要介護認定の基準と介護保険利用までの流れについて解説します

介護保険サービスを利用するにあたり、まず必要となるのが「要介護(要支援)認定」。でもこの認定区分、一体どのような基準でどのようにして決められているのでしょうか?その判定方法を、介護保険サービス利用までの流れとともに解説していきたいと思います。

介護保険のサービスを受けるのに必要な要支援認定・要介護認定とは

介護保険のサービスは申請すればすぐ使えるものではありません。

事前に「要介護(要支援)認定」を受ける必要があります。 

そして認定後にも、ケアマネジャーによるアセスメント(聞き取りと分析)や

ケアプランの作成といった段階を経て、ようやく実際のサービス利用に至るのです。


まずは介護保険サービス利用の第一歩である

「要支援認定・要介護認定」について、解説していきたいと思います。

要支援認定・要介護認定の基礎知識

要介護(要支援)認定には、介護保険サービスの利用希望者に

「どのような介護がどの程度必要か」ということを判定するという役割があります。


原則として65歳以上の全ての国民は介護保険加入者となりますが、

いざそのサービスを使う時には、「要介護」または「要支援」の判定がないと

利用することはできないのです。


要支援認定・要介護認定の判定方法

介護保険の要介護認定には2つのステップがあります。

まずは、認定調査(訪問調査)の結果からコンピュータが「1次判定」をはじき出します。

そして介護認定審査会(医療・保険・福祉の専門家による会議)が

1次判定をもとに、最終結果となる「2次判定」を行います。


要支援認定の2つの区分と要介護認定の5つの区分

要介護認定は、必要とされる介護量によって

要支援1・2」と「要介護1~5」の7段階に区分されています。

一般的にこれらの区分を「介護度」と呼び、

介護度によって受けられるサービスの内容や支給限度額は大きく異なります。 

要介護認定の基準

要介護認定は、一体どのような基準で決定されているのでしょうか。

その判定基準について見ていきましょう。

要介護認定でチェックされる項目

介護保険の認定調査でチェックされる項目は大まかに分けて次の6つです。

  • 身体機能
  • 起居動作
  • 生活機能
  • 認知機能
  • 精神・行動障害
  • 社会生活への適応
  • 必要な医療処置

身体機能・起居動作

生活する上での基本動作をどの程度できるかを確認します。内容は、

上下肢の動きを見る「麻痺」関節の可動域を見る「拘縮(こうしゅく)」

他に「寝返り」「視力」「聴力」など、合計13項目です。

必要に応じて実際の動作確認、または聞き取りを行います。


生活機能

「食事摂取」「排泄」「整容」「着脱」など、最低限日常生活に必要な動作について

介助が必要かどうかを聞き取ります。


認知機能

「生年月日」「5分前のこと」「自分の名前」「今の季節」

などを認識できているかどうかを、本人に質問して確認します。


精神・行動障害

過去1ヶ月間に「認知症による不適切な行動がどの程度あったか」を、

主に立会人に確認します。

「被害妄想」「昼夜逆転」「同じ話の繰り返し」「自分勝手な行動」

などの15のチェック項目があります。

たとえ認知症があっても、立会人がなければ

ここでチェックされることは難しいのでご注意ください。


社会生活への適応

「内服薬や金銭の管理」「買い物」「簡単な調理」「集団行動の可否」といった

社会的自立度を確認します。


必要な医療処置

過去2週間以内に「点滴」「酸素療法」「透析」「胃ろう」などの医療処置を

医師の指示により看護師によって実施されているかどうかで評価します。  


要介護認定等基準時間

では、 1次判定はどのような基準でを決まっているのでしょう。

各チェック項目から、コンピュータが「要介護認定等基準時間」の推計値を算出します。

これは、1日にその人の介護に必要とされる時間を表しています。

その時間の長さから、7段階の介護度は決定しているのです。

各介護度の要介護認定基準時間は以下の通りです。


要支援1:25分以上32分未満、またはこれに相当すると認められる状態(以下同)

要支援2:32分以上50分未満

要介護1:32分以上50分未満(※時間は要支援2と同じ。加えて状態の不安定または

一定以上の認知機能低下が認められる場合) 

要介護2:50分以上70分未満

要介護3:70分以上90分未満

要介護4:90分以上110分未満

要介護5:110分以上 


しかしこの時間、なんだか短すぎると思いませんか?

