新興国通貨にはどんな特徴がある?気になる通貨ペアについて聞いてみた!

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お話をうかがった人

監修者

明治大学 政治経済学部 教授

勝 悦子

慶応義塾大学経済学部卒業。東京銀行(現三菱UFJ銀行)ニューヨーク支店、日本総合研究所、茨城大学助教授を経て1998年から明治大学政治経済学部教授。財務省、厚生労働省、文部科学省などの審議委員等を歴任。現在二つのグローバル企業の社外取締役も務める。『新しい国際金融論』(有斐閣)など著書多数。

FXでトレードする通貨ペアとしては、ドル円・ユーロ円・ポンド円など、先進国同士の通貨ペアが主流ですが、FX会社によっては新興国通貨もトレードが可能です。

新興国通貨は金利が高く、買いポジションを持っているだけで日々スワップポイントを受け取ることができるので、長期的な運用をしている人も少なくありません。

しかし、スワップポイント狙いの運用をする際には「新興国通貨ならではのリスク」をしっかり把握する必要です。

そこで、新興国の通貨と金融制度について詳しい明治大学の勝悦子教授にお話をうかがいました。「FXのスワップポイントに興味がある」という人は必読です。

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Section1 新興国通貨の特徴とは?

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編集部

本日はFXでトレードできる新興国通貨についてお話をうかがいたいのですが、まずは「そもそも新興国の定義って何だろう?」というところからお聞きしてもいいでしょうか。

勝 教授

「新興国」は以下の二つの要件があるといってよいでしょう。まず一つが所得水準で、一人当たりGDPが先進国(IMFによる分類では2020年現在39カ国)には届かない中所得経済で、潜在成長率が高いこと。そしてもう一つが、市場メカニズムが機能しており開かれた経済であること、すなわち国際金融市場にアクセスしていることです。

新興国は近年成長が著しく、世界経済に占める比率が大きく増大しており、今ではG7だけでなく、新興国を加えたG20での協議が国際社会で大きな影響力を持つに至っています。

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編集部

なるほど。では、その意味における新興国とはどのくらいあるのでしょうか。そして、新興国の通貨にはどんな特徴があるのでしょうか。

勝 教授

ニューヨークの金融会社MSCI(Morgan Stanley Capital Investment)が公表している新興国株価インデックスMSCI(EM)は1988年に誕生しましたが、当初10カ国であったのが、現在27カ国となっています。また、ゴールドマンサックスが提示した、人口規模の大きい新興国BRICsが近年大きく注目されたのも記憶に新しいところです。

一方、世界の通貨制度をみると、IMF(国際通貨基金)に加盟している国・地域は190ですが、完全な変動相場制、つまり「市場にすべてを委ねる自由フロート制を採っている国」は先進国を中心に31ヶ国にとどまっています。

つまり、ほとんどの後進国は管理為替相場制になっているわけで、ハードペッグ(為替レートを一定に保つ制度)から緩やかなペッグ制まで、政府が介入する通貨制度になっているのが現状です。

1997年のアジア通貨危機で固定相場から変動相場に移行した新興国が多いのは周知の通りですが、その後の動きを見てみると、依然として安定した為替相場制度を志向する国が多い。新興国でも、小国の為替レートを安定させたいという傾向、すなわち「fear of floating(変動制への恐怖)」が依然としてあるのです。

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編集部

それはなぜなのでしょう。

勝 教授

やはり金融システムがぜい弱でまだ金融政策が未熟であること、また財政が健全ではなかったり、財政赤字を中央銀行の融資で賄うなどのインフレ体質があったりするからです。また、多くの途上国は自国通貨で外国から借り入れができません。これを原罪(Original Sin)といいますが、このため途上国のほとんどの対外債務はドル建てとなっています。したがって、自国通貨の為替レートが急激に安くなってしまうと債務が膨張してしまうことになり、債務不履行や銀行破綻の懸念がでてきます。

また実物経済で見ても、為替レートが変動すると交易条件が大きく変わるので、自国の経済に大きく影響を与えてしまいます。そのため為替相場は極力安定させたいという意図が働きます。様々な実証研究によれば、新興国では為替相場のボラティリティよりも、金利や外貨準備のボラティリティが格段に高くなっています。

このように国際通貨に為替レートをペッグさせる金融政策を採っている国は依然として多く、特に小国は安定した為替相場制をとる傾向があります。

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編集部

FXでトレードできる新興国通貨というと、トルコリラ・メキシコペソ・南アフリカランドが有名なのですが、これらの国々は他国通貨にレートを固定しているわけではないですよね。

勝 教授

そうです。おっしゃるように固定制ではありません。しかしドル建て債務が多いなか、為替市場での介入や、金利を引き上げるなどの方法で、為替レートを安定化させようとする傾向があります。IMFは加盟国の為替相場制度を毎年分類していますが、単に可動性だけで分類しているのではなく、どのような金融政策をとっているか、資本移動が自由化かなどに基づいてマトリックスで分類しています(図表1)。

図表1にあるように、新興国のほとんどは、〇で囲んだ部分に集まっています。すなわち資本移動は自由で変動相場制をとっているものの、インフレターゲット、貨幣量ターゲットなど節度ある金融政策をとっていることがお分かりになると思います。トルコ、メキシコ、南アなどもここに分類されています。

先進国のように自国通貨を100%市場に任せるのではなく、為替介入や金利水準の変更で操作する。こうした対応は、経常収支が赤字で、潜在成長率が高く、海外からの資本流入に依存している新興国の特徴であると言えます。

図表1 為替相場精度と金融政策のマトリックス

為替相場精度と金融政策マトリクス

※conventional pegと stabillized arrangements
※※バンド付きペッグ制を含む
自由フロート制は全てを市場に委ねるフロート制
(出所) IMF.Annual report of exchange restriction and arrangement 2019年版

