ファンダメンタルズ分析は「ROE」から始まる。株式分析、基礎の基礎

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お話をうかがった人

監修者

立命館大学 教授

青野幸平

2008年3月一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得、同年10月博士(経済学)取得。立命館大学経営学部講師などを経て、2016年4月より立命館大学経済学部准教授、2021年4月より現職。株式市場に対する金融政策への影響など、ファイナンスとマクロ経済に関連した研究をメインに行っている。

株式投資を始めたから、まず気になるのが「株の選び方」ではないでしょうか?「興味のある企業や業界から買えばいい」とは聞くものの、もう少し確実なアドバイスがほしいですよね。

そこでファイナンスの専門家である立命館大学 青野幸平教授に、株式分析のひとつ「ファンダメンタルズ分析」をとても簡単に解説いただきました。キーワードは「ROE」。その内容や使い方を詳しく解説します。

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Section1 分析手法の選び方は「投資する期間」から決める

株式分析の方法には、株価チャートの波形から今後の株価を予想するチャート分析などの「テクニカル分析」と、企業の財務データや株価に関するさまざまな指標から株式の価値を読み取る「ファンダメンタルズ分析」があります。

この分析手法は、いったいどちらを選べばよいのでしょうか?青野先生にうかがうと、このような明確な答えが返ってきました。

「分析手法は、投資する期間に応じて決めるのが一般的です。例えば短いスパンで投資するならテクニカル分析、2〜3年以上の長期で投資をするならばファンダメンタルズ分析という使い分けができます」

なぜこのような分け方になるのでしょうか?それは各分析手法の特徴が影響しています。

まずテクニカル分析は、これまでの株価の動きを元に今後の値動きを予想します。刻一刻と変化するチャートの値動きを分析するため、短期的な株価判断に向いているのです。

一方のファンダメンタルズ分析は、長期的に見たその企業の将来性を指標で表現し、投資判断をします。将来的に見て安定的に成長する企業は、おそらくキャッシュフローが潤沢で、利益が配当として株主に配当されるだろうし、その配当に基づいて株価が決まるはずであるという仮説から成り立っているので、じっくりと腰を据えて企業成長を見守る長期投資に向いているのです。

また、日々の「投資にかけられる時間」も、手法選びに関わります。1日中株式チャートを見ていられるなら、デイトレードなどの短期投資によって短い時間で利益を狙えるでしょう。しかし日中そのような時間が取れないなら、毎日株価を見なくても済む長期投資がおすすめです。

Section2 ファンダメンタルズ分析といえば「PBR・PER」

青野先生は普段、ファンダメンタルズ分析に基づく株式収益率の予測可能性や、株式市場に対する金融政策の影響などについて研究されています。研究者を志したのは「景気を予測できないか?」という着想から。その景気の先行指標である株式に関する専門家として、日々活躍されています。

ファンダメンタルズ分析の代表的は指標といえば、「株価純資産倍率(以下、PBR)」、そして青野先生が研究で利用されている「株価収益率(以下、PER)」です。

【PBRとは】

その銘柄が、1株当たり純資産の何倍の株価で取引されているかを見る数値のこと。
次の式で計算できる。

PBR(倍)=株価 ÷ 1株あたりの純資産

【PERとは】

その銘柄が、1株当たり純利益の何倍の株価で取引されているかを見る数値のこと。
次の式で計算できる。

PER(倍)=株価 ÷ 1株あたりの純利益

ファインダメンタルズ分析の背後にあるのは、将来の配当によって現在の株価が決まるというモデルです。企業がその利益を元に株主に還元するのが「配当」です。その意味で配当に着目した指標である配当利回りが重要な指標になります。しかし日本ではこの配当を出さない企業が一定数あったり、配当される時期に偏りがあったりする特徴があります。よって青野先生は、配当利回りの動きとも関連が大きく、より分析しやすいPERを利用した予測可能性に関する研究を中心されているのだそうです。

Section3 投資初心者が「ROE」を押さえておきたい理由

ファンダメンタルズ分析には、他にも多くの指標があるので、すべてを学ぼうと思ったらかなりの時間がかかります。ではこの中から1つだけ選ぶなら、どの指標を見ればいいのでしょうか?

