事業承継信託の基礎知識を徹底解説!3つのデメリットを完璧に抑えよう!

事業承継信託の基礎知識を徹底解説!3つのデメリットを完璧に抑えよう!-サムネイル画像

経営者に不慮の事態が起きた場合でも、経営者の希望通りの事業承継をスムーズに進めてくれる方法があります。それが「事業承継信託」です。こちらでは事業承継信託の特徴、その種類、信託を利用するメリット・デメリットを解説していきます。


▼この記事を読んで欲しい人

  • ご自分にまさかの事態が起きても、安心して事業承継を進めたい方
  • 柔軟に条件をつけ、承継内容を決めたい方
  • 後継者トラブルを未然に防ぎたい方


▼この記事を読んでわかること

  • ご自分が急に亡くなっても、事業承継信託を利用すればスムーズに事業承継が進む
  • 信託契約で後継者を決めれば、経営者不在の空白期間も生じず、経営が不安定にならない
  • 信託の内容を慎重に決めないと、逆に存続間でトラブルが起きるおそれもある

内容をまとめると

  • たとえ経営者が亡くなっても、事業承継信託を利用すれば経営者の理想に基づいた柔軟な事業承継が実行できる
  • 事業承継信託には様々な種類があり、利点だけではなくリスク等も把握しておく
  • 信託を利用する場合は相続人の慰留分や、税金等にも注意する
  • 信託の相談は、何回でも相談無料のマネーキャリアFP相談が最適
  • マネーキャリアは顧客満足度93%、オンラインで簡単に予約ができます!

事業承継信託に関する基礎知識

こんにちは、マネーキャリア編集部です。


先日、事業承継に不安を感じている経営者の方からこんな相談がありました。


「ようやく後継者が決まりそうだ。後継者を決めたら従業員や取引先に報告して、後継者のサポートを行っていきたい。しかし、私は高齢で持病もある。途中で倒れてしまうではと不安だ。私に万一の事態が起きても、問題なく事業承継ができる方法はないだろうか?」とのことです。


後継者候補も見つかり、いよいよ事業承継の作業へ移る矢先、現経営者に不測の事態が起こるかもしれません。そうなっては後継者問題で社内が混乱する可能性も高くなります。


そこで自社の安定経営のため、事前に講じておく対策こそ「事業承継信託」です。この制度を利用すれば、ご自分に万一の事態が起きても、円滑に事業承継が進むことでしょう。


今回は事業承継信託の特徴や種類、そのメリット・デメリット等を解説します。より安全な会社の承継のため事業承継信託を検討する、経営者の皆さんのお手伝いとなれれば幸いです。

信託とは?

信託とは、ご自分の大切な財産を信頼できる人に託し、ご自分が決めた目的に従い大切な人・ご自分のため運用・管理してもらう制度です。


つまり信託は

  • 誰のために
  • どんな目的で
  • 信頼できる人(団体等)に託す
仕組みとなります。

信託は次の3者からなる制度です。
  • 委託者(ご自分)→財産を預ける
  • 受託者(信託銀行等)→財産を預かり管理・運用する
  • 受益者(恩恵を受ける人)→管理・運用された財産から生じる利益を得る
この制度は結婚、出産や子の進学、相続というご家庭のイベント、社会貢献やビジネス、企業の資金調達や事業承継まで、様々な場面で活用されています。

信託を活用し、公共の利益の増進を目的した組織に一般社団法人「信託協会」があります。民間団体が本制度の普及活動・調査・研究・信託統計事業等を行っています。

信託協会は
  • 信託業務を営む金融機関
  • 信託会社
が加盟しています。

民事信託と商事信託の2つに分けられる

信託には大きく分けて「民事信託」「商事信託」があります。


民事信託

「家族信託」とも呼ばれます。こちらでは、信頼できる親族を受託者として資産管理や運用等を任せます。ただし、気心の知れた親族に頼むからと言って、口約束で済むわけではなく「信託契約書」の作成・契約の締結を行います。


また、民事信託はあくまで財産管理のための制度です。受託者は委託者(ご自分)の身上監護権がありません。例えば、委託者が施設に入居するとき、受託者はその代理人として入居契約ができないことになります。


