税金や保険料がボーナスからも引かれるようになったのはいつから?

以前は税金や社会保険料等を差し引くのは月給だけでしたが、いつからかボーナスからも天引きされるようになりました。この制度は一体いつからなのでしょうか?また、その理由も気になりますよね。この記事ではボーナスから引かれてる税金の種類と計算の仕方まで丁寧に解説します。

監修者
株式会社Wizleap 代表取締役。東京大学経済学部で金融を学び、金融分野における情報の非対称性を解消すべく、マネーキャリアの編集活動を行う。ファイナンシャルプランナー証券外務員を取得。

いつからボーナスから税金や社会保険料が引かれ始めた?

まもなく夏のボーナスシーズンですが、支給の始まった会社に勤めている方からは税金や社会保険料の控除額の多さに不満がある、という方も多いでしょう。


そもそも、毎月の給料からたくさん税金を払っているのになぜボーナスでも差し引かれる必要があるのか、と思われる方は多いかもしれません。


そこでこの記事では、

  • ボーナスから税金の徴収が始まったのはいつから?
  • ボーナスから引かれる税金・社会保険料の種類とは?
  • 今後はどうなる?変更がある場合いつから告知されるのか?
の3点を中心に説明します。

この記事を読んでいただけたら、ボーナスからどんな税金がいくら引かれるか理解して、手取りの少なさに驚くことも少なくなるでしょう。

ぜひ最後までご覧ください。

ボーナスから税金の控除が始まったのは2003年から!



ボーナスから税金の控除が始まったのはいつからなのでしょうか。


支給明細から各々の税金額を眺めてみると、一番の変化は社会保険料であることが分かります。


もともと社会保険料は月収(標準報酬月額)に基づいて保険料が算出され、月々の給与から徴収される仕組みでした。


しかし、ほとんどの企業ではボーナスは夏冬の2回定期的に支給され、社員の側も「出るのが当然」と考えています。


このように定期的な収入として考えるという点で月給もボーナスも同等のものとして、ボーナスを含む収入全体に同じ料率で社会保険料が掛かるようになりました。


これを「総報酬制」といいます。


当時、総報酬制が導入された際には給与明細上に大きな変化があり、さまざまな税目で税金額が増えたこと、いつから変更となるかの告知が必ずしも行きわたっていなかったため、「いつの間にか税金が増えている」と大騒ぎになりました。


では次から、いつから、なぜボーナスからも税金や社会保険料の徴収が行われるようになったかについて、解説していきます。

原因は社会保険料が節約されないための総報酬制の導入

なぜ「総報酬制」が導入されたのか、導入に先立つ1998年(平成10年)3月6日に開かれた、厚生労働省年金審議会での議論にそのヒントが隠されています。


第16回年金審議会(平成10年3月6日)議事録(PDF)


この中では、総報酬制導入の目的について「総報酬制導入の必要性=負担の不公平是正」との記載があります。


さらに読み進んでいくと、

  1. 一般的に所得が多い人ほど賞与も多い傾向にある
  2. しかし、月給のみを社会保険料のベースにすると、所得の多い人が保険料負担が軽くなるという矛盾が発生する
  3. 賞与にも社会保険料を賦課することで、負担の不公平を是正する

という議論が行われていたことがわかります。


逆に言えば、当時は賞与に重点を置いた報酬体系をとることで社会保険料を抑制することが可能であり、賞与に網をかけることで不公平感の解消を狙うことに、総報酬制導入の理由があったのです。


