【獣医師監修】犬に保冷剤を使っても大丈夫?誤飲時の危険性などについて解説のサムネイル画像

皆さんはご家庭の愛犬が熱中症にならないようにどんな対処法をとっていますか?保冷剤を使って凌いでいる方も多いのではないでしょうか。しかし保冷剤の誤飲には大きな危険があるのです。今回は犬の保冷剤誤飲時の危険性や、保冷剤に頼らない熱中症対策などについてご紹介します。

記事監修者「星野 崇希」

この記事の監修者星野 崇希
一般社団法人愛玩動物健康管理協会 - CAHA

犬の安全を第一に考え、状況に応じて保冷剤と手作りの保冷剤を使い分けましょう。

この記事の目次

目次を閉じる

暑さ対策で犬に保冷剤を使用しても大丈夫?


記事モデル:らんらん&わこ


いよいよ梅雨に入り、本格的に蒸し暑くなってきました。


そんな中、人間に対してだけでなく愛犬への熱中症対策を考えている飼い主さんもいらっしゃるのではないでしょうか。犬の熱中症は深刻なトラブルを引き起こすものが多く、最悪の場合命を落とすこともあります。


暑さ対策の一つとして度々使用されるのが、どの家庭にもある保冷剤。

バンダナに巻いてわんちゃんの身体を冷やしたり、冷たいジェルクッションとして犬用のベッドに使用されることも多いですよね。


しかし、そんなお手軽で便利な保冷剤ですが、使い方を一歩間違えると大切な家族が死んでしまう危険がひそんでいる事をご存知ですか。実は毎年、保冷剤による悲しい事故が後を絶たないのです。


この記事では、

  • 犬が保冷剤を食べたときの危険性
  • 保冷剤の誤飲を回避したうえでの暑さ対策
  • 保冷剤の代用品について
  • 実際に保冷剤を誤飲してしまった際の対処法
について解説していきたいと思います。


この記事を読めば保冷剤の危険性への理解を深め、愛犬にとってより安全な熱中症対策を取ることが出来ます。大事なわんちゃんを命の危険にさらさないためにも、ぜひ最後までチェックしてみてください。

犬が誤って保冷剤を食べたときには最悪死亡する危険もある



一般的に市販・使用されている保冷剤には、

  • 防カビ剤
  • 吸水ポリマー
  • 防腐剤
  • 形状安定剤
などの成分が含まれています。
上記の成分だけを見ても、決して口に入れていいものではないという事が想像できると思います。


その中でも、一部の凍らないタイプの保冷材にはエチレングリコールという成分が含まれており、これを犬が誤って食べてしまうと腎不全などの症状を引き起こす恐れがあるのです。


このエチレングリコールは車の不凍液(ラジエーター液)などにも使用されているのですが、犬の身体にはとても猛毒な成分なのです


犬が保冷剤を誤って食べてしまった場合、エチレングリコールが肝臓で代謝され、腎不全の原因となるシュウ酸カルシウムという毒性の高い物質を生成します。これを体内に吸収することで臓器にダメージを与え、さまざまな不調を引き起こします。


誤飲してから30分以内に処置しなければ回復が難しく、症状の進行が早ければ半日からわずか一日ほどであっという間に命を落としてしまうことも少なくありません。


この中毒の初期症状は、熱中症の症状にも似ており、獣医師でも飼い主さんの「保冷剤を食べた」という申告がなければ診断はとても困難だそうです。


タマネギ中毒やチョコレート中毒のようにその危険性があまり広く知らされていませんが、症状が現れたころにはほぼ手遅れなことが多い致死率が高くて危険な中毒なのです。

犬が保冷剤を誤飲してしまう理由とは

保冷剤と聞くと凍っていて固いイメージしかない方も多いと思いますが、溶けると柔らかく肉に近い食感になります。それにくわえて、不凍液タイプの保冷剤に含まれるエチレングリコールは甘い味がするのです。


この甘い味がするというのが厄介で、人間には何も感じなくても嗅覚のするどい犬にとっては、保冷剤はおいしいおやつにしか見えなくなってしまうのです。


ジェルマットなど、保冷剤が入っているパックのビニールは簡単に破けてしまうので、遊んで歯でかじったり爪で引っかいたりして中身を食べてしまうわんちゃんが多いです。


もし、人間が誤って保冷剤の中身をこぼしてしまった場合も、犬をゲージに入れるなど近付けさせないようにして、綺麗に拭き取って適切に処分するようにしましょう。


愛犬の身近な場所に置いていると「これは食べても良いもの」と勘違いしてしまうので、人間が使用した後はすぐに冷凍庫へ片付けるよう徹底した方が良いでしょう。


決して暑いからと、愛犬のためにベッドの下に敷いて使ったり、そのまま放置したりしないように日ごろから注意しましょう。

保冷剤に含まれるエチレングリコールは少量でも致死量となりうる

「ちょっと食べたぐらいなら大丈夫」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、エチレングリコールは体重1㎏あたりのわんちゃんに対してたったの4~6mlほどを摂取しただけでも致死量となり得るのです。


