介護保険利用料「応益負担」による、利用者への衝撃的な影響とは?

介護保険利用料は、原則「応益負担」となっています。大富豪も貧乏人も、みんな額面通りの同じ金額を負担するルールです。さてこの応益負担、なぜ介護保険で採用されたのでしょう?利用者への影響は?具体的な事例と将来への考察も交えて、詳しくお伝えしていこうと思います。

介護保険の応益負担に関する情報まとめ

「同じサービスを使った人は、みんな同じ料金を払う」

なんだか当然の事のように聞こえます。


しかしこのルール、日本の福祉サービスの歴史ではかなり新しい部類に入るんです。


その名も「応益負担」。


そして逆のルールとして、

応能負担」というものがあります。

1977年に介護保険のサービスは応能負担から応益負担へ移行された

1997年に介護保険法が制定され、2000年には介護保険制度が施行されました。

かつての老人福祉制度は、サービス利用者の経済力によって支払う額が異なる「応能負担」を用いていました。一方、現代の介護保険は原則「応益負担」であり、経済力には関係なく皆が同じサービス費を払うことになっています。  

応益負担と応能負担の違いを解説

では、この応益負担と応能負担。その違いは、どういうものなのでしょうか? そのメリットやデメリットとともに説明していきたいと思います。 

応益負担とは

「応益負担」とは、受けたサービスの大きさに応じて、 収入に関係なく皆が同じ金額を支払うというシステムです。

たとえば消費税も、この応益負担ですね。商品を買った人がお金持ちだろうが貧乏だろうが、等しく8%を払うことになっています。 


さて、この応益負担。そのメリットはもちろん、「全ての人が平等である」ということ。たしかに同じサービスを受けて一方だけが高額ということになれば、多く払う側からすれば黙ってはいられないでしょう。


しかしこの応益負担、デメリットもあります。 


たとえば 応益負担の代表である消費税が高くなると、どうなるでしょう。貯蓄する余裕がない低所得者ほど、収入のうち多くの割合を貯蓄ではなく消費に回しています。つまり、低所得者ほどより高い割合で税金を納めるていることになってしまうのです。


平等であるがゆえ、不平等になる。応益負担はそんなジレンマを孕んでいます。

応能負担とは

そして「応能負担」とは、まさに応益負担の逆。収入に応じて支払う金額が変わるシステムです。収入が少ない世帯は少ない額を、収入が多い世帯は多い金額を支払います。代表的なものとしては、所得税が累進課税方式を採用していますね。

応益負担への移行理由

介護保険以前、介護サービスは老人福祉制度と老人保健制度に基づいていました。それらの制度では原則「応能負担」が用いられ、利用者の収入によってその負担額は異なっていました。

応能負担であれば、たくさんの介護サービスを受けたとしても、支払い能力に応じた負担しか求められることはありません。貧しい家庭でも、安心して介護サービスを利用することができたのです。  

日本の財源は介護保険の介護費用で圧迫されている

良いことづくめであるように見える、 応能負担。では一体なぜ、介護保険制度は応能負担から応益負担へと移行してしまったのでしょうか。それには急激に進む高齢化や、不況からの財源不足が影響しています。


2025年問題」をご存知でしょうか。


団塊の世代が75歳を超え、国民の3人に1人が65歳以上となる人類未曾有の超高齢化社会。それが2025年の日本です。


日本政府はそこに照準を合わせて、何とか介護保険制度を維持させていこうと必死なのです。そこで、低所得層にも高所得層と同等の負担を課すことで財源を確保しようという狙いから、この応益負担は採用されました。

応益負担へ移行した影響

応能負担から応益負担へ変わっていった日本の介護サービス。

では、この応益負担は介護保険利用者にどのような影響を与えたのでしょうか。

低所得世帯は介護サービスを受けられないケースが増えている

「応益負担」に移行したことで、高所得世帯は実質の負担が軽減しました。 

一方所得が少ない世帯では、介護サービス利用料を払うことが大きな負担となっています。

結果として、


「サービスを受けられない」

「受けるサービスを制限せざるを得ない」


というケースが頻発しています。 

要介護者の自立が困難になった

私がかつて介護保険の認定調査員をしていたときに遭遇したケースです。 

Mさんは80代後半の男性で要介護3。

同世代の奥さまは要支援2で歩行が不自由、という前情報でした。


しかし訪問して驚きました。ご主人は完全な寝たきりで重い認知症、どう見ても要介護5です。しかも長年その状態であるといいます。


「私たちの生活費は国民年金だけ。主人のために週4回のヘルパーさんと週3回のデイサービスの利用料を払うので精いっぱいです。もし要介護5になったら、デイサービスの料金が月3,000円上がってしまい生活できません。お願いだから要介護3のままにしてください」 


