更新日:2024/03/12
スイスの年金制度の仕組みや特徴は?受給額が世界最高の国の課題とは
日本と同様、スイスでも高齢化のため年金問題が悪化しており、近頃年金制度の改革案が出されています。そこで今回スイス年金制度の現状や今後の課題、問題点と合わせて、スイスで働いていた方などに向けた年金問題についても日本の年金制度と比較しながら解説します。
目次を使って気になるところから読みましょう!
スイスの年金制度について仕組みや現状を解説
年金受給額が世界で最も高額であるスイス。
スイスは福祉大国として充実していると思われがちですが、実はそうでもありません。
スイスのメディアによれば、2017年に年金の持続性を評価するランキングで、4位から8位に順位を大きく後退させているのです。
世界各国で少子高齢化が問題になっている中、スイスでも高齢化が大きな課題となっており、年金受給開始年齢を60歳から65歳に引き上げるなど年金制度の改革を試みています。
今回は年金制度の今後の動きが気になるスイス年金制度の
- 仕組みや特徴
- 問題点と課題
- 外国人の受給条件・受給額
について、日本の年金制度と比較しながら詳しく解説します。
他にも、スイスに在住しておりスイスで年金を支払っていたという方のための年金問題についての解説もしますので、是非最後まで読んでみてください。
スイスの年金制度の仕組みと特徴は?受給額はいくら?
世界の国々では様々な年金制度が採用されていますが、その中でも日本の年金制度と比較して特に類似点が多いのがスイスの年金制度です。
スイスの年金制度は基礎年金と企業年金から構成されていて、さらに各個人が任意で民間の個人年金保険に加入して積み立てを行う形になっています。
国民年金と厚生年金の2階建て構造を基本としながら、iDeCoなどを活用して各自が老後に備える形になっている日本の年金制度と非常に似た仕組みです。
基礎年金は老齢・障害・遺族年金のことでスイスに居住する人が強制加入となり、企業年金は被用者のみ加入対象で自営業者は強制加入の対象ではありません。
世界の多くの国々では国民皆年金制度が確立されておらず無年金者が生じる制度設計も見られますが、スイスでは一定年齢以上の人は外国人も含めて基礎年金に加入する制度になっています。
後述する通りスイスの年金制度はいくつかの課題を抱えてはいるものの、それでも国民皆年金が実現している点は福祉大国の証と言えるでしょう。
そして企業年金の保険料を会社・従業員で半分ずつ負担する仕組みも日本と同じで、年金を受け取るには最低でも1年以上の加入期間が必要です。
老齢年金の受給開始年齢は男性は65歳、女性は64歳で、年金額(年額)は1人当約250万円と言われています。ただし加入期間が短い場合に期間の長さに応じて年金額が減額される点や繰上・繰下受給ができる点も日本と同じなので、支給額は人によって異なります。
さらに制度の仕組みだけでなく、後述する通り高齢化の進展に伴って年金制度改革が喫緊の課題になっている点でもスイスは日本と非常に似た状況です。
そのためスイスの年金制度改革の流れや現在の制度の仕組みを学ぶことが、日本の年金制度を考える上でも非常に役立ちます。
日本人がスイスで生活する場合の年金の取扱い
国際化が進展して会社員や公務員、自営業、主婦など様々な形で海外で生活する人が増える中、日本は諸外国と社会保障協定を締結して対応を行っています。
社会保障協定とは外国人が居住先の国と出身国の年金制度の両方の保険料を負担して二重払いになることを防止するため等に結ばれるもので、スイスも日本が社会保障協定を結んでいる国の1つです。
協定の内容に従い、現地での就労期間が5年を超える日本人はスイスの年金制度に加入し、5年以下の場合はスイスの年金制度には加入しないことになっています。
またスイスの年金制度では原則海外での年金受給ができず外国人が帰国した場合には保険料の還付を受ける仕組みですが、日本との間では協定の内容が優先されて取扱いが異なります。
老齢年金の支給に必要な最低加入期間1年を満たすと年金を受給でき、満額の10%以下の場合は一時金で、10%超20%以下の場合は年金または一時金のうち受給者が選択した形式で、それぞれ支給される仕組みです。
なお社会保障協定の締結国同士で年金加入期間を通算できる場合も多いのですが、日本とスイスの協定では通算規定の内容が限定的なので注意して下さい。
受給に必要な最低加入期間を判定する場合、期間の通算ができるのは障害年金の給付判定のときのみで、老齢年金や遺族年金では通算できません。
また5年以下の短期就労を目的としてスイスで働く日本人の取扱いは上記の通りなので、その配偶者や子供が一緒に現地に行って生活した場合でも、就労者本人と同様に配偶者や子供も原則加入対象外です。
つまり同じく主婦としてスイスで生活する場合でも、国際結婚をして現地で生活して基礎年金に加入する場合と、配偶者の5年以下の短期就労に伴いスイスで生活して現地の年金制度に加入しない場合に分かれます。
スイスの年金制度では外国人でもスイス人でも分け隔てなく基礎年金に加入する仕組みを採用していますが、日本との間で締結されている社会保障協定が優先される結果このような違いが生じていると言えます。
