Section1 オーストラリアでの金融教育に刺激を受け「マネー教育」を開始
八木さんがファイナンシャルプランナー(以下、FP)として活動を始めたのは、約20年前。夫の転勤に合わせて勤務先の出版社を退職したのをきっかけに、興味のあったFPの勉強を始めたそうです。
そしてFP資格を取った年にお子様を出産。当時から「お金に関する知識は大切なのに、なぜ子どもに学校で教えないのだろう?」という疑問を抱いていたそうです。そしてまだお子様が小さい頃に、オーストラリアの子どもに対する金融教育現場を見学、非常に感動する機会がありました
「知人の計らいで、オーストラリアのビクトリア州にある学校で行われている、ファイナンシャルリテラシーの授業を見せてもらいました。その授業は小学校低学年からあり、社会科の授業内で2週間に1回の頻度で実施されていたんです。
その授業は、先生の顔が貼られた紙幣を使ってお金のやりとりを学んだり、教室内で『キッザニア』のような購買体験をしたりと、手作り感があふれるもので、大きな設備投資や資金が不要なことに驚きました。
これなら日本でも比較的早く取り組めるかもしれない。そう考えながら帰国しましたね」
しかし当時はまだ「子どもにお金について教える必要はない」という社会風潮だったので、苦労が続きました。
ただ世界で子どもへの金融教育が行われているなら、日本でも必要なはず。八木さんは持ち前の推進力を活かして、教育機関やイベント会社などさまざまな方面に営業活動を行い、子どもへの金融教育を少しずつ実現させていきました。
現在ではキッズ・マネー・ステーションを立ち上げ、多くの親子に金融知識を教えたり、専門の講師を育成したりと、さまざまな活動を行っています。平行して執筆活動も行い、子ども向けのお金の本や絵本の出版にも携わっているのです。
Section2 お金の知識は「生きる力」になる
そもそも、子ども向けの金融教育はなぜ必要なのでしょうか?八木さんはその理由を2つ教えてくださいました。
「1つは、生きる上でお金は確実に必要だから。お金なしで生活できる方はほぼいないですよね。ということは、お金の扱い方や価値を知るのは非常に大切です。また近年は社会的な背景から、自助努力が必要な社会に変化しつつあります。国や企業に人生を預けっぱなしにできなくなったからこそ、自分でお金を適切に扱う力が必要でしょう。
もう1つは、お金を通して社会に興味を抱くようになるから。お金は社会や経済を回すのに確実に必要。お金を通して社会や経済に興味を持つと、子どもの視野がぐんと広がります。その結果自分の人生について深く考え、理想の道を進めるようになると思いますよ」
お金に関する知識ももちろん重要ですが、それ以上に社会や経済について考えられる広い視野が手に入れられる。これがお金について幼少期から学ぶ最大のメリットなのでしょう。
では実際に、小さな子どもに対してどう金融教育を行ったらいいのか。2〜3歳のさまざまなことに興味を持ち始める年齢になったら、『からすのパンやさん』や『はじめてのおつかい』など、お金に関する絵本を読み聞かせるといいそう。
「日本の昔話や童話には、意外とお金に関する話が多いです。例えば『わらしべちょうじゃ』は、藁からみかん、みかんから反物、反物から馬…と、持ち物を交換していく物語。死んでしまうリスクがある馬と交換したことで最終的には屋敷を手に入れるので、実はリスクとリターンが学べる話でもあります」
言葉が理解できるような年齢になったら、教育方法はさらに広がります。普段から行えるのは、日常でのお金に関する会話。例えばスーパーで子どもが「アイスを買って!」と言ったら、「アイスは昨日買ったよ。毎日買っているとお金がなくなっちゃうんだよ」などと、お金が有限であることを伝えます。
またガチャポンをやりたいと言われたら、「毎週100円あげるから、自分で考えて好きなタイミングで買っていいよ」というルールにすれば、自分で計画してお金を使う練習ができます。日常生活は学びの宝庫。親子でコミュニケーションを取りながら、日々の生活の中でお金の価値や使い方を教えられるといいですね。
近年はインターネット上で購買する機会が増加していることから、現代ならではの質問が来ることもあるそうです。
「ある親御さんは子どもから『なぜお店で買うの?ネットで買ったらお金を払わなくていいんでしょ?』と言われたそうです。実店舗ではお金が見えるけれど、ネット上の買い物ではお金が見えない。お金の流れが分かりにくくなっていると感じます」
今後は顔認証で入店し、キャッシュレスで商品を購入する「無人コンビニ」も増えると言われています。こうした新しい仕組みの中で、どうやってお金がやり取りされているのか、丁寧に子どもに教えてあげる必要がありますよね。そう八木さんはおっしゃいました。
Section3 投資は「リアルな体験」でともに学ぶ
投資に興味のある親なら「子どもにどうやって投資を教えよう?」と一度は考えるはず。八木さんは実際にお子さんにこうやって投資を教えたそうです。
「私は子どもが小学校4年生の頃に『投資を実践しよう!』と言って、未成年口座を開設し、毎月3,000円ずつ一緒に投資信託を積立購入していきました。しかし当時はリーマンショック後で株価がなかなか上がらなかった時代。私も子どもに取引報告書を見せるのがつらかったですね。
それでも積立投資を続けた結果、今では大きくお金が増えています。長期間の投資を体感したからこそ、今後も適切に資産運用ができる実力がついたと思いますので、安心してお金の管理を任せられていますね」
子ども名義の未成年口座は、親の同意があれば開設できます。今から子どもとともに資産運用に挑戦し、一緒に運用経験を積んでいくといいでしょう。
最後に八木さんは、お金を通したコミュニケーションが大切だとおっしゃいました。
「お金に関する知識はもちろん大切ですが、金融教育をきっかけに親子でコミュニケーションを取ることや、親子でさまざまな会話ができる関係性を構築することの方が、さらに重要だと感じます。
幼少期からこうした会話ができれば、反抗期を迎える中高生になってから、お金に関するトラブルも避けられるでしょう。今は子どもを狙った詐欺被害も多く報告されていますので、こうした被害に遭いそうなときに相談できる関係性が構築できているといいですよね」
2021年夏、キッズ・マネー・ステーションでは親子で学べる「キャッシュレス」に関するイベントを開催します。親子で参加し、より活発なコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。
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キッズ・マネー・ステーションの夏イベント
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執筆:金指 歩