更新日:2023/01/25
専業主婦の年金が半額になる?日本が抱える年金問題とその対策
令和元年5月「専業主婦がもらえる年金が半額になる」という衝撃的な報道が日本を駆け巡りました。はたしてこの記事は真実なのでしょうか?専業主婦に対する政府の思惑や、第3号被保険者である専業主婦が特に知っておくべき年金制度の注意点についても解説していきます。
目次を使って気になるところから読みましょう!
「専業主婦の年金が半額になる」の真偽とその背景
週刊ポスト2019年5月3日・10日号に、政府が国民年金第3号被保険者制度の改革を検討中という記事が掲載されました。
改革内容は「働く女性の声を汲んで、無職の専業主婦が受け取れる年金を半額に減らす」というものです。
この記事がウェブ版に転載されると即座にさまざまな反響があり、世間で大きな話題となりました。
会社員や公務員として働き厚生年金に加入している人を第2号被保険者といいますが、第3号被保険者は第2号被保険者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者が該当します。
第3号被保険者になれば、毎月の年金保険料を納めることなく老齢基礎年金(国民年金)を受け取ることができます。
ただし第3号被保険者になるには、
- 年収130万円未満(障害者の場合は障害年金と合わせて180万円未満)
- 収入が扶養する人の半分未満(同居の場合)
という条件を満たさなければなりません。
「年金が半額になれば、私の老後はどうなるの」「扶養に入るために仕事をセーブしてきたのに」と不安や不満を持つ方は少なくないことでしょう。
はたしてこの記事の内容は真実なのでしょうか?
今回は、その真偽と、年金を半額にするという案が出た社会的背景についてお伝えしていきます。
ぜひ最後までご覧ください。
「専業主婦の年金給付半減案」は正式に決まったわけではない
確かにこのままいけば、いずれ年金制度が立ち行かなくなることは明白です。
政府は何とか支出を減らし、収入を増やしていこうとさまざまざ策を講じています。
しかし実は「専業主婦の年金を半減させる」という案は決定事項ではなく、週刊誌の勇み足です。
その後毎日新聞で「確かに社会保障審議会年金部会でその案への言及はされたが、本格的に検討されていたわけではない」ということが報じられています。
しかしなぜ、このような大胆な案が出てきたのでしょうか。
実は、第3号被保険者の年金保険料は第2号被保険者の払う年金保険料で賄われています。
もちろん専業主婦の夫だけではなく、独身者・厚生年金に加入する働く主婦・その夫など、無関係の人の保険料からも徴収されています。
また、同じ専業主婦でも自営業者の妻は、第1号被保険者として国民年金保険料を払わなければなりません。
こういった背景から「第3号被保険者はずるい」「不公平だ」という考え方が生まれ、年金を半額にするという発想になったものと考えられます。
なぜこのような議論が生まれたのか
なぜ今、専業主婦の年金に対する議論が盛んになっているのか、もう少し掘り下げて考えてみましょう。
第3号被保険者の妻は約870万人いるとされています。
多数の潜在的労働力を社会に引っ張り出して人手不足を解消し、年金保険料も確保していきたいという政府の狙いがそこにはあります。
世間では「この問題は専業主婦vs働く女性といった単純な話ではなく、根強い男性中心社会の構造に問題がある」という冷静な意見も多く見られます。
女性=低賃金?
第3号被保険者は決して専業主婦だけではなく、扶養範囲内で働くパート主婦も多く含まれています。
「パート主婦は夫に養われているもの」という前提から、時給換算すれば男性の半分以下という安い賃金で働く女性たちです。
「どうせ頑張っても少ししか稼げないのだから、扶養範囲で働いた方が得」という考えになってしまったのは、この低賃金が原因といえます。
家事労働を給与換算すると
また、週刊ポストの「無職の専業主婦」という見下したような言い回しは多くの専業主婦を傷つけ、かなりの非難を浴びました。
新垣結衣さん主演の2016年の大ヒットドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の中では、契約結婚によって家事代行の専業主婦として雇われた主人公が月19.4万円という給与を得ることが話題となりました。
「本当なら私はそんなにお給料がもらえるんだ」と驚いた主婦の方も多いのではないでしょうか。
「女性が輝ける社会」は大義名分?