「どれか1つだけ見ていいと言われたら、『自己資本利益率(以下、ROE)』がいいと思います。ROEは、企業の資本(株主資本、自己資本)に対する当期純利益の割合を示す指標です」

簡単にいうと「株主が提供した資金のうち何%が株主への還元(配当)の原資になる利益につながっているのか」、という意味でどれぐらい株主のリターンにつながるのかを示す指標です。例えば、同じ業種に属している株式Aと株式BのROEを比較し、より高い方が大きな収益性を期待できる、という分析を行えるのです。

株主が提供した資金に対するリターンを表現するのがROE。ということは、株式だけでなく預金や投資信託、債券などの利回り、金利とも比較できそうです。もちろんリスクが違うので単純比較は禁物ですが、非常に使い勝手のよい指標でしょう。

またROEの計算式を変形すると次のような式で表現できます。

PBR=PER × ROE

ROE=PBR ÷ PER

PBRをPERで割るとROEになる。つまりこの3つの指標は密接な関係性があるということ。「可能ならばPBR、PERもチェックしてくださいね」と、青野先生からアドバイスをいただきました。

なおROEには何か標準や適正な値があるのでしょうか?

「実は全株式共通の標準値や適正値はないんです。ROEは業種によってかなり大きな違いがあります」

例えば、設備投資が多い製造業やインフラ関連企業では、ROEが比較的低い値になります。一方で設備投資の少ないサービス業やIT産業では、比較的高いROEになります。ROEは同じ業種内で比較するのが正しい使い方です。

Section4 株を手放すタイミングは「このROEで買うかどうか」

ROEを比較するなら、同じ業種の株を比較すればいい。ならばその業種はどうやって選んだらいいのでしょうか。青野先生いわく、業種選びに大きなこだわりは持たなくていいそう。

「もちろん、株式投資で利益を上げるためには全体として伸びている業種(産業)に着目することは大切です。ただ、株式投資の基本は、その企業へ自分のお金を渡す(投資する)ということです。嫌な会社や業種に出資するよりは、自分が好きな企業や業種に出資する方が、気持ちよく投資できるのではないでしょうか」

最初は、好きな業種の気になる企業を2〜3比較するところから始めると、分析の負担感も少なく済みます。何より楽しんで分析できるでしょう。

ROEは分かりやすい指標なので、ROEを企業の成長目標に据えている企業も多いです。そのため融資などによって自己資金額を調整し、ROEを意図的に良く見せる企業もなきにしもあらず。こうした調整が行われることも念頭に置いて比較するといいそうです。

また、長期投資とはいえ、盲目的にずっと持ち続けているのは危ないと青野先生は指摘します。

「一度購入した株をどこまで保有するか?1つの判断基準は『現在のROEで、株式を新規で購入したいと思うか?』です。人は株をずっと持ち続けていると、手放しにくくなったり愛着が湧いてきたりします。定期的に保有株を分析し直して、『現在のROEではこの株式は買わないな』と思ったら、潔く株を手放した方がいいかもしれません」

また株は基本的に、財務に関するニュースに大きく反応します。株を保有している間は、株価ニュースや経済ニュースに敏感になっておくと、投資の成功率が高まる可能性があります。

Section5 日経平均株価とTOPIXの違いも知っておく

株に関するニュースといえば、日々定期的に流れてくる「日経平均株価」と「TOPIX(東証株価指数)」。この2つはどちらをチェックしておくのがいいのでしょうか。

「日経225は、日本経済新聞社が日本の産業構造などを勘案して選んだ225銘柄の単純平均の株価。一方のTOPIXは、東証一部の上場株すべての時価総額を加重平均した指数のことです。日経225の方が金額で表現されるので分かりやすいのですが、可能なら両方ともチェックした方がいいですね」

青野先生がそう言及する理由に、日本銀行の金融政策があります。2013年以降、株価が大きく下落したとき、日本銀行は「ETF(上場投資信託)を一定数購入する」という新しいタイプの金融政策を行っています。このときに買い入れるETFが、2021年4月からTOPIX連動型に一本化されました(参考:ETFの買入れの運営について(日本銀行) )。

この変更から察するに、日本銀行はこれまで以上に東証全体を見て買い入れを判断すると思われます。日経225だけでなくTOPIXもチェックしておいた方がよさそうです。

コロナ禍では多くの株が大きく下落。その後すでに大きな反発があり、日経平均は30,000円台を一時突破するなど、予想以上に株高が進んでいます。そんな相場環境では、どのような株に注目すればいいのでしょうか?

「コロナ禍では、当初大きく株価は落ち込みましたが、各国の経済対策の影響もあり、比較的株高が進んでいます。ファンダメンタルズ分析で割安な株を見つけたいなら、PERだけでなくROEやPBR、配当利回りも確認。そしてコロナ禍の影響が非常に大きく、その影響のみで下がっていると判断できる株に着目してはどうでしょうか」

もちろん株選びに正解はありません。しかしこの先生のアドバイスは参考になります。今後の相場環境や日本銀行のETF買い入れ動向も確認しつつ、長期的な投資を考えていきましょう。

執筆:金指 歩

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