そのため、成年後見制度等と併用することで、委託者のトータル的なサポートが期待できます。


商事信託

こちらは財産管理・運用のため、信託銀行や信託会社が営利目的で行う信託です。この商事信託はさらに

  • 管理型信託
  • 運用型信託(金銭信託、年金信託、有価証券信託等)
の2つがあり、事業承継に関する信託は管理型信託に当たります。この信託は委託者であるご自分の指示に従い、信託銀行等の受託者が管理・運用することになります。


営利目的で行われる信託なので、管理費用や各種手数料がかかります。こちらも信託銀行・信託会社側と信託契約書を締結し、管理等を行ってもらいます。


費用はかかりますが、受益者の設定・事業承継の実行される条件は現在の経営者が自由に決められ、コントロールのしやすい面が利点です。

信託を活用した主な事業承継スキーム


ご自分の会社に関する事業承継は、信託銀行や信託会社に管理等を任せるだけではなく、民事信託を活用することも可能です。こちらならば費用はさほどかからず、比較的容易に手続きをすすめられることでしょう。


信頼のおける家族に受託する方法はもちろん、自己信託という方法も有効です。ただし、それぞれ手順や注意すべき点が異なります。


こちらでは

  • 家族信託の手法
  • 自己信託の手法
以上を解説します。

事業承継スキーム①家族信託

ご自分の親族に信用のおける人(配偶者・兄弟等)がいれば、受託者になるようお願いして事業承継のための信託を結びます。


家族信託による事業承継スキーム

事例をあげ、そのスキームを解説します。


(例)

  • 委託者:ご自分(現経営者)→万一の事態が起きた場合に備え信託契約を行う
  • 受託者:弟→現経営者の会社を手伝っていたこともあり、信頼が置ける
  • 受益者:現経営者の子→後継者と考えている

この場合の事業承継スキームは次の通りです。

  1. 親族へ家族信託をすることについて報告
  2. 委託者と受託者が信託契約を締結
  3. 信託を実行する事態が起きた場合、締結内容を受託者が実施

家族信託で行う場合の注目点

受託者がまずご自分にとって信頼できる存在であるか判断します。有能でもご自分との仲が上手くいっていないなら、やはり信託契約を結ぶのは避けた方が無難です。

また、絶対に行わなければいけないわけではないものの、家族信託を行うことについて、親族に報告、相談した方が良いでしょう。

親族の中には、受託者と信託契約を結んだことについて後から知り、動揺するケースもゼロではありません。親族全員に周知させた方が無難です。

また契約内容はなるべく公正証書にすることが賢明な方法です。公正証書は、権利・義務に関する契約を法令に定めた方式で、公文書として作成した証書です。そのため、信頼性の高い書類とみなされます。

事業承継スキーム②自己信託

自己信託とはご自分が委託者であると共に、受託者でもあるという方法です。ご自分が単独で行う意思表示として、信託宣言をする形がとられます。委託者と受託者が同一なので、契約の締結はできません。


自己信託による事業承継スキーム

この場合の事業承継スキームは次の通りです。

  1. 親族へ自己信託をすることについて報告
  2. 信託内容を公正証書で作成
  3. 後継者へ事業承継を行う
このスキームは、ご自分が後継者を選定した段階で、しばらくはご自分で経営を継続しつつ、近い将来、後継者へ完全に経営権を委譲したいとき最適な方法です。

内容としては、例えばご自分が議決権を含めた会社株式に関する権利は引き続き行使し、株式配当などの経済的利益は後継者に分配するという、段階的な事業承継が考えられます。そして、数年後には信託を終了、信託財産である会社株式を受益者へ交付するように定めます。

自己信託で行う場合の注目点

柔軟な事業承継スキームを設定できるので、円滑な承継ができるはずです。ただし、頼りになる親族を受託者とする家族信託と違い、信託宣言をするには公正証書の作成が必須です。

