そもそも暗号資産(仮想通貨)って何?今さら聞けない基礎知識

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お話をうかがった人

監修者

クラーケン・ジャパン 代表

千野 剛司

慶応大学卒業後、東京証券取引所に入社。2008年のリーマンショック(世界金融危機)後、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)や金利スワップの清算プロジェクトを主導。その後、PwC Japanを経て、2018年7月にクラーケンを運営するペイワードに入社。2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)を修了。
https://www.kraken.com/ja-jp/
取材協力
一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会

「ビットコイン」に代表される暗号資産。金融に詳しくなくても、その名前だけは誰しも聞いたことはあることでしょう。


「これからの時代、ますます注目されていきそうだ」といった感覚はあるものの、暗号資産がどういったモノなのか、ちゃんと知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。


そこで今回は、仮想通貨取引所クラーケン・ジャパンの代表、千野 剛司氏に「今さら聞けない暗号資産の基礎知識」についてうかがってみました。

目次項目をクリックで該当箇所へ

Section1 まずは「そもそも」のところから

現在は、経済・金融ニュースはもちろん一般のニュースでも「ビットコイン」や「暗号資産」という言葉を耳にします。しかし、その理解度はさまざまではないでしょうか。

漠然とした「デジタル上の通貨っぽいもの」というレベルにとどまっている人も多いと思うので、まずは基礎知識のところからうかがいました。

「暗号資産とひとくちに言っても、実はかなりバラエティがあります。代表的なものは『ビットコイン』や『イーサリアム』などですが、それ以外にも膨大にあり、それぞれぜんぜん違うものなのですね。

そのため『こういうものだ』と説明するのがなかなか難しいところではあるんですが、広い概念でいうと『既存の金融システムをデジタル化して、分散的に運営をしている』ものと言えます。

誰か1人で何かやっているのではなくて、みんなでやっていきましょうというのは、暗号資産全般にいえることだと思います」

まずポイントとなるのが「分散的な運営」というキーワード。これを実現させるために重要な役割を持っているのが「ブロックチェーン」という技術です。この用語までは聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。

「ブロックチェーンというのは『台帳』技術と言われています。

台帳とは、『誰が何をいくら保有しているのか』が書いてあるもので、すべての商取引の根幹に位置づけられているものです。

例えば不動産をAさんが持っていて、それをBさんに売りました。すると『Aさんが保有していた不動産がBさんに移りました』というのが法務局に登記されるわけですが、そこが今までは公的な役割を担っているところや企業が管理をつかさどっていたわけです。

これをすべてデジタルの世界で、どこか特定の人ではなく、みんなでやっていきましょうというのが『分散台帳技術』というわけです。

つまり、やっていること自体は昔から変わらないものなのですが、新たなテクノロジーが出てきたことによって、より簡単により早く、より多くの人を巻き込んでできるようになったのが特徴です」

多くの人が携わることによって、大きなメリットが生まれます。その最大のメリットとも言えるのが「改ざんが非常に困難である」という点。

これまでの時代は、公的な役割を担う一部の人や組織が台帳を管理していました。つまり私たちは「不正なんて行われないだろう」という前提を信じるしかなかったわけです。しかし歴史を振り返ってみると、公的な役割を担う人が不正に手を染めるケースも決して少なくないのが事実。

この部分において、ブロックチェーンは画期的な意味を持っています。

「ブロックチェーン技術によって、そういった不正行為は『みんなが見ているところで情報を書き替える』ことになるわけです。そのため、改ざんが非常に困難な仕組みだといえます」

また、インターネット上で分散的に台帳を管理することは「データの堅牢性」にもつながるそうです。

「例えば、紙で台帳を管理していたら、火事が起こったら消えてしまいますよね。戦後のどさくさでいろんな台帳が紛失してしまったり空襲で焼けてしまったりして、権利関係がわからなくなってしまったことも過去には起きているわけです。

一つのところが情報を管理していると、何か障害や問題が起こったときに、その情報自体が消えてしまうというリスクもある。これが分散的に管理していると、例えば私のPCが壊れたところでみなさんのところに情報があるので、なかなか壊れにくい堅牢な仕組みになっているという特徴もあります」

世間一般では、「デジタルのデータ」に対して「脆弱」とか「一瞬で消えてしまう」というイメージがあります。たとえばスマホで撮った写真を間違って消してしまった経験などは、誰しも持っているのではないでしょうか。

もちろん個人で管理しているデータではそういうことが起こり得ますが、ブロックチェーンに関しては「分散的に管理しているため」に非常に堅牢なのです。

「中央集権的に管理していると、デジタルのデータも紙と同じで、火事で燃えてしまう例と同じになってしまいますよね。

例えば会社のサーバーで情報を管理する場合、サーバーのバックアップ機を用意して『1個が壊れてももう1個が生きている』みたいな対策を取るわけですが、やっぱりそれでも限界があり、拠点ごと被災したりしたらなくなってしまいます。

