更新日:2022/12/13
中国の年金制度の仕組みとは?年金制度の課題や外国人の加入について
日本と同様に少子高齢化が急速に進む中国。中国の年金制度にも大きな問題が発生しています。今回中国の年金制度について、仕組みや特徴をわかりやすく解説した上で、受給額不足などの年金制度の課題を解説します。中国駐在や海外勤務の方にも年金事情をわかりやすくお伝えします。
目次を使って気になるところから読みましょう!
中国の年金制度について仕組みや現状を解説
- 年金制度の仕組みや特徴
- これからの課題
中国の年金制度の概要と特徴
中国の公的年金制度の特徴の一つは加入できる年金制度が、都市の就労者なのか、農村住民や都市住民の非就労者なのかで 大きく2つに分けられることです。
都市部に住む会社員(自営業社も含む)や公務員は公的年金制度への加入が義務付けられているのですが、農村の住民や就業していない人は任意加入になっています。
次に挙げる特徴は、日本を含む多くの国々では、世代間の支え合いである賦課方式が採用されていますが積立方式が一部採用されていることです。
そしてもう一つ特徴を挙げるとすれば、年金額の格差についてです。
格差が起きる大きな理由は2つあり、1つ目は地域差です。
年金制度は全国共通ですが、財政の管理は地域ごとに分断されています。
賃金水準に応じて年金水準が異なる構造から受給額に地域差が生まれてしまっています。
2つ目の理由は、加入する年金制度による格差です。
都市就労者の全国平均受給額は2,240元で、農村住民や非就労者の同受給額117元に対して約19倍です。(2015年)
ただ、前年比の増加率で見てみると都市就労者の全国平均は9.3%なのに対し、農村住民や非就労者は30.0%と大きな増加率となっています。
中国では、都市の就労者と都市・農村の非就労者で年金制度が異なる
中国の年金制度
中国の年金の受給額はいくら?年金がない地域も?
受給額は加入する年金の分類や属する地域によって違っています。
まずは加入する年金の分類による違いを見てみます。
- 都市職工年金
現役の時の平均賃金と加入期間によって決ま基礎年金部分と
個人勘定に積み立てられた残高から支給される部分の2層で構成されています。
- 都市・農村住民年金
基礎年金の給付は国庫などから税金負担でまかなわれ、その上に個人が積み立てた個人勘定から支給の2層で構成されています。
制度が導入されてから浅いことも要因となって、給付額に地域の財政状況が大きく影響しているようです
次に運営地域別の受給額の違いを見てみます。(2015年)
- 都市職工年金 全国平均:2,240元
深セン市 4,169元
北京市 3,366元
上海市 3,315元 - 都市・農村住民年金 全国平均:117元
深セン市 414元
北京市 526元
上海市 823元
ちなみにこの金額は、都市職工年金であっても普通に生活するのに十分な金額ではなく、その地域の前年の平均賃金の4~5割程度に当たる金額です。
都市・農村住民年金であればことさらその額の少なさは際立っています。
中国の年金金額の拠出金は?負担割合は?
拠出には加入する年金の分類によって違っています。
- 都市職工年金
所属する企業が拠出する基礎部分と個人拠出分の個人勘定に分かれます。
拠出額は賃金に比例するようになっていて、負担割合としては、企業が賃金総額の20%、本人は8%を保険料として納めます。
公務員は同28%、12%の負担割合になります。
企業が拠出した分は基礎年金の原資となり賦課方式で運営されます
個人が拠出した分は個人口座で、積立方式で運営されます
この年金制度の加入者には自営業者も含まれます。
企業が拠出す額とは言っても、自営業者の場合は実質個人拠出分に重ねて負担することになり、未加入の原因にもなっています。
- 都市・農村住民年金
個人拠出分の保険料負担は加入者の賃金とは関係なく、
いくつかの段階で設定された保険料から自身の経済状況に合わせて選びます。
ただ、そうなると低い段階の保険料を選ぶ傾向が増えてしまうため、
保険料の多い段階区分を選んだ人には、加算額が与えられる仕組みになっています。
個人拠出分と税金でまかなわれる基礎年金部分を合わせて、個人の口座に積み立てられ、すべての拠出金が積み立て方式で運営されます。
中国の年金制度の課題とは?
中国の年金制度の課題の大きなものについてはすでに改革や規制緩和の取り組みが開始しています。
まだ残された課題については、2016~2020年 第13次5カ年計画の中で検討が進められています。
社会保険制度の検討分野には医療保険と並んで年金についても多数検討事項が挙げられています。
「皆保険の実現」に代表される目標に加え、
料率の引き下げ、個人口座積み立て分の整備、基礎年金部分の全国統合、運用成績の向上、定年年齢の引き上げなどが検討されています。
また、年金積立金が赤字になった場合の補填金の積み増し、民間保険会社による養老保険商品の販売拡充などについても、検討事項に挙げられています。
中国は、くらしにゆとりを実感できる社会「小康社会」の実現を目指して、これらの課題を解決していくことが重要になっています。
中国の年金制度にも危機が?赤字?破綻?