日本が社会保障協定を締結している国や協定の内容は日本年金機構HPで確認できるので、海外の年金制度の加入経験がある方は確認したほうが良いでしょう。
スイスの年金制度の問題点と課題
2016年の平均寿命は日本が84.2歳で世界1位でしたが、日本に次いで平均寿命が長いのがスイスです。高齢化が進む日本では年金制度の持続可能性が危ぶまれていますが、スイスでも同じ問題が起きています。
スイス政府は現役世代による保険料負担と高齢者世代による年金受給の均衡が近々崩れると予想していて年金基金の取り崩しや枯渇が危惧されている状況です。
また日本の年金制度と同じく年金財源の1つに年金基金の運用益がありますが、低金利の状態が長引く中で運用益は決して大きくありません。
さらにベビーブーム世代が間もなく受給開始年齢に達することもあり、年金制度改革の必要性は日に日に高まっています。
またスイスは福祉社会のイメージが強くて老後も安心して過ごせる国と思われがちですが、高齢者が基礎年金だけで生活するのは難しいのが実情です。
企業年金や個人年金に加入していたかどうかで将来の年金受給額に差が生じてしまい、老後を安心して過ごせるかどうかという点で格差が生まれています。
以上のようにスイスの年金制度は様々な課題を抱えていて、制度の持続可能性を模索する中で年金支給開始年齢の引き上げや保険料率の改定などの制度改正が行われている状況です。
スイスに対して福祉大国のイメージを持つ人は多いと思いますが、高齢化により年金制度改革が必要である点は日本と同じで、高齢化の進展と年金制度改革の必要性は世界各国共通の課題と言えるでしょう。
スイスの年金を受け取る方の受給条件、受給額は?
会社員や公務員としてスイスで働いたり国際結婚をして主婦として現地で生活して年金制度に加入した人にとっては、老後の生活設計を考える上でスイスの年金の受給条件や受給額が気になるはずです。
まず受給条件ですが、スイスの年金制度の加入条件に該当して保険料を納付したことがある人は、加入期間が1年以上あれば老齢年金を受給できます。
そして日本とスイスは社会保障協定を締結しているので、年金額が満額の10%以下の場合には年金形式ではなく一時金で支給され、10%超20%以下の場合には一時金形式と年金形式を選択することになります。
スイスの年金受給額(年額)は平均的にはおよそ250万円と言われていますが、あくまで加入期間に応じて支給額が変わるため、いくら年金をもらえるのかは個別に確認が必要です。
なお年金額はスイスフラン建てで計算されますが、海外からの送金時には送金手数料が掛かり、実際の手取り額は年金額よりも少なくなるので注意して下さい。
また国によっては保険料を納めていない主婦であっても結婚相手が現地国の年金制度に加入して保険料を納めていれば配偶者年金が支給される国もありますが、スイスではそのような仕組みはありません。
老齢年金の受給条件はあくまで本人がスイスの年金制度に加入しているかどうかによって決まります。
そして日本人が日本に帰国した後にスイスの年金を受給するためには日本年金機構での手続きが必要です。
申請書類を年金事務所に提出すると現地の担当機関から連絡が来るので、まずは住所地を管轄する年金事務所に問い合わせるようにして下さい。
まとめ:スイスの年金制度と課題
「スイスの年金制度の仕組みと特徴」について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?
この記事のポイントは
- スイスの年金は基礎年金と企業年金の2階建てで1年以上加入すれば老齢年金を受け取れる
- 日本と同様にスイスでも少子高齢化が進んで年金財政が厳しく制度改革が行われている
- 日本とスイスは社会保障協定を締結していて年金受給申請は年金機構経由で手続きを行う
でした。
スイスの年金制度は日本と比較して類似点も多く、さらに抱える問題点や課題も似ているので日本の年金制度について考える際に非常に参考になる制度です。
一定の年齢以上になればスイス人でも外国人でも基礎年金に加入するので日本と同じく国民皆年金制度が確立されていて、スイスの年金制度の加入期間が1年以上あると老齢年金を受け取れます。
スイスの年金制度に加入していた外国人が帰国した場合には保険料の還付を受けるのが一般的ですが、日本はスイスとの間で社会保障協定を締結しているので日本人の場合は取扱いが異なり注意が必要です。
そして年金額によって受取形式は一時金か年金か異なります。スイスの年金制度の受給要件を満たしている方は日本年金機構経由で手続きをして下さい。
そもそも年金制度は複雑で分かりにくく、日本の制度を理解するだけで手一杯と感じる人もいるかもしれませんが、年金は老後の生活を支える大切な制度です。
もしも受給条件を満たしているのであれば、ご自身の老後のためにも日本・スイス両国の年金制度への理解を是非深めて下さい。
国際化が進む中で会社員や公務員、主婦など様々な形で海外で生活して現地の年金制度に加入する日本人が増えていますので、老後の生活設計を考える上では海外の年金制度も含めて理解することが欠かせません。
ほけんROOMではスイス以外にも様々な国の年金制度の記事を掲載しているので是非参考にしてみて下さい。日頃から年金について考える意識や姿勢が老後への確実な備えにつながり大いに役立つはずです。