なお、この議論の中では「総報酬制の導入は増収対策ではないつまり保険料収入を増やすことが目的ではないとも明言されています。

以前までと現在のボーナスからの保険料徴収仕組みの比較

では、いつから現在の仕組みになったのでしょうか。


現在の方式に変わったのがいつからかというと、2003年(平成15年)4月の支給分からです。


それまでは「特別保険料」といって1995年4月から2003年3月までの間、ボーナスに対して1%(労使折半)の保険料が徴収されていました。


では、従来の「特別保険料」と現在の「総報酬制」では、保険料の金額にどのような差が出るでしょうか。


わかりやすいように、保険料率は平成31年度のものをそのまま利用して比較してみましょう。


  1. 月給30万円、ボーナス120万円 合計480万円(総報酬制
  2. 月給30万円、ボーナス120万円 合計480万円(特別保険料


①の場合

(30万円×28.20%×12ヶ月分)+(120万円×28.20%)=1,353,600円

②の場合

(30万円×28.20%×12ヶ月分)+(120万円×1%)=1,027,200円

このように比較してみると、なんと326,400円もの差が生まれてしまいます。


※実際には総報酬制導入の前後では税率を調整して激変緩和の措置が取られています


これを利用して、いつからか月額の給料額を抑え、ボーナスを手厚く支給することで、労使それぞれが負担する社会保険料を圧縮するやり方が幅広く行われていました。

ボーナスから引かれる税金・社会保険料の種類と計算方法

ここからは、実際にボーナスから差し引かれるお金について考えていきましょう。


基本的に、ボーナスから差し引かれる税金および社会保険料は

  1. 所得税(源泉所得税)
  2. 健康保険料
  3. 厚生年金保険料
  4. 雇用保険料

これらの種類となります。


これらがボーナスから確実に差し引かれることで、いわゆる「額面」ではなく「手取り」の金額となります。


では、これらの税金および社会保険料についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

控除対象①:所得税

まず、ボーナスから差し引かれる税金が「所得税(源泉所得税)」です。


これは単純に所得にかかる税金であり、毎月の給与から同様に差し引かれている税金でもあります。


所得額に伴って税額も変わるため、基本的には所得の大きさに比例して税額も大きくなります。


その肝心の所得税の計算がどのようにされるのかについては、以下の計算式で求められます。

源泉所得税 = 賞与額 ー (健康保険料+厚生年金保険料+雇用保険料) ✕ 源泉徴収税率

ここで重要になってくるのは、ボーナスの金額や扶養家族の人数によって変わってくる、源泉徴収税率です。


次の表をご覧ください。


賞与に対する源泉徴収税額の算出率(一部抜粋)

税率(%)扶養家族
0人
扶養家族
1人
0.00068,000円未満
94,000円未満
2.04268,000円以上
79,000円未満
94,000円以上
243,000円未満
4.08479,000円以上
252,000円未満
252,000円以上
300,000円未満
6.126252,000円以上
300,000円未満
282,000円以上
338,000円未満

※本来は扶養家族が「0人~7人以上」、賞与の金額が「3,548,000円」の場合まで表に記載されており、人数および賞与額に対応した税率を使用するので、該当する場合はそちらを参照