エチレングリコールを誤って摂取してしまった際の治療法は「エタノールの静脈注射」が基本となります。エタノールを注射することで、エチレングリコールの分解吸収を抑えシュウ酸カルシウムを発生させないよう阻害する効果があります。


そして、それと併せて体内からの排泄を促す治療を行います。

誤飲してしまってから1~2時間以内であれば嘔吐を促したり胃洗浄を行い、誤飲してしばらく時間が経ってしまった場合は輸液などで尿量を増やす処置が取られることが多いです。


しかし、あまりに大量にエチレングリコールを摂取してしまった場合にはこちらの治療法でも間に合わず、死亡する確率が一気に上がってしまいます。

中毒症状が発症してしまったらほとんどの場合が手遅れで、命を落としてしまうケースが多いのです。


お留守番などでどうしても長時間目を離さなければならない場合は、知らない間に食べてしまう恐れがあるので、保冷剤やクールタイプのジェルマットの使用は避けた方が賢明です。

それ以外にも、普段から噛み癖があったり、人の持ち物やおもちゃに対して関心が強い性格のわんちゃんには、エチレングリコールが含まれている保冷剤はなるべく使用しない方が安全でしょう。


また、普段からすぐにかかれる動物病院や救急病院を知っていれば、万が一誤飲してしまった時にも慌てずに対処することが出来ます。一度、近隣の動物病院を調べることをおすすめします。

保冷剤誤飲の危険を回避した上で行える熱中症の対処法

そもそも犬は一部の犬種を除き、ほとんどの種類が全身を毛で覆われているうえに、肉球部分にしか汗をかく汗腺がありません。なので、人間のように発汗による体温調節が出来ず熱中症になりやすいのです。


身体を冷やすという点では保冷剤はとても有効的なのですが、上記で述べた通り使い方を誤ればとても危険です。


そこでおすすめなのが手作りの保冷剤


ペットボトルに水道水を入れ、冷凍庫で凍らせるだけで簡単に保冷剤の代用品となります。中身も水なので、舐めてしまったとしても安心です。


ただし、わんちゃんの身体に直接当ててしまうと凍傷の恐れもあるので、必ずタオルやハンカチ・靴下などで包んでから使用するようにしましょう。


他にも、タオルを水に濡らしてフリーザーバッグに入れて凍らせる方法もあります。こちらはペットボトルと比べて柔らかいので、わんちゃん用のベッドなどにも使用できます。


どちらも市販の保冷剤と比べると持続性は劣りますが、安心安全に使用することができます。


近年では、エチレングリコールの危険性の高さから、市販されているものでもエチレングリコールを含まない保冷剤も多く出ています。使用する前にあらかじめ成分を調べておけば、安心して使用することができます。


「ペット用」と記載されたひんやりグッズや寝具類も、エチレングリコール不使用のものや破れにくい素材のものが増えてきています。購入の際には、今一度チェックしてみてください。

犬の服や首周りのバンダナに保冷剤を仕込むなどの工夫もおすすめ



自宅ではエアコンや扇風機で涼しくできても、外出時は難しいと思います。

そういう時は、ハンカチや薄手のタオルに保冷剤を入れて首に巻いてあげるだけでも熱中症対策になります。首には血管が多く、効率よく体温を下げてあげることができます。


使い方はとても簡単で、保冷剤を大きめのハンカチに包んで首に巻くだけ。

バンダナ風に巻いたりハンカチの柄も変えられるので、暑さ対策をしながらお散歩時のオシャレを楽しむこともできます。


他にも、犬用の服に保冷剤が入るポケットを縫い付けて着用させるという方法もあります。特に毛が少なく血管が多い脇や腹に近い場所に保冷剤をセットすれば、より高い効果が望めます。


ただ、これらの方法を試す際はわんちゃんが誤飲しないよう注意したうえで、衛生管理にも気を付けましょう。


この季節だと、保冷剤を入れた後のハンカチや服を洗濯せずに何度も使いまわしてしまうとカビの発生の原因となり、今度は皮膚病などの疾患の心配も出てきます。

着用した際はこまめな洗濯をおすすめします。


また、保冷剤が溶けてしまうと冷却効果がなくなるので長時間の使用は避けましょう


どうしても噛み癖があって保冷剤が使えない!という飼い主さんのためにも、これとよく似た効果の犬用バンダナや犬用の服も販売されています。水で濡らすだけで使えるものも多いので、併せてチェックしてみると良いでしょう。