また、委託者・受託者を兼務する以上、信託の知識が必要であり、ご自分の財産と切り離し該当財産の管理・運用が求められます。

事業信託①遺言代用信託

親族やご自分が受託者となる信託では、やや対応が難しいと感じた人は多いはずです。その場合には、信託銀行等に相談し商事信託を行った方が良いでしょう。


信託銀行等に財産を信託し、ご自分の死後に後継者へ事業承継する方法があります。もちろん、ご自分の生存中は、管理・運用を任せることになります。


こちらでは、

  • 遺言代用信託の仕組み
  • 遺言代用信託の強み
以上を解説します。

遺言代用信託の特徴

遺言代用信託事前に信託契約を信託銀行等と締結し、相続が発生した場合、後継者へ自社株が交付される仕組みです。


事業承継における遺言代用信託の内容

信託銀行等では、概ね次のような内容で遺言代用信託を行っている場合が多いです。

  • 信託財産種類:自社の発行国内上場株式や非上場株式
  • 後継者の範囲:経営者の3親等以内の親族または自社株発行会社の役職員等(国内居住)
  • 追加信託:自社株の追加信託可
  • 信託報酬:50万円程度
  • 中途解約・契約変更:原則できない
  • 信託期間:信託契約締結日~信託終了日(相続発生時等)

信託銀行の厳重な管理・運用、手厚いサポートが期待できます。ただし、信託報酬がかかり概ね50万円以上は負担するとみて良いでしょう。


遺言代用信託の流れ

この信託で事業承継を進めたい場合は、次の流れで進めていきます。

  1. 現経営者が発行会社へ議決権行使、配当金を受領
  2. 現経営者が信託銀行等と契約締結、自社株を信託
  3. 信託期間中、現経営者(委託者兼受益者)は発行会社へ議決権行使
  4. 発行会社は現経営者(委託者兼受益者)へ配当金・株主優待物を交付
  5. 現経営者(委託者兼受益者)の相続発生時、信託終了
  6. 信託銀行等は後継者(第2受益者)へ自社株交付
信託銀行等と契約を結べば、後は任せきりというわけではなく、ご自分が行わなければいけないプロセスもあります。

遺言代用信託のメリット

遺言代用信託では後継者に親族の他、ご自分が見込んだ役職員を選んでも構いません。また受託者となる信託銀行等では、自社株を追加信託できることも多いです。


遺言を残すだけの場合、実際にご自分の意図した事業承継が行えるか見届けることはできません。しかし、この信託ならば契約を締結した時点で効力が発生します。


相続発生時、安全かつ確実に後継者へ自社株が交付され、後継者は安心して経営権を確保することができます。


ただし、親族等の誰かに後継者として自社株を交付された場合、周知されていなければ、やはり関係者は動揺してしまいます。事前に親族はもとより、社内外へ後継者を決めたことの説明が行われるべきです。

事業信託②他益信託

現経営者であるご自分が亡くなった後ではなく、なるべく生存中に自社株を託したい方々も多いことでしょう。そんな場合には「他益信託」を利用します。


こちらは、受託者が信託銀行等であることは遺言代用信託と同じです。しかし、ご自分の生前、段階的に後継者の地位を確立させていく方法です。


こちらでは、

  • 他益信託の仕組み
  • 他益信託の強み
以上を解説します。

他益信託の特徴

他益信託は事前に信託契約を信託銀行等と締結し、自身の議決権を残したまま自社株も託すことができ、相続発生時等により、後継者へ自社株が交付される仕組みです。


事業承継における他益信託の内容

信託銀行等では、概ね次のような内容で他益信託を行っている場合が多いです。

  • 信託財産種類:自社の発行国内上場株式や非上場株式
  • 後継者の範囲:経営者の3親等以内の親族または自社株発行会社の役職員等(国内居住)
  • 追加信託:自社株の追加信託可
  • 信託報酬:80万円程度
  • 中途解約・契約変更:原則できない
  • 信託期間:信託契約締結日~信託終了日(指定年月日・相続発生時等)
こちらも信託銀行等の厳重な管理・運用、手厚いサポートが受けられます。ただし、自社株を生前に託し、期間中に現経営者の亡くなるケースも想定する必要があるので、信託報酬は概ね80万円以上と高額に設定されていることが多いです。

他益信託の流れ

この信託で事業承継を進めたい場合は、次の流れで進めていきます。
  1. 現経営者が発行会社へ議決権行使、配当金を受領
  2. 現経営者が信託銀行等と契約締結、自社株を信託
  3. 信託期間中、現経営者(委託者)は発行会社へ議決権行使
  4. 発行会社は後継者(受益者)へ配当金・株主優待物を交付
  5. 現経営者(委託者)の相続発生等で、信託終了
  6. 信託銀行等は後継者(受益者)へ自社株交付
前述した遺言代用信託と異なるプロセスが存在します。他益信託の場合も、信託銀行等と契約を結べば、後は任せきりというわけではありません。やはり、ご自分が行わなければいけない手続きもあります。