この表では扶養人数に対応するボーナスの金額が用いられており、その金額に対応した一番左の「税率」が源泉徴収税額として、計算式に用いられます。

控除対象②:健康保険料

次は、ボーナスから差し引かれる「健康保険料」です。


健康保険料は労働者であれば誰もが加入する健康保険という仕組みにかかる保険料のことであり、これに加入していることによって医療費の割引が受けられます。


基本的に週30時間(従業員が501人以上の場合は20時間)以上の勤務時間であれば、正社員でもパート社員でも健康保険の対象となります。


ボーナスから差し引かれる健康保険料は、次の計算式で求められます。

健康保険料 = 賞与額 (1000円未満切り捨て) ✕ 保険料率 ÷ 2

やはりここでも重要となるのが、都道府県ごとに異なる健康保険の保険料率です。


健康保険の保険料率はボーナスの金額だけでなく年齢によっても異なりますが、例えば東京都の場合、

  • 介護保険に該当しない場合:9.87%
  • 介護保険に該当する場合(40歳以上):11.66%

このような保険料率となります。


詳しい保険料額については、都道府県ごとの保険料額表をご覧ください。

控除対象③:厚生年金保険料

次にボーナスから差し引かれるものとして、「厚生年金保険料」が挙げられます。


厚生年金保険料はその名の通り将来受け取る年金のために加入する厚生年金保険に掛かる保険料であり、70歳未満の労働者が対象となります。


実はこの厚生年金保険料も健康保険料と同様に、次の計算式で求められます。

厚生年金保険料 = 賞与額 (1000円未満切り捨て) ✕ 保険料率 ÷ 2

そして、厚生年金における保険料率も、健康保険料と同様に都道府県ごとに異なります。


例えば東京都の場合は、「18.3%」が厚生年金における保険料率となります。


こちらも詳しい保険料率表に関しては、都道府県ごとの保険料額表をご覧ください。

控除対象④:雇用保険料

4つ目に控除の対象となるのは「雇用保険料」です。


雇用保険は失業時の生活を支えるための保険制度であり、雇用保険料はその雇用保険にかかる保険料のことです。


具体的にどのようなメリットがあるのかというと、

  • 失業給付金が受け取れる
  • 条件を満たせば教育訓練給付金が受け取れる
  • 安定した仕事への転職がスムーズになる
このようなメリットがあります。


そのような雇用保険ですが、ボーナスにかかる雇用保険料は、次の計算式で求められます。

雇用保険料 = 賞与額 ✕ 0.3%

ボーナスから差し引かれる雇用保険料に関しては難しい計算は必要ありませんので、ぜひ求め方を覚えておきましょう。

補足:住民税は控除の対象外

ボーナスから差し引かれる税金や社会保険料の種類については、今まで取り上げてきたとおりです。


ただし勘違いしやすい点として覚えておきたいのは、毎月の給与から差し引かれている「住民税」に関しては、ボーナスにおける控除の対象外となります。


住民税は前年の収入を元に決められており、支払う必要のある金額が毎月の給料で分割して支払う(12カ月)ことになります。


ボーナスを受け取る段階で、すでに支払う(毎月の給与から差し引かれる分)が決まっているため、ボーナスからも住民税が差し引かれるようなことはありません。

参考:ボーナスが多いと年末調整でさらに所得税徴収の場合も

すでに取り上げたように、過去には「(旧制度のもと)ボーナスを手厚くすることで保険料を抑制」してきました。


そしてその抜け穴をふさぐことが「総報酬制」の目的である、という点もすでに説明した通りです。


では、この2点を合わせるとどういうことが起きるでしょうか。


実は、賞与が多い場合、年末調整額がマイナス(追徴)となる可能性があるのです。


「すでにたくさんの税金を払っているのになぜ?」という声が多くの方から聞こえてきそうですが、なぜそのような事態になってしまうのでしょうか。


まず、所得税は累進税率の税金ですから、所得が高くになるにつれ税率も上がります。


そして毎月の源泉徴収税額は月々の給与額から計算された税金額が徴収されるので、ボーナスを考慮するのと、考慮しないので税率が変わってしまう場合、年末には高い(賞与を含んだ)税率に合わせた金額で年末調整が行われます。


具体的には各種控除後の所得が330万円超となる場合、税率は10%から20%に跳ね上がりますので、月給の額面金額が、

月給の額面金額 > 約38万円(※)-賞与の額面金額を1/6した額

※社会保険料控除額を先ほどの試算で利用した28.2%とした概算値。説明のため、社会保険料以外の控除は計算から除いてあります。


上記のようになる人は源泉徴収税額が不足する(年末調整額がマイナスとなる)可能性があり、注意が必要です。


ボーナスにかかる税金についてはボーナスにかかる税金が高いと思われる方のために書いた記事でも、詳しくkウィ際しているため是非参考にしてみてください。

実際に控除後のボーナスの手取りを計算してみよう

では実際に、ボーナスの金額を計算してみましょう。


「総報酬制」の説明のところで挙げた例を参考に、それぞれの徴収額を計算してみます。


所得税は社会保険料を差し引いた後の金額に課税されますので、最後に計算することにします。


【条件】

  • 毎月の給与:30万円
  • ボーナス:60万円(×2回)


まず健康保険料です。東京都の40歳未満の方の場合、

600,000×4.95%=29,700円

控除される健康保険料はこのようになります。


次に厚生年金と雇用保険料はそれぞれ、

600,000×9.15%=54,900円

600,000×0.3%=1,800円

このような金額はなります。


そして、ここまで合計した86,400円を差し引いた「513,600円」に対して所得税がかかることになります。


所得税ですが、この条件の場合、源泉所得税の税率は賞与支給前月の給与額を基にするので、社会保険料控除後の給与額がおおよそ252千円~300千円の範囲となり、所得税は「6.126%」となります。


そのように算出された所得税を賞与額に掛けると、

所得税 513,600円×6.126%=31,463円(1円未満四捨五入)

このようになり、最後に算出された所得税を差し引けば、

控除後の賞与額 582,137ー31,463=482,137円

「482,137円」がボーナスの支給額となります。

今後はどうなる?そのときいつから告知されるのか

お金に関する問題は誰もが関心を持っており、それが特に自分の所得に関わることであればなおさらです。


では、ボーナスとそれに掛かる税金や社会保険料のあり方は、今後どのように変わっていくのでしょうか。


また、仕組みに何か変更が生じる場合、その変更の実施日について、いつから告知があるのでしょうか。


2019年(令和元年)の10月から、消費税の税率引き上げが行われ「10%」になったのは記憶に新しいところでしょう。


今のところ、それ以外に大きな税制改正の予定は無いため、サラリーマンの税金という意味ではしばらくこのままの状態が維持されるでしょう。


告知に関しては、たとえば「総報酬制」の場合、導入は2003年(平成15年)でしたが、その3年前にはすでに告知されました。


今後何らかの税制改正が行われる場合でも同様になるはずですから、いつから制度が変わっても良いように、ニュース等によりしっかり確認しておくことが大切です。


ただし直近の大きな問題として挙げられるのは、感染症の拡大による影響で、経営不振等によりそもそも「ボーナスが出ない」というような事態が多く発生していることです。


この問題に関しては非常に先行きが不透明なこともあり、「どれだけ多くボーナスをもらえるか」ということよりも、「どうすれば自分の今ある大切な資産を守れるか」という点が重要になっていくでしょう。

まとめ:賞与までも税金天引き対象になったのは約15年前から

今回は、ボーナスに掛かる税金や社会保険料等について取り上げてきましたが、いかがでしたでしょうか。


この記事のポイントは、

  • 賞与が今のように天引きされるようになったのは約15年前から
  • 理由は賞与も対象とすることで、社会保険料を広く負担してもらうため
  • 税制面での変更は当面ないが、ボーナスにおける感染症の影響は非常に大きい

以上の点です。


「ボーナスから差し引かれる税金が高い!」とたとえ感じるとしても、その根拠となる理由や金額を計算できれば、納得できるでしょう。


これから社会がどのように変わっていくか予測できないことはたくさんありますが、正しいお金とボーナスの知識を身につけることで、万が一のときも慌てずに、最善の策(金策)を取れるよう、準備しておきましょう。


ほけんROOMでは、他にも読んでおきたいマネーライフに関する記事が多数掲載されていますので、ぜひご覧ください。

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