月3万円の積立投資が将来を育む。「国際分散投資」のコツとは

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お話をうかがった人

監修者

東洋大学 経済学部国際経済学科教授

川野祐司(かわの・ゆうじ)

2016年より現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、一般財団法人国際貿易投資研究所客員研究員。専門は金融政策、ヨーロッパ経済論、国際金融論。近著に『これさえ読めばすべてわかる国際金融の教科書』。

ここ数年、大学生や20代〜30代の若年層を中心に、「この投資法で誰でも儲かる!」「このツールを買えば将来お金が増える!」など、怪しげな情報商材や投資詐欺の被害を受ける事例が多発しています。


こうしたトラブルに巻き込まず、健全な資産形成を行ってほしい。そう考えて、大学生向けの金融教育に力を入れているのが、東洋大学の川野祐司教授です。本記事では、投資を始める前に考えたいライフプランや、長期的に投資する際のコツについてうかがいました。

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Section1 10年後の自分は?「ライフプラン」から資金計画を考える

川野先生の主な研究テーマは「ユーロの金融政策」で、ヨーロッパ経済に関する研究論文や著書を多く出版されています。一方で近年、大学生向けの授業で「お金」に関する授業を行うことが増えているそうです。

その背景には、これまで教育機関で「お金とは何か」「どうやって資産形成していけばいいか」などの基礎的かつ実用的な話がされてこなかったことが影響しています。

川野先生(以下略)

「例えば、日本人の平均生涯賃金は学歴別や男女別、職種別で異なります。この先の進路によって、一生で得られる金額が大きく左右されるわけです。

現在の厚生年金・国民年金の平均受給額や貯蓄の平均額、一戸建ての平均単価などのデータを淡々と並べていくと、講義を受けている学生の目が次第に真剣になっていくのがわかりますね」

お金のことを考えようと思ったら、まず始めに「10年後にどうなっていたいか」を考え、そのイメージを元にライフプランを立ててほしい、と川野先生は言います。

どこに住んでいてどんな仕事をしているか、休日は何をしているか。近い将来の自分を想像すれば、おのずと必要な資金額がわかるからです。もし「東京都港区のマンションに住みたい」と思ってその平均家賃を調べれば、現実的かどうかが判断できるでしょう。

近年話題になったのは「老後までに2,000万円の貯蓄が必要」ということです。しかし先生は「余裕を持って備えるなら1人当たり5,000万円」と教えているそう。子や孫へ渡すお金や趣味や息抜きに使うお金を考えると、2,000万円では不足してしまう可能性が高いのです。

ではこの5,000万円、どうやって貯蓄したらいいのでしょうか?

積立投資 図表

「毎月3万円、ボーナス時に7万円を貯金すると、年間50万円が貯蓄できます。例えば22歳の方が毎月このお金を年間1%ずつ値上がりするファンドで運用し、受け取った配当の75%を再投資したら、70歳での資産額は約4,500万円に。

このグラフでは株式などの値上がり率や配当成長率の想定をかなり低く見積もっており、実際にはこのグラフよりも多くの資産を得ることができます。

もし運用せず貯蓄していた場合は、約2,400万円にしかならないので、年利1%という低リターンの運用でも、お金が倍近く増えることがわかります。

金利をかけた状態で長期運用すると、『複利効果』でお金がしっかり増えていきます。時間をかけて複利の力で増やしていきたいなら、早めに資産運用を始めるのがおすすめです」

なお安定的に運用される「インデックスファンド」の平均利回りは3〜5%程度とされているので、この試算はシビアに考えた場合だと言えます。

よって、すでに社会に出て久しい方が今から長期投資を始めた場合でも、この試算結果に近いところまで資産額を増やせる可能性はあるでしょう。

Section2 投資対象は「3か所」に分散する

投資初心者が資産運用を始めるなら、まずは「分散投資」を意識してほしい、と川野先生。

「『人生100年』と言いますが、ひとつの国では100年の間にさまざまな出来事が起こります。例えば今から100年前の日本は第一次世界大戦後の好景気に沸いていましたが、その後は昭和恐慌や世界恐慌の影響を受け、第二次世界大戦では多くの方が金融資産をほぼ失います。

戦後はハイパーインフレーションが起きて経済成長期に入りますが、バブル経済の崩壊後、1990年代には不景気に。アジア通貨危機や21世紀に入っての同時多発テロ、ITバブルの崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナショック。これが100年の間に起こっているのです。

つまり長期間ひとつの国に投資をするのは、リスクが高いということ。よって、長期投資するなら、複数の国に分散投資するべきだと考えています」

ではどのような国に分散投資をしたらいいのか。研究によると、資産を「3か所」に分散すれば、リスクを軽減しながら効率的に資産運用できるそうです。

今投資をするなら「日本、アメリカ、それともう一つの地域、例えば新興国」に分散投資したらどうか。そう先生は考えています。日本はさておき、アメリカと新興国を推す理由は何でしょうか。