奥さまはそう言って、私に頭を下げるのです。

聞くと、今までも調査員に懇願して介護度を上げないようにしてもらっていたといいます。 


奥さまだってリハビリに通えば、歩行状態が改善するかもしれない。しかしもちろんそんな余裕はありません。不自由な足を引きずって台所に立ち、夫婦の慎ましい食事を何とか作る毎日なのです。


こんな事態も生んでしまう、応益負担。 

明らかに経済的負担を重くすることで、Mさんの奥さまの自立を阻んでいます。 


しかし、例外として応益負担とは無関係にサービスを使える方々もいます。 

それは、生活保護受給世帯。生活保護世帯の介護保険利用料は、保護費の介護扶助から現物支給されるため無料なのです。 


とあるケースを紹介します。

Hさん(女性・80代前半)は独居で、生活保護受給者。 関節リウマチを患っており車椅子生活、認定区分はMさんと同じ要介護3です。趣味の活動ができるデイサービスに週2回、機能訓練型デイサービスに週2回、ヘルパーは毎日利用しています。


Hさんは言います。


「うちは介護保険がタダなんだから、目いっぱい使わないと損でしょう?でも、いま来てるヘルパーは田舎料理しか作らなくてうんざりしてるの。もっと季節を感じられるような、素敵なメニューを作ってくれるヘルパーはいないものかしら?」


私は、シンクにもたれかかって手を震わせながら包丁を持つMさんの奥さまの姿を思い出し、やるせない気持ちになりました。 

老人福祉制度と介護保険制度の違い

介護保険制度以前は応能負担ルールとともに、介護サービスの利用に

「措置制度」が採られていました。


措置制度とは、 行政がその人にサービスが必要かどうかを判断し、利用するサービス内容まで決めてしまうというもの。 

対して介護保険制度では、利用料を応能負担から応益負担に、サービスの利用も行政の措置から利用者・事業者間の自由契約に変更したのです。 


確かに、利用者が自由にサービスを選べるというのは良いことです。 

でも、実際はどうでしょう。 

選ぶどころか、そもそもサービス自体が使えないという悲鳴が聞こえてきます。 


しかし、応能負担とワンセットとも言うべき措置制度にも大きな問題があります。 

それは、「競争原理が働かない」ということです。 


私は介護保険開始前から高齢者介護に関わっていましたが、食いっぱぐれる心配のない施設の介護は、それはひどいものでした。

利用者の手足を縛り、利用者に対して命令口調で話し、腹が立つと怒鳴りつける。 


現代の施設では決してありえない光景です。 改善されたのは、ひとえに介護サービスが「選ばれる立場」になったからであると言えるでしょう。

まとめ

介護保険がスタートしたときには、かなり応益負担が強調されていました。 

しかし制度が改正されるたびに、応能負担の部分が増えつつあります。


高額介護サービス費の上限額。 

高額医療・介護合算療養費の上限額。 

特養の食費・居住費・光熱費。 


これらは全て、収入により金額設定が異なります。応益負担のみではやはり無理があるのです。 


応能負担・応益負担それぞれのメリットとデメリットを把握し、良いとこ取りでサービス利用に活かしていきましょう。それこそが、今後訪れる「大介護時代」を生き抜いていくためには必須のスキルでなのではないでしょうか。

この記事の監修者
谷川 昌平
東京大学の経済学部で金融を学び、その知見を生かし世の中の情報の非対称性をなくすべく、学生時代に株式会社Wizleapを創業。保険*テックのインシュアテックの領域で様々な保険や金融サービスを世に生み出す一歩として、「マネーキャリア」を運営。2019年にファイナンシャルプランナー取得。

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