Section1 「株式分割」は投資家層の拡大や株式の流動性向上に期待
「株式分割」や「株式無償割当」は共に、所有株式数が増加し、その割合に応じて理論上株価が下落することです。株式分割は自己株式の交付ができず、株式無償割当は自己株式の交付ができるという違いはありますが、資金の払い込みをしなくても所有する株式が増加するという点では、株主にとっては同じような現象です。
株式分割により株価は下落しますが、所有資産額は実質的に変化しません。例えば株価6,000円のA社株を100株所有していた場合、A社が1株を2株に株式分割すると、理論上の株価は半分の3,000円に下落します。しかし所有株式数は100株から200株に増加するため、所有資産額は株式分割前と株式分割後では共に60万円となり、実質的に変化しないのです。
株式分割前 | 株式分割後 | |
---|---|---|
株価 | 6,000円 | 3,000円 |
所有株式数 | 100株 | 200株 |
所有資産額 | 60万円 | 60万円 |
ではなぜ企業は株式分割をするのでしょうか。
「主な理由は、「投資しやすい環境整備」「投資家層の拡大」「株式の流動性の向上」を期待しているからです。
東京証券取引所(以下、東証)は、個人投資家が投資しやすい投資単位として「5万円以上50万円未満」という水準を明示しています(詳しくは有価証券上場規程第445条を参照)。
株式分割が行われると、分割割合に応じて最低投資額が下がるため、投資家にとっては購入のハードルが下がり、従来その銘柄を購入できなかった投資家の買いが入って、投資家層の拡大につながります。
そして流動性が向上することに伴い、わずかな買いや売りで株価が急変することが少なくなる等の、株価を安定させる効果も期待できるでしょう。結果的に、分割後に株価が上昇することも多く、投資家にとってプラスになることが多いのです」
2021年1月1日から7月1日までに、実に90社強の企業が株式分割を行いました。6月下旬時点で5社の企業が株式分割を発表しており、この中には6月中旬に株価が1万円の大台を付けたトヨタ自動車も含まれています(同年10月1日に1株を5株に分割予定)。
また2021年中に株式分割を実施・実施予定企業のうち、約25%は1株を3株に分割、約10%は1株を5株以上に分割します。株式分割は比較的実施されることが多い施策であることがわかるでしょう。
なお株式分割は、株主優待がもらいやすくなったり、NISA(少額投資非課税制度)の120万円の枠内で投資できるようになったりと、投資家にとって利便性が上がります。株式数が倍になっているので、一部を売って一部を持ち続けるといった判断も可能です。
ただし、株式相場に「絶対上がる」という言葉はありませんので、購入に際しては企業情報を良く調べ、タイミングを見計らって購入する必要があります。
Section2 「株式併合」は減少傾向
次に株式併合とは、所有株式が合併して所有株式数が減少し、理論上は株価が上昇する現象のことです。
例えば、株価100円のB社株を1,000株所有している場合、B社の株が10株を1株に株式併合すると、理論上の株価は10倍の1,000円に上昇。しかし所有株式数は1,000株から100株に減少するため、所有資産額は株式併合前と株式併合後では共に10万円となり、実質的に変化がありません。
株式分割前 | 株式分割後 | |
---|---|---|
株価 | 100円 | 1,000円 |
所有株式数 | 1,000株 | 100株 |
所有資産額 | 100,000円 | 100,000円 |
こうした株式併合はなぜ実施されるのでしょうか。
「以前は業績が悪いために株価が長期間にわたり低位で推移している企業が、見かけ上の株価を上昇させるような場合に利用されることが一般的で、いわゆる普通の企業が株式併合する事例はまれでした。
しかし2010年代半ば頃、急増した時期がありました。以前は株式取引における最低売買単位(単元株式数)が8種類も存在していて、誤発注の原因にもなっていたことから見直しが行われ、2014年4月1日に単元株式数は100株と1,000株の2種類に集約され、2018年10月1日に100株に統一されました。その過程で多くの企業が株式併合を実施したことから、株式併合のイメージは少し変化した時期はありましたね」