最重度の要介護5の介護時間が1日110分なんて… 実はこの基準時間は、

普段の介護に要する時間や実際に介護サービスを受けられる時間ではありません

あくまで介護の必要性を判断するための基準、

いわば全国共通の「ものさし」として厚労省が設定している時間にすぎないのです。


この基準時間は、介護老人福祉施設などに入所する3,500人を

調査したデータが元になっています。つまり、要介護認定の対象となる高齢者が

「それらの介護保険施設に入所・入院していると仮定した場合」

に提供される介護サービスの時間といってよいでしょう。 


「介護に最適な環境で」「プロの職員が」「介護に専念したときに」

要する時間ですから、自宅での実際の介護時間よりはかなり短くなるのです。

要支援・要介護の心身に関する状態の例

要介護度それぞれにはっきりした状態の定義はありません。

しかしそれぞれの状態に対するイメージの一例を、参考に挙げてみます。


要支援1 

日常生活の基本的なことはほぼ自分で行うことができるが、一部に助けは必要。

適切な介護サービスを受けることにより、要介護状態になるのを予防できると考えられる。


要支援2

要支援1よりも立ち上がりや歩行などの運動機能に若干の低下があり、

さらなる助けが必要とされる状態。要支援1と同じく、適切な介護サービスを受ければ

要介護状態になるのを予防できると考えられる。


要介護1

基本的に要支援2と同程度の状態であるが、さらに「状態が不安定であること」

「認知機能の低下が顕著であること」が認められた場合。

※要支援2と要介護1では利用できるサービスにかなり差があり、

ケアマネジャーも高確率で変わってしまいます。

ゆえに、この二つを行ったり来たりして困る利用者は少なくありません。


要介護2

要介護1よりも日常生活に必要な能力が低下し、衣服の着脱や排泄など

最低限の日常動作についても介護が必要とされる状態。

※この辺りから車イスの方が多くなります。


要介護3

衣服の着脱・排泄など、ほぼ全ての日常動作に介護が必要な状態。

※要介護3は車イスの方がほとんどですが、ときどき歩行できる重い認知症の方もいます。 


要介護4

要介護3よりもさらに状態が低下し、日常生活の全てに介護が必要な状態。

※寝たきりでも胃ろうなどで食事介助の手間がなく状態が安定している方は、

ここに含まれる可能性が高いです。


要介護5

最も重度な状態。寝たきりであり座っていることも難しい。全ての日常動作において

全面的に介護が必要とされる。意思疎通も困難であることが多い。

要介護認定の申請方法と流れ

冒頭でお伝えしたように、介護保険サービスの利用には要介護認定の申請が必須です。

簡単に、申請方法とその後の流れをご説明したいと思います。

介護保険の要介護認定を申請する場所

申請は市区町村の担当窓口です。

お近くの地域包括支援センターや居宅介護支援事業者に、

申請の代行を依頼することもできます。

 

介護保険の要介護認定の申請に必要なもの

では、申請窓口には何を持参したら良いのでしょうか。  

・介護保険被保険者証(65歳になると送られてきます) 

・マイナンバーカード(本人) 

・身分証明書(本人・代理人) 

・印鑑(本人・代理人) 

※40~64歳までの第2号被保険者は、

介護保険被保険者証の代わりに医療保険証が必要です。 

※本人以外が申請する場合に委任状が必要かどうかは、各市区町村により異なります。 

介護保険の要介護認定の申請から認定までの流れ

申請後、市区町村の調査員が自宅や病院を訪問して本人に会い、

前項でご説明した認定調査を行います。

現状を正しく伝えられるよう、できる限り家族が立ち会いましょう。


1次判定・2次判定ともに「主治医の意見書」が必要となります。

意見書は通常、市区町村が直接主治医に依頼します。

できれば申請までに、意見書作成のための診察を受けておきましょう。

(遅筆の先生であると意見書がなかなか届かず、認定時期も遅れてしまうため)


