国民年金未払いは差し押さえ対象!差し押さえの流れや回避方法も解説

国民年金保険料を未払い(未納・滞納)でいると財産が差し押さえられてしまいます。今回、最終催告状や強制徴収を含む年金未納による差し押さえの流れや、対象事例、回避方法を財産を差し押さえられた人の実例を元に解説します。また、差し押さえが違法となるケースも紹介します。

年金保険料未払いによる差し押さえの流れと回避方法


「年金保険料を支払わなければならないけれど、毎月高いな。」そう感じている方も多いのではないでしょうか。年金保険料は、納付書を使って銀行やコンビニで納めるため、ついうっかりしていて期限内に納め忘れてしまった経験を持っている方もいるかもしれません。


もし年金保険料を納め忘れ続けていて、ある日突然、年金保険料未払いによる差し押さえの催告状が届いてしまったら、いつ何が差し押さえられてしまうのか、この先どうなってしまうのかと不安になってしまいますよね。


そこで今回の記事では、「国民年金未払いによる差し押さえ」について、

  • 日本の年金制度とは
  • 国民年金保険料未払いの現状
  • 年金未払いから差し押さえまでの流れ
  • 年金未払いによる差し押さえ実例
  • 年金未払いによる差し押さえ回避方法
以上のことを中心に解説していきます。

この記事を最後まで読んでいただけたら、年金未払いによる差し押さえの実態が分かり、万が一、年金未払いによって催告状が届いてしまった場合でも、冷静に差し押さえを回避する行動をとって、大切な財産を守ることができます。

ぜひ、最後までご覧ください。

日本の年金制度をおさらい

日本の年金制度は、生きているうちに誰にでも訪れるであろう老後の生活を、金銭面で安心して過ごせるようにと作られました。


今働いている現役世代が支払っている保険料を、高齢者などの受給世代の年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」を基本とした財政方式を採用しているのが、日本の年金制度の特徴です。


基本的に日本に住んでいる20歳以上から60歳未満の全員が保険料を納めて、その保険料を現役世代を引退した高齢者などに年金として給付する仕組みとなっています。

国民年金と厚生年金の2種類

社会保障の一環として国が運営しているものを「公的年金」といい、日本の公的年金には、「国民年金」と「厚生年金」の2種類が存在します。


「国民年金」は、20歳以上60歳未満の国民全員が加入する保険です。具体的には、自営業者などの国民年金のみに加入している人が、毎月一定額の保険料を個人で納めることになっています。


「厚生年金」は、民間企業に勤めている会社員や公務員等が加入する保険です。会社員や公務員で厚生年金に加入している人は、毎月、月給の一定率の保険料を納めるようになっています。保険料は、会社と折半して支払う仕組みとなっており、毎月の給料から折半された保険料が天引きされるようになっているので、個人で納める必要はありません。



国民年金の未納期間があると実は損?

国民年金は、保険料の納付月数により受給額が決められます


具体的には、20歳から60歳までの40年間しっかりと保険料を納めていた場合には、満額を支払ったこととなり、年金受給時には一か月に約6万5000円を受け取ることができます。


仮に今後の年金保険料と受給金額が現在と同等だと仮定し、保険料を40年間満額を支払い、65歳から80歳まで15年間年金を受け取るとすると、


国民年金支払額

16,540円(月額)×12ヵ月×40年=約794万円

国民年金受給額

約65,000円(月額)×12ヵ月×15年=約1170万円


支払額約794万円に対して、約1170万円の年金を受け取ることができ、約376万円も得することになります。


しかし、上記の内容を知らずに「自分たちの老後に年金がもらえるのか心配」、「自分たちの保険料を高齢者にあげるなんて」という不安や不満を持ち、国民年金を納付しないようになると、未納の期間分、年金支給額がどんどん下がってしまいます


具体的に20年間納付してその後の20年間は未納の場合は、

約65,000円×12か月×240(ヵ月)/480(ヵ月)=約39万

満額支払いをして得られる給付額の半分になってしまいます。


年金は終身保障制度であり、80歳よりも長く生きることも十分考えられますので、年金をしっかり支払ったほうがお得になる場合も十分にあり得ます。

国民年金保険料未払いの状況を解説

国民年金保険料は、満額支払った方が後々お得になる場合があることを理解していただけたと思います。


しかし現役世代の中には、うっかり保険料を納め忘れてしまった人だけではなく、自分たちの老後の資金が心配だったり、現在の年金制度に不満を持っているために、国民年金を支払わなくなってしまった人たちがいるのも現状です。