他益信託のメリット

他益信託も後継者に親族の他、ご自分の見込んだ役職員を選べる場合が多いです。また受託者となるほとんどの信託銀行等では、自社株の追加信託を認めています。


他益信託では、現経営者ご自身の議決権を残したまま、後継者へ自社株を生前に託せる他、信託期間中に現経営者が亡くなった場合、後継者へ自社株交付がなされます。


より柔軟に多様なリスクへ備えたいなら、他益信託の活用が最適と言えます。

事業信託③後継ぎ遺贈型受益者連続信託

ご自分が後継者を定め信託すれば、基本的に事業承継は支障なく進むはずです。しかし、ご自分の選んだ後継者が次の後継者を決める前に亡くなるという、まさかの事態の発生が無いとは言い切れません。


そんな時に役立つのが「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」です。こちらは、たとえ後継者(第一後継者)が亡くなったとしても、次の後継者(第二後継者)へ、後継者の地位を確立させる方法です。


こちらでは

  • 後継ぎ遺贈型受益者連続信託の仕組み
  • 後継ぎ遺贈型受益者連続信託の強み

以上を解説します。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託の特徴

こちらは、現経営者の事業承継(自社株)を受ける後継者が亡くなった場合、更に指定された者へ、順次承継される定めのある信託方法です。


本信託の仕組み

受益者(権)の承継は回数に制限がありません。順次後継者がいるだけ指定されていても構いません。しかし、

  • 信託後30年を経過して、新たに受益権を取得した後継者(受益者)が死亡
  • 受益権が消滅した
いずれかが有効期限とされます。

もしも信託後30年を経過したら、受益権の新たな承継は一度しか認められないことになります。

また、事業承継スキームで活用する場合、この方法を利用するほど経営者としての才覚を有する人物がいるのかどうか、冷静に検討する必要もあるはずです。

本信託の流れ

この方法で事業承継を進める場合、次のような形で承継が行われます。
  1. 現経営者が信託銀行等と信託契約を締結、株式を信託
  2. 現経営者の死亡後、受託者(信託銀行等)は第一承継者へ自社株交付
  3. 第一承継者が死亡し、受託者(信託銀行等)は第二承継者へ自社株交付
前述した2つの信託方法より、やや内容が複雑となります。まずは信託銀行等の担当者へ仕組みの内容の説明・アドバイスを受けながら、手続きを進めていきましょう。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託のメリット

ご自分の後継者として優秀と思える子が複数いる場合、後継ぎ遺贈型受益者連続信託で指定して置くと、例えば

  1. 長男承継者
  2. 次男承継者
  3. 三男承継者
と指定することができます。これならば、経営者の空白期間も生じにくくなり、自社の経営が安定するはずです。

しかし、承継者として指定された子達に、会社を継ぐ意思がなければトラブルのもとです。このような信託契約を考えていると、親族等の関係者へ告げ、了承してもらうことが大切です。

事業承継信託の4つのメリット


事業承継信託を利用すれば円滑な後継者の確定はもとより、経営の安定や税金対策にもなる等、利点は多いです。


こちらではメリットである

  • 条件の柔軟な設定
  • 経営権の確実な取得
  • 不在期間を避けれる
  • 税金対策にもなる
以上を解説します。

メリット①経営者が条件を柔軟に設定できる

事業承継信託を行えば、ご自分の希望に基づいた条件を設定し、柔軟な承継が実現できます。事業承継を行う際は、「株式議決権」「財産権」とを分けて設定が可能です。


つまり、ご自分は会社経営権を保持しつつ、後継者へ財産権を承継させることができます。また、後継者(受益者)の設定の他、事業承継が実行される条件の付与もご自分次第です。


経営者の死後、事業承継をする方法には相続があります。しかし、この方法ではご自分が亡くなった後なので、希望した事業承継がなされたのかはわからないままです。


その他、生前贈与で事業承継をするにしても、時間や手間に加え、ご自分が見込んだ後継者に資金力がなければ実現は難しいです。


一方、事業承継信託ならば柔軟に条件をつけて、ご自分の理想どおりに事業承継が実行できます。

メリット②後継者が経営権を確実に取得できる

事業承継信託を利用すれば、ご自分が見込んだ後継者の地位を確立できます。この方法なら、信託会社・銀行等の機関が関与する形で、自社株を交付する後継者についてご自分で決めることが可能です。


