軽減される




住宅改修は、工事内容によっては10万円を超えることが珍しくありませんが、(公的)介護保険に加入していて一定の条件を満たした場合には、その費用の大部分(9割または8割相当)が助成される仕組みとなっています。

※なお、介護保険には民間のものもありますが、本稿では扱いません。

介護保険の住宅改修の対象者

介護保険の対象者であることが必要です。

具体的には、以下のすべてを満たした人です。



  • 40歳以上の方(40歳未満の方は利用できません)
  • 要支援・要介護の認定を受けているか、申請中の方
  • 介護保険料をきちんと納めている方
  • 住宅改修を行おうとしている住居に居住している方


※要支援・要介護の申請中でも介護保険によろう住宅改修の手続きを行うことができますが、審査の結果非該当となった場合には、助成されません。


介護保険の住宅改修の費用

介護保険による、住宅改修費用の助成が認められている工事類型としては、以下のものがあります。

  • 手すりの取り付け
  • 段差の解消
  • 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床または通路面の材料の変更
  • 引き戸等への扉の取替え
  • 洋式便器等への便器の取替え
  • その他上記の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修


ただし、これらの類型に当てはまる場合であっても、助成を受けるためには、これらの類型の工事が、その利用者にとって必要であると認められなければなりません。

各改修の種類について

業者や行政によっても異なりますが、下記の内容が主となっている。


  1. 手すりの取り付け段差の解消
  2. スロープの設置や、床のかさ上げをする工事など
  3. 床材などの変更(移動の円滑化および滑り止めの防止を目的とする場合に限ります。)
  4. 扉の取替え(開き戸から引き戸・折り戸などへの変更)
  5. 便器の取替え(和式便器から洋式便器への取替えなど)

が主な改修の種類になっている。


費用に関しては各業者によって異なり、金額も高価になっている。

繰り返しになりますが、これらの費用が無条件に支給されるというわけではなく、「これらの改修を通じて、どうしたいのか」を説明する理由書の内容に応じて審査されます。

理由書の記載についても、別稿でまとめましたので、ここでは詳述しません。

介護保険による住宅改修の自己負担割合

自己負担割合は所得金額によって変わってくる。

介護保険制度が始まってから、自己負担割合は原則1割とされていましたが、2015年8月の介護保険改正にて、一定以上の所得がある方の自己負担割合が2割に引き上げられました。


自己負担額が増加する条件は、「年間所得が160万円以上であること」です。ただし、これは収入の種類や家族構成などによっても異なります。


さらに2018年8月の介護保険改正では、2割負担の人の一部の方は3割負担に引き上げられます。

支給限度額

支給限度額は、20万円です。

※要支援・要介護の等級を問いません。


後述の通り、実質的な支給限度額は、18万円(16万円)となります。


この限度額は、原則として1人1回のみ与えられますが、例外もあります(後述します)。


介護保険の支給額について




支給限度額は、「20万円」ですが、この20万円というのが少々厄介です。

例えば、自己負担割合が1割のAさんが、介護保険に基づく住宅改修をしたとしましょう。

工事の総費用は諸経費を合わせて20万円ちょうどの場合、自己負担割合は1割なので、反対に介護保険による支給は、20万円×0.9=18万円ということになります。


この18万円(2割負担の場合は16万円)が、実質的な支給限度額ということになります。

つまり、20万円以上の費用が掛かる住宅改修をしたとしても、それを超える費用は、全額自己負担ということになります。


例えば、諸経費合わせて30万円の住宅改修を行ったとしますと、その金額は、2つに分割されて考えられます。



  • 介護保険による支給対象:20万円分
  • 自己負担分:10万円分


上記のようになり、20万円相当分については、上記の通りで、18万円(16万円)が支給されます。

一方で、自己負担分については、支給されません。


したがって、この場合は、30万円分の工事のうち、18万円(16万円)が介護保険によって支給され、残りの12万円が自己負担分、ということになります。

一度に20万円を使い切らなかった場合

例えば、最初に10万円分の住宅改修をして、介護保険による費用の助成を受けたけれども、その後新たに10万円分の工事をした場合、再び助成を受けられるか、というものです。

結論としましては、限度額20万円は一度で使い切る必要はありません。

複数回に分けて、使用することが可能です。


したがって、一度で使い切ろうと、大規模な工事をする必要はありません。

※尤も、必要な工事は一度にまとめてやったほうが諸経費・費用が安くなるということはあり得ます。

再度20万円支給される場合がある

これは、「限度額のリセット」制度と呼ばれます。

次の2つの場合において、リセットを受けることができます。



  • 引っ越しをした場合
  • 要介護度が3段階以上上昇した場合


これらのリセットは、1つの住居(引っ越しによるリセット)または、1人の介護保険被保険者(3段階リセット)につき、1回までです。


条件を満たした場合、枠を少しでも使っていたら、その枠が再び20万円に復活します。

上記の状況では、さらなる住宅改修が必要だろうという趣旨からです。


これについて、さらに細かい論点について知りたい方は、別稿でまとめていますので、そちらをご覧ください。

住宅改修費用の支払い方

住宅改修費の支払い方法は、大きく分けて、2つあります。

どちらの支払い方法を選択するかにより、途中の手続きや必要書類が異なりますので気を付けましょう。



  • 償還払い
  • 受領委任払い


償還払いが基本

まず、工事が完了した段階において住宅改修費用の全額をいったん支払います。

その後、保険者(市町村)に対して支給申請を行い、審査に通った場合には、助成対象額が支給される、というものです。


原則として、こちらの償還払いが原則ですが、「最初に工事費用全額を用意するのが負担である」などといった方は、下の受領委任払いが利用できます。

業者によっては受領委任払いができる

保険者(市町村)が実施している講習を受講し、保険者(市町村)と受領委任契約を結んでいるなどの、一定の条件を満たした業者による住宅改修では、受領委任払いが利用できます。



受領委任払いとは、工事完了時点において、住宅改修工事費用の1割または2割のみ(自己負担割合によります)を支払えばよく、残りの割合は保険者(市町村)が業者に支払う、というものです。


なお、受領委任払いを選択した場合においても、工事後の手続き・審査が必要なことは変わりありませんので、気を付けましょう。


住宅改修の注意点

大きく分けて、2つのことに気を付けましょう。

  • 審査に通らない場合は、全額自己負担になります
  • 工事代金・内容等、業者選びは慎重に行いましょう


前者については、とりわけ入院中において、退院の予定を前提として工事を行ったけれども、退院予定が無くなった場合には、審査に通らず費用は全額自己負担になるので気を付けましょう。


また、介護保険料を支払っていないなど、一般的な介護保険サービスを受給するための要件に問題がある時には、住宅改修費用が正しく支給されない可能性があります。


後者については、支払った金額に対して、適当でない品質の工事をする業者もおり、社会問題になっているので気を付けましょう。

見積もりは2社以上取りましょう

どんなに魅力的な条件を提示している住宅改修業者がいたとしても、見積もりは複数社とることを強く推奨します。

そのうえで、ケアマネージャーとともにどちらが最適かを一緒に考え、判断されるとよいでしょう。

まとめ



いかがだったでしょうか。

超高齢社会の到来により、住宅のバリアフリー化は、急務であるといえます。


そこで、頭を悩ます要因の一つである費用に関する負担や不安を軽減するために、この住宅改修費用の助成制度があります。


これらの制度を上手に活用され、要介護者にとって優しい社会になることを希望いたします。

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