なお2018年10月1日以降、2021年6月末までに株式併合した企業は15社、今後実施予定は4社ありますが、この19社は全て「東証等が望ましいとしている投資単位水準(1単元あたり5万円以上50万円以下)」を大幅に下回っています。
つまり株価が相対的に低すぎるために、投資ではなく「投機」対象として株価の大きな変動を招きやすい状況となっているので、株式併合を行うことを決定したようです。
もし株式併合によって、所有株数が100株未満の「単元未満株式」になってしまったらどうすればいいのでしょうか。
「単元未満株式は配当金は受け取れますが、株主総会での議決権はありません。通常の売買手段も使えなくなるので、売買の際には株式事務代行を行なう信託銀行等を通じた「買い増し請求(買付)」「買い取り請求(売却)」を行う必要があります」
Section3 増資による「希薄化」に注意
増資とは文字通り、資本金を増やすことです。その方法には「公募増資」「第三者割当増資」「株主割当増資(ライツ・オファリング)」等の種類があります。
「公募増資は、広く一般の投資家を対象に、新株式を発行して資金調達をする方法です。この方法は株主層を拡大し、株式市場での流通性を高めることが期待できます。
公募増資が行われると、増資後の1株当たり利益が減少することになりますが、これを「希薄化」といいます。株式市場が低迷している時等に大幅な公募増資が行われると、需給関係が悪化して株価が下落することがあるので注意が必要です」
また、企業が公募増資で調達した資金が、当該企業の成長につながらないような場合にも、株価が下落することは多々あります。一方で成長につながるような場合は好感され、株価が上昇することもあります。投資家は公募増資発表後、調達資金がどのように利用されるのか詳細に調べる必要があるでしょう。
第三者割当増資は、特定の第三者を対象に新株式を発行し、資金調達をする方法。この方法は、業務提携の相手先等の割当先との関係安定化を図るときや、経営悪化で株価が低く公募増資ができないとき等に利用されます。
第三者割当増資で注目を集めるのが、新株の発行価格です。特に割当先に有利な価格で発行されると、既存株主の利益が損なわれることになるため、株主総会の特別決議を必要とする等の制限が設けられているとのこと。こちらも、調達資金がどのように利用されるか詳細に調べる必要があるでしょう。
株主割当増資とは、新株式の割当を受ける権利を既存の株主に与えて、資金調達をする方法です。既存株主に持株数に応じて有償で新株が割り当てられるので、公募増資や第三者割当増資と違い、既存株主の持ち株比率は維持され、経営権の移転が生じない点が特徴です。
従来の東証の上場規則では、株主割当増資は1つの新株予約権に対して、新株を1株しか割り当てることができませんでした。そのため発行済み株式が倍以上になる増資しかできない等、使い勝手が悪かったため、新たな増資方法であるライツ・オファリングが誕生します。
「2009年末に規則が撤廃され、株主割当増資の一種のライツ・オファリング(ライツ・イシュー)の発行が可能になりました。これは、既存の株主に新株を割り当てるのではなく、まず新株予約権(ライツ)を無償で割り当てるものです。
既存の投資家は、増資に応じ権利行使価格を払い込めば新株を取得できる一方、増資に応じたくなければ新株予約権を市場で売却できます。
株主割当増資の利用は極めて低いのですが、ライツ・オファリングを実施する企業はわずかながらあります。ただし、実施企業の多くは業績が低迷しており、公募増資も第三者割当増資も利用できない企業であることから、初心者の投資先には向かないことも多いですね」
実は近年、増資とは逆に資本金を減少させる「減資」が増加しているそうです。最近では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、資本金1億円以下の中小企業を対象とした優遇税制を受けるため、企業業績が大幅に悪化した企業が資本金を1億円に減少させる例がありました。
減資があっても基本的には発行済株式総数に変更はないので、株主の所有株式数に影響を与えるものではないそう。株価的には中立といえます。