「まずアメリカは、世界経済を力強くリードしているので、投資対象からは外せないと考えています。アメリカ企業の時価総額は、世界全体の約40%を占めていますので、アメリカ株に投資するだけで、世界の株式市場の半分近くに投資していることになるのです。

大国でありながら人口が増加している点や、イノベーションが次々と起きて世界規模で使われるモノやサービスが生み出されている点なども、経済成長の一因となっています」

次に、新興国の魅力も教えていただきました。

「長期投資でこの先30年〜40年投資するなら、大きな経済成長の余地がある新興国は外せないと思います。アジア諸国やアフリカ諸国などが投資対象となりますが、こういったエリアの個別株式を選択するのは難しく、価格変動リスクも大きいです。よってインデックスファンドなどを購入しておくといいでしょう」

分散投資には3つの分散法があります。ひとつは今説明された「地域の分散」。あとは「投資タイミングの分散」と「商品の分散」です。長期投資によって、数多くの商品に分散投資できる投資信託、インデックスファンドを購入すれば、これらの分散がすべて叶います。

また、自分の年金資金を運用する「DC(確定拠出年金)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」でも、この分散投資が実現可能です。

先生が日頃から参考にしているのが、ノルウェーの政府ファンド「GPFG」の投資対象やその内容です。このファンドは1998年から2020年の平均利回りが年6%を超えており、長期にわたって優れた投資結果を出しています。

GPFGを参考にすると、①株式60% / 債券40%の基本割合を基準にすればいいこと、②不動産や商品(金や原油など)、暗号通貨などへの投資は不要であること、③先進国を中心に投資すればいいこと、が分かります。もっと簡単に考えると、先ほど出てきた日本、アメリカ、新興国の株式となります。

GPFG 図表

出所:GPFG,Government Pension Fund Global, Annual Report 2020

「私は、『銀行預金、証券会社の口座、DCやiDeCoをトータルに考えてポートフォリオを組むべき』だと話しています。生活に必要な資金は銀行預金で、日本の株式は証券会社の口座で、新興国の株式はDCやiDeCoで運用するとバランスが取れます。

投資経験が増えれば、債券のインデックスファンドやアメリカのS&P500などの株式インデックスファンドも検討しましょう.。DCやiDeCoは、毎月支払う掛金額の分だけ所得から控除でき、所得税や住民税を軽減できます。

DCやiDeCoの運用対象には定期預金も用意されているので、運用が怖い方でも取り組めると思いますよ」

Section3 投資はシンプルに。うまい話は「ない」

日本は現在、以前ほど堅調に経済成長をしているわけではありません。世界からはどのような目で見られているのでしょうか?

「日本は今も、憧れの目で見られていると感じます。社会基盤がしっかりしていて、新しい技術やサービスが今でも生み出されており、日本がリードしている業界・分野もまだまだ多いからです。

とはいえ、30年後も日本が盛り上がっているかというと、そういったイメージは持ちにくいと思います。日本では『外国人から見放されている』など、悲観的なニュースや何かを貶すようなマインドが好まれる印象がありますが、このマインドが長期的な株価に大きく影響している印象がありますね」

また先生いわく、人口規模と経済の発展段階には相関関係がないそうです。

例えば欧州にあるオランダは、人口が約1,800万人ほどですが、1人当たりGDPは53,228ドルと、日本の40,246ドルを上回っています。また経済成長率も直近5年で平均2%台をキープしており、ハイテク技術でも世界をリードしている状態です。

人口が減少すると貧しくなるという考えは誤りで、1人当たりの生産性がアップすれば、国は豊かになるはず。そういう目で見れば、日本の社会にはまだポテンシャルがあるといえます。

ただしその競争力は年々陰りが見えているのも確かなので、長期投資をするならば、複数国に分散投資をしておくとリスクヘッジになるでしょう。

最後に、投資をする上での注意点について教えていただきました。

「絶対に儲かる投資はこの世にありませんので、うまい話を持ってくる人はだいたい詐欺師だと学生に教えています。必ず利益が出るようなおいしい話があったら、普通は人に話しませんよね。

だからまずは、うまい話には乗らず、気になることがあれば家族などに相談し、自分でも知識を付けましょう。これが投資の前に重要な心構えだと思います。

そして投資をする際は、シンプルに考えること。10年先の近い将来について考え、自分が送りたい生活をイメージしながら、少額でも長期投資を始めておくといいでしょう」

投資は決して難しいことではありません。まずは自分の将来を想像することから始めてみてはいかがでしょうか。

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