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編集部

先ほど挙げたトルコリラ・メキシコペソ・南アフリカランドの3つは、高金利であることで人気を集めています。しかし近年の為替相場を見ていると、必ずしも「安定」傾向ではないように見えるのですが。

勝 教授

そうですね。ドル建て債務があるので通貨防衛のために政策金利を急激に引き上げたりしています。インフレ懸念、経常収支赤字、対外債務増大、中央銀行の独立性が弱いなど多くの問題を抱える国の通貨は安定しません。トルコリラ相場は2018年8月に4割程度下落するなど通貨危機的状況になりました。新興国の為替市場の規模は大きくないので、このように乱高下するリスクがあり、売買スプレッドも大きいことは常に頭に入れておかないといけません。また、新興国ならではのリスクといえば、政治リスク、カントリーリスクなどその国特有のリスクもあり、近年では地政学的リスクに晒される度合いも高まっています。

2018年のトルコ通貨危機はアメリカとトルコの関係が急激に悪化し、トランプ大統領がアルミ・鉄鋼の関税をかけたことがきっかけでした。また2010年代半ばに中東情勢が一段と不透明になったこともその背景として指摘できます。

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編集部

政情不安を原因とする事件なども、先進国に比べると可能性が高いと言えますからね。そういったニュースが報じられると新興国通貨は大きく値下がりしたりするので、注意が必要ですね。

Section2 地域・国々による特徴とは?

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編集部

新興国通貨は主要通貨とも連動している部分があるかと思うのですが、どういう部分に注目しておく必要があるでしょうか。

勝 教授

世界的な金融市場では米ドルが依然として最も重要な国際通貨なので、ドル建ての債務を抱えている新興国は、FRB(アメリカの中央銀行制度)の金融政策に大きく左右される傾向があると言えます。

例えば新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年1月に、新興国から一斉に資本が流出して、新興国通貨が軒並み下落したのは記憶に新しいところです。しかし昨年3月にFRBが思い切った金融緩和政策に乗り出すと新興国の通貨は安定を取り戻しました(図表2)。また今年2月にアメリカのバイデン政権の財政出動期待に伴い長期金利が上昇すると、ドルが強くなり、新興国通貨は下落しました。このように、ドルの為替レートとFRBの金融政策等と逆相関するのが新興国通貨の大きな特徴です。

図表2 MSCI新興国通貨インデックスの推移

インデックスの推移

(注)MSCIが公表している対ドルインデックス

勝 教授

また世界の株式市場の動向も重要です。市場がリスクオンなのかリスクオフなのか、これによって新興国通貨は大きく左右されます。リスクオフだと新興国通貨は大きく下落する傾向が見て取れます。世界の市場は連動しているのです。

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編集部

ユーロも主要通貨には含まれると思いますが、ユーロとの連動性はどうでしょうか。例えばユーロを採用していないヨーロッパの国々などです。

勝 教授

ヨーロッパの小国はEUと貿易関係が強いので、ユーロとの関係はとても大きいと言えます。このように経済圏の通貨の影響は受けやすいですね。EU加盟を長らく唱えているトルコも、ドルだけではなくユーロとの連関が強いといえます。

また最近では、ASEANの国々は中国の人民元との連動性が高まっていると言われています。私どもが行った実証研究でも人民元のASEAN通貨に対する影響力は強まっています。

中国は、明らかに人民元の国際化を政策として掲げており、デジタル人民元、そして一帯一路政策での人民元圏の拡大を意識しているといえるでしょう。ただし、人民元は完全に自由に取引できる通貨ではないので、真の意味での国際通貨になるにはまだ時間がかかるといえます。一方ユーロは取引量でみれば大きいですが、金融市場はまだ国ごとに分断されており、アメリカのような懐の広い市場にはなっていないので、ドルほどの国際通貨には至っていません。

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編集部

いわゆる「資源国通貨」についてはどうでしょうか。

勝 教授

新興国では、鉱物・エネルギー・食料などを輸出する国が多く、こうした資源国通貨も大きく注目されています。

オーストラリアは石炭や鉄鉱石、ニュージーランドは乳製品、カナダは原油や天然ガス。ブラジルは穀物、南アフリカは金やパラジウムですね。こういった国の通貨というのは、資源があることで財政が比較的健全であることが多い。 現在、世界的に見れば人口は増加しており新興国も成長しているので、資源に対する需要は一定数あります。そういった意味では大きく注目されると思います。

ただ、世界的な脱炭素の流れや、先進国のインフレと連動した金価格の変動もあります。新興国特有の変動だけでなく、これら資源国の通貨については商品価格の価格変動に大きく影響を受けるので、二重の意味でボラティリティの高さには注意しなくてはいけないですね。

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編集部

なるほど。それにしても新興国通貨は、トレードする際に「注目しなければならない要素」がたくさんありそうですね。

勝 教授

そうですね。アメリカの金融政策、ドル金利、市場がリスクオンなのかリスクオフなのか。さらに石油や金などの資源価格。各国の財政赤字や対外債務、経常収支赤字、インフレ動向などファンダメンタルズ、さらに地政学リスクもあります。トルコの例のように、高金利であったとしても、為替の暴落などで円ベースでは損失を被ることもあることには注意が必要ですね。

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編集部

新興国通貨は金利が高いのでスワップポイント狙いの運用も人気ですが、お話をうかがっているとそれなりに難しい投資方法とも言えそうです。

いずれにせよ、トレードする際は新興国ならではのリスクをしっかりと把握し、広く情報を収集することが必要そうですね。

本日はありがとうございました!

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