実際に犬が保冷剤を誤飲してしまったケースと対処法について


エチレングリコール中毒のおもな初期症状として、嘔吐・多飲多尿・意識がぼんやりしていてフラフラするなどがみられます。これらは誤飲してから大体30分後ぐらいから発症します。

さらに時間が経過し体内への吸収が進行すると、呼吸や脈が速くなり血尿や神経症状など重篤な中毒症状が出てきます。


初期症状を見ただけではほとんどの飼い主さんが「少し体調が悪いかな?」とあまり緊急性を感じず、動物病院にかからずに安静にさせるだけで様子見するケースも多いです。


しかし、エチレングリコール中毒は対応が遅くなればなるほどあっという間に手遅れになってしまうおそろしい中毒なので、安易に自己判断を下すのは危険です。


もし、愛犬が保冷剤を誤飲してしまったかもしれない場合は落ち着いて

  • 誤飲した保冷剤にエチレングリコールが含まれていないか成分を確認する
  • 誤飲した保冷剤もしくは嘔吐したものを確保する
  • 可能であれば食べたものを吐き戻させる
以上のことを最優先しましょう。

しかし、正しい手順で吐き戻させることは慣れていない人には難しいので、無理はせず獣医師の指示をあおぎましょう。


たとえエチレングリコールが含まれていない場合でも、それ以外の成分で不調を引き起こすこともあります。また、保冷剤が入っているパックのビニールなどで腸閉塞を起こす恐れもあります。


少しでも誤飲の心配があるのであれば、症状がなくても早めに動物病院で診てもらうのが最善です。


その際には、誤飲した保冷剤も一緒に持っていき、誤飲したと思われる時間帯や状況などもしっかり獣医師に説明しましょう。

犬に保冷剤を使うときは細心の注意を払うべき

それでもどうしても暑い日は、保冷剤を使わざるを得ない場合もあると思います。そういう時、大切なことは愛犬から目を離さないことです。

エチレングリコールが含まれていないものを選んだとしても、食べ物ではないものを誤飲してしまうのは大変危険です。

ですので、使用する際はなるべく短時間の使用に留め、保冷剤を使用した後はすぐにわんちゃんの肉球や目の届かない場所に保管するようにしましょう。決して犬の近くに置きっぱなし、なんてことにはならないよう気を付けましょう。

破れにくかったり固いプラケースに保冷剤を入れて使用するのも良いですが、犬の歯は細くて鋭いので簡単に中身が出てしまうこともあります。また、無理に保冷剤を食べようとして歯や歯肉に損傷を負ってしまうこともあります。

何か問題があった時に、飼い主さんがいつでも使用を中断させることが出来る状況での使用をおすすめします。

また、わんちゃんの身体に対して直接保冷剤を使用するのではなく、ゲージやサークルの上に保冷剤を置いて使用するという方法もあります。室内の気温や風通りなどの環境にもよりますが、ゲージ内に冷気が伝わりわんちゃんが快適に過ごすことができます。

しかし、目を離している間にゲージの隙間から爪や歯で保冷剤を引き込んで誤飲してしまう可能性もあるので、細心の注意を払って使用するようにしましょう。

犬と保冷剤についてのまとめ

ここまで意外と知られていない保冷剤の危険性についていくつか説明してきましたが、いかがでしたか。


この記事でのおおまかなポイントは、

  • 一部の保冷剤に含まれているエチレングリコールという成分が危険
  • 保冷剤を使用する際は成分の確認が大切
  • 家にあるもので保冷剤の代用品を作れる
  • 万が一、保冷剤を誤飲してしまった際は様子見せず動物病院へ行く
以上の点になります。


保冷剤は一概に危険というわけではなく成分を事前に確認し、使い方さえ誤らなければとても有用な熱中症対策アイテムになります。わんちゃんの性格や状況に応じて工夫して使い分ければ、快適に過ごすことができます。


万が一誤飲してしまった場合のことも想定して、普段からすぐに相談できる動物病院を見つけておくなど、前もって準備しておくことも大事でしょう。


熱中症対策に保冷剤を使おうと考えられている方は是非こちらの記事を参考にして、保冷剤の危険性をよく理解したうえで安全に愛犬とともに夏の暑さを乗り切りましょう。


MOFFMEでは他にも様々なペットに関する記事が多数掲載されているので、是非そちらもご覧ください。