経営者の意向が反映しやすくなるとともに、信託会社・銀行等は契約という形で管理・運用、相続等が発生した場合に経営者の意思を遂行します。


他の事業承継の方法では、どうしても株式が分散されて、ご自分の決めた後継者に経営権が集中しない事態も考えられます。


例えば長男を自社の後継者として引き継がせたいと考えても、配偶者はもちろん次男・三男がいれば、この3人にも相続権利が発生します。


つまり、株式の保有者が4人となる可能性もあります。これでは後継者が確固たる経営権を獲得できなくなります。


もしも事例の次男・三男が優秀で長男の次に見どころがあるなら、前述したように後継者の次の後継者まで指定できます(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)。

メリット③経営者が不在になる期間がない

この信託を利用すれば、事業承継で経営の空白期間ができてしまうことを回避できます。事業承継は相続でも対応はできますが、ご自分が亡くなった時のため遺言を残しても、相続人の一部から異論の出ることがあります。

また、相続人間で遺産分割協議をするなら、それに必要な手続きが発生します。このようなケースで手間取ると、事業承継完了後、後継者が経営者へ就任するまで、かなり時間がかかることも想定されます。

しかし、事業承継信託なら、相続発生と同時に議決権・受益権は自動的に指定された後継者へ移動します。つまり、事業承継のための手続きは不要です。

そのため、後継者が新たな経営者として就任するまで、円滑に事業承継が進みます。これなら会社経営が不安定になることは避けられるでしょう。

メリット④信託は課税対象外なので税金対策になる

事業承継信託を利用は税金対策にもつながります。信託を行う際は原則課税されることがありません。事業承継による税金が発生せず、ご自分を承継した後継者の負担が少なく済むことになります。

ただし、信託開始時にご自分(委託者)と受益者が同一、相続後は後継者と受益者が同一となる場合、「みなし相続財産」が発生します。

こちらは被相続人が亡くなったことを機会に受け取れる財産のことです。こちらの財産に該当すれば相続税が発生します。

事業承継信託の3つのデメリット

事業承継信託を利用する場合、現経営者や後継者に有利となる効果ばかりではなく、事前に把握しておくべき事柄もあります。


こちらでは、

  • 信託内容は慎重に決める
  • 法的見解が未確定な部分もある
  • 事業承継信託そのものが理解されにくい
以上を解説します。

デメリット①内容に注意しないとトラブルの原因になる

事業承継信託は最終的に、ご自分(委託者)の亡くなった後、事業承継が実施されます。


ただし、遺言代用信託のように相続発生が大前提で実施されるものもあれば、現経営者に議決権を残したまま、自社株を生前に託せる他益信託(信託銀行等では「生前贈与タイプと呼ばれている」)もあります。信託内容は1種類だけではありません。