ここからは、国民年金保険料未払いの現状を詳しくお伝えしたいと思います。

未納と滞納の違いに注意

平成30年度の保険料納付率は68.1%で、前年度の66.3%と比べると納付率は改善しているものの、31.9%の人たちが納付をしていない計算になります。


しかし、約3割の人が国民年金未払いで滞納しているのかというとそうではありません。

国民年金未払いは、「未納者」と「滞納者」に分けられます。


「未納者」はまだ保険料を納めていない状態の人のことを指し、経済的理由による免除者や学生納付特例に該当する人たちがこれに当てはまります。


それに対して、「滞納者」は納付期限を過ぎても納付しない人を指し、支払う能力や資金があるにも関わらず納付を拒否している人たちがこれに当てはまります。


国民年金未払いの滞納者は、公的年金加入者6,745万人のうち138万人であり、全体のわずか2%です。国民のほとんどがしっかり納付を行っているのが現状です。


(「平成30年度の国民年金の加入・保険料納付状況」より)

差し押さえ対象者は「控除後所得額300万円以上かつ未納期間7ヵ月以上」

国民年金を滞納していると、公的年金の運営している日本年金機構から年金の支払いを催促されます。


失業などの経済的な理由により支払いができない場合には、前述のように未納者として免除や減額の対象者となる場合がありますが、経済的な理由なく国民年金を滞納していると、差し押さえ対象者となってしまう可能性があります


具体的に、差し押さえ対象者となるかどうかは基準が決められており、平成30年度では「控除後所得額が300万円以上かつ未納期間7ヵ月以上」という基準が定められています。


控除後所得額300万円とは年収換算で400万円前後となり、この差し押さえ対象基準中に差し押さえの対象者となった人は、半年で9万人を超えています。

基準は年々厳しくなっている上に、年間差し押さえ件数は増加

差し押さえ対象基準は定期的に見直しがされており、基準は年々厳しくなっています。

差し押さえ基準
2014年度控除後所得額が400万円以上かつ未納期間13ヵ月以上
2017年度控除後所得額が300万円以上かつ未納期間13ヵ月以上
2018年度控除後所得額が300万円以上かつ未納期間7ヵ月以上


実際に、2014年度は「控除後所得額が400万円以上かつ未納期間13ヵ月以上」という基準が、2017年度には「控除後所得額が300万円以上かつ未納期間13ヵ月以上」に所得額が引き下げられ、翌年の2018年度には上述のように「控除後所得額が300万円以上かつ未納期間7ヵ月以上」に未納期限の引き下げを行いました。


また基準の強化に伴い、年間差し押さえ件数も年々増加傾向にあります。

差し押さえ件数
平成28年(2016)13,962件
平成29年(2017)
14,344件
平成30年(2018)
17,977件

(日本年金機構 平成29年度業務実績報告書/平成30年度業務実績報告書)

年金の未払いで財産が差し押さえられるまでの流れ。督促状はいつから?

「控除後所得額が300万円以上かつ未納期間7ヵ月以上」という基準が定められているから自分は当てはまらないと油断していると、定期的に行われている差し押さえ対象の基準変更により、差し押さえ対象者になってしまう可能性も十分に考えられます


実際に、平成30年の差し押さえ強化徴収集中取組月間中には、9万件以上の対象者に最終催告状が送付され、そのうち控除後所得が1,000万円以上ある6千人以上にも差し押さえ対象者として最終催告状が送付されています。


年金未払いの滞納は低所得者だけの問題ではなく、いつ誰にでも起こりうる問題であり、決して他人事ではありません。


そこで、年金未払いによって財産が差し押さえられるまでの流れを、順を追ってご説明していきます。

納付督励

年金保険料を滞納してしまうと、国民年金の業務を請け負っている国民年金機構から連絡が来たり書類が届くようになります。


納付督励」は、未納が確認された時点にまず行われるものです。


具体的には、国民年金保険料の納付期限までに納付がない場合に、年金担当者から「保険料が未納になっています」と電話が来たり、保険料納付を促す文書が送付されたりします。


