有給休暇義務化の罰則って?有給休暇の罰則規定と注意点を解説

働き方改革の一環として、2019年4月から年5日の有給休暇取得が義務化され、労働基準法に違反すると30万円以下の罰金罰則が科せられます。この記事では、有給休暇取得義務化に違反した場合に科せられる罰則の内容を解説すると共に、罰則を受けないための注意点についても紹介します。

有給休暇が義務化!罰則・罰金30万円規定と企業がすべきことを解説

仕事が忙しいと有給休暇が取得できず、使えないまま消滅してしまう人もいるのではないでしょうか。


働き方改革により有給休暇義務化になりましたが、果たして本当にこれで安心して有給休暇が取得できるのかと不安に感じる人も多いと思います。


日本は特に周囲を気にするあまり、本当は休みたいのに休めないという人が多いと聞きます。


有給休暇義務化はすべての企業が対象となっており、違反した場合の罰則は一人当たり30万円以下の罰金に処せられます。


今回は、有給休暇義務化について、

  • 違反した場合の罰則
  • 罰則を受けないための注意点
以上のことを解説します。

この記事を読めば、有給休暇取得の義務化に違反した場合はどのような罰則になるのか、内容や規定などが理解できるでしょう。ぜひ、最後までご覧ください。

有給休暇の義務化とは

2019年4月から、有給休暇の取得が義務化されました。政府が進める「働き方改革」として、労働者の労働環境をより良くするために施行されました。

そもそも、有給休暇とは一体どのようなものなのでしょうか。

有給休暇とは、正式には「年次有給休暇」と言います。有給休暇を使って休んだ場合、出勤していなくても給料が減額されない仕組みになっています。しかし、全ての人が有給休暇を取得できるわけではありません。

そこで、ここでは有給休暇の、
  • 取得できる条件
  • 取得できる日数
  • 義務化された理由
の3つの点について、詳しく解説していきます。

有給休暇が付与される条件

有給休暇には、取得できる条件が定められています。

その条件とは、
  1. 仕事を始めてから継続して半年間雇われている
  2. その期間内で全労働日の出勤率が80%以上
の2点です。
この継続勤務出勤率の2点を満たしていれば、有給休暇を取得することができます。

継続勤務とは、会社に在籍している期間のことを言うので、パートから正社員に変わったり、定年退職した後引き続き再雇用された場合も継続勤務の期間に含まれます。


出勤率は

実際の出勤日÷全労働日(暦日数から就業規則などで定められている休日を除いた日)×100=出勤率(%)

の計算式で出すことができます。

また、雇用形態は関係ないので、正社員だけでなく契約社員やパート、アルバイトでも条件をみたしていれば有給休暇を取得することができます。

有給休暇の付与日数

有給休暇を取得できる条件を満たしている人は、有給休暇を年10日取得することができます。

その後は、1年単位で取得できる日数が増えていきます。
勤続期間有給休暇日数
6ヶ月
10日
1年6ヶ月11日
2年6ヶ月12日
3年6ヶ月14日
4年6ヶ月
16日
5年6ヶ月18日
6年6ヶ月以上20日
勤続期間が長くなれば最大で20日間取得することができるようになります。

企業側が定めた労働時間が週30時間未満の短時間労働の人は、同じように企業側が定めた労働日数によって取得できる有給休暇日数が変わります。これを、比例付与といいます。

もし、雇用形態がアルバイトやパートの場合でも、企業側が定めた基準となる労働日数と労働時間が週5日以上、週30時間以上の場合は、比例付与ではなく、上記の表のように勤続期間によって有給休暇日数が決まります。

参考:有給休暇が義務化された理由

有給休暇が義務化された理由は、有給休暇を十分に取得できていない労働者が多かったためです。

それまでの有給休暇は、労働者が自分で会社に申請し、会社の許可をもらって取得するという仕組みでした。

しかし、実際自分からは申請しづらく、その理由に「仕事が忙しい」「人手不足で休めない」「周りに気を使って取得しづらい」「やる気がないと思われる」など、業務上の問題や精神的な問題がありました。
また、「緊急時のためにとっておく」という方も多く、これは緊急時以外は休みがとりづらい環境であるという事になります。