そういう問題に金融機関はずっと頭を悩ませてきたわけですけれど、『分散型の台帳技術』というものが発達したことによって、『Aさん』や『A企業』に障害が起こっても、他のところでシステムが動き続ける環境を実現できるわけです」

ちなみにこの台帳管理においては「取引を承認する人」がおり、ビットコインの場合は誰でも承認する行為に加わることができます。

承認する際には大量の計算処理(電力)が必要なため、最近ではエコ目線で懸念する声もあったりしますが、ともかく「誰でも承認する人になれる」というのがポイント。この「みんなで管理する」という仕組みによって、暗号資産は従来の金融とまったく異なる堅牢性を持っているのです。

その他のメリットとしては「24時間365日動いている」ということ。また「取引コストが安い」ことなどが挙げられるでしょう。

一方、デメリットについてもうかがってみると、千野氏は「市場としてはまだ未成熟であること」と回答してくれました。

「価格変動が非常に激しいことに加えて、影響力が大きい人間の発言にすごく影響を受けてしまう。たとえばテスラのイーロン・マスク氏が暗号資産に関していろいろと発言していますが、こういった発言に影響を受けてしまいがちというのがあると思います。

これがなぜかというと、現在の市場参加者が非常に限定的であるためです。既存の証券市場というのは多種多様な参加者がいますので、多様な見方がマーケットに反映されます。『売りたい』という人の一方で『買いたい』という人もいるので、価格が安定する構造になっていますが、残念ながら暗号資産はまだそういう状況ではありません。

具体的に言うと、投機的な意味合いで売り買いする人が多い。当然、こういった投機的な動きをする人は情報に対する感度が高いので、何かマズいと思ったらすぐに売り、いいなと思ったらすぐに買う。そういった短期的な行動になりやすいというのはあると思います。

あとは、セキュリティについても注意点があります。暗号資産は『自分で自分の資産を管理する』という思想が非常に強いので、ある程度のセキュリティ対策というのは自分でやっていかなければなりません。

これを怠ると、お金を盗まれてしまうことにもなりかねませんし『デジタルの世界でお金を取り戻す』というのは非常に難しい。そういったところがデメリットでもあると思います。

ただ、セキュリティに関しては「暗号資産に限った話ではない」と千野氏はいいます。現在の日本において「インターネットにつながったサービスをまったく利用していない」という人はかなり限られているでしょうし、インターネットを利用する以上、誰にでもハッキングのリスクはあります。

しかし、そんなリスクを意識せず、パスワードを自分の名前や誕生日の組み合わせにしていたり、設定の甘いWi-Fiを使っていたりするケースも多々あるのが現状。世の中におけるセキュリティ意識はまだまだ低いといえるでしょう。

千野氏は「暗号資産を取引するから気をつけなければいけない、ではなくて、我々はもうデジタルの世界に生きており、セキュリティに対する感度は暗号資産に関係なく持っておくべき」と忠告してくれました。

Section2 暗号資産を取引する際に意識しておきたいこと

千野氏の言葉のとおり、現在の暗号資産に「価格変動が激しい」という側面があるのは事実です。そして暗号資産を投資対象として見たとき、ボラティリティ(価格変動幅)の大きさは「損益の大きさ」でもあります。

そのため「大きく値幅を取れば大儲けできる。ひと山当ててやろう」などと考えてしまいがちですが、結論から言うと、暗号資産に対するこのような認識は改めた方がいいでしょう。

「あまり値動きを追いかけないで、『プロジェクトに対するサポーターになれるかどうか』という軸でお金を投じるのが良いのかなと思います。

もちろん、プロジェクトが成功すれば当然価格が上がっていくので、そこでキャピタルゲイン(価格変動による差益)を得られると思います。しかし最初からキャピタルゲイン狙いでいくと、なかなか難しいマーケットだと思います。

キャピタルゲインによって利益が出るという部分ではFX(外国為替証拠金取引)とも似ていますが、暗号資産がFXと違うのは、どちらかというと株に近いんですね。企業の代わりに『プロジェクト』があると理解していただくのがいいかと思います。

株は、その国の法律に基づいて企業が発行する株式に対しての投資ですが、暗号資産は国境を越えてやっているプロジェクトというのも多数あります。

これはインターネットが登場したことによって可能になったもので、志を同じくしたエンジニアが集まって『こういうものを開発しよう』ということでプロジェクトがスタートします。それに対してファンディングが必要だからコインを発行し、そこにお金が投下されてプロジェクトが回っていく。

そういった部分の仕組みがあまり日本ではまだ正しく理解されていなくて。『なんだかよくわからないけど値動きが激しくて、賭けたらたまに当たるよ』みたいなイメージしかないのが非常に残念だと思っています。そこは業界を上げて正しい知識や理解を共有していかなくてはなりません」

暗号資産に対するギャンブルのようなイメージを変えていけるかどうかは、これからの業界の大きな課題ともいえるでしょう。ただ同時に、私たちの「投資リテラシー」を高めていくことも大切であり、そこは決しておろそかにしたくない部分です。