納付督励の時点では、単に納付忘れや振替口座の残高不足が原因で未納の場合も多く、連絡は確認程度にとどまります。

特別催告状

「納付督励」が行われたにも関わらず滞納が続く場合には、次の段階として「特別催告状」が郵送され、至急保険料を支払うように催促されます


「特別催告状」は、年金機構から送付される年金保険料の請求書のようなもので、封筒の色により差し押さえ危険度が異なります。

特別催告状差し押さえまでの危険度
低い
黄色
高い

始めは青の封筒、次は黄色、最後は赤い封筒に変わり、赤になるほど差し押さえまでの危険度が高まります。


具体的には、青の封筒の文書には滞納状況の説明が書かれている程度ですが、赤の封筒には差し押さえの準備段階に入ることが記載されており、強い警告文書となっています。

最終催告状

「特別催告状」を送付したにも関わらずさらに滞納が続く場合には、次の段階として「最終催告状」が郵送されます。


「最終催告状」は、保険料の納付書とともに、指定の期限までに納付されない場合には滞納処分(差し押さえ)を開始することが明記されています。


通常と同じ支払い方法が認められるのが、この最終催告状までです。

督促状

「最終催告状」を受け取ったにも関わらず指定期限までに保険料を支払わないでいると、次の段階として「督促状」が郵送されます。


「督促状」には、指定期限までに納付されない場合には、延滞金が課せられるほか、滞納者の世帯主や配偶者の財産差し押さえを実施することが明記されています。


延滞金は、納付期限の翌日から保険料に上乗せされ(2.6%~14.6%)、納付期限が経過するほど利率が高くなるように定められています。


また通常、保険料の徴収権利は2年で失効しますが、督促の段階に入ると時効が中断されるため、保険料を納付し終えるまで債務が残るという点でも注意が必要です。

財産調査・差し押さえ予告

「督促状」を受けとった後も期限までに納付がない場合、滞納悪質者と判断され、いよいよ差し押さえが現実的なものとなってきます。


その場合にまず、差し押さえの前に財産調査が行われます。


この財産調査には、「財産調査」と「身辺調査」が二つの調査があり、差し押さえに充てられる財産状況を調べるために行われます。


財産調査

  • 給料や報酬の調査
  • 銀行口座の調査
  • 不動産の確認
  • 自動車保有の有無
  • 生命保険加入の有無 等
身辺調査
  • 所得の調査
  • 戸籍の調査
  • 勤務先や取引先の調査
  • 住民票の取得
  • 家族構成の確認 等
以上のような財産調査が実施されたのち、財産調査をもとにした「差し押さえ予告通知書」が送付されます。

差し押さえ予告通知書には、指定した期限までに納付がされない場合には差し押さえを実行することが明記されています。

差し押さえによる強制徴収

差し押さえ予告による納付期限までに保険料・延滞料を納付しない場合には、財産調査の結果により年金事務所が速やかに財産の差し押さえによる強制徴収を行います。


具体的には、給与や預貯金、金融資産などは速やかに年金事務所によって収納されます。不動産や自動車などの差し押さえをした財産は、公売などにかけて金銭化してから、未払い分の保険料に充てられます。

年金の未払いで財産を差し押さえられた人の実例を紹介

ここでは、年金未払いで財産を差し押さえられてしまったI氏の実例をご紹介します。


勤めていた会社を退職し、個人事業主として建設業を開業したI氏。会社に勤めていた時には厚生年金を支払っていましたが、退職したため厚生年金も脱退をしました。


本来でしたら、ここで国民年金に加入しなければならないのですが、I氏は面倒だからと国民年金への変更をせず、開業当初から国民年金保険料を支払っていませんでした。


それから3年ほどが経過し、I氏の自宅には特別催告状が届くようになりました。

青色の封筒から始まり、黄色、赤と届く色が変わっていってもI氏は催告状を無視して、ついに最終催告状が届いても保険料を納付することはありませんでした。


その後に年金事務所の担当者が訪れた際も、頑なに年金を支払うことを拒否し続け、ついにその3ヶ月後に差し押さえによる強制徴収が行われて、I氏の口座残高は0円になってしまいました。

赤色の特別催告が来たが、年金が支払えない場合は交渉の余地あり

年金の滞納を続けている人は、納付督励や特別催告状が届いても特に何も起こらないからと無視を続けている方も多いようです。


しかし、いよいよ赤色の特別催告状が届く段階となると、差し押さえの危険度も高くなっていることを示しています。このまま無視を続けていると、最悪の場合には財産を差し押さえられることになってしまいます。