このように、労働者が十分な有給休暇を取得できない環境の職場が多く、日本は海外に比べて有給休暇の取得率が低い状況になっていました。

有給休暇の制度があっても、実際に使う人が少なかったので、それを改善するため「働き方改革」として有給休暇が義務化されました。

有給休暇取得の義務化の対象となる人

有給休暇取得の義務化の対象者は、有給休暇を年10日以上取得できる人です。
すべての労働者が対象というわけではなく、労働基準法の基準によって決められています。

有給休暇を年10日以上取得することができる人は、
  • フルタイムで働いている人の場合、今まで働いている年数が半年以上、なおかつ80%以上出勤している 
  • 契約社員・パート・アルバイトで働いている人の場合、今まで働いている年数が半年以上で、なおかつ80%以上出勤している 、さらに企業側が定めた基準となる労働日数・時間が週5日・週30時間以上

どちらかの条件を満たしている人のみです。

また、今年分の有給休暇を次の年に繰り越した場合、有給休暇を取得できる日数が合計で10日以上になることがあります。しかし、これは「有給休暇を年10日以上取得できる人」という条件には当てはまりませんので、注意しましょう。

また、管理監督者は、労働基準法で適用が除外されている項目もありますが、有給休暇の義務化は対象となっていますので、気を付けましょう。

有給休暇取得の義務化に違反した場合の罰則・罰金

2019年4月1日に働き方改革の一部が施行されましたが、実際にどのような制度なのか、有給休暇取得義務化と言われても実際はあまりよくわかっていないという人も多いと思います。


ここでは、働き方改革による有給休暇取得の義務化について、

  • 義務化対象となる企業
  • 労働基準法で定められた対象の罰則規定
  • 違反内容
  • どのような罰則に処せられるのか
以上のことを解説します。

内容をきちんと理解すれば、働き方改革は決して難しい制度ではありませんので、ポイントごとにチェックしていきましょう。

基準に違反した場合全部の企業が罰則の対象になる

職場内で、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉を聞いたことはありませんか。


有給休暇義務化とは、労働者が働き過ぎないようにしようという、国の考えから生まれた措置です。


主な内容は、以下のようになります。

  • 年に10日以上有給休暇を付与される従業員に対して、企業側は最低でも5日は取得(消化)させなくてはいけない

(参考・厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」より)


事業規模に関わらず労働者を雇用していれば、例え商店や中小企業であっても罰則の対象となります。守らなければ労働基準法違反となりますので注意が必要です。

罰則規定は労働基準法で2つ定められている

労働基準法では、

罰則規定罰則内容
労働基準法
第120条
30万円以下の罰金
労働基準法
第119条
6ヶ月以下の懲役
または
30万円以下の罰金

罰則規定が2つあります。


違反内容に関しましては次で詳しく解説しますが、まず有給休暇義務化を違反した場合は、労働基準法第119条120条による2つの罰則規定があります。


ここで書かれている30万円以下の罰金とは、一人当たりになりますので企業側は特に注意が必要です。

違反とされる内容は3つある

では次に、有給休暇義務化の違反とされる内容について見ていきましょう。


違反内容は、主に3つあります。

違反条項違反内容
労働基準法
第39条・第7項
年5回の年次有給休暇を
取得させなかった場合
労働基準法
第89条
使用者による時季指定を行う場合において、
就業規則に記載していない場合
労働基準法
第39条
(第7項を除く)
労働者の請求する時季に、
所定の年次有給休暇を与えなかった場合

有給休暇を希望したにもかかわらず、取得させなかった場合や年に1度も有給を取得できないような労働環境の場合、違反条項に引っかかる恐れがあります。


また、年5回という数字はあくまでも有給休暇の最低取得日数です。法定の基準日により10日以上付与されている場合は、心身の疲労回復などのためにも積極的に有給を消化するべきです。