増資や減資のニュース以降の投資判断に迷ったら、機関投資家の判断を見て追随すると大きな間違えはないでしょう。
Section4 投資初心者が株式投資をする際に必要な情報
投資初心者が株式投資をする際に、どのような必要な情報をチェックしておくといいのでしょうか。外島先生に聞いたところ、次のような答えをいただきました。
「株式市場で古くから使われている格言の1つに、「国策に売りなし」という言葉があります。国策とは文字通り「国家の政策」のことで、国家の目的を遂行するための政策のこと。
国策に沿ったテーマに関連する企業は、折に触れ株式市場で話題を集め、株価が上昇することがあるので、タイミングをみて「買い」と選択するのがおすすめです」
2021年6月に菅内閣により閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)では、副題を「日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」とし、デジタル化、脱炭素、経済安全保障等の課題を挙げています。
このことから、DX、5G・6G、オンライン検診、EV、脱炭素、テレワーク、ギガスクール等が注目されました。
ちなみに、外島先生は個人的に「脱炭素」に注目しているとか。将来的にガソリン車がなくなったとしたら、自動車業界やエネルギー業界など複数の産業がガラリと転換するような可能性を秘めているそうです。
といってもそれらのテーマに関連する企業にすぐに飛びつくのは危険。その企業の業績や将来性を調べ、株価動向を確認して、長期的な視野を持って投資をした方がいいでしょう。
また東証が現在「市場再編」を検討していることも重要なテーマだと、外島先生は指摘します。
「東証には現在、市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQの4市場がありますが、これを2022年4月に、海外の機関投資家などが投資対象とするようなグローバル企業向けの「プライム市場」、中堅企業向けの「スタンダード市場」、成長企業向けの「グロース市場」の3区分へと再編する作業が行われています。
プライム市場に上場するには、市場で流通する株式の比率や流通株ベースの時価総額等が基準となっており、基準を下回る企業は、大株主による株式の売却、自己株式取得・消却等の動きを行っています。
さらにこの市場再編とあわせ、株式市場を代表する株価指数の一つである東証株価指数(TOPIX)の構成銘柄の見直しも実施される予定です」
現在のTOPIXは東証一部全銘柄を対象にしており、流動性や規模の大小にかかわらず、パッシブ運用やETF(指数連動型上場投資信託)の買いが入ります。そこで東証はTOPIXを選別型に変更し、数回の判定(流通時価総額100億円以上という判定基準)を経て、徐々にTOPIXから除外し、2025年1月に完全に除外する予定です。
この過程でTOPIXから除外された銘柄は、新規のTOPIXに連動したパッシブ運用等の買いは期待できません。今後も特に成長が期待できないような企業は、自分のポートフォリオから外した方がいいかも、という考え方もできるでしょう。
しかし高成長銘柄であればアクティブ運用の買いが継続して期待できるので、すぐに株価が下落・低迷するとは言えません。どちらにせよ、改めて自分の持ち株を見直すきっかけになりそうです。
今後東京2020オリンピック・パラリンピックが終わり、新型コロナ感染状況も落ち着くと、上記のテーマが折に触れて株式市場の関心を集めます。さらに現在はほとんど話題になっていませんが、大阪万博やIR等が取り上げられる機会も出てくるでしょう。
では今後、投資初心者はどのようなニュースや情報に着目しておけばいいのでしょうか。
「今日本では何が起こっているのか、日本経済新聞や信頼のおけるニュースサイト等から日々確認する必要があります。日本株は米国株に連動することが多いため、米国株式市場の重要トピックもチェックするといいでしょう。
特に大きな経済指標であるGDPや雇用統計の発表、FRB議長や地区連銀の総裁の発言等で、株式市場や外国為替市場は大きく動き、翌日の日本の株式等にも影響を与えます。日々の情報収集をぜひ、パフォーマンスの向上につなげてください」