Section1 金融知力普及協会とは?
編集部

鈴木氏
協会は2002年に発足しており、間もなく20年になります。発足当時(2000年代初頭)の日本経済は「金融ビッグバン」や「ペイオフの解禁」、「確定拠出年金(401k)の導入」など、制度的に大きな変化が起きていました。それまでの時代は勤め先に定年までしがみつくことが経済的には最適解でしたが、変化が起きて以降は老後も含めて個々人が準備をする必要があり、より「自己責任」が問われる社会となりました。
その環境下において、「自己責任」を背負っても大丈夫なほど金融に関する教育を受けていたかと言われたら、実際に受けてはいません。学校で投資信託を学ぶようになったことが大変革と教育界では言われていますが、まだまだ十分とは言えないと思います。
つまり、教育がないまま経済責任を問われるようになったことが問題点です。そこで「金融に関する教育を提供する機会を作ること」、これが弊協会の目的となっています。
活動当初は、シンポジウムの開催や、教材の制作、インストラクター制度の仕組みづくりをしていましたが、小さなNPOですので、できることを選択と集中で行うことを考え、近年は「エコノミクス甲子園」の実施が主となっています。
Section2 金融知力の高校生クイズ大会!?「エコノミクス甲子園」
編集部
では「エコノミクス甲子園」について教えてください。

鈴木氏
はい。「エコノミクス甲子園」とは、学校ではほとんど教えてくれない金融知力に対して、高校生が楽しみながら金融・経済について学ぶことができる全国的なクイズイベントです。

アメリカ全州で行われている「エコノミクスチャレンジ」という金融クイズ大会の日本版を開催したいと考え2006年よりスタートし、昨年15回大会が開催されました。当初は33チーム(二人一組)だった参加者も最近では全国500校、1200~1300チーム(延べ2500名程度)が参加する全国大会となりました。
大会は8月にエントリー募集を開始し、応募した高校生へ銀行協会や証券協会が作成した教材を無償で送り、教材の中からクイズを出題する形式となっています。まずは10月~11月に地銀さんが主催する地方大会を実施します。筆記4択50問、早押しクイズで結果を集計し、6チームで地方大会決勝が行われ、全国大会へ出場となります。
全国大会で優勝をすると、5泊7日のニューヨーク研修旅行がプレゼントされます。この研修旅行は、世界の最新金融情報を放送するブルームバーグへの訪問、特別なルートでしか入ることができないニューヨーク証券取引所の見学など、通常の旅行では体験できない場所に訪問できる機会です。シティバンクのトレーディングルームの見学はアメリカならではのエネルギッシュなシーンを見学することができるので高校生にとっていい刺激になっています。

編集部
過去の参加者は金融業界へ進まれた方も多いのでしょうか?

鈴木氏
進路は多様ですが、金融業界に進む方もいらっしゃいます。昨年行われた15回大会では、過去の優勝者たちに出題をしてもらったのですが、今現在、国際協力金融機関に就職された方や、金融とは関係がない別事業に進む方などさまざまです。参加された方々は「やってよかった」、「日々の生活で知っておいてよかった」、という声もいただいています。また、今では学校の先生方の認知度も高まっていますし、中学生でも「高校生になったらぜひ出場したい」いう声もでています。
経済と金融の知識を増やし、経済犯罪に巻き込まれないことなど、幅広く教育を行い、日常の生活の中で自信を持つことができています。子供たちが成長するのが一番の成果ですね。
Section3 楽しく金融を学べるカードゲーム「エコノミカ」
編集部
金融知力をトレーディングカード化したという「経済TCGエコノミカ」について教えてください。

鈴木氏
「エコノミカ」は金融経済を身近に、そして楽しく学ぶために開発しました。2011年、東日本大震災の後に「節電」が一つのキーワードとなり、非電源系といわれるゲームが流行りました。そこで、小学生に経済や金融に興味を持ってもらうためのカードゲームを作ってみようと考えました。

ゲームは「デフレ」、「円高・円安」など普段よく耳にすることの多い経済用語を駆使してカードバトルを行えます。資産を分散しないと負けてしまいます。「分散投資」ということに子供が気付き、理解できるように、実際の経済に即したルールをつくりました。
ゲーム自体としても面白い物でなければと思い、大人でも楽しめる奥深いゲームになっています。
編集部
他の活動を教えていただければと思います。

鈴木氏
昨年初めて「リアビズ 模擬起業グランプリ」という企画を実施しました。こちらは高校生へ「ECサイトで商品を販売するビジネスプラン」を考えていただき、優秀なプランには実際に30万をお貸しし、商品を開発し販売をするというビジネス体験です。
特に現在はコロナ禍でリアルな触れ合いができないので、ECは時期に即していると言えます。応募は50チームほどあり、その中で10チームが実際のビジネスを体験していただきました。驚くことに10チームすべてが商品の開発から販売まで至り、ほとんどのチームが30万円以上を売り上げました。販売した商品はさまざまで、アクセサリーやポーチ、オリジナルのカードゲームやスマートフォンのスタンドなどがありました。本当のお金を元手にし、商品を作り販売し、決算書類までつくる、ビジネスの一連の流れを実践的にコンテストとして楽しめる経験は将来に役立つと考えています。
参加者全員が起業家になるわけではありませんが、経理をしていて数字がちょうど合ったら快感を覚える子もいれば、数字が弱い子もいます。自分がどういうことに向いているかを体感することがキャリア教育となると考えています。
Section4 今後のビジョン
編集部
活動を通して今後の金融知力普及への考えを教えていただければと思います。

鈴木氏
たとえ今現在がコロナ禍であっても、常に教育というものは継続して行わなければいけません。昨年は「エコノミクス甲子園」もオンラインで実施しました。私としても参加する高校生に一度も会わないまま大会を終えたのは初めての体験で、手ごたえを感じなかった部分も片方ではありますが、世の中の方向がこういったオンラインの方向になるのではないかと思っています。
オンラインという隔たりがあるとリアリティを感じることができませんが、今の若い子はこちらの方に適応し、教育効果が上がる可能性があるとも思っています。若者を教育するためには、若者に一番合ったツールを使う必要があります。オンラインシフトは強制的ではありましたが、今後適応していかないといけないと思っています。
昔から、子供達には「儲けることが目的ではない」とお伝えしています。お金は道具です。その道具の使い方がうまければ自分の夢、家族、生活を守ることができるいいツールになります。ただ、使い方を間違えると破壊もしてしまう。例えば大工さんは金槌やノコギリなど使い方を間違えれば武器にもなる危ないものを使っていますが、その道具は家を建てることもできるし、家を壊すこともできます。お金も一緒です。自分の実りある豊かな人生のためにお金という道具を学びましょう、それが我々の理念となっています。
Section5 読者の皆様へ
編集部
最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

鈴木氏
お金のことを勉強していないと、痛い目をみることもあると思います。どんなゲームもルールを知らないとわからないので情報収集は重要な要素です。それと同時に体験することで学ぶことも多いので、一歩踏み出すことを恐れすぎることは、やめたほうがいいと思います。
最低限ご理解いただきたいことは「リスク」と「リターン」はバランスがとれているということです。リスクに比べリターンが余りにも多いのは気を付けたほうがいい。そこさえ押さえておけば危険は各段に減ります。リスクもリターンも最初は小さいものから行い、いずれ大きなリターンを求めるために知識やルールを覚えておけば勝てるプレイヤーになります。近道はない、そう思っています。
執筆:額賀一
まずは、金融知力普及協会の歴史や協会の概要、活動の目的を教えてください。