経済的な理由などにより年金が払えない場合、赤色の特別催告の段階なら、まだ何とか分割納付に変更してもらえたり免除申請を行える交渉の余地が残っています


もし大きな騒ぎにならないように解決したいと思うようでしたら、この段階が交渉のラストチャンスだと肝に銘じて、早急に窓口に相談するようにしましょう。

差し押さえの対象となるものとならないものについて

差し押さえには、対象となるものと対象にはならないものが定められています。


対象となるもの

  • 給与の最大4分の3
  • 銀行預貯金
  • 小切手などの有価証券
  • 自宅などの不動産
  • 自動車などの動産
対象とならないもの
  • 給料の4分の1
  • 家電や家具などの生活用品
  • 食料や衣料などの生活必需品
  • 年金や生活保護費
すべての財産が差し押さえられるわけではなく、最低限の生活ができるように差し押さえの対象とならいものも定められていますが、ほとんどの財産は差し押さえの対象になるといっても過言ではありません。

年金未納による差し押さえを回避する方法とは?

年金未納が良くないこととはいえ、できることならば自分の大切な財産は差し押さえから守りたいと誰もが思うはずです。


ここでは、年金未納による差し押さえを回避する方法を解説していきます。

免除や納付猶予を利用する

失業や倒産が原因で突然収入が激減してしまった場合には、申請することにより特別免除や納付猶予を利用することができます


申請方法は、

  1. 国民年金保険料免除・納付猶予申請書をダウンロードする(窓口入手も可)
  2. 国民年金保険料免除・納付猶予申請書に必要事項を記入する
  3. 必要書類を集める(国民年金手帳や雇用保険受給者証など)
  4. 国民年金保険料免除・納付猶予申請書と必要書類を提出する
以上の流れになります。

申請や必要書類については、申請内容の記入間違いや書類不足とならにように予め役所の国民年金担当窓口やお近くの年金事務所に相談してみることをおすすめします。

未納分を分割払いで支払う

免除や納付猶予に当てはまらない場合や、未納分を一度に全額納付することが難しい場合には、分割納付に変更してもらうことも可能です。


未納期間によっては一度に数十万円という多額を支払う場合もありますので、分割を希望する場合には、こちらも役所の国民年金担当窓口やお近くの年金事務所に相談してみましょう。


また、手元にある国民保険納付書は、納付期限を過ぎてしまっていても延滞金はかからず、納付期限を過ぎてから2年間は、その納付書を使用して納めることができます。


ただし、使用期限とかかれた納付書は期限を過ぎてから使用することが認められていませんので注意が必要です。

参考:口座を差し押さえするのは違法という判決も?

「2019年9月、給与が振り込まれた数日後に口座を差し押さえたのは違法ではないか」と差し押さえを受けた男性による裁判が行われました。


裁判長は、「振り込み数日後の口座預金は財産ではなく給与とみなし、差し押さえは違法」とした判決を全国で初めて下しました。


この裁判以前には「給与は口座に振り込まれた瞬間に、財産としての預金となる」という法の解釈のもと、給与が入金された当日に差し押さえが起きるという事例が相次いでいました。


そのような法解釈は問題があるとして、2013年以降には給与の入金当日に差し押さえをするのは違法とする判決が出始めました。そして今回の裁判では、入金数日後の給与の差し押さえも違法とする判決が初めて出され、口座差し押さえの違法性が認められるようになってきました。

まとめ:年金保険料を支払い、未払いによる差し押さえは回避しよう


年金保険料未払いによる差し押さえの流れと、差し押さえの回避方法について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。


今回の記事のポイントは、

  • 日本の年金制度は、20歳以上から60歳未満の全員が保険料を支払う仕組みで「国民年金」と「厚生年金」の2種類がある
  • 国民年金未払い者には、「未納者」と「滞納者」がいる
  • 年金未払いから差し押さえまでには、納付督励から強制徴収までいくつもの段階を踏んだ流れがある
  • 差し押さえを回避するには、分割払いや保険料免除・納付猶予を申請する方法がある
でした。

年金保険料の未払いを甘く見ていると、家族や周りの人の財産も失い、取り返しのつかないことになってしまう可能性もあります。

年金事務所や役所の年金相談窓口は、困っている方の味方になり、年金未払いによる差し押さえが起きないように相談に乗ったり提案をしてくれたりするはずです。年金保険料の支払いに困ってしまったときには、ぜひ一度相談してみてください。

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