このような流れから、最近各メディアで「専業主婦の年金受給額を減らすべきだ」「いや、専業主婦も立派な仕事だから減らすべきでない」という議論が活発になっているのです。
とはいえ、もちろん第3号被保険者制度は今に始まったものではありません。
この制度は、専業主婦が老後を迎えて夫に先立たれた場合に生活に困窮しないよう配慮する形で、1986年から施行されました。
しかし今になって政府は「女性が輝ける社会」という大義名分のもと、働く女性と第3号被保険者の対立を煽って年金出し渋りの正当化を図っているようです。
このような政府の姿勢がある以上、必ずしも記事を出した週刊ポストだけが悪いとは言い切れないというのが実情です。
年金と専業主婦の歴史を振り返る
ここで、年金と専業主婦の歴史を振り返ってみましょう。
1959年に国民年金法が制定されたとき、専業主婦は国民年金に任意で加入していました。
国民年金保険料も今ほど高額ではなく、約7割の専業主婦が加入していました。
しかし未加入者である3割は完全な無年金になる恐れがあったため、1986年に第3号被保険者という区分が誕生したのです。
第3号被保険者は「主婦も無償の家事労働で貢献している」という考え方から発生していますが、年金財政が苦しくなると政府は態度を翻します。
2015年12月には、第3号被保険者の範囲縮小を検討することが決定されました。
もともと社会保険の扶養要件は年収130万円未満でしたが、以下の条件を満たす場合には年収106万円(月収8.8万円)以上で扶養から外れるようになりました。
- 勤務先の従業者数が501人以上
- 契約期間1年以上
- 週20時間以上労働
- 学生でない
さらに今後は82万円以上(月収6.8万円)と、厚生年金加入のハードルをいっそう下げていく予定です。
これは最も早くて2021年から導入されますが、その後いよいよ第3号被保険者制度廃止への議論が始まる可能性があります。
専業主婦であることの危険性
ここまでは「専業主婦の年金を半額に」という報道の真偽と、その背景についてお伝えしてきました。
今回の週刊誌の記事はフライングであり「第3号被保険者制度が廃止されるのか」「いつから廃止されるのか」ということもまったく未定です。
しかし、専業主婦でいることに危機感を覚えた方も少なくないことと思います。
たとえ制度が廃止にならなかったとしても、第3号被保険者は常に経済的に危うい立場にあることをご存じでしょうか。
第3号被保険者は、制度としては夫あってこその存在です。
夫に関する次のような出来事をきっかけとして、大きな負担を強いられてしまう可能性があることを認識しておきましょう。
年金受給で気を付けるケース①:夫と離婚したとき
まず注意すべきケースは、夫と離婚したときです。
離婚すればもちろん扶養から外れることになるため、第3号被保険者ではいられなくなります。
ちなみに日本では3組に1組が離婚し、離婚した母子家庭のうち8割は養育費の支払いがされていません。
子供を育てながら第1号被保険者として国民年金保険料を、または第2号被保険者として厚生年金保険料を払っていく必要があります。
働きに出る方がほとんどですが、もともと専業主婦だった方が安定した正規雇用となるのは大変難しく、多くは非正規雇用やパートを選択することになります。
しかし前述したように、女性パートの給与は不当に低いものです。
結果として、日本のシングルマザー家庭における相対的貧困率(全国民の所得の中央値の半分を下回っている割合)は54.6%と、先進国では群を抜いて高い数字となっています。
年金受給で気を付けるケース②:夫と死別したとき
次に気をつけるべきケースは、第2号被保険者である夫が死亡したときです。
妻が20歳以上60歳未満であるなら、第3号被保険者から第1号被保険者へと立場が変わるため、届出をして国民年金保険料を納めなければなりません。
第2号被保険者の未亡人は遺族厚生年金を支給され、18歳未満の子供がいるなら「遺族基礎年金」や「子の加算」もそこにプラスされます。
亡き夫の年収にもよりますが、子供2人の場合で年200万円程度の遺族年金が受け取れるようです。
しかし子供がいない、または成人した後なら、1年にもらえるおおよその目安は夫の月給の1.6倍程度とされています。
月収30万円だったなら年間48万円程度の支給ですから、そのまま専業主婦でいることは難しくなるでしょう。
年金受給で気を付けるケース③:夫が退職・転職したとき
次に気をつけるべきケースは夫が転職したときで、このケースはかなり頻発しています。
転職してすぐ別の会社で厚生年金に加入したら、妻は第3号被保険者のままでいられます。
しかし月末の時点でどちらの厚生年金にも加入していない状態だったなら、その月は夫も妻も第1号被保険者として国民年金保険料を納めなければなりません。
入社時の厚生年金への切り替えは会社がやってくれますし、退職時の厚生年金脱退手続きも同様です。
しかし、国保への再加入手続きだけは自分で行わなければなりません。
これを忘れ、年金の空白期間ができてしまう人が少なくないのです。
1ヶ月程度の空白なら将来の年金額に大きな差は生じませんが、過去1年以内に1度でも年金の未加入期間や未納があると障害年金や遺族年金がもらえなくなる恐れがあります。
未加入期間がある人には「未加入期間国民年金適用勧奨」が届くはずなので、郵便物は常にしっかり確認しておきましょう。
年金受給で気を付けるケース④:夫が65歳になったとき
最後にお伝えする注意すべきケースは、サラリーマンである夫が65歳を迎えたときです。
もし70歳まで働き続けるつもりでも、65歳になった時点で老齢年金の受給資格期間を満たしていれば、その人は第2号被保険者ではなくなります。
(受給資格期間を満たしていなかった場合は、満たすと同時に資格を失います)
ややこしいのですが、原則として65歳以上70歳以下のサラリーマンは「厚生年金被保険者」にはなれても「第2号被保険者」にはなれないのです。
同時に妻が60歳未満の専業主婦であっても、第3号被保険者ではなくなってしまいます。
このように、第3号被保険者には年金に関する注意点が多くあります。
夫任せにせず、自分がもらえる年金を守るために節目節目での確認を怠らないようにしましょう。
もし、本当に専業主婦の年金が半額になったら?
