ランダムウォークは攻略できる?個人投資家の「不確実な相場」の歩き方

アイコン:公開日 公開日:
アイコン:更新日 更新日:

お話をうかがった人

監修者

株式会社ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング 代表取締役

田渕 直也

デリバティブトレーダー、債券ファンドマネジャー、不動産ファンドアセットマネジャー等を経て、コンサルティング会社を設立。

『図解でわかるランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』『確率論的思考』『金融の基本』(日本実業出版社)『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)『不確実性超入門』(ディスカバー21)など著書多数。また、シグマインベストメントスクールの学長も務める。

「ランダムウォーク理論」とは、「株式の値動きには規則性がなく、でたらめに動いている」という考え方です。この理論があるならば、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析を駆使して銘柄を選んでも、意味がないのでしょうか?

しかしファイナンス理論に精通されている株式会社ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役の田渕直也氏は「それでも投資をする価値はある」と明言されています。ランダムウォークする株に一喜一憂せず、相場を上手に渡り歩く方法を田渕氏にうかがいました。

目次項目をクリックで該当箇所へ

Section1 ランダムウォークに投資する意味は「ある」

田渕氏は大学をご卒業後、日本長期信用銀行に入社し、1990年から10年ほどデリバティブのトレーディング業務を担当。その後UFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ投信)の債券ファンドマネージャー、不動産ファンドの組成、運用などを経験後、独立されています。

長くマーケット業務に関わっていたことから、資産運用やトレーディング全般を専門分野とし、その中でもデリバティブやリスク管理分野を得意としているそう。現在は証券会社や銀行などの金融機関向けに、デリバティブやリスク管理に関するコンサルティング業務をご提供されています。

またファンドマネージャー時代に書籍の出版も始め、デリバティブの専門書籍や投資家・一般向けの読み物的な書籍を、これまでに10数冊出版されました。

そんな田渕氏が著作でも説明されているランダムウォーク理論は、どのような内容なのでしょうか

ランダムウォーク理論は簡単に言うと『相場の変動はランダムな動きの連続である』、つまり『相場は予測できません』という考え方です。

ランダムウォーク理論から考えると、相場に対する勝ち負けは基本的にすべて偶然だ、という結論になります。実際に多くの実証研究では、高給取りのファンドマネージャーの取引記録を分析すると、その勝ち負けが綺麗にばらけると。しかしファンドの運用では出資者から手数料を受け取るので、結局出資者は手数料分だけ負けてしまうという結果が出ているのです」

この理論はあくまでもひとつの仮説に過ぎませんが、現実の相場を比較的よく説明できると言われています。そのためファイナンス理論やデリバティブで使う金融工学などは、ランダムウォークを前提として構築されているとのこと。

相場には「夢」があるので、ランダムウォーク理論に反論される方も多いですが、結果的にはランダムウォークに近いのが現実の相場だと田渕氏は感じられているそうです。

ランダムウォーク理論の歴史は古くこの理論に関する最古の論文は、なんと1900年。ルイ・バシュリエという数学者が「投機の理論」というタイトルで発表しています。

またランダムウォーク理論を語る上でもっとも有名なエピソードは、「猿にファンドマネージャーをやらせても結果は変わらない」という話です。

「高給取りの高学歴ファンドマネージャーに運用を任せるのと、猿にダーツを投げさせて当たった銘柄に投資するのとでは、実は期待値が変わらない。好成績を収めるカリスマファンドマネージャーもいるが、おそらく100匹の猿を用意すれば、その中の2〜3匹はカリスマ並みの成績を納めるであろう、と」

なお有名投資家のウォーレン・バフェットは、このエピソードに対しておもしろい反論をしています。世の中には、自分も含めてコンスタントに良い成績を収める投資家が何人かいて、彼らは同じやり方で同じように成功している。この「同じ森に住む猿」の成績が良いならば、その森に何か理由があるはずだ、というものです。その同じ森に当たるのが、バフェットが長年取り組んでいる「割安株投資」になります。

またランダムウォーク理論では、テクニカル分析やファンダメンタルズ分析といった銘柄分析は、何の意味もないという結論になってしまうそう。では、不確実な相場で投資をする意味はないでしょうか。

「それは違うと思います。例えば経済が成長していくと、それに伴い株価は長期的には上昇します。いつ、どの銘柄が値上がりするかはわかりませんが、長期的な上昇を期待してインデックスファンドやETFを保有するべきだというのが、ランダムウォーク理論の結論です。

現在の投資運用業界は、株価指数などに連動させて機械的に運用する『パッシブ運用』が主流になりつつありますが、この流れの背景にあるのがランダムウォーク理論といえます。こうした運用を行うインデックスファンドは、35年ほど前に生まれた比較的新しい金融商品です」

パッシブ運用は当初、運用におもしろみがないのであまり広まりませんでした。しかし有名ファンドマネージャーに手数料を払って運用してもらっても、良い結果にならないことが多いため、現在はパッシブ運用が市民権を得ています。

Section2 「投資家心理」を知って相場に参加する

相場はランダムウォークしているとはいえ、実際に相場を観察していると、一部規則的な動きが見られます。この規則性の正体について、田渕氏はこう考えています。

「私は相場の動きの80%〜90%はランダムウォーク理論で説明でき、残りの10%〜20%がそれでは説明ができない部分だと捉えています。その残りの部分が何によって動いているのか。それは『人間の心理』です」

有名な投資家心理は主に3つあります。まずは「プロスペクト理論」。投資家はわずかな利益で満足する一方、わずかな損失は受け入れられないために、少しずつ勝って大きく負ける傾向が強いという内容です。

次に「自己奉仕バイアス」。投資結果が良かったのは自分の能力で、良くなかったのは運が悪かったせいだと考えるため、なかなか自己成長しないということ。

最後は「自己正当化・確証バイアス」。ポジションを持つとそれを正当化しようという心理が働くため、リスクが高まっていることに気づけないという理論です。

ではこうした人間の心理を予測できれば、残る10%〜20%の部分も予測できるのか?それは難しい、というのが田渕氏の考えです。なぜなら投資家自身も「人」なので、心理が揺れ動いてしまうから。

よって相場の確かな予測はなかなか難しいということになります。ではそんな相場とうまく付き合うのはどうしたらいいのでしょうか?