企業側も、労働者が安心して有給休暇を取得できるような環境整備をすることが大切です。

注意:罰則は「一人当たり30万円以下の罰金」

先ほど解説した罰則の中にある「30万円以下の罰金」ですが、これは1回の違反に対しての罰金ではなく一人当たりの罰金です。


仮に労働者100人に対して有給休暇を取得させなかった場合、

  • 100(人)×30(万円)=3,000(万円)

3,000万円以下の罰金になる恐れがありますので、違反するととても大変だということがわかります。


このことから、意図せずうっかり違反してしまったということの無いように、きちんとした労働環境の対策が必要となります。

有給休暇義務化の罰則を受けないための注意点

有給休暇義務化は、企業側が環境改善をしなければ意図せず違反をする可能性も考えられます。


ここでは、罰則を受けないための注意点として、

  • 条件を満たしているならパートやアルバイトも対象である
  • 育児休業や介護休業していた労働者も対象である
  • 労働者の意思で5日休まなかった場合も違反となる
  • 計画的付与を行う場合には就業規定を変更する必要がある
以上のことを解説します。

また、
  • 年次有給休暇管理簿について
  • 不利益変更は避ける
以上の2点についても解説します。

有給休暇取得義務化は条件を満たしているならパートやアルバイトも対象

有給休暇取得義務化は、正社員にだけ付与されるものではありません。条件を満たせば、管理監督者や契約社員、派遣社員やパート、アルバイトも対象となります。


有給休暇取得の取得要件は、労働基準法により、

  1. 6ヶ月以上継続して働いていること
  2. 全労働日の8割以上出勤していること
以上の2点を満たしていれば対象となります。

パートやアルバイトなど出勤日数が少ない労働者の場合は、労働日数に応じて比例付与されます。

比例付与の対象となるのは、
  1. 週30時間未満で週4日以下の勤務である
  2. 年間の所定労働日数が216日以下である
以上の条件で働いている労働者です。

勤務日数が少ないパートやアルバイトは、最初から有給が無いものだと企業側だけではなく労働者も勘違いしやすいようです。

短期ではなく長期間雇用される場合は、誰でも有給休暇があることを知っておきましょう。

育児休業や介護休業していた労働者も対象

有給休暇を取得する要件の1つに、出勤率が8割以上であることが挙げられます。

  • 出勤率=出勤日数÷全労働日

出勤日数とは、実際に働いた日数となります。


ただし、以下の場合は出勤したものとみなして計算します。

  • 遅刻・早退をした日
  • 企業側の責任によって休んだ日
  • 出産前後で休んだ日(産前産後休暇)
  • 子供の育児のため休んだ日(育児休業)
  • 家族の介護のため休んだ日(介護休業)
  • 病気やケガで休んだ日(傷病休業)

子供の育児や家族の介護、病気やケガが理由で傷病休業していた場合は、数日ではなく長期間になる恐れがあります。


ですが、きちんとした理由があれば休んでも出勤とみなされますので、有給休暇はきちんと付与されます。

労働者の意思で5日休まなかった場合も違反となる

日本は海外よりも有給取得率が悪いと言われています。その理由の1つに、昔ながらの働き方、休まない文化というのが挙げられます。


そのため、企業側が有給取得を促しても、労働者本人が休むことに対してためらいを感じたり、部署の人たちに迷惑が掛かったりするのではないかと、後ろめたい気持ちになる人が多くいるようです。


有給休暇義務化は、労働者の意思で有給消化しなかった場合も違反となるため、企業側は安心して労働者が休めるための仕組みづくりもしていかなくてはいけません。

注意:年次有給休暇管理簿について

年次有給休暇管理簿」とは、労働者1人ずつの有給の日数や時季・基準日がわかるようにした書類のことです。


作成しなくても罰則に処せられることはありませんが、企業側が労働者を管理するために必要なものとなります。なお、作成した年次有給休暇管理簿は3年間の保存義務があります。