ここまでは、専業主婦が注意すべき年金制度の注意点についてお伝えしてきました。
ところで、もし本当に第3号被保険者の年金が半額になったなら、年金受給額はいくら減るのでしょうか。
以下の条件で「年金が半減した場合」と「現状のままの場合」の受給額合計を比較してみましょう。
- 現在の老齢基礎年金額である年780,100円が継続する
- 一度も厚生年金保険に加入していない
- 480ヶ月間1度も未納や未加入がない
- 65歳から支給
死亡年齢 | 半減した場合 | 現状のままの場合 |
---|---|---|
85歳 | 780万1,000円 | 1,560万2,000円 |
90歳 | 975万1,250円 | 1,950万2,500円 |
95歳 | 1,170万1,500円 | 2,340万3,000円 |
100歳 | 1,365万1,750円 | 2,730万3,500円 |
半減した場合、100歳まで生きれば1,365万も少なくなってしまうのです。
もし30歳で結婚して30年間第3号被保険者だったなら、免除された年金保険料総額は590万7,600円です (月額年金保険料16,410円が継続した場合)。
つまり、第1号被保険者になって国民年金保険料を納めていた方がよっぽど得だったということになります。
このような事態を想定したとき、私たちはどのような手段で老後に備えていけば良いのでしょうか。
年金だけに頼るのではなく、自分でも老後資金を準備しよう
専業主婦に限らずすべての日本国民は、将来の年金に不安を抱えた状態にあります。
金融庁の「自助努力によって2,000万円を貯蓄すべし」という報告書を麻生大臣が受け取り拒否したことも、いっそう国民の年金への不信感を高めることになりました。
問題を先送りにしても老後が楽になるわけではなく、まぎれもなく老後への自助努力は必要と考えておきましょう。
あなたは、現在の家計管理に自信を持っていますか?
老後資金の形成に有効とされる「個人型確定拠出年金(iDeCo)」「NISA」「つみたてNISA」「個人年金保険」などを活用することができているでしょうか。
今回の金融庁の報告書内では、
- 自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討する
- 必要に応じ、信頼できるアドバイザー等を見つけて相談する
と、家計の見直しをプロに依頼することが推奨されています。
もし老後資金の準備に不安があるなら、ぜひ一度FP(ファイナンシャルプランナー)へ家計の相談をしてみましょう。
FPは年金・保険・税金など、個人にまつわるお金についての専門家です。
あなたの漠然とした将来への不安を明確にし、豊かな老後を過ごすための方法について的確なアドバイスを与えてくれるはずです。
ほけんROOMではFPへの無料相談ができる「マネーキャリア相談」を設けていますので、ぜひご活用ください。
まとめ:年金以外の老後資産の形成方法を考えよう
専業主婦の年金についてお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
この記事のポイントは、
- 専業主婦の年金が半額になるという施策は、決定事項ではない
- とはいえ、今後第3号被保険者は縮小される上に支給額が減る可能性もある
- 将来の年金への不安を補うため、今から老後資金への備えをしておくべき
以上のことでした。
日本は「女性が輝ける社会」というスローガンを掲げておきながら、女性が働ける社会的環境が整っていません。
夫の家事参加率も先進諸国最下位となっており、専業主婦の方が「大変すぎて働けない」と考えてしまうのも無理からぬことです。
専業主婦のあなたも兼業主婦のあなたも、決して心身に負担をかけない範囲で、老後の備えへを始めていきましょう。
ほけんROOMでは、他にも読んでおきたい保険やマネーライフに関する記事を多数掲載しています。 ぜひご覧になってください。