その後1次判定を経て、最終結果である2次判定が決定します。

結果は郵送にて通知されます(電話では教えてくれません)。

介護保険サービスを利用するまでの流れ

さて、ようやく介護度が決まりました。

ここから実際のサービス利用までの流れはどうなるのでしょうか。


まずは「サービス計画書」いわゆる「ケアプラン」を作成しなければなりません。

介護保険サービスは公費が使われるものですから、その利用するには

 「この人はこういう状態だから、こういう効果を狙って、このサービスが必要」 

という理由づけが欠かせないのです。

要介護認定の有効期間と更新

認定された介護度には有効期間があります。

期限が切れる前に更新しないと、介護保険サービスが使えなくなるのでご注意ください。


有効期間は、申請時の状況により以下のように異なります。

新規申請・区分変更申請での認定結果…原則6ヶ月(状態に応じて3~12ヶ月まで)

更新申請の認定結果…原則12ヶ月(状態に応じて3~24ヶ月まで) 

※「総合事業」が実施できていない自治体は、

更新申請でも上限期間が12ヶ月の場合があります。

要介護認定の結果に納得できない場合の対処法

通知された介護度に納得がいかない!

そんな時はどうすればいいのでしょうか。以下の二つの手段があります。


1.不服申し立てをする 


認定通知を受け取った翌日から60日以内に市区町村の介護保険担当窓口に

不服申し立ての申請をすることができます.

しかしこれは同じ調査内容を再審査するにすぎない上、

再度結果が出るまでに数ヶ月を要します。あまりにも非効率的であるため、

実際にはこれを行う人はほとんどいません。


2.区分変更申請をする


介護保険の区分変更申請とは本来、認定期間の途中で本人の状態が変わったときに

再度調査と認定を行うものです。

しかし、要介護認定の結果に納得できない人も多く利用しているのが現実です

通常と同じ方法でいつでも申請でき、結果は原則として30日以内に通知されます。


ただし、区分変更したからといって

希望の介護度をになるとは限らないことはご承知ください。

介護度を上げようとしたのにかえって下がってしまった、という事態も起こり得ます。

介護保険サービスの費用

介護保険サービスを受ける場合、給付限度額が介護度別に設定されています。

限度額は「単位数」によって示されます。

1単位は原則10円として計算しますが、地域や利用するサービスによっても異なります。 

最も高い東京23区では1単位が11.4円です。


限度額を超えて利用した場合、超過分は全額自己負担しなければなりません。

1ヶ月の区分支給限度額と自己負担額

各介護度の1ヶ月あたりの支給限度単位は、次の通りです(平成29年1月)。


  • 要支援1…5,003単位
  • 要支援2…10,473単位
  • 要介護1…16,692単位
  • 要介護2…19,616単位
  • 要介護3…26,931単位
  • 要介護4…30,806単位
  • 要介護5…36,065単位


例えば要介護1のAさんは、 


・デイサービス1日型

・ヘルパーのお掃除

・ヘルパーの入浴介助


を各週1回利用しています。 

1ヶ月(4週)の自己負担額はいくらになるのでしょうか。 


デイサービス(7~9時間)656単位

ヘルパー(生活援助45分)225単位

ヘルパー(身体介助60分)388単位


ですので、Aさんが1単位=10円の地域在住で1割負担の方である場合

6,560×4=26,240

2,250×4=9,000

3,880×4=15,520

26,240+9,000+15,520=50,760

1割で5,076円の負担となります(加算や昼食代などの実費は含みません)。


ではAさんが1単位11.4円の地域在住で2割負担の方である場合は?

7,478×4=29,912

2,565×4=1,0260

4,423×4=17,692

29,912+10,260+17,692=57,864

2割で11,573円の負担となります。かなりの差が出ますね。


限度単位いっぱいまで使うと、もちろんその差はさらに広がります。 

まとめ

介護を必要とする方の状態は千差万別であり、置かれた状況もそれぞれ異なります。

介護保険制度は、全ての方が納得するような制度とは言い難いのが正直なところです。


しかしその概要を知り、利用方法の基本を知ることで

出来る限りその方にフィットしたサービスの選択をすることができます。

全てケアマネジャーに任せて「そんなものなのか」と飲み込むのではなく、

ぜひご本人やご家族も、介護保険制度の基本を把握しておいていただければと思います。

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