こうした問題を抱えている中国の公的年金制度ですが、財政収支はどうなっているのでしょうか?
2015年については、いずれの制度も黒字になっています。
しかし特に都市・農村住民年金に関しては、国庫・地方政府の財政負担分が収入の70.7%を占めていて、保険料収入のみでは大きく不足しています。
他にも、個人が拠出する分を積み立てる個人勘定の積立額が、本来なくてはならない金額に達していない問題も浮上しています。
原因は地方政府の財政難への流用と考えられていて、その不足額は基礎年金の残高を超える規模までになっています。
別途この不足に対する基金を設立して、運用により補填を目指していますが、まだまだ及ばないのが現状です。
問題が山積みに見える中国の年金制度ですが、日本の年金制度と比較してどう評価されているでしょうか。
ある調査機関から、世界34カ国の年金を評価する指数のランキングが民間会社MERCER(マーサー)から毎年発表されています。
2018年のランキングでは、34カ国中日本は29位、中国は31位で
両国とも評価はD(最低評価)です。
2009年からのランキング推移を眺めてみると日本と中国が最下位争いをしているようにも見えます。
国民皆年金を2020年に目指している
中国の公的年金制度に残された課題の一つに年金加入率があります。
中国政府は2020年までの国民皆年金、数値目標で90%を目指しています。
現在加入者の多くが任意加入対象者であることや、
強制加入の対象者である都市地域の就業している者であっても30歳以下の5人に1人が加入していない問題があります。
日本でも似ていますが、中国でも若者の年金離れが進んでいるようです。
中国では若者の就職難が聞かれる反面、起業は増えています。
起業は年金制度に当てはめると自営業者になり都市職工年金の加入者に該当します。
先にも解説した通り自営業者の場合、保険料負担は重くなります。
また、若者の多様な働き方に対して、引継ぎ手続きや継続性の難しさも
若者の年金離れの原因となっていると考えられています。
賦課方式の収入部分を担う若者を取り込むことは国民皆保険を目指すときに重要になることでしょう。
【海外勤務の方】外国人は中国の年金制度に加入できる?
日本と中国は社会保障協定の締結が2019年9月に発行済みです。(参照
:日本年金機構)
社会保障協定とは、国際間の人の移動に伴って起こる社会保障制度関連の問題を解決するための協定で、主に2つの目的があります。
- 1つ目は二重加入防止です。海外滞在中にどちら国の法令を適用するかを決め、保険料を二重に払うことを防ぎます。
- 2つ目は年金保険期間の通算です。両国での年金制度の加入期間を通算できるようにするとともに、滞在していた国の制度それぞれで加入期間に応じた年金を受け取れるようにします。
この協定による手続きの中で、日本の企業から中国に赴任して就労する場合、その期間が5年以内なのか、5年を超えるのか、または現地採用なのか否かによって、どちらの国の社会保険制度に加入するかが違います。
また自営業者でもこの5年という区切りは同様に重要になってきますが、中国との協定の場合では自営業者は中国の制度の強制加入対象者とはならず、対象外とするとされています。
厚生労働省が海外で働く方に向けたページをまとめていますので、参考にしてみてください。(参照:厚生労働省)
まとめ:中国の年金制度の仕組みと年金問題について
ここまで見てきたように、中国の公的年金制度は受給にしても拠出の方式にしても課題が多いことがわかりました。
中国で1979年から2015年まで導入された人口抑制の政策(一人っ子政策)の影響は大きく、今後の公的年金制度にマイナスの影響を与えることが予想ができます。
日本も同様の状況ですが、改革がなされなければ現役世代への負担が今後一層重くなっていくでしょうから、公的年金制度に加えて、民間の年金保険や養老保険、貯蓄や投資などによる老後資金の自助努力が一層求められていくことでしょう。
また、グローバル化が進む中で、今後増えてくると思われる海外勤務者についての配慮も重要になります。
赴任先が社会保障協定が結ばれているのかどうかを自ら確かめて、会社任せにするばかりでなく、必要な手続きを取ることやその状況を把握しておくことが大切になってくることでしょう。
中国も日本も、それぞれが抱えている改革をすすめ、課題を解決していくことで、若者を加入に取り込める魅力的で持続可能な公的年金制度になるようことを期待したいと思います。