法人向け定期保険の経理処理をわかりやすく解説【ルール改正後】

令和元年度に法人向けの定期保険の経理処理、すなわち損金算入額の割合に改正があったのはご存知でしょうか。会社側の節税対策として打ち出していた数々の商品がどう変わったのか、この記事ではルール改正後の定期保険の経理処理についてわかりやすく解説していきます。

内容をまとめると

  • 法人の定期保険の経理処理は2019年に改正された 
  • 法人の定期保険の内容をしっかりと把握することが大事 
  • 新しい経理処理は主に4つのパターン 
  • 何を重視して加入するかリスクをしっかりと把握して対策した上で保険加入を検討するべき 
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監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

法人向け定期保険の経理処理についてわかりやすく解説


法人向けの定期保険は、ただ単に万が一に備えるためだけのものではなく、会社の節税対策として多くの会社が加入されていることでしょう。 

けれども2019年、令和元年の10月に国税庁から通達されたのは、保険の損金算入額の割合の改正で、今までのように節税できる商品として保険の活用ができなくなってしまいました。
  • ①改正後の保険料の経理処理は主に4パターン
  • ②保険金の経理処理 
  • ③解約返戻金の経理処理 
  • ④払済終身保険変更時の経理処理 
  • ⑤退職して名義変更をする際の経理処理 
  • 税制ルールの改正前の経理処理方法
そこでこの記事では法人の定期保険など保険の経理処理の仕方を中心に、基礎的な知識や法人の定期保険の経理処理がどのように改正されたのかをわかりやすく解説していきます。

①保険料の経理処理|2019年改正後のは主に4パターン


会社で定期保険に加入したとき、商品によって保険料の計上の仕方が違っています。ここでは、改正後の保険料の経理処理について解説していきますが、2019年以後に定期保険に加入した場合を想定してみると、商品によって4つの経理処理のパターンに分かれています。

  1. 最高解約返戻率が50%以下
  2. 最高解約返戻率が50%を超え70%以下
  3. 最高解約返戻率が70%を超え85%以下
  4. 最高解約返戻率が85%を超える

このように解約返戻率がピークに達する時の割合によって、資産計上の割合が変わり、結局損金に算入できる金額が変わってくることとなります。


そのため、解約返戻率の高い商品は損金として計上できる割合が少なくなってくるのです。

1,最高解約返戻率≦50%

4つの経理処理パターンのうち1つ目は、保険期間の途中に解約をすれば最高解約返戻率が50%以下となる定期保険の場合の経理処理は、全額が損金となります。


たとえば会社の代表者が保険期間20年の定期保険に加入したときに、会社の経理処理としては毎年支払う保険料は、全額の保険料が損金となり、商品によって保険料の高いものならばかなりの節税ともなりますから、扱い的には医療保険などの掛捨て保険と同じになります。


そのうえ、もしも途中で解約しても掛金の半分以下ではあるものの解約返戻金が返ってきますので、掛捨て保険よりもお得感があるのではないでしょうか。

2.50%<最高解約返戻率≦70%

次に定期保険などの最高解約返戻率が50%を超えていてさらに70%以下の場合に関してですが、1人当たりの年間の保険料が30万円以下の場合全額損金となります。


ただし、年間30万以上の保険料の場合には損金算入額が3段階で変わり、全体の保険期間のなか第一段階がA期間60%、第二段階B期間75%、第三段階C期間がその後終了までと分かれています。


ここでは実際に金額をみていただくのが一番わかりやすいので、期間ごとにどのように推移していくのか比較してみましょう。


保険期間:20年、年間の保険料:400,000円

借方貸方
A期間(1年目から8年目)支払保険料 240,000円
前払保険料 160,000円
預金 400,000円
B期間(9年目から15年目)支払保険料 400,000円預金 400,000円
C期間(16年目から20年目)支払保険料 656,000円預金 400,000円
前払保険料 256,000円
C期間の資産の取崩額は、これまでに計上した前払保険料をC期間で均等に割った額となります。

3.70%<最高解約返戻率≦85%

さらに最高解約返戻率が70%を超えていて85%以下の場合に関してですが、このタイプも先ほどと同じで期間ごとに金額が異なりますが、先ほどと違うのはA期間の割合が違っています。

ここでも実際に期間ごとにどのように推移していくのか比較してみますが、先ほどの金額と比べると最初のA期間のみ損金算入額が少ないということがわかります。 

保険期間:20年、年間の保険料:400,000円

借方貸方
A期間(1年目から8年目)支払保険料 160,000円
前払保険料 240,000円
預金 400,000円
B期間(9年目から15年目)支払保険料 400,000円預金 400,000円
C期間(16年目から20年目)支払保険料 784,000円預金 400,000円
前払保険料 384,000円 

C期間の資産の取崩額は、これまでに計上した前払保険料をC期間で均等に割った額となります。

4.85%<解約返戻率

今までと違い返戻率の高い保険では4段階の期間で損金計上額が変わり、A期間が当初10年間となり下記の期間がA'、そしてB期間が保険期間の75%、C期間がその後終了までとなっています。