そのため、信託内容に注意しないと「自社株を生前、後継者へ託したかったのにできなかった。」等というトラブルに発展するおそれがあります。


まずは信託契約を締結する際、信託銀行等の担当者から内容をしっかり聞き、ご自分のニーズに合った信託方法なのかを良くチェックしましょう。


内容がいまいち理解できないまま契約したのでは、事業承継に支障が出るおそれもあります。

デメリット②遺留分についての法的見解が未確定

後継者が遺留分減殺請求」をされたときの対応について、いまだ決まっていない点に留意しておきましょう。


遺留分とは一定の相続人に対し、たとえ遺言があった場合でも奪うことのできない、遺産の一定の留保分を指します。


そして遺留分減殺請求は、この遺留分が侵害された相続人から侵害した相続人に対し、その侵害額を請求することです。


つまり、後継者が自社株を取得した場合、他の相続人からこの請求がなされるリスクもあるのです。


現在このリスクについて

  • 信託法は民法の特別法だから遺留分は発生しない
  • 認めなければ他の相続人の権利が侵害される
と、真っ二つに見解が割れています。

信託設定は、経営者の一存だけで決めることができるので、他の親族は強い不満を持つ場合もあるのです。

デメリット③事業承継信託の理解がされにくい

事業承継に関して信託を活用する、という方法がまだまだ周知されていない点も気を付けましょう。信託と言えば投資信託を思い浮かべる方々が多いはずです。


まだまだ事業承継に信託制度を利用することが一般的ではないのです。そのため、親族から反対意見の他、疑問や不安の声が聞こえてくるかもしれません。


そのため、ご自分の独断で信託銀行等といきなり信託契約を締結せず、親族を説得し、信託の利用に納得してもらってから、契約を進めた方が無難です。

事業承継信託の注意点

事業承継信託は前述したようにデメリットも存在します。事業承継信託を利用し、安心して事業承継を行うには、やはり気を付けておくべき点、事前に手を打っておくべき事柄もあります。


こちらでは、

  • 周囲に納得してもらおう
  • 相続人全員の遺留分を考える
  • 事業承継税制をチェック
  • 課税関係を良く確認
以上を解説します。

注意点①周囲に納得してもらっておく

事業承継信託を利用する場合、周囲に理解を求める必要があります。親族にわかりやすく信託制度を説明し、その有効性を知ってもらうことが大切です。


とはいえ、親族との間では感情のぶつかり合いとなってしまい、新たなトラブルの火種をつくることになるかもしれません。


そこで、現経営者のご自分の他、配偶者や子も同席し、信託銀行等の担当者から説明を聞くことも良い方法です。


この方法ならご自分の想定しなかった疑問点や不明点を、親族が担当者へ質問するかもしれません。結果として、新たな発見やご自分の知識ともなるはずです。ご自分一人で契約を進めず、親族も関わりつつ、信託制度の利用を検討することがおすすめです。

注意点②後継者以外の相続人の慰留分を考慮する

後継者以外の相続人の遺留分で問題が起こる可能性は、先ほど述べた通りです。この場合は、なるべく相続人全員に納得する財産分与となるよう配慮することが大切です。


それは何も、自社株をきっちり均等に分けたり、金融資産を完全に等分したりするという方法だけではありません。


前もって財産調査・財産の価値の把握は大切ですが、例えば

  • 配偶者:[希望]我が家にこれからも住みたい→ご自分の所有する土地・建物を分与
  • 長男(後継者):[希望]会社を継ぎたい→自社株を取得し経営権承継
  • 次男:[希望]お金が欲しい→ご自分の金融資産(現金・預貯金等)の半分を分与
  • 三男:[希望]お金が欲しい→ご自分の金融資産(現金・預貯金等)の半分を分与

と、相続人全員が納得できるような形で配分することも良い方法です。


配偶者には慣れ親しんだ土地・建物を与え、次男や三男には現金・預貯金等を分与します。


しかし、後継者となる長男には不動産資産も現金・預貯金等も与えないが、経営権を承継させる、と各相続人の納得しそうな内容で調整することが肝要です。

注意点③事業承継税制の特例の対象外

自社株を信託するときは税制上の特例の対象外です。通常ならば、一定の条件に合致することで事業承継による相続税・贈与税の納税猶予、免除の特例が受けられます。


ただし、事業承継信託の場合は自社株を信託するので特例の条件に合致しません。そのため、後継者が受益者となる信託は、税制上の特例を利用できないことになります。


もしも税制上の特例の利用と、信託制度の利用を比較し、税制上の特例の利用の方が有利と考えたら、事業承継信託の契約締結は行わない方が良いでしょう。

注意点④課税関係をしっかり理解しておく

事業承継信託では基本的に課税されませんが、受託者や受益者の設定によって、先に述べた「みなし相続財産」として相続税が課される場合もあります。


課税に関することで不明点がある場合は、信託銀行等の担当者へ信託内容の他、税金に関する質問も行っておきましょう。


担当者から納税に関する良いアドバイスが得られるかもしれません。また、早くから課税対象になることがわかれば、対策を講じやすくなるはずです。

事業承継信託を利用しない方が良い3つのパターン

事業承継信託は現経営者にとって便利な事業承継方法ですが、ケースによっては利用を避けた方がよいこともあります。


こちらでは、

  • 生前に事業承継をしたい
  • 事業承継税制を利用したい
  • 周囲の理解が得られなかった
  • 事業承継信託以外の方法を検討したい

以上を解説します。

①生前に事業承継をする場合

事業承継信託では、ご自分の生前に自社株を託すことができるタイプもあります。しかし、議決権を含めた事業承継はできません。事業承継信託は、相続発生を念頭に設定されています。