「投資でもっとも大切なのは、『大きな損失をできるだけ回避すること』。相場に参加していればいつかチャンスが巡ってくるはずなので、そのチャンスを捉えられるよう、大きな負けを避けながら投資を継続することが重要だと考えています。

大きく負けないためにも、ランダムウォーク理論などのファイナンス理論だけでなく、投資家心理に関しても知っておく必要があるでしょう。

特に人間には自己正当化という欲求があって、自分の行動を否定されるのが嫌なんですね。
例えばある銘柄を購入し、その銘柄が誰の目から見ても値下がりしているとします。しかしさまざまな理由をつけて保有を正当化し、損失を広げてしまうということが心理学的に起こりがちです」

田渕氏いわく、おそらく人間は投資には向かない生き物で、本能に従って投資してもあまりうまくいかないのだそうです。また現在の株式取引のうち、約3分の2はアルゴリズムで行われています。アルゴリズムが強いのは、感情に引きずられないから。よって常に自分を冷静に保ってコントロールすることが、非常に重要になるでしょう。

Section3 証券口座を「目的別に分ける」

ランダムウォークする相場では、具体的にどのような投資を目指すのがいいのでしょうか?

株価というものは、経済成長が続きさえすればゆるやかに上昇していきます。そのため成長するマーケットを見つけ、そこに対して長期投資を行うのがベストだと田渕氏。さらに「成長するマーケットに投資をせずにチャンスを逃す方が、非常に大きなリスク」ともおっしゃいました。

投資には2通りのやり方があります。1つは長期的な資産形成を目的として、定期的にインデックスファンドやETFを買い増していく方法です。日本だけでなく世界に目を向けながら、少しずつ買い続ける。これをぜひ若い方々に取り組んでいただきたいです。

もう1つは、成長企業や成長産業への投資です。なぜなら成長企業や新興企業が10社〜20社あれば、そのうち1社〜2社は大化けするはずだからです。いわば夢に投資するような話ですが、こういう投資もあって良いと思います。」

ただそういった何かにベットするような投資は損失に繋がる可能性もあるので、資産形成とは別のお金で取り組むのがいい、とのこと。証券口座を分けて運用する「財布分け」のような考え方が重要になります。

一方で、インデックス運用中に相場が大きく崩れたら、どのような行動を取るべきでしょうか。そう問いかけると、「本来長期的に保有しようと思って買ったのに、相場が荒れ始めると利益が少しでも残っている間に利益を確定しようとしたりしますが、それこそがプロスペクト理論ですよ」と言われてハッとします。

「実際に利益や損失を確定すべきかどうかは、投資している目的によります

例えば短期的な利益を狙ってインデックスファンドやETFを購入したものの、雲行きが怪しくなってきた場合は、利益確定すべきです。しかし老後資金のために投資を始めたなら、そこで売ってはいけないと思います。

相場が変動した際に何をすべきか迷ったら、目的に立ち返るのがおすすめです。しかし多くの方は最初に運用商品を買った目的を忘れがち。投資する際は、運用商品ごとの目的をメモしておき、目的を貫徹しましょう

田渕氏は、経済や投資家心理を知る上で参考になる書籍を多く出版されました。その中でも『確率論的思考』『不確実性超入門』は、一般的な金融の読み物として参考になり、金融の基礎的な仕組みは『金融の基本』で学べます。

ランダムウォーク理論やファイナンス理論をしっかり学ぶなら、『ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』『ファイナンス理論全史』が適しているそうです。

「相場の予測はなかなか難しいと思いますが、相場に参加し続ける価値は大いにあります。大きく負けないように少額ずつ定期的にインデックスファンドやETFを購入し続けるのが基本ではないでしょうか。

最初に投資する目的とルールを決め、以降はどんな状況になっても計画的に買い続ける。これを続けていれば、長期的には利益を生めると思います。長く投資を楽しんでいただけたら嬉しいです」

執筆:金指 歩

カテゴリー関連記事

  • #投資

2021.07.16

ベンチャー投資で大切なことは「応援したい気持ち」と「自分の目で見極める …

  • #初心者向け
  • #基礎知識
  • #投資
  • #株

2021.07.14

なぜ今、投資が大切なのか|自分と社会の未来を変える「投資の力」とは?

  • #ブロックチェーン
  • #基礎知識
  • #暗号資産

2021.07.08

そもそも暗号資産(仮想通貨)って何?今さら聞けない基礎知識

  • #基礎知識
  • #投資
  • #教育

2021.07.07

お金の知識だけでなく「親子の絆」を育てる。幼少期からのマネー教育の価値 …

  • #FX
  • #初心者向け
  • #投資
  • #暗号資産
  • #株

2021.06.09

投資家バー「STOCK PICKERS」とは|他の投資家とリアルでつな …