  • 最高解約返戻率となる期間
  • 返戻金が増えていく割合が70%を超えた時

ここではA'期間を仮に11年目としたうえで、上記と同じ保険で最高に達するのが16年目で95%とした場合をみてみましょう。
借方貸方
A期間(1年目から10年目)支払保険料 58,000円
前払保険料 342,000円
預金 400,000円
A'期間(11年目)支払保険料 134,000円
前払保険料 266,000円
預金 400,000円
B期間(12年目から16年目)支払保険料 400,000円預金 400,000円
C期間(17年目から20年目)支払保険料 1,321,500円預金 400,000円
前払保険料 921,500円
C期間の資産の取崩額とは、これまでに計上してきた前払保険料をCの期間で均等に割った額です。

②保険金の経理処理


保険金の経理処理は掛捨て型などの全額損金扱いの定期保険の場合、毎年すべての保険料が損金となりますから、次のようになります。

借方貸方
科目及び金額支払保険料 400,000円預金 400,000円

では、もしも保険金を受取ることとなった場合の経理処理はどうなるのでしょうか。


一括での受取の場合

借方貸方
科目及び金額預金 30,000,000円雑収入 30,000,000円

年金受取の場合

借方貸方
科目及び金額預金 5,000,000円雑収入 5,000,000円

上記のように、一度に多くの保険金を受取ることで当然税負担も大きくなってしまいますので、税負担を抑えるために年金受取にしておけば、分割して受取ることで課税も一度に多くないため課税金額を抑えることが出来るでしょう。

③解約返戻金の経理処理

ではここで解約返戻率の良いタイミングで解約した場合の経理処理についてみていきましょう。


会社が節税対策が目的で加入した定期保険は、ピーク時の解約返戻率が高いというのが魅力でもあるため、ここでは最高解約返戻率がピーク時に95%の定期保険を解約した場合を例にあげてみます。

たとえば先ほどと同じ金額で年間保険料400,000円で12年目がピークになる場合、先ほどの式を当てはめると次のようになります。

借方貸方
科目及び金額預金 4,560,000円前払保険料 3,952,000円
雑収入 608,000円

このように解約金が資産計上していた金額を上回ると残りが雑収入になりますが、解約金が資産計上分を下回れば雑損失となります

④払済終身保険変更時の経理処理

定期保険に現在加入中の方はそのまま払済の定期保険として継続できますが、この場合は、前払保険料は契約消滅までそのまま据え置くことができるため経理処理は不要となります。


たとえば加入中の定期保険をストップさせて払済終身保険に変更した場合、加入中の定期保険は解約の処理を行なうこととなりますが、実際はすでに払込んだ分の資産計上してある前払保険料の額と異なる場合にだけ経理処理をしておかなくてばなりません。

借方貸方
科目及び金額保険積立金 8,000,000円 前払保険料 7,200,000円
雑収入 800,000円

たとえば定期保険の解約返戻金が8,000,000円で、差額が前払保険料を上回れば雑収入で、下回れば雑損益に振替ます。

⑤退職して名義変更をする際の経理処理


もしも加入中の定期保険を役員の退職に合わせてかけていたとしたら、役員が退職する際に会社名義の保険を個人名義に変更し、保険を含めて退職金として役員に支給することとなりますが、その場合、会社に計上してある保険の科目は全て退職金に振替なければなりません。


この時の経理処理は次のようになり、保険ともども退職金扱いされるということになります。

借方貸方
科目及び金額退職金 30,000,000円前払保険料 5,000,000円
預  金 19,844,300円
所得税預り金 155,700円
雑 収 入 5,000,000円

参考:税制ルールの改正前の経理処理方法

税制ルールの改正前に法人保険に加入した方はご存知だと思いますが、主な法人保険の下記のようなものでした。

  • 掛捨て保険は全額損金だが保険金は全額雑収入として受け取らなければならない
  • 長期平準定期保険前半60%は費用である支払保険料が半額と資産である前払保険料を半額とし、後半40%前払保険料を取り崩し各年に振り分け支払保険料としている
  • 逓増定期保険は長期平準型定期保険と同じ経理処理となりますが、損金にできる割合が変化する

法人が加入していた定期保険は、損金に算入できる割合がたとえば1/2から1/3そして1/4と小さくなるほど、返戻率は高くなり、それに伴ってさらにピークの期間は長くなってしまうのです。


今までは、被保険者の退職時の年齢や保険期間などによって設計したもので、保険自体を長い期間に設定することで保険料の損金額が決まっていたため、これらの定期保険は解約する際の出口の解約返戻金の使い道を考えておかなければ、益金を先延ばしにするだけのものとなってしまいます。  

まとめ

ルール改正後の法人向け定期保険の経理処理についてわかりやすく解説してきましたが、経理に携わっている方にはわかっていただけたのではないでしょうか。

  • 改正後の保険料の経理処理は主に4パターンで資産計上の割合が変わった 
  • 保険金を受取る時の出口戦略を考えて経理処理をしよう 
  • 解約返戻金が資産計上金額を上回れば雑収入となる
  • 払済終身保険に変更する時は一旦解約をして経理処理を行わなければならない 
  • 退職して名義変更をする際には全てを退職金に振替る経理処理を行わなければならない 

  • 税制ルールの改正前の経理処理方法は解約時損金計上額が益金となる

ルールが改正されて税効果の観点において定期保険の加入は、会社側にとってはさほどメリットがないと感じられますが、会社の備えとして加入するのであれば、何を重視するのか、会社にとってどこまで備えておくべきなのかを考慮したうえでの加入をおすすめ致します。


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ほけんROOMでは他にも法人保険に関する記事を多数掲載していますので、興味のある方はぜひ参考にしてください。

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