生前に事業承継を完了したいなら、「贈与」という形で承継を進めましょう。この場合は、贈与税の課される可能性が高くなります。


ただし、生前に事業承継するつもりではいるが、ご自分が万一、急病等で亡くなるような事態に備え、事業承継信託を契約しておくのも良い方法です。

②事業承継税制を活用する場合

事業承継税制は、一定の条件を満たせば、その株式にかかる相続税・贈与税を猶予してもらえる制度です。更に、平成30年~10年間に行われる贈与・相続に関して特例もあり、この特例では全株式が対象、猶予割合が100%という内容になっています。


事業承継の際に税負担を懸念する場合は、この税制・特例と比較し、事業承継信託より有利と感じたら、無理に事業承継信託を申込む必要はありません。

③親族や従業員などの理解がない場合

事業承継信託の利用について、ご自分や信託銀行等の担当者が親族に説明しても納得してくれなかったり、従業員からも理解が得られなかったりしたら、強引に進めるのは控えた方が無難です。


せっかく事業経営がうまくいっているのに、事業承継でトラブルが発生し、経営にも支障が出たら大変です。別の異なる事業承継策を検討する方が良いでしょう。


事業承継には相続や贈与、M&A等、様々な方法が存在します。親族・従業員が納得できる方法を探すことが大切です。

事業承継信託以外の事業承継ならまずはマネーキャリアで無料相談!

事業承継信託の場合は信託会社等で相談するべきですが、その他の事業承継方法である相続や贈与等に関する質問を検討するなら、相談サービスの「マネーキャリアを利用しましょう。


この相談サービスは何回でも相談無料で、相談員「ファイナンシャルプランナー」という、相続・税金・お金の専門家が担当します。


この専門資格を有する相談員が、ご自分の質問に親切・丁寧に回答してくれるはずです。対面相談・オンライン相談が可能なので、是非ホームページから相談予約をしてみましょう。

事業承継信託の設定方法

事業承継信託を希望する場合は、信託銀行や信託会社で申し込みをする前に、その設定方法を確認しておきます。また、契約締結前は親族等に報告して了承を得ましょう。


こちらでは、

  • 契約の締結
  • 遺言書に記載する場合
  • 自己信託で宣言する場合

以上を解説します。

方法①信託契約の締結

信託契約を受託者となる信託銀行等と締結します。基本的に必要書類は次の通りです。

  • 相談申込書
  • ご自分(委託者)の本人確認資料
  • ご自分(委託者)に関する書類:全部事項証明書
  • 推定相続人に関する書類:戸籍謄本、戸籍の附票等
  • 後継者(受益者)に関する書類:住民票
  • 信託に関する約定書
  • 通知者承諾書
  • 印鑑証明書
  • 実印、通帳、お届出印
等を準備します。もちろん、受託者から追加の書類を要求されることがあります。

これらの書類を提出し、信託契約を締結した時点からその効力が発揮されます。受託者である信託銀行等は、後継者へ受益者になったことを通知します。そのため、後継者が通知をみて困惑しないよう、委託者であるご自分の方から、契約の事実を報告しておきましょう。

方法②遺言書に信託を記載

ご自分が遺言書の作成を検討している場合、遺言書に信託内容を記載することで事業承継信託が設定できます。


作成した遺言書に信託が明記されているので、ご自分が亡くなった際に遺言書と同時に効力が発生します。


つまり、ご自身は効力が発生した事実を確認できないことになります。ご自分の生存中から信託の効力を発生させたいならば、遺言書へ信託を記載するやり方は避けた方が良いでしょう。


やはり、信託会社等と事業承継信託の契約を締結し、事業承継の準備を整えておいた方が無難です。

方法③自己信託によって宣言

先ほど述べた自己信託で宣言する方法もあります。現経営者であるご自分が委託者であり受託者となる信託方法です。双方を兼ねる以上、契約の締結は行いません。


信託した財産は「委託者=受託者」の固有財産と切り離して管理されます。委託者の単独の意思表示として扱われる信託宣言を行います。


この信託宣言をするには公正証書の作成が必須です。また、信託設定が真正になされたことを証明するため、弁護士や公認会計士、税理士にチェックさせる等の義務も課されています。