管理簿とありますが、必要な時にすぐに出力できるようなシステムであれば、データで管理しても問題ありません。


現在はパソコンが主流となっていますので、データで管理している企業が殆どだと言えるでしょう。

注意:不利益変更は避ける

有給休暇義務化のために、就業規則を不利益変更するケースも見受けられます。


ただし、不利益変更は、

  • 労働者が裁判を起こした場合、合理性が無いと判断された場合は変更が無効になる
  • 労働者の働く意欲が低下する恐れがある
  • 不利益変更したことが世間に知られた場合、業績が下がったり倒産したりする恐れがある
などのデメリットが生じます。

上手く就業規則を変更したつもりでも、労働者が不満に感じたら意味がありません。

退職者や休職者が続出した場合、人手不足になり最悪倒産のリスクも高まるかもしれないということを理解しておきましょう。

有給休暇の義務化による中小企業・会社側の対応

有給休暇の取得が義務化されたことによって、企業側もそれに合わせて対応しなければなりません。


では、企業側は具体的にどのような対応をとればいいのでしょうか。


企業側の対応としては、2つの選択肢があり、

  1. 個別指定方式
  2. 計画年休制度

のどちらかの対策をとる必要があります。

それぞれのメリット・デメリットがありますので、詳しく解説していきます。


また、不要な業務をなくしたり、有給休暇を取りやすいよう十分な人員を確保するなど、業務改善を行う必要もあるでしょう。

有給休暇の取得が選択できる個別指定方式

個別指定方式とは、期限内に5日以上有給休暇を取ることができそうにない労働者に対して、企業側が有給休暇の取得日を決める方式のことです。

個別指定方式のメリット

労働者と企業側の話し合いで有給休暇の取得日を決めることができます。労働者も自分の取得したい希望日を伝えやすくなり、不満も出にくいでしょう。

また、企業側が決めた有給休暇の取得日でも、労働者や企業側の都合で変更したくなった場合は変更することが可能です。

個別指定方式のデメリット

企業側が、労働者の有給休暇を個々に管理しなければいけなくなり、管理をする手間が大幅にかかるようになります。

管理がしっかりできていないと、「期限ギリギリにまとめて有給休暇を取得させなければいけない」ということになりかねません。そうなれば、業務に支障が出ることもありますので気を付けましょう。

計画年休制度の導入

計画年休制度とは、労働者の代表と企業側の労使協定によって、5日を超える部分の有給休暇を企業側が日にち指定できる制度のことです。

計画年休制度のメリット

労働者の有給休暇の取得日数を、個別で管理する必要がなくなります。労働者は確実に5日間の有給休暇を取得することができるので、義務違反になることもありません。

また、企業側が有給休暇を全労働者一斉に取得させることもあり、お盆休みなどまとまった休日に延長する形で日にち指定されることが多いです。一斉に休むことによって、出勤している労働者の負担が増えるという事がなくなります。

計画年休制度のデメリット

計画年休制度の手続には、労使協定が必要になるので、一度労使協定で決まった有給休暇の取得日は後で変更しようとしても企業側の都合で変更することができません。

まとめ:有給休暇の義務化に!企業は確実な管理をしましょう

働き方改革による有給休暇義務化の罰則規定や、違反内容などを解説しましたが、いかがでしたでしょうか。


今回の記事のポイントは、

  • 有給休暇義務化は事業規模関係なくすべてが対象
  • 労働基準法で定められた罰則は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」
  • 罰則は「一人当たり」30万円以下の罰金
  • 有給休暇は取得要件を満たせばパートやアルバイトも対象
  • 育児休業・介護休業・傷病休業で長期間休んだ場合も対象
  • 労働者の意思で有給取得しなかった場合も違反となる
以上となります。

有給休暇義務化は、企業側が就業規則を変えれば良いだけの問題ではありません。有給が取得しやすい環境をつくり、労働者がストレスを感じることなく休めるようにしなくては意味がありません。

知らなかったやうっかりしていたなどで罰則にならないためにも、働き方改革について今一度正しい知識を身につけることが大切です。

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