ちなみに、暗号資産取引における「安全性を高める仕組み」は着実に進歩しています。

現在は暗号資産の取引所には信託保全が義務化されているので、万が一取引所が破綻するようなことがあっても、基本的に預けた資金(法定通貨)は100%戻ってきます。またビットコインやイーサリアムなどを取引所に預け入れる場合についても、法令によって厳格に管理方法が定められているそうです。

「お客様の暗号資産をお預かりする際に『こういったところで管理しなさい』というのが法令で決まっています。

それは『ホットウォレット』と『コールドウォレット』というものに大別されまして、ホットウォレットというのはインターネット上に常時接続されているウォレットのことを指します。要はボタンを押すだけですぐに他のところに送ることができるのですが、反面、インターネットにつながっているのでハッキングの恐れがあるわけです。

『コールドウォレット』というのは、インターネットに常時つながっていないものです。そのため安全なのですが、外に出すのが大変だというデメリットがあります。

日本の法令だと、全体の95%以上を後者のコールドウォレットで管理しなさいと決まっています。5%まではホットウォレットで管理してもいいのですが、ホットウォレットに置いた分だけ自己資産を同種同量で用意しなさいと決められています。要はハッキングで盗まれてしまった場合に、お客様の分を返せるように常時用意しておきなさい、という仕組みですね」

すべての登録業者はその法令の下で業務をやっているので、基本的にはハッキングの被害を受けたとしても返ってくると考えていいでしょう。

現在「暗号資産を取引してみたい」と考えている人も多いと思うので、どういう取引所を選んだらいいのか、その比較軸についてもうかがってみました。

「手数料を含めいろいろな比較軸があると思いますが、やはり『セキュリティ対策がどの程度のものなのか』について、きちんと事前に把握をするのが重要だと思います。

当然、すべての登録業者は法令に準拠してセキュリティ対策をやっているとはいえ、各社その水準にはバラつきがあると思いますので、まずはそこを気にすることが一番重要なことかと思います。

あとは取り扱っている資産のラインナップですね。すべての取引所で同じものを扱っているわけではありませんので。代表的なビットコインやイーサリアムしか取り扱っていないところもあれば、その他の新しいプロジェクトを積極的に取り扱っているところもあります。

そういったところで個性があると思うので、例えばビットコインだけやりたいのであれば、コストで選ぶことも考えられますし『このコインをやりたい』というのであれば、それを取り扱っているところで口座開設する必要があります。そのあたりで比較するのが良いのかなと思っています」

Section3 今後の暗号資産を考える

お話をうかがっていくと、暗号資産には「まだ未成熟」の部分があることもわかってきました。しかし、未成熟であることは、言い換えれば伸びしろでもあります。

暗号資産の「発展の兆し」についてうかがってみると、非常に興味深いものばかりでした。

「おもしろい話としては、これまで暗号資産はキャピタルゲインでしかリターンが得られなかったのですが、最近は『ステーキング』というものも出てきています。

冒頭にも申し上げたブロックチェーンの承認の仕組みを『プルーフ・オブ・ワーク』といいます。みんなで計算問題を問いて、計算問題を解くのが早かった人が報酬を得られるという仕組みです。

一方でそうではない仕組みとして『プルーフ・オブ・ステーク』というのがあります。これは、承認をする人を投票で選ぶ仕組みですね。投票をするために自分が持っているコインを預け、報酬の分け前をもらえることになっている。

つまり投資家目線でいうと、今までの『キャピタルゲインしかないんでしょ』というところから、『預ければ増える』という、日本人が好きそうな商品性も最近は出てきました。これはまだ一部ですが、そういったものがより浸透していけば、また違った投資家層に入ってもらえるのかなと思っています。

また『ビットコインETF』というのも、ひとつのマイルストーンになるのではと思っています。これは、ビットコインをETFの形で証券取引所に上場して、株をやっている人たちが買えるというもの。

すでにヨーロッパとカナダ、ブラジルではすでに取引されていて、アメリカの当局がビットコインETFを認めるか認めないかという判断をしている最中なのです。

過去には拒否をしているんですが、そろそろ潮目が変わってきているのではないかという感覚があります。これが仮にアメリカで上場されるとなると、おもしろいことになるのではないかと思っていますね」

最近では、中米のエルサルバドルが「ビットコインを法定通貨として採用する」という法案を可決したニュースも衝撃でしたし、先進国・途上国を問わず、暗号資産にはさまざまな可能性がありそうです。

マーケットにおいても、今後参加者が増えていけばボラティリティの激しさも落ち着いてくるでしょう。そうなれば、さらに市場参加者が増えていくという好循環になることが考えられます。いずれにせよ、これからも暗号資産は私たちにさまざまなニュースを提供し続けることでしょう。

「投資してみたい」という人は、今回教えていただいたとおり「プロジェクトのサポーター」という意識を持ち、余剰資金で始めてみてはいかがでしょうか。

取材協力
一般社団法人
日本暗号資産ビジネス協会 https://cryptocurrency-association.org/

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