事業承継信託について相談可能な銀行

事業承継信託を扱う金融機関は増加しています。


事業承継信託を扱う金融機関


主に次の有名な金融機関が、積極的にインターネット等でサービスの提供をアピールしています。

  • みずほ信託銀行
  • りそな銀行
  • 大和証券
  • SMBC信託銀行

信託銀行はもとより大手銀行、証券会社も扱っています。また、地方銀行でも事業承継信託のサービスが紹介されています。取引先の銀行が事業承継信託を行っているなら、まずはそちらで相談してみましょう。


金融機関が扱っている事業承継信託の種類


取り扱うタイプは概ね次の2種類です

  • 遺言代用型(遺言代用タイプ)
  • 議決権留保型(生前贈与タイプ)
各行で名称は異なりますが、概ね信託契約の内容は
  • 後継者を決めておくが、今すぐ自社株を渡すつもりは無い場合→遺言代用型(遺言代用タイプ)
  • 後継者を決め自社株も渡すが、経営権は自分が持つ→遺言代用型(遺言代用タイプ)

となります。


まずは金融機関の担当者にそれぞれの特徴を説明してもらい、どちらがご自分のニーズに合っているのか判断した上で選びましょう。


また、事業承継信託というサービスに不安を感じる親族等がいる場合、ご自分だけではなく担当者からの説明もあれば理解を得られる可能性が高まります。

民事信託契約書の例

こちらでは信託契約書記載例を取り上げます。信託銀行等が受託者となる場合は、受託者の方で用意してくれます。内容としては基本的に大きく分けて

  • 第1章:総則
  • 第2章:当事者
  • 第3章:信託の方針
  • 第4章:信託の終了と清算
  • 第5章:その他
で構成されます。

(1)第1章:総則

信託の目的や用語の定義、信託財産、効力発生時期等を明記します。とりわけ信託財産は詳細に明記し
  • 次の会社の株式で、甲(ご自分)が所有する全ての株式
  • 本店〇〇県〇〇市〇〇区〇〇
  • 商号〇〇株式会社
  • 前号の財産から生じる果実、受領した元本、または売却処分した金員
というように、後継者へどんな財産を渡すかについて明記します。

(2)第2章:当事者

委託者や受託者、受益者を明記します。必要と感じたら代理人の選任も追加します。

(3)第3章:信託の方針

信託財産の管理運用等に関する事項を定めます。

(4)第4章:信託の終了と清算

信託がどのように終了するのか、清算受託者および手続き等も規定します。

(5)第5章:その他

法定代理人による意思表示や信託契約の変更の条件等を明記します。

なお、信託契約書の最後のページの下方には
  • 契約締結した年月日の記入
  • 委託者の住所・氏名・押印
  • 受託者の住所・氏名・押印
を忘れずに行います。

まとめ:事業承継ならまずはマネーキャリアで無料相談!

今回の記事では、事業承継信託の特徴やメリット・デメリット等を解説してきました。


事業承継信託は、現経営者の希望を反映し円滑な事業承継が期待できる方法です。しかし、まだこの方法自体、認知度は低く法律的な見解も分かれるケースがある点に注意しましょう。


 この記事では次の内容を紹介しました。

  • 信託方法は民事信託や事業承継信託といろいろな種類がある
  • 事業承継信託を利用すれば、信託銀行等が受託者となるので安心
  • 事業承継信託を申込む際は親族等と話し合った方が良い
  • 事業承継信託を利用すると、税制の優遇措置等が利用できない制約もある
事業承継信託による事業承継の完了は、あくまで相続の発生(つまりご自分が亡くなったてから)からとなります。生前に後継者へ全てを承継したいなら、贈与の形で手続きを行う必要があります。

事業承継信託を検討する場合、信託銀行はもとより、銀行大手、地方銀行等も取り扱っています。自社の取引先の銀行でこの方法を相談してみるのも良いでしょう。

どこに相談して良いか分からない方は、マネーキャリアにご相談ください。マネーキャリアでは法人の方も無料で相談可能な為、この機会に利用してみてはいかがでしょうか。

ほけんROOMでは、他にも読んで頂きたい記事が多数掲載されていますので、